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「ああ、また、無理して。ほらほら、歩行は馬に任せなさい」
ヴァレリー王太子は私をひょいと抱き上げる。
「う、馬って」
私が言ったのではありませんからね。
「こんにちは。リリア妃殿下。ああ、しゃべらないでね。私の事は馬だと思ってください。ほら、リリア妃殿下をお助けして」
ヴァレリー王太子の声に後ろから王太子の近衛たちが駆け上がって来た。
「失礼します」
とリリア妃を抱き上げる。
「な、な、な」
リリア妃の返答も待たずに、階段を一気に目的地まで登って行く。
さすが皆さん。鍛えているだけある。
私もここ最近は相当頑張っているのに、まだまだ現場では役に立たないようだ。
尋問室の前では、あっけに取られた衛兵たちが待ち構えていた。
いきなりの王太子の登場に、臣下の礼を取る。
その前に私とリリア妃は降ろされた。
「ほら、行っておいで」
ヴァレリー王太子に扉を開けられて、私はリリア妃と共に入室した。
もちろん、衛兵、書記官も連れてだ。
「な、何しに来た!!」
大きなテーブルの向こうで衛兵に囲まれたバルリ候が立ち上がって喚いた。
その姿は、少しお痩せになったようだが、依然と変わらないきっちりとした高級文官の服装で、階級章まで身に付けている。
牢獄に居ると言うのに、その両手は縄で縛られているというのに、謙虚さの欠片もない。
私はカツカツと今までこの場でバルリ候の言葉を記していたであろう書記官に歩み寄り、記録書を奪った。
「あ!」
「大丈夫、こっちの方が記録を続けるわ」
私は連れて来た書記官を筆記机に座らせて、奪った記録書をリリア妃に渡した。
「ま、待て!」
バルリ候が顔を青くして止めるが、聞く必要もない。
リリア妃は読み進めていく。
次第に額に血管が浮かび上がり、記録書を持つ手が震えはじめた。
「この、クソ豚が!!」
リリア妃は記録書を放り投げると、嘘のように素早くバルリ候に襲い掛かり、パーンとふくよかな頬を平手で叩く。
そのままぐらついた候の足をヒールを履いた足で引っ掛ける。
ドシンと重い音がしてバルリ候は仰向けに床に倒れた。
その山のような腹の上にガッと乗せられたのは、ドレスの