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47 出会ってしまったSとM
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「リリア妃殿下はテオドリック様のいない隙によく、私にちょっか……、いえ、私に構って下さいました。あれは、妃殿下の寂しい心の訴えだったのですね。心付く事が出来なかった私は、まだまだ未熟者でした」
へり下っているようでいて、実は圧倒的にリリア妃は見下された感を抱いているだろう。
案の定、肩を震わせて激しく否定してきた。
「ふざけないでちょうだい! あなたを苛めていたのはあなたみたいな輝く星が義理の娘になるなんて耐えられないからよ!」
輝く星?
何でここで誉め言葉?
「あなた、私を知らないでしょう? 第二王妃としてたった一人の侍女を連れて、ラマティアに嫁いで来たのが二十年前。王は子どもができたら直ぐに私の宮殿には来なくなった。二十年よ、二十年! ずっと私は影の存在で惨めな第二王妃だったのよ!」
惨め。ご自分を惨めに感じていたのか。
「あなたは生まれた時から祝福された存在で、容姿にも才能にも人格にも恵まれて、私とテオドリックとは大違い。そんなあなたが、目障りでしょうがないの。今だって、そこに居るだけで虫唾が走るわ!」
ダーン、と最後にテーブルを叩くので、衛兵たちが前のめりになるが、私はそれを手で制した。
存在自体が気に入らないのなら、顔を合わせれば何かしら嫌味を言って来たのも理解できる。
「私の事がお嫌いなのは解りました。しかし、王との関係は逆に言えば二十年も改善できるお時間があったのではないのですか? なぜバルリ候を頼りにしたのです?」
私がリリア妃の言い分を否定せず受け入れて話を進める事に、リリア妃の怒りは増長する。
「だから、そういう所が嫌いなのよ。普通は嫌われたらこっちだって嫌いになるのよ! 気付かない振りをして擦り寄るなんて惨めな事、出来ないのよ!」
私だってリリア妃の事、好きではない。
でも自分の置かれた状況や、仕方の無い事も、何とかやりくりしてやり過ごして、何か別の光明を見つけたりするものでしょう?
仕方の無い事をいつまでもああたこうだ言っても、自分が楽しくないし、別の楽しみも見つけられない。
だから私はテオドリック様の婚約者だった時、いくらでもあなたの苛めに付き合いましたし、何かされても受け流せるように努力していたのだ。
と、言いたいが、別に私はリリア妃のお母様でも教育者でもないので、我慢する。
「その点バルリ候は付き合いやすかったのよ。彼の抱えるコンプレックスも、本当の自分を表に出せないジレンマも、野心も、私には手に取るように理解できたわ」
―――彼が一生隠すつもりだった性癖もね。
うっ!
なんか余計な言葉が聞こえて来た!
ボソッと言わないでよ!
逆に鮮明に聞こえちゃうわ。
「王ではなく、バルリ候と気持ちが通じたのですね」
私はそこも肯定してあげる。
「そんなんじゃないわ! 皆してゲスな勘繰りして! ただ単に、私に接触してきたのがバルリ候だっただけよ!」
―――私のサドッ気が気に入ったんでしょうよ!
だーかーらー。
ボソッと言うなぁ。
サドって何だっけ?
サディズム? 嗜虐症?
ちょーっと、どういう事?
「えっと、妃殿下はバルリ候と情を交わしたのではないのですか?」
もう、聞いちゃえ!
「そんな訳ないでしょう! なんであんな豚野郎と! ただ、叩いて欲しいって、苛めて欲しいって言うから、叩いて鞭打ってあげただけよ!!」
ダーンとまたもやテーブルを叩いて激昂するリリア妃。
私は衛兵たちと共に言葉を無くしてしまった。
書記官が必死に会話を綴る筆記音だけが響く。
「書くのをやめなさい!」
リリア妃、書記官に一喝するも、衛兵が鎧の音を立ててリリア妃と書記官の間に立つので、「チッ!」と舌打ちして諦める。
ずっと限らせた世界で過ごしていると、ご自分の下品さに気が付かなくなるのかしら?
舌打ちとか、現実に聞いたの初めてだ。
「では、バルリ候とは純粋に王家をルルヴァルの血筋で乗っ取ろうと協力しただけなのですか?」
仕方なく椅子に座り直したリリア妃に改めて聞いてみる。
バルリ候とのおかしな関係を暴露してしまったからには、ご自分の有利になるように証言しないと、悲惨な結果しか残ってないのですからね。
リリア妃は気持ちを落ち着けるように大きく息を吐いて、また私をじっと見た。
黒い瞳には、最初よりも明らかに生気が満ちている。
「三年前、バルリ候が突然翡翠宮にやって来たの。王太子の婚約者がルルヴァル王国の公女に決まりましたぞって、とても嬉しそうに」
嬉しそうに?
エルミナを婚約者に据えるつもりではなかったの?
「時期王妃がルルヴァル公女で私の姪だという事は、今から公女と接触を図って損はないから、交流を始めましょうって言ってきた。私は嫁いで来てからルルヴァルとの交流は絶っていたから、バルリ候がすべて手配したのよ」
書記官が生き生きと筆を走らせている。
それをリリア妃は諦めたように眺めた。
「最初はルルヴァル人の侍女を王宮に招き入れた。そのうちルルヴァルの商人を王都に都合してあげた。私の周りにルルヴァル人が溢れ始めて、私は故郷の話を聞いて、断絶していた親戚たちとの文の交流も始まって、満足していたわ。そうやって人脈を輸入している中に、まさか兵士がいるなんて、バルリ候が宮殿に居座った時まで全く気付かなかったわ」
リリア妃は再び怒りに肩を震わせた。
へり下っているようでいて、実は圧倒的にリリア妃は見下された感を抱いているだろう。
案の定、肩を震わせて激しく否定してきた。
「ふざけないでちょうだい! あなたを苛めていたのはあなたみたいな輝く星が義理の娘になるなんて耐えられないからよ!」
輝く星?
