病弱を理由に婚約破棄されました ~私、前世は狂戦士だったのです~

呉マチス

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39 汚き者

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※39には下系の汚い表現があります。苦手な方は読み飛ばして下さい。





ひー、落ちたー!!

ズウン!
重い音と一緒に瓦礫が転がり、砂埃が立ち上がった。

心臓が縮んだが、思ったよりは衝撃が軽かった。
上手に私を庇ってくれたガスパール卿のお陰であり、また、抜けた床下が以外に浅かったお陰でもある。

「ガスパール卿、す、すみません!!」

私はガスパール卿の鎧の上でむっくり身を起こす。

「ルイーズ、生きてるな。皆、無事だな」

一緒に落ちた大公様が、周りに声を掛けながら、瓦礫を掻き分けやって来る。
状況を見ると、幅二メートル、深さ二メートル程の通路のように、一直線に床が抜けていた。
この直線、北塔から繋がっている。

「大公様、これ、地下通路じゃありません?」

「ああ、だな。こんな通路、記憶にないがな」

大公様は私を抱き起した。
宮廷内の地図は騎士団の、特に大公様の頭の中には叩き込まれているはずだ。
その大公様の記憶に無いとは。

「秘密の通路ですか?」

ガスパール卿が埃を払いながら起き上がった。

「うわ!」

とらしくない悲鳴を上げたガスパール卿がその場を飛び退く。
ガスパール卿が居た瓦礫の下からぶよぶよとした手が覗いていたからだ。

「きゃー!!」

気持ち悪い!
先程の嫌悪感が再び私を襲い、大公様にへばり付く。
こいつ!
こいつが気持ち悪かったんだわ!
あのぺたぺた音は、こいつの足音だわ!

私は大公様から、床下に下りて来たお父様に抱き渡される。
大公様と、ガスパール卿、それに数人の騎士が瓦礫を退かし、掻き分け、のぞいた手の人物を救い出そうとする。

「嫌、お父様。あの人気持ち悪いし、なんか臭い」

「うん、ルイーズは見ない方がいいかもしれん。お前、先に上がっとけ」

お父様はそう言ってアルベールを探すが、アルベールはしっかり瓦礫掻き分け隊に入って働いていた。
お父様の反応で、この臭いは死臭なのかな? と思いどんなバラバラ死体が出て来るか覚悟を決めた。
すると、ぶよぶよの手の持ち主は死体ではなく生きていて、騎士たちに砂埃を払われる。

「生きてるぞ、宰相だ!」

「バルリ侯爵!?」

宰相の顔が露になると現場は大騒ぎになった。

私の記憶では、宰相は恰幅が良く、いつも立派な衣装に身を包み、一国の権力者にふさわしい威厳を持つ中年男性だった。
だったのだが。
掘り起こされた宰相はほぼ裸で、目の下には隈を作り、吐く息はアルコール臭く、全体的にとにかく臭かった。
申し訳程度に腰に布を巻いた、砂誇りにまみれて真っ白くおしろいを叩いたような緩んだ体が露になる。

「うっわ! なんだこれ! ベトベト……、げっ!!」

宰相を担ぎ起こした騎士が、そのダルダルの肢体を支えていた手を離す。

ドシャ!
宰相が再び瓦礫の中に埋もれる。

「なんだこれ、くっさい……、げぇ!!」

宰相の体に巻き付いていた腰布を瓦礫の下から引っ張り出していた騎士も、その手を離し、後ずさる。

「ぎゃー、これ、これ!! ザー……!!!!」

「嘘だろ、こっちは小べ……!!!!」

ギャーギャーと手を瓦礫に擦りつけたり、拭き取る物を探し回ったりと、騎士たちが汚いものを触ってしまって慌てふためき大騒ぎになった。

「仕方ねーな。宰相を担いだ奴には特別報償三倍だ」

と大公様は汚い者から距離を取って言い放った。
ちゃっかりアルベールは汚染を免れたようで、大公様と一緒に現場と距離を取る。
特別報償は狙わないらしい。

「うわ、最悪」

床の上から覗き込んで来たヴァレリー王太子の声が更に騎士たちに悲壮感を与える。

「殿下、ルイーズの教育に悪い。預かって下さい」

私はお父様からヴァレリー王太子へと抱き渡される。
情けない抱っこリレーをされているのだが、そんな事はどうでもいい。
早く床下から抜け出たかったので、素直にヴァレリー王太子の首に腕を回した。

「怪我はないかい、ルイーズ嬢」

臭くて汚ない状況が一転して、バックに花をしょった王太子に見つめられる。
床の上に引き上げられ、王子は私を抱えたまますたすたとその場を後にした。

「あ、え? 何があったのです? 宰相様は何であんな?」

「うーん。よっぽど深い快楽に囚われていたようだね。あの宰相。ルイーズ嬢は後でお父上から説明してもらいなさい」

海千山千の騎士たちには直ぐに解った様子だったが、私には一体宰相様がなんであんなに臭くて汚かったのか、理解が出来ない。
ただただ、触れてはいけないような嫌悪感だけが残った。

「えっと、北塔の制圧は」

「ルイーズは来なくていいぞぉ」

床下から大公様の声が聞こえた。
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