「黒炎の隼」

蛙鮫

文字の大きさ
14 / 115

「友達」

しおりを挟む
 
「何してんの?」
 松阪隼人は動揺していた。屋上で一人、昼食を取ろうとした時、結巳がいたからだ。

 しかし驚いたのはそれではなかった。昼食の数が異様なのだ。弁当に敷き詰められた大量のおにぎり。卵焼き。唐揚げ。野菜。

「この量。全部食ってんのか?」

「しっ、仕方ないでしょう! 訓練で聖滅具を使うと異様にお腹が減るのよ!」
 結巳が頰を赤らめながら、握り飯を口に放り込んだ。

「なんでここで食ってんだよ。クラスメイトとかと食えばいいだろう」

「私は由緒ただしき聖堂寺家の人間。大食らいなんてはしたない真似、できるわけないじゃない!」

「あっそう」
 隼人は結巳の鋼のような堅苦しさに若干、引きながらも自身も昼食を取り始めた。

 隼人の昼食はささみ肉と野菜サラダ、ゆで卵三つ、プロテインという何とも質素なものだった。

「昼食の量が少ないわね。午後は訓練なのにそんな量でもつの?」

「訓練の前はあまり食事を摂らないようにしている。腹に物を入れすぎると血が内臓に流れるから、集中力が落ちる」

「なるほどね、肉体的訓練だけではないと」

「そういう事」
 飢えは生物の潜在能力を引き出す上で重要な要素。祖父が特訓する際に何度も、言っていた言葉だ。

「でもさ。聖堂寺当主として職員の上に立つってんなら下々の連中と飯食って信頼でも作った方がいいんじゃないのか?」

「淑女としての品位が崩れるのよ!」

「いや淑女って自分で言うか?」
 隼人は自称淑女の言い分に首をかしげた。

「そんなに難しい事じゃないと思うぞ。俺とは違って支持されているんだからよ。友達の一人や二人いるだろ?」

「っ、ないのよ」

「えっ?」

「だから! 友達なんて出来た事ないのよ!」
 周囲に響き渡る勢いで叫び声をあげた。

「お前。親しい人間も作らずに当主やら上に立つとか言っていたのか?」

「そっ、そうよ! 当主になればそこにあるのは上下関係。友人のような平等な関係ではないわよ! そう言うあなたはいるの? 友達。まあ、あなたのような一匹狼タイプには無縁でしょうね!」
 動揺しているのか、結巳が素っ頓狂な声を上げながら、隼人を上から軽口をたたいきてきた。

「ああ、いたよ」

「えっ?」

「俺の事はいい。人間関係を構築する上で大切なのは対等に接する事だと俺は思うぞ」

「対等」
 隼人の言葉に結巳が考えるような素ぶりを見せた。今まで同年代の人間と友好関係を結んできていなかった証拠だろう。

「上下関係に囚われているとこの前の赤間みたいな自分の地位を利用して他者を見下す人間が生まれる。上下関係にあるのは尊敬ではなく崇拝や恐怖だ」

「崇拝と恐怖。それは良くないわね」

「まあ、俺の意見だけどな」
 隼人は食事を胃の中に詰め込むと、屋上から踵を返した。




 夜。隼人は眉間に皺を寄せていた。自主トレーニングを終えた後に見知らぬ電話番号から連絡がかかってきたからだ。恐る恐る携帯に手を取り、着信に応じた。

「もしもし」

「遅いわよ」

「なんで俺の電話番号知っているんだよ」

「特待生の書類に明記してあった」

「見たのかよ」

「昼間に言っていた対人関係についての更なる情報を得たかったの。手段は選ばないわ」
 電話の相手は聖堂寺結巳だった。どうやら昼間に言った言葉についてあれから考え込んでいたらしい。

「明日。クラスの女の子達と昼ごはんを食べてみようと思うんだけど、どうかしら?」

「いいと思うぞ。まずは軽めの一歩から。トレーニングと同じだ」

「そうね。やってみるわ。ありがとう」

「おう」
 隼人は電話を終えると、布団に潜った。

「そういえば、同年代の奴と電話するのって初めてだったな」



 昼間。大勢のクラスメイトが学食に向かう中、隼人はいつも通り校内の騒音を避けるために昼食を持って部屋を出ようと準備していた。

 ふと視界を逸らすと結巳が女生徒三人組を方に向かっていた。

 

「あっ、あのあなた達良かったらご飯食べない?」
 結巳が女生徒達に向かって声をかけた。人生初の友人との食事。相談を受けた身としては気になるところだ。

「いいよ! いいよ!」
 三つ編みの少女が子犬のようにはしゃぎながら、結巳をそばに座らせた。

「聖堂寺さんとお昼って少し緊張するよね」

「うん。ちょっと近寄りがたいイメージだったから」

「そうだったの。ごめんなさいね」
 結巳が軽い会話を済ましていると弁当箱に手をかけた。ここが関門だ。山盛りのおかずが入った巨大弁当。女生徒達にどう受け取られるのか。

「どっ、どう。私のお弁当」

「えっ! 聖堂寺さん! 食いしん坊なんだ!」

「凄い。クールな人だからサラダ一つだけとかだと思ってた!」

「なんか大食いクールキャラっていいよね」

「いや、さすがにそれは保たないわ。大食いクールってなによ」
 女生徒達は好印象だったようだ。

 結巳が同級生のとぼけた質問に呆れながらも笑みを浮かべていた。隼人は横目で一瞥した後、静かに教室を後にした。

 自分の口角が上がっている事に気付いていなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...