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偽りのハジメテ
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「お前が羅刹の龍。冗談だろ、何代目だ?」
男の問いに、一瞬、すっとぼけようか迷ったが、やめた。
正直に言う事にした。
「八代目。イブ」
「……ふ~ん。にしては、随分ドジな龍だ」
「うっせ」
頬の僅かな痙攣と苛立ちを取り繕い切れなかった。
しまった。
地が出てしまった。
「……っんだよ。いきなり語気が荒れんな」
「だって、隠そうと思ったから」
「マジで? お前、龍な訳?」
「羅刹の龍を知ってんの?」
「あぁ、だって俺、8年前の羅刹の卒業生」
「?!」
8年前って事は、ええっ!
じゃぁ、26歳。
「へぇ、随分可愛い龍だな」
そう言って、少し目付きの険が和らいだかと思った瞬間。
キョウは私の手首を掴んで引き寄せた。
腰が浮くほど引き寄せられて、中腰になった。
キョウも少し立ち上がって、引き寄せた私の唇にキスをした。
咄嗟に拒もうと身を引こうとして、洗面器を床に倒した。
氷水がフローリングと絨毯に零れる。
「いっ……ぁ っ」
「構うな。水だ」
ちっがぁあうう。
床に零した水なんかどうでも良い。
何で、私にキスをする。
飴を舐める様に唇に這う舌。
私の制服のジャケットを剥いて、リボンを解き、手際良くシャツのボタンを外していく。
「っ……ぁ……やっ……やだ!!」
両手を突き出し拒むが、キョウはソファーの背に抑え付けようと体重をかける。
重くて支え切れず、抱き締められた。
腕力には自信があったが、そりゃ自分より頭一個分以上も大きい男に物理的に勝てないなんて、何の不思議でもない。
でも、だからって、してヤラれてたら、この街最強の称号にして支配者『羅刹の龍』が務まる訳ない。
「お前、甘い果物みたい」
一瞬、平手をお見舞いしようと振り上げた腕を躊躇った。
でも、それだけだった。
パチンッ……。
力一杯ではなく、風を切るような早さで私はキョウの頬をぶって、自分から遠ざけようと彼の顎を手の平で押し返した。
静かだった部屋に乾いた音の響きが消える。
私の殴打にほんのり頬を赤く染めたキョウは意味深な含み笑いを浮かべた。
チンピラが脳震盪を起こすレベルの柔な女の生半可な力じゃなかったのに、意外と平気そうでイラッとした。
「ワタシは自分より弱い奴には惚れないし、好きな様にもされてやらない。 その覚悟は出来てるの? 羅刹の龍はお飾りじゃない」
「……てぇっ」
男は、手の平を前に差し出し、『待った』のポーズをとって、僅かに赤く色ずいた箇所をもう片方の手で撫でた。
「今のは俺が悪かった」
「本気で言ってるの?」
「あぁ、試す様な事して悪かった」
いやさ、謝るとこ、そこ?
キスして、あわよくば、ヤろうとしたことじゃなくて?
「試すって何?」
「怯えて泣き出すか、喜んで脚を開くか、それとも……本物の『羅刹の龍』の片鱗を見せるか」
あぁ、そう。
「でっ、じゃあ、その試しの末路まで、続きする? 足挫いた位で、アンタとヤるの、躊躇ったりしないけど?」
私の言葉にキョウは驚いた時の猫の目みたいに、一瞬目を見開いて、固まった。
何に驚いているんだろう。
私が暴れるのを恐れてか?
キョウはなぜか、悪戯っぽく笑った。
「ふっ。それは、どっちの意味でだ?」
ん?
どっちって、喧嘩、タイマン以外に何があるんだ出来てるの?
