病弱を理由に婚約破棄されました ~私、前世は狂戦士だったのです~

呉マチス

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36 開戦

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王の前を辞すると、ドレスのスカートを抱えて走る私をアルベールが抱えた。
はい。抱っこされた方が数倍速いのは確かです。
感覚だけで北側へ向かうと、回廊に向かう扉の前に王宮親衛隊たちが隠れて様子を伺っている場面に追いついた。
ガスパール卿の隣に辿り着く。

「斥候を出しているの?」

聞くと、突然隣に居た私にガスパール卿は驚いて口をパクパクさせた。

「あ、る、ルイーズ令嬢!? なんでここに!?」

私を抱くアルベールにも同じように指差して確認している。

「俺の事はルイーズの馬だと思って気にしないで下さい」

アルベールは自虐ネタに走る。馬って! もう!

「ガスパール卿、ちょっとだけ偵察させてくださいね」

私はアルベールに抱っこされたまま目を閉じて『地獄耳』を発動し集中する。

「偵察って、それ、なんなんですか?」

ガスパール卿の疑問をアルベールが「シー」と黙らせてくれている。



―――どうする?

―――どうもこうも、ここで捕まったら終わりだ。

―――直ぐに相手の応援が来るぞ。敵が少ないうちに全員やっつけて、俺らは国境の砦に逃げるべきだ。

―――あの方はどうする?

―――知るか! 宰相が何とかするだろ!

―――宰相はいったい何をしているんだ? この状況でまだ寝ているのか?

―――もうどうでもいい。強行突破だと皆に伝えろ。



んんん? 宰相寝ているの?
あの方ってリリア妃の事?
もういいや。時間が無い。

私は目を開けた。
ガスパール卿が見守っていて、視線が合う。
にっこり笑うと、ハンサムなお顔をげんなりさせた。

「それが偵察、なんですね」

確信したようだ。

「内緒よ」

私は自分の唇に指を当てて「シー」とする。
内緒も何も、周囲には他の親衛隊もいるのだが、皆素直に頷いてくれた。

「敵は三十人に満たない程度。こちらの応援が来る前にここを強行突破して、国境近くの砦に避難するらしいわ。宰相は……寝ているみたいで気配が掴めない」

私が偵察の結果を言うと、王宮親衛隊の皆に緊張が走った。
すると音も無く上から一人の兵士が降りてきて、「来ます」と言った。
彼が斥候なのだろう。

親衛隊たちが鉄の擦れ合う音と共に剣を抜く。

バン!

扉があく音がすると、回廊の向こう側から軽装の兵士たちがなだれ出て来た。
親衛隊も列をなして扉から出て行く。

「わああ!」

声と共に剣が交わされる音がする。
一気に狭い回廊は戦場となった。

「アルベール、剣を頂戴」

「持っているわけないだろ。ここは宮廷だぞ」

そうでした。
入宮時に武器は全部預けちゃうのです。

「え~、どうしよう。剣あった方が疲れないのよね」

悩む。

「てことは、行くんだな。あの中に」

アルベールは扉の向こうを顎で指した。

「当然。こっちの人数が少なすぎるわ。皆死んじゃう」

扉の向こうではあっという間に親衛隊が劣勢だ。

「じゃあ取り敢えず剣を奪ってくるから、それまで動くなよ!」

アルベールは私を柱の陰に降ろすと、回廊へ駆けて行った。
ちょっと! アルベールも武器を持ってないじゃないの!
驚いて追いかけようとすると、突然後ろから肩を掴まれた。

「動くなって言われたでしょ?」

「ひい!!!」

真後ろに、私を庇うようにぴったり張り付いてきたのは、ヴァレリー王太子だった。
近衛も従えている。

「……だからさ、なんで私に会う時、いつも悲鳴を上げるの?」

ヴァレリー王太子は不満顔だ。
だって! 気配がしないんですよ! 殿下は!

「あ、ほら、アルベール。彼さすがブルージュの血統だね」

見るとアルベールが敵から二本の剣を拝借して戻って来た所だ。

「殿下、危ないですよ」

息も切らさずアルベールは柱の陰に身を滑り込ませる。

「ルイーズ嬢が前線にいるのに後方で黙っていられないよね」

金髪碧眼の美男子は甘い笑顔で私を見つめると、断りもなくひょいと抱き上げる。

「さて、行こうか。そろそろ皆やばい」

殿下の言葉に戦況を見ると、回廊の出口に向かって逃げるルルヴァル兵を、親衛隊が壁になって抑えている所だ。
多勢に無勢で、親衛隊に怪我が目立つ。
押されているのは明らかだ。

「アルベール、右を守って!」

アルベールから剣を受け取ると、私たちも回廊へ出る。
右にアルベール、左に近衛が一人、後方に近衛が三人のフォーメーションだ。
新たな敵の登場に気付いたルルヴァル兵が、剣を振りかざして目ざとくこちらへ向かって来る。

「……」

向かって来るはずが、途中で立ち止まっている。
え?
なぜ?

「……何を、しているんだ?」

ルルヴァル兵は、絶世の美男子がドレス姿の令嬢を抱えている場違いさを理解できなかったらしく、丁寧に訪ねて来た。
数歩離れた位置で、三人のルルヴァル兵は立ち止まっている。

私は重い剣をブルブル震える手で持ち上げると「???」とついつい私を見守ってしまったルルヴァル兵に向かって振り下ろした。

「え~い!」

直後、バリバリと稲妻に似た音を立てて、衝撃波がルルヴァル兵を襲う。

バリン! という音と共に三人のルルヴァル兵は吹っ飛んで行った。
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