「追放王子の冒険譚」

蛙鮫

文字の大きさ
4 / 61

「コラル」

しおりを挟む

 野営テント越しに浴びる日光で目が覚めた。寝袋から体を抜いて、ゆっくりと起き上がった。

 木刀を持って素振りを行なった。六歳の時に木刀を持ってから五年経った今でも欠かさずやっているルーティンだ。

「ふん!」
 生きていく環境が変わろうと毎日の練習は欠かさない。継続は力なり。積み重ねる事が自分をさらなる高みへと導いてくれる。

「おはようございます。朝から精が出ますね」

「うん。環境が変わったといえ、やめる理由にはならないから」

「さすがです。私は朝食の準備をしてまいります」

「お願いします」
 アーケオはマシュロの手料理を楽しみにしながら、木刀を振るった。

 朝食を終えるとアーケオとマシュロはコラルに向かった。空は晴れており、天候に苛まれる事もなく、順調に進んでいた。

「すごい本で見た内容と同じだ」
 アーケオは周囲の光景に目を輝かせていた。立ち並んだ木々。頬を撫でるそよ風。気持ちよさそうに大空を飛んでいる鳥。

 生まれた時から自身の王国内や学校しか行ったことがなかった彼にとって世界はとても新鮮だったのだ。

 そんな彼をマシュロが我が子を慈しむような優しい眼差しを向けていた。


「着いた」
 無事、ローゼン王国から離れた国。コラルに着いたアーケオとマシュロ。王国と比べると人口は少ないが、賑わっていた。

「早速、宿を取りましょう」

「うん!」
 アーケオの胸は高ぶっていた。宿に泊まるという経験も初めてだったからだ。

 宿の外装は木造建築で木の匂いが鼻腔に流れ込んできた。受付の方で温和な雰囲気を放っている中年女性がいた。

「あら。いらっしゃい。何名様でしょうか?」

「二名でお願いします」

「かしこまりました。お二階上がって突き当たりの部屋です」
 部屋の鍵を受けるとアーケオはマシュロとともに階段を登った。扉を開けると大きなベッドか二つ並んでいた。

「広い!」

「いい部屋ですねー」
 アーケオは荷物を置いて、部屋を見渡した。

「さて街の散策でもしましょうか?」
 マシュロに誘われて、アーケオは街に出ることにした。

「すごい。こんなにお店が」

「そういえばアーケオ様は街で買い物されるのは初めてでしたね」

「うん。ずっと学園と王城を往復する毎日だったからね」
 学業、訓練、礼儀作法。それを限られた場所で行い続ける毎日。

 退屈な毎日の中で読書とマシュロと過ごす時間が彼にとって唯一、憩いの時間だった。

「でも今は違う。さあ、たくさん巡ろう」
 アーケオはマシュロとともに色々な店を巡った。長い旅の中で物資は必要不可欠。二人は買えるだけの買い物をした。

「野営で使う道具と怪我をした際に使う包帯。今回の買い物はこんなものでしょう」

「それじゃあ宿に戻ろう」
 宿に戻ろうとした時、近くの脇道から出てきた男性と肩がぶつかった。

「あっ、すみません」

「おいおい坊ちゃん。どこ見てんだ?」
 金髪のモヒカンヘアーの男がアーケオを睨みつけてきた。 

「申し訳ありません。従者からもお詫び申し上げます。どうか許してはいただけないでしょうか」
 マシュロがモヒカンヘアーに頭を下げた。

「へえーお姉ちゃんよく見ると可愛いね。お詫びの印として俺とな?」
 モヒカンヘアーの男がマシュロの顎を指で上げる。

「かしこまりました。アーケオ様。少しお時間をいただきます」

「あっ、はい」
 マシュロが穏やかな笑みを浮かべながら、モヒカンヘアーの男の腕に肩を回されて、路地裏に入っていく。アーケオはこれから不憫な目に遭う彼を哀れに思った。

 数秒後、マシュロが普段通りの優しい笑顔で出て来た。アーケオにはその笑顔がどこか恐ろしく見えた。

 宿に戻って夕食と湯浴みをした後、アーケオは布団に入った。布団の中で今日の出来事を思い出していた。初めての町。初めての買い物。初めてのチンピラ。

 そのどれもが新鮮だった。

「マシュロさん。冒険って楽しいね」

「まだまだこれからですよ。アーケオ様」
 マシュロが彼の目を見て、口元をあげる。

「さあ、明日も早いですから寝ましょう!」

「そうだね。おやすみ。マシュロさん」

「お休みなさいませ。アーケオ様」
 互いに言葉をかわして、目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

処理中です...