「何言ってんの? 意味なんて二つないわ」
私の言葉にキョウは含み笑いで言った。
「あるさ。お前に拳は向けたくないし、今ゴムがねぇからお前とはヤらねぇ」
私はキョウの言葉に殺◯が芽生えた。
「割と本気でキレて良いかな?」
「良いぜ。お前の心行くまで一晩中、付き合ってやる。……帰らなくて良いならな」
しまった。
家に帰りたいの忘れてた。
慌てて時計を見ると11時半。
「いやぁあああ、うそぉお!」
キョウに自宅前まで、送って貰い……。
只今、自宅のアパート前。
私は車の助手席で頬の痙攣を必死に堪える。
すっごく嫌だが、一応「警察の補導から助けて貰った」「突然、道路に飛び出して、危険な目に遭わせてしまった」「怪我の手当てをして貰った」「家まで送って貰った」。
だから、私は嫌でも、今キョウにお礼を言うべきだ。
「アリガトウゴザイマシタ」
「お前はロボットか!」
キョウの鋭いツッコミを苦笑いで返すと、キョウは小さくため息を付いた。
「お前、彼氏居んの?」
「居ないよ」
「まぁ、だろうな」
キョウは感慨深そうに頷いて、私の頬にてを当てようとしたのか手を差し伸べて来たので、さっと窓際に避けようとしたが、助手席に身を乗り出して私の手を振りほどき、吐息が届く程顔を近付けて私に言った。
「キス……嫌だったか?」
……。
無理やり……と言うか、不意打ちに今までに一人だけ私にキスした奴がいたが、その時と今じゃ状況が違いすぎる。
初対面でキスとか有り得ない。
そいつとの時のキスとは比べられない。
だから、
「……分かんないよ」
呆然とする私に、キョウは微笑む。
顎を上げ、私の額にキスをした。
「ウブな奴」
何か盛大に勘違いされた……。
「津屋崎 息吹。今度は制服じゃない格好で会えるか?」
「それ、どういう意味?」
「流石に26にもなると、自分の母校でも制服姿の女と居るのはむず痒い」
いや、今のところ別に、改めてキョウに会う理由なんてないし。
そう思ったのも束の間、車を降りて別れを告げてやっとの思いで家に帰り、着替えようと制服を脱いでいたら、ジャケットの胸ポケットにとんでもないものが入る事に気が付いた。
黒塗りの紙に朱色の文字が刻まれた名刺と推定キョウの自宅のと思われる鍵。
名刺に一言手書きがあった。
【 帰り際に靴を落とさなかった シンデレラへ 】
「……だからって、まさかの逆シンデレラ」
時刻は11時59分。
両方の靴を履いて帰った私の手には、推定王子様の残していった1枚の名刺とお城の鍵が残されてしまった。
男の問いに、一瞬、すっとぼけようか迷ったが、やめた。
正直に言う事にした。
「八代目。イブ」
「……ふ~ん。にしては、随分ドジな龍だ」
「うっせ」
頬の僅かな痙攣と苛立ちを取り繕い切れなかった。
しまった。
地が出てしまった。
「……っんだよ。いきなり語気が荒れんな」
「だって、隠そうと思ったから」
「マジで? お前、龍な訳?」
「羅刹の龍を知ってんの?」
「あぁ、だって俺、8年前の羅刹の卒業生」
「?!」
8年前って事は、ええっ!
じゃぁ、26歳。
「へぇ、随分可愛い龍だな」
そう言って、少し目付きの険が和らいだかと思った瞬間。
キョウは私の手首を掴んで引き寄せた。
腰が浮くほど引き寄せられて、中腰になった。
キョウも少し立ち上がって、引き寄せた私の唇にキスをした。
咄嗟に拒もうと身を引こうとして、洗面器を床に倒した。
氷水がフローリングと絨毯に零れる。
「いっ……ぁ っ」
「構うな。水だ」
ちっがぁあうう。
床に零した水なんかどうでも良い。
何で、私にキスをする。
飴を舐める様に唇に這う舌。
私の制服のジャケットを剥いて、リボンを解き、手際良くシャツのボタンを外していく。
「っ……ぁ……やっ……やだ!!」
両手を突き出し拒むが、キョウはソファーの背に抑え付けようと体重をかける。
重くて支え切れず、抱き締められた。
腕力には自信があったが、そりゃ自分より頭一個分以上も大きい男に物理的に勝てないなんて、何の不思議でもない。
でも、だからって、してヤラれてたら、この街最強の称号にして支配者『羅刹の龍』が務まる訳ない。
「お前、甘い果物みたい」
一瞬、平手をお見舞いしようと振り上げた腕を躊躇った。
でも、それだけだった。
パチンッ……。
力一杯ではなく、風を切るような早さで私はキョウの頬をぶって、自分から遠ざけようと彼の顎を手の平で押し返した。
静かだった部屋に乾いた音の響きが消える。
私の殴打にほんのり頬を赤く染めたキョウは意味深な含み笑いを浮かべた。
チンピラが脳震盪を起こすレベルの柔な女の生半可な力じゃなかったのに、意外と平気そうでイラッとした。
「ワタシは自分より弱い奴には惚れないし、好きな様にもされてやらない。 その覚悟は出来てるの? 羅刹の龍はお飾りじゃない」
「……てぇっ」
男は、手の平を前に差し出し、『待った』のポーズをとって、僅かに赤く色ずいた箇所をもう片方の手で撫でた。
「今のは俺が悪かった」
「本気で言ってるの?」
「あぁ、試す様な事して悪かった」
いやさ、謝るとこ、そこ?