何でここで誉め言葉?
「あなた、私を知らないでしょう? 第二王妃としてたった一人の侍女を連れて、ラマティアに嫁いで来たのが二十年前。王は子どもができたら直ぐに私の宮殿には来なくなった。二十年よ、二十年! ずっと私は影の存在で惨めな第二王妃だったのよ!」
惨め。ご自分を惨めに感じていたのか。
「あなたは生まれた時から祝福された存在で、容姿にも才能にも人格にも恵まれて、私とテオドリックとは大違い。そんなあなたが、目障りでしょうがないの。今だって、そこに居るだけで虫唾が走るわ!」
ダーン、と最後にテーブルを叩くので、衛兵たちが前のめりになるが、私はそれを手で制した。
存在自体が気に入らないのなら、顔を合わせれば何かしら嫌味を言って来たのも理解できる。
「私の事がお嫌いなのは解りました。しかし、王との関係は逆に言えば二十年も改善できるお時間があったのではないのですか? なぜバルリ候を頼りにしたのです?」
私がリリア妃の言い分を否定せず受け入れて話を進める事に、リリア妃の怒りは増長する。
「だから、そういう所が嫌いなのよ。普通は嫌われたらこっちだって嫌いになるのよ! 気付かない振りをして擦り寄るなんて惨めな事、出来ないのよ!」
私だってリリア妃の事、好きではない。
でも自分の置かれた状況や、仕方の無い事も、何とかやりくりしてやり過ごして、何か別の光明を見つけたりするものでしょう?
仕方の無い事をいつまでもああたこうだ言っても、自分が楽しくないし、別の楽しみも見つけられない。
だから私はテオドリック様の婚約者だった時、いくらでもあなたの苛めに付き合いましたし、何かされても受け流せるように努力していたのだ。
と、言いたいが、別に私はリリア妃のお母様でも教育者でもないので、我慢する。
「その点バルリ候は付き合いやすかったのよ。彼の抱えるコンプレックスも、本当の自分を表に出せないジレンマも、野心も、私には手に取るように理解できたわ」
―――彼が一生隠すつもりだった性癖もね。
うっ!
なんか余計な言葉が聞こえて来た!
ボソッと言わないでよ!
逆に鮮明に聞こえちゃうわ。
「王ではなく、バルリ候と気持ちが通じたのですね」
私はそこも肯定してあげる。
「そんなんじゃないわ! 皆してゲスな勘繰りして! ただ単に、私に接触してきたのがバルリ候だっただけよ!」
―――私のサドッ気が気に入ったんでしょうよ!
だーかーらー。
ボソッと言うなぁ。
サドって何だっけ?
サディズム? 嗜虐症?
ちょーっと、どういう事?
「えっと、妃殿下はバルリ候と情を交わしたのではないのですか?」
もう、聞いちゃえ!
「そんな訳ないでしょう! なんであんな豚野郎と! ただ、叩いて欲しいって、苛めて欲しいって言うから、叩いて鞭打ってあげただけよ!!」
ダーンとまたもやテーブルを叩いて激昂するリリア妃。
私は衛兵たちと共に言葉を無くしてしまった。
書記官が必死に会話を綴る筆記音だけが響く。
「書くのをやめなさい!」
リリア妃、書記官に一喝するも、衛兵が鎧の音を立ててリリア妃と書記官の間に立つので、「チッ!」と舌打ちして諦める。
ずっと限らせた世界で過ごしていると、ご自分の下品さに気が付かなくなるのかしら?
舌打ちとか、現実に聞いたの初めてだ。
「では、バルリ候とは純粋に王家をルルヴァルの血筋で乗っ取ろうと協力しただけなのですか?」
仕方なく椅子に座り直したリリア妃に改めて聞いてみる。
バルリ候とのおかしな関係を暴露してしまったからには、ご自分の有利になるように証言しないと、悲惨な結果しか残ってないのですからね。
リリア妃は気持ちを落ち着けるように大きく息を吐いて、また私をじっと見た。
黒い瞳には、最初よりも明らかに生気が満ちている。
「三年前、バルリ候が突然翡翠宮にやって来たの。王太子の婚約者がルルヴァル王国の公女に決まりましたぞって、とても嬉しそうに」
嬉しそうに?
エルミナを婚約者に据えるつもりではなかったの?
「時期王妃がルルヴァル公女で私の姪だという事は、今から公女と接触を図って損はないから、交流を始めましょうって言ってきた。私は嫁いで来てからルルヴァルとの交流は絶っていたから、バルリ候がすべて手配したのよ」
書記官が生き生きと筆を走らせている。
それをリリア妃は諦めたように眺めた。
「最初はルルヴァル人の侍女を王宮に招き入れた。そのうちルルヴァルの商人を王都に都合してあげた。私の周りにルルヴァル人が溢れ始めて、私は故郷の話を聞いて、断絶していた親戚たちとの文の交流も始まって、満足していたわ。そうやって人脈を輸入している中に、まさか兵士がいるなんて、バルリ候が宮殿に居座った時まで全く気付かなかったわ」
リリア妃は再び怒りに肩を震わせた。
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