病弱を理由に婚約破棄されました ~私、前世は狂戦士だったのです~

呉マチス

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16 権力者【ヴァレリー視点】

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エルミナ・バルリ侯爵令嬢。
私とテオドリックの幼馴染み。
ありもしない作り話を、さも本当の事の様に口汚く話し、テオドリックを拐かそうと必死だ。
彼女はこんなに醜くはすっぱで、頭の悪い女性だったであろうか?

宰相の娘で、高位貴族、権力層であるエルミナ侯爵令嬢の、かつて無い粗野な印象に驚いた。

いつも着飾って綺麗にしていたエルミナしか知らないからだろうか?
目の前のエルミナは干し草にまみれ、逃亡に疲れたのかやつれた印象を受ける。

綺麗で、少しわがままで、幼い頃は私とテオドリックの間に立ち、いつもお姫様だったエルミナ。
大切な幼馴染みだ。
しかし。

「やってくれたな、エルミナ。弟を拐かすのはさも簡単だったろう。こいつは疑うことを知らない」

一歩前へ出るとエルミナもテオドリックも大きく体を震わせた。

「拐かす?」

アホなテオドリックは腑に落ちないらしい。辞書でも引いておけ。

そして止せばいいのにエルミナは、拐かす相手を私に変えてきた。

「お言葉ですが、ヴァレリー王太子殿下。あなたもこの売女の手の内のようね! 何を大事に抱えているのやら! ですわ! その女は、」

「頭が高い」

ムカついたので私は権力を発揮した。
これは便利な一言なのである。

「くっ!」

エルミナはまだ理性が残っているのか、忌々しそうに顔を歪めながらも、その場に膝を付いた。

「頭が高いな」

追い討ちをかけると、エルミナは両手を重ねて地べたに付き、悔しそうにぎ、ぎ、ぎ、と音でもなりそうな程ゆっくりと頭を下げ、地に付けた両手の上に額を置いた。
最もへりくだった礼である。
あるいは全面降伏を意味する姿勢だ。

「殿下」

腕の中で羽のように軽い少女が咎めるようにぎゅうっと私のシャツの胸元を握った。
細い手が細かく震えている。
見ていられないのだろう。
自分はつい昨日、これ以上の屈辱を与えられたというのに、どこまでも慈悲深い子だ。
思わず愛しさが増して強く抱き込んでしまう。

くそぅ、抱っこじゃ様にならないな。

「ブルージュ公、戻るぞ」

言うとその場にいた騎士たち全てが礼をとった。
ただテオドリックだけがその様子にキョロキョロしている。
雰囲気も読めないバカな弟よ。
お前のものを、頂くぞ。
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