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しおりを挟む耀士の家に来てびっくりしたのは、飾ってあるトロフィーや賞状、盾の数だった。一戸建ての玄関からリビングに続く廊下にズラリと並んでいる。驚いている二葉に気づいたようだ。
「俺、中学まで地元の野球チームに入っててさ。すごい強かった。そのトロフィー」
耀士のものだけではないようだった。父はスポーツインストラクターで、草野球チームの監督、母はピラティスの先生だという。運動一家だ。耀士の姿に納得する。
「部活はしてなかったの?」
「してたけど、中学の野球部は皆やる気がなくてさ。俺だけ熱心で浮いてた。真面目に努力して馬鹿だって白い目で見られたし。居心地悪くて徠斗に弱音吐いたこともあったっけ」
耀士が困ったように笑った。
「高校は俺と同じ熱量のチームに入りたかったから一学園に入って、自分の実力を磨こうと思ったんだ」
もうすぐ十七時を過ぎる。
「親、遅くまで帰ってこないから。会ってほしいけど。俺の部屋二階。ついてきて」
耀士に従ってついていく。友だちの家に招かれるという経験は初めてだった。身の振りかたが分からないけど、思ったよりも緊張していない自分に驚いている。自分がどんな振る舞いをしても、耀士は笑って受け止めてくれる気がしているからなのかもしれない。
耀士の部屋は野球部の部室を小さくしたようなものだった。グローブやバッド、ボールなどの野球道具が視界に入らない場所がない。ベッドの上にまでボールが置いてある。壁にはユニホームとベースボールキャップがいくつも掛けられていた。本棚はなく、机の棚に最低限の教材が並んでいるだけ。
「野球の部屋だ……」
あまりにも自分の部屋と違いすぎて驚きを隠せないが、耀士らしい部屋だと思った。
「まあな。グローブ触ってみる?」
「いいよ。壊しちゃうといけないし、大切なものだろうから……」
「二葉にならなんでも貸すよ。テスト終わったらキャッチボールしよう」
「ぼ……僕にできるかな」
「俺が教えるよ。大丈夫」
隣で耀士が笑って二葉の肩に手を乗せてきた。距離が近いのは気のせいだろうか。
部屋の香りはグローブの革の匂いと爽やかな制汗剤の香りが混ざりあって混沌としている。それでも日向みたいな耀士の匂いが強くて、二葉はなぜかドキドキしてしまった。
「古典の続きから教えて。あと満点取るコツも。どこまで詰めればいい?」
いつの間にか違う場所から椅子を持ってきた耀士は、さっそく勉強道具を広げる。
大真面目な耀士に、二葉は呆気にとられて一瞬出遅れた。
「二葉? ……俺の隣、座ってよ」
不意に手を掴まれて、隣の椅子まで引き寄せられた。
「あ、ご、ごめんなさい……」
さっきから体が熱くて変だ。
体調が悪いのかもしれない。でも悪寒も倦怠感もない。自分のことなのに戸惑う。
「大丈夫か?」
様子がおかしい二葉に気づいたのか、耀士が申し訳無さそうに尋ねてくる。さっき部室で起こったことを心配しているようだった。
「俺がぎゃふんと言わせてやるから。気に病まないでな。倒れなくていいからな」
気持ちが体調にすぐ出てしまうと以前打ち明けたことを気にして言ってくれたのだろう。倒れるかどうかなんて自分ではどうにもならないが、言い草がおかしくて笑える。
「うん。倒れない」
「倒れても俺が支えてやるけど」
「いい。今は僕が耀士くんを支える」
はっと息を呑んだ耀士を尻目に、二葉は教材一式を耀士の机に置いた。
「頑張ろう。耀士くんならできる。いい? まず、分からない単語は僕に聞くんじゃなくて、辞書で調べるんだよ」
耀士の破顔が、心地よかった。
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