僕の目があなたを遠ざけてしまった

紫野楓

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 それからの五日間、耀士は取り憑かれたように勉強と向き合った。

 ねぎらうことすら躊躇われるほど本気の耀士に胸が熱くなる。二葉は彼の頑張りを一番近くで見られたことが嬉しかった。

 考査が開け、翌日の放課後。

 耀士と待ち合わせしていた掲示板の前の人はまばらだ。大半の生徒は考査の成績順位などに興味がないからだ。

 春には憎たらしいと思っていた掲示板を、二葉はドキドキしながら見上げている。

 一位、佐藤二葉、合計七〇〇点。

 これは別にどうでもいい。すごいのはその下だ。二葉は何度も目でその文字をなぞった。その度に嬉しくて、同じくらい緊張する。

 二位、北見耀士、合計五五〇点。

(すごいよ、耀士くん)

 目にする度に感動で体が震える。肩を抱き、夏服の半袖シャツの裾をぎゅっと握って、喜びを噛み締めた。傍にいた生徒の何人かも「耀士くんって野球部の耀士くんだよね? これほんと!?」「嘘ーっ」と驚きの声を上げている。

 だが、まだ不安が残っている。耀士に会うまでは気を抜いてはいけない。

 五五〇点の一教科の平均は七十八点。全教科赤点は回避している可能性が高いけれど、満点が採れているかどうかは答案用紙を見なければ分からない。

 目立たないように掲示板より少し離れたところでひたすらに耀士を待った。

 どうかお願い、と祈りながら。

 心臓の拍動が、時計の秒針の音よりも早い。そのせいで、時間が過ぎるのが遅く感じて仕方がなかった。

 長い廊下の窓に落ちて揺れる夏の木漏れ日をなぞりながら、耀士が来るだろう方向に顔を向ける。同じクラスだったらこんなにドキドキしないでも済んだのに。恨めしく思っていたら、遠くから全力でこちらに向かってくる人影が見えた。

「二葉!」

 答案用紙なんか見なくてもいいみたいだ。耀士の表情が結果を教えてくれている。

 二葉が耀士の姿に気づいて手を振ろうとした頃には耀士は目の前まで迫っていた。

「二葉ーっ!」

 スピードが全く緩まないので反射で身構えたら、ふわ、と体が宙に浮く。

「――っ!?」

 抱き上げられたと分かったのはその後だ。咄嗟に前髪が靡かないように抑えてしまう。

「やった! 二葉! 俺やったぞ!」

「お、降ろしてっ、怖っ……わ……!」

 耀士は聞く耳を持たず「二葉」と「やった」しか発しない。周りの生徒がざわついて恥ずかしいが、力で敵う相手でもないので諦めた。

「満点、採れた? どの教科、っ?」

 彼の口から聞きたい。そう思って二葉は抱えられたまま声を出す。

「古典! 英語も! 見て!」

 やっと床に降ろしてもらえた二葉はフラフラになりながらくしゃくしゃの答案用紙を受け取った。

 笑みが溢れる。

「すごい。すごいね、耀士くん」

 高校の考査結果で、こんなに嬉しくて幸せな気持ちになる日がくるなんて。

「頑張ったね」

 返事は力強い抱擁だ。身長に差がありすぎて、二葉は耀士の胸に埋もれてしまう。唇に耀士のしっかりした胸板が触れて、シャツ越しなのにどぎまぎする。彼の体温は熱く、体中で彼の匂いを感じてくらくらした。

「二葉、ありがとう……っ!」

 震えた声で耀士が言う。

 それはこっちの台詞だよ。

 言いたかったが、あまりにも抱き寄せる力が強くて言えない。

 耀士の考査結果は、その日のうちに瞬く間に生徒の間に広がった。



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