地味で根暗で残念ですが、直視できないくらいイケメンで高スペックな憧れの先輩に溺愛されそうなので、全力で逃げています。

藤 慶

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第1章 シンデレラはガラスの靴をk点に向かって全力で投げた

水の宮殿(AQUA PALACE)<33>

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冬野さんの車の後部座席。



ひろき君が運転席側の冬野さんの後ろに座り、私は助手席側の後部座席に乗った。



車内に流れるカーナビテレビ。

チャンネルは朝の情報番組。



私はひろき君のリクエストでしりとりをしていた。



「えっとゴマ」

「マンドリルって知ってる?」

「うん、動物園で観たよ。ルパン三世」




ルパン三世なんて渋いな。私は「ロシアより愛をこめて」が好きなのだが、少し前に体は子供頭脳は大人な名探偵とコラボした怪盗だと話してくれたが、ひろき君は「カリオストロの城」を知っているのだろうかとジェネレーションギャップに怯えた。




市外の外れの海沿いにあるAQUAPALACEには、車で30分程の道のりで到着したころには正午を回っていた。

丁度イルカショーの時間帯だったので、一番にイルカのショーを観て、私たちは誕生日のひろき君の特典で、プールから自力でプールサイドに上がったイルカさんと記念撮影を満喫して、ひろき君は無料で紙の写真立てに収められた記念写真を貰い、私と冬野さんはそれを携帯のスマホカメラで画像を収めた。



これ宝物にしよう。



そう思った。



その後、私たちはお楽しみのランチビュッフェに行って、前菜からメイン、デザートまでお腹一杯料理を愉しんだ。



「お姉ちゃん、よく食べるね」

「ひろき君だって、ローストビーフ何枚食べたの?」

「お姉ちゃんだって、チョコレートマウンテンのチョコがなくなっちゃう位食べてたじゃん」

「いや、全然余裕だったよ、チョコレートマウンテンさん延々とチョコ出してたし」



途中で冬野さんの存在を忘れそうになる位、ひろき君と意気投合して、ちんあなごに魅入ったり、勝手にくまのみに名前を付けたり、アロアナとにらめっこしてみたり、時間を忘れて楽しんだ。



16時を過ぎたところ、さすがにひろき君が疲れた様子だったので、冬野さんが買ってくれたソフトクリームを片手に野外のベンチで休憩を取った後、気が付いたらお互い寄りかかってベンチで居眠りをしてしまっていた。



目が覚めると、私の隣に冬野さんが居て、上着を私とひろき君にかけてくれていた。




「よく寝てたね」

「……すみません、つい寝ちゃいました」

「昨日ほとんど寝てないからね」




ひろき君はまだ眠っていた。

私はひろき君を起こさない様に静かに話をした。




「冬野さん、ありがとうございました。私水族館とか、10年ぶりです」

「こちらこそ。僕も子供の時に来て以来だよ。こんなにひろきと君と楽しめるなんて思ってなかった。俺、石ちゃんと居ると楽しいよ」

「そうですか? 私なんか冬野さんを愉しませられる様な話題できませんよ」

「そんなことないよ。だって、俺いつも石ちゃんのところに来てたでしょ。会社辞めるまでは」

「そうでしたね。冬野さん、怒られてませんでした? 仕事中にサボったりしたらダメって?」

「あぁ、そんな事もあったね。でも、ちゃんと仕事を終わらせてから遊びに来てたし、石ちゃんだって業務に支障が出るほど俺と無駄口話してた訳じゃないでしょ。課長がいつも褒めてたよ。石ちゃんはまじめで仕事が出来るって」



確かに、仕事の質は褒められるんだ。

反面、身だしなみとか、人間関係がうまくないとことか、いつもやっかまれてた。

特に、気の強い同僚から無駄にマウントされやすい、ナメられやすい。

もっと自己主張しないと、余計な粗を探されてハラハラするって。




「石ちゃんって、なんで自分で目立とうとしないの?」

「目立つ事に必要性を見出せません。なんで会社で目立たないといけないんだろう?そう思います。だって、みんな仕事をしているだけの事だと思うんです。みんなで遊んだり、団結して自分の思うように物事をすすめたりって、仕事以外の事でなんでそんな事しようとするのか分からないんです」

「う~ん。それって、マキさんみたいにって事」

「返答に困ります」




マキさんとは、同期だ。

内定から、新人研修、入社から今に至るまで、何度となく目の敵にされて来たのだが、それを言うなら実際退職にまで追い詰められた、同期や先輩後輩の方が激しいマウントと嫌がらせを受けて来たに値するだろうに。




「石ちゃんはでも、マキさんの事苦手だけど、嫌いじゃないんだよね?」

「へ?」

「だって、君は一度だって、マキさんの事、嫌いって言ったり、けなしたり、悪く言ったりしなかったから」

「でも、私、謝罪と弁明をことわりましたよね」

「苦手って言っただろ。俺の知る限り、マキさんのいないところでマキさんの悪口言わなかった人って君と課長だけなんだ。聖人君主みたいで気持ち悪い」



何それ。

聖人君主みたいって、気持ち悪いって。



私は自分の耳を疑った。




「ひどい言い草ですね」

「ん。あ、違うよ。昔、ある人に言われたんだ。人の悪口を一切言わないでいつもへらへらしているお前が、『聖人君主気取ってるみたいで気持ち悪い』ってさ」



冬野さんはまるで昔話をする様にそう語って、私の頭を撫でて言った。




「石ちゃんも、気持ち悪い? 俺の事」




むしろ好きだけど、何か、それって。



そういうのって。



私も経験した事ある。



ただでさえ、会社を辞める同期との別れが寂しくて、何も力に慣れなかった事が切なかったのに。



突き放されるみたいに、あの日、あの時、私。



「そんな事ないですよ。人それぞれ、受け取り方と受け止め方が違うだけだと思います」



あぁ、何で今、こんなに愛しいのだろう。



私には勿体ない冬野さんの見せる弱みが、一生手放したくない位、とっても、とっても愛しいのに。



絶対自分がその愛を得る事なんて出来ないのだと頭で分かってしまうのだから。


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