「黒炎の隼」

蛙鮫

文字の大きさ
104 / 115

「阿鼻叫喚」

しおりを挟む
 町外れの森に設置されたテント。松阪シライはヘリコプターに搭載さえたモニターから隼人達の状況を確認していた。

 相手は迦楼羅。対策本部最強の敵だ。彼自身、全力で挑んでも勝てなかったが、隼人達なら必ず打ち取ってくれると信じているのだ。

「頼んだぞ。みんな」
 シライは画面の向こうで迦楼羅に立ち向かおうとする英雄達に祈りを捧げた。



 隼人は動揺していた。目の前で多くの仲間達が一瞬で返り討ちにあったからだ。

「それしきで倒せるとお思いですか?」
 迦楼羅がそう呟いた後、目にも止まらない速さで何千個もあろうかと思うほどの羽根を飛ばしてきた。

 戦闘員達に着弾して辺りから悲鳴と血しぶきが上がる。

「くそっ!」
 隼人はその絶望的な光景に目を奪われていた。度肝を抜かれるような戦慄の光景が広がっている。

 加勢に来たことによって僅かに見えた光明は一瞬で閉ざされてしまった。

「いけー!」

「こんなところで終わるかあ!」
 生き残っていた戦闘員達が立ち向かっていくも、しかし、瞬く間に原型をとどめない肉片に変わってしまった。

「この程度なら問題ありませんね」
 余裕のある口調で死体の山を見つめる。言葉通り、迦楼羅にとって並みの戦闘員を山ほど相手にしようと何の問題もない。

 数百の修羅場をくぐり抜けてこれまで多くの戦闘員を葬ってきた異形の怪物。

 これまで戦って来た幹部達とは比較にならないほどの強さだ。

「はあああ!」
 隼人は下に滑り込んで、掬い上げるように刀身を振った。しかし、予想していたと言わんばかりに容易く躱されてしまった。

「読みが甘いですね」

「がはっ!」
 迦楼羅の強烈な膝蹴りが隼人の鳩尾にめり込んだ。声にならない鈍痛と溝の奥から何かこみあげて、口から吐き出た。

 数分前に飲んだ飲料水が胃液とともに不快感を交えて空中に飛び散った。隼人は勢いで後方に吹き飛び、柵に背中を強く打ち付けた。

「み、んな」
 嘔吐により、一時的に気力がそぎ落とされて、立ち上がる気が起きない。

 目の前では迦楼羅が圧倒的な実力で突撃していく戦闘員達を次々と斬り倒していく光景だ。

「グアアあああ!」

「ぎゃああああ!」
 壁や床に張り付いた血しぶき、積み重なる仲間達の屍。当事者は死屍累々の中、剣についた血を振り払っていた。

 仲間の血だ。今日この日のために血が滲むような苦難を乗り越えた者達の想いが刻まれた尊い血だ。

「ぐっ」
 隼人は腸が煮えくり返るようになるほどの憤りを奥歯に負荷をかけてどうにか抑える。

「松阪くん。一旦休んで」
 結巳が隼人の側に駆け寄って、声をかけてきた。彼女自身も決して、軽傷ではない。

「休めるかよ。俺だけ。みんな戦ってんのによ」
 顳顬から流れ出る血を抑えながら、背中を起こした。ここで自分が引けば,間違いなく後ろの仲間たちは死ぬ。

 震える両膝に喝を入れて無理やり立ち上がった。周囲では鷹や揚羽が地面や壁で身を預けていた。

「私の斬撃をもろに受けて、立ち上がるとは」

「絶対倒す」
 口の中に漂う血の味を噛み締めながら、隼人は迦楼羅の元に駆け出した。

「邪魔です」

「ぐはっ!」
 迦楼羅からの強烈な拳が心臓付近に当たった。隼人は地面を転がりながら、柵に背中を打ち付けた。

「あっ、あっ」
 胸に強い衝撃を受けたせいか息を吐けない。その間にも迦楼羅が攻撃の態勢に入っているのが視界の端で見えていた。

 迫り来る死と連動する心臓の鼓動。隼人はゆっくりと立ち上がろうとした時、迦楼羅に向かって誰かが飛びかかった。

「ほう。まだ立ちますか。揚羽」

「ええ。お父様に勝ち、この戦いを終わらせる。初めて出来た友達をこれ以上、傷つけさせない!」
 真っ白な手足から血を流しながら、迦楼羅に挑んでいく。彼女が必死な表情で食らいついているが、対する迦楼羅からは何の焦りも感じられない。

「遅い。足も振りも返しも全てが遅い」
 迦楼羅が揚羽の刀を躱して、強烈な正拳突きを鳩尾に叩き込んだ。血を吐くと共に彼女は遥か後方まで飛んだ。

「あんた。血は繋がっていないとはいえ娘だろ? 情はないのか」

「情? この愚物にそんなものは不必要です。ここまで手塩に掛けて育てたというのに私に傷一つつけられない出来損ない」
 迦楼羅の心無い発言に隼人の内側で沸々と怒りがこみ上げた。口に広がる血を舐めながら、ゆっくりと立ち上がる。

「後悔するなよ! その言葉の責任を取らせる!」
 隼人は怒りに任せて勢いよく刀身を振ったが容易く止められてしまった。

「しかし、哀れですね。仲間というものは。初めから情愛など抱かなければ心が揺れて、先ほどのように動きに粗が出来る事もない」
 迦楼羅が張り付くような冷たい声で語りかけてきた。

「あんたの為に死んで行った幹部達はどうなんだよ」

「私のために戦う。それを選んだのは彼らの意志ですよ。それを私が汲み取るかは別です」

「そうかい。死んで言った奴らが報われないな」
 隼人は呆れと憤りを交えたため息をついた。組織で活動している以上、その中で情が生まれるはずである。

 ところが、目の前の怪物にはそんなものはなかったのだ。敵を打ち取ったことに後悔はしていない。同情もしない。

 しかし、迦楼羅の身勝手極まりない発言を聞いて、悪態をつかずにはいられなかった。

「迦楼羅!」
 隼人は傷だらけの体に鞭を打って、仇にめがけて走り出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

処理中です...