キスして、あわよくば、ヤろうとしたことじゃなくて?
「試すって何?」
「怯えて泣き出すか、喜んで脚を開くか、それとも……本物の『羅刹の龍』の片鱗を見せるか」
あぁ、そう。
「でっ、じゃあ、その試しの末路まで、続きする? 足挫いた位で、アンタとヤるの、躊躇ったりしないけど?」
私の言葉にキョウは驚いた時の猫の目みたいに、一瞬目を見開いて、固まった。
何に驚いているんだろう。
私が暴れるのを恐れてか?
キョウはなぜか、悪戯っぽく笑った。
「ふっ。それは、どっちの意味でだ?」
ん?
どっちって、喧嘩、タイマン以外に何があるんだ出来てるの?
「何言ってんの? 意味なんて二つないわ」
私の言葉にキョウは含み笑いで言った。
「あるさ。お前に拳は向けたくないし、今ゴムがねぇからお前とはヤらねぇ」
私はキョウの言葉に殺◯が芽生えた。
「割と本気でキレて良いかな?」
「良いぜ。お前の心行くまで一晩中、付き合ってやる。……帰らなくて良いならな」
しまった。
家に帰りたいの忘れてた。
慌てて時計を見ると11時半。
「いやぁあああ、うそぉお!」
キョウに自宅前まで、送って貰い……。
只今、自宅のアパート前。
私は車の助手席で頬の痙攣を必死に堪える。
すっごく嫌だが、一応「警察の補導から助けて貰った」「突然、道路に飛び出して、危険な目に遭わせてしまった」「怪我の手当てをして貰った」「家まで送って貰った」。
だから、私は嫌でも、今キョウにお礼を言うべきだ。
「アリガトウゴザイマシタ」
「お前はロボットか!」
キョウの鋭いツッコミを苦笑いで返すと、キョウは小さくため息を付いた。
「お前、彼氏居んの?」
「居ないよ」
「まぁ、だろうな」
キョウは感慨深そうに頷いて、私の頬にてを当てようとしたのか手を差し伸べて来たので、さっと窓際に避けようとしたが、助手席に身を乗り出して私の手を振りほどき、吐息が届く程顔を近付けて私に言った。
「キス……嫌だったか?」
……。
無理やり……と言うか、不意打ちに今までに一人だけ私にキスした奴がいたが、その時と今じゃ状況が違いすぎる。
初対面でキスとか有り得ない。
そいつとの時のキスとは比べられない。
だから、
「……分かんないよ」
呆然とする私に、キョウは微笑む。
顎を上げ、私の額にキスをした。
「ウブな奴」
何か盛大に勘違いされた……。
「津屋崎 息吹。今度は制服じゃない格好で会えるか?」
「それ、どういう意味?」
「流石に26にもなると、自分の母校でも制服姿の女と居るのはむず痒い」
いや、今のところ別に、改めてキョウに会う理由なんてないし。
そう思ったのも束の間、車を降りて別れを告げてやっとの思いで家に帰り、着替えようと制服を脱いでいたら、ジャケットの胸ポケットにとんでもないものが入る事に気が付いた。
黒塗りの紙に朱色の文字が刻まれた名刺と推定キョウの自宅のと思われる鍵。
名刺に一言手書きがあった。
【 帰り際に靴を落とさなかった シンデレラへ 】
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