「追放王子の冒険譚」

蛙鮫

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「守りたいもの」

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 廃墟と化した古城の一室でアーケオはマシュロとともに迫り来るフレデリカと戦っていた。紫色のスライム達が鋭い突起を体が出して、襲いかかってきた。

 アーケオはそれらをかわして、一体、また一体と討伐数を増やしていく。

 その近くでマシュロがフレデリカを次々と切り刻んでいた。

 アーケオとマシュロの戦闘経験の差はかなり開いている事もあってか、討伐数が比較にならないくらい違うのだ。

「さすがだね。マシュロさん」

「フレデリカは訓練で何百回と相手にしてきましたからね。しかし、それでも」

「森とは比較にならないくらい多いね」

「ええ。かなり厄介です」
 アーケオとマシュロが背中を合わせて、辺りを警戒する。

 本棚の隙間。扉の外。天井。ありとあらゆるところからフレデリカが姿を見せる。人質もいるので戦いを長引かせるわけにはいかない。

「なかなかやるようだな。ではこれならどうだ!」
 Dr.マリフティーが地面に指を示した瞬間、そこに吸い込まれるように部屋中のフレデリカが集まり始めた。

 肉体をぶつけて、形を変えてやがてそれは巨大な水溜りのような姿になった。

「これぞ。フレデリカの真の姿よ!」

「オオオオオオ!」
 部屋中に響き渡るフレデリカの雄叫び。アーケオは全身で緊張を覚えていた。
 フレデリカが無数の肉片を飛ばしてきた。

 そして、空中で徐々に鋭利な形になって弾丸のように飛んできた。体が巨大化しているせいか、攻撃範囲も広くなっているのだ。

「シャドー・ステップ!」
 黒い影を纏ったマシュロが凄まじい速度でフレデリカに向かっていく。

「遅い!」
 マシュロが瞬時に間合いを詰めて、ナイフで何度も切りつけた。

「なっ!」
 マシュロが目を見開いていた。フレデリカの傷が瞬く間に修復されたからだ。

「うわっ!」
 フレデリカからの攻撃を受けて、マシュロが壁まで吹き飛んだ。

 アーケオは彼女の元に駆け寄ろうとした時、待ったをかけるようにフレデリカが鋭い突起でなんども攻撃を仕掛けてきた。

「威力が上がっている!」
 木刀で攻撃を防ぎながら、巨大化したフレデリカの体を観察する。攻撃一つ当たれば致命傷になりかねない。

 突然、目の前でフレデリカが大きく揺れた。マシュロが勢いよく飛び蹴りを打ち込んだからだ。

「アーケオ様! ご無事ですか!」
 額から僅かに血を流したマシュロが駆け寄ってきた。

「マシュロさん。怪我してる!」

「これくらいなんともございません」
 マシュロが朗らかな笑みを浮かべた。アーケオは罪悪感に駆られた。

 自分のせいで彼女が傷ついた。自分が弱かったせいだ。

 このままではマシュロもここに囚われている人々も犠牲になってしまう。そんな事はアーケオにとってあってはならない事だ。

「これ以上好きにはさせない!」
 アーケオは木刀を強く握った。その瞬間、木刀が黄金の輝きを放ち始めた。博物館の時と同じだ。

「なっ! なんだ! それは!」
 Dr.マリフティーが冷や汗をかいてうろたえる。
 
「僕が守るんだ!」
 アーケオは木刀をフレデリカに向かって振り落とした。その瞬間、博物館と同様に凄まじい勢いで黄金の斬撃が飛び出した。

「ゴオオオオオ!」
 斬撃と接触したフレデリカは真っ二つになった。そして威力は収まらず、部屋の壁ごと破壊した。

 斬撃を受けたフレデリカが煙を出して蒸発していった。

「そ、そんな。私の悲願が。娘の仇が」
 Dr.マリフティーが背骨を抜かれたようにへたり込んだ。

「ふう。なんとか倒」
 アーケオの視界が歪んだ。

「アーケオ様!」
 マシュロが瞬時に主人を支えた。今のアーケオは斬撃の影響もあってかかなり体力を消費していた。

「アーケオ様は休んでいてください」
 マシュロがゆっくりとアーケオの腰を下ろさせた。そして、囚われていた人々の拘束を解いた。

 その後、エルペタスに戻ったアーケオとマシュロはDr.マリフティーはエルペタス騎士団に引き渡して、監禁されていた冒険者や商人達も感謝の言葉を受け取った後、家路に向かう彼らの背中を見送った。


 エルペタスの王城にある玉座の間。そこでアーケオとマシュロが膝をついて座っていた。

 その先にエルペタスの国王。今回の騒動の解決の件について呼ばれたのだ。
「アーケオ殿。マシュロ殿。此度の活躍。誠に感謝する!」
 玉座の間でエルペスタの国王から賞賛の言葉をかけられた。

「何か欲しいものはあるか? 余にできる事があれば、なんでも叶えようではないか」

「では陛下」
 アーケオは自分の願いを伝えた。


「おいしい!」

「なかなか上質な味ですね」
 アーケオとマシュロは木ノ実料理に舌鼓を打っていた。事件解決もあってか町中は活気に満ち溢れていた。

 国民達が肩を組んだり、歌を歌ったりとても賑やかな空気に包まれていた。

「まさか国王への進言が木ノ実料理の祭りだなんて思いもしませんでした」

「恐ろしい事件が解決したのなら、みんなでお祝いムードにするのがいいかなあって。まあ木ノ実料理を食べたかったっていうのはあるけど」
 アーケオは頰がとろけそうな顔で木ノ実のパイを口にした。そんな彼の顔を従者が頰を紅潮しながら優しい目を向けていた。




 宴を終えた後、泊まっている宿の一室でアーケオは天井を見ながら今日のことを思い出していた。

 アーケオにとってマシュロはとても大切な存在だ。いつも彼を気にかけていた。

 彼自身、その気持ちを疑いたいわけではないが、気になるのだ。壮絶な過去を背負っていながら、どうして何もない自分のそばにいてくれるのか。

「ねえ。マシュロさん」

「どうなさいましたか。アーケオ様」

「どうして僕についてきてくれるの? どうして僕に優しくしてくれるの?」

「ある方との約束です」

「ある方?」

「ウィンディー様。アーケオ様のお母様です」

「母さんが」
 アーケオの脳裏に亡き母の顔が浮かんだ。自分を産んだ後、間も無くして亡くなった為、顔は肖像画のみでしか知らない。

「ウィンディー様には生前、大変よくしてくれました。お互いに故郷をローゼンに奪われた者同士という事もあってか、すぐに打ち解けました。そして亡くなる際にあなた様の護衛を言い渡されました」

 マシュロが愛おしそうな表情を作った。この顔からマシュロが母を慕っていた事。そして、アーケオ自身が母から愛されていた事を理解した。

「ですがウィンディー様のご命令でなくとも、私はあなた様をお守りすることは初めてお会いした時から決めていました」 

 マシュロの口から伝えられた事実。王族の中でも王位継承権がないに等しい僕に仕え続けたのは母への感謝なのだ。

「だからアーケオ様は私が守ります。この命に代えても」
 マシュロの目はとても強く芯が見えた。あまりにも硬く、そしてとても暖かい芯。

 その言葉を聞いてアーケオは布団の中で静かに拳を握った。

 強くなりたいと願ったからだ。この心優しく忠実な従者を守りたい。今まで支えてもらった分、恩を返したいと願った。
 
 しばらくするとアーケオとマシュロは眠りについた。しかし、彼の強く堅い誓いは決して眠らないのだ。
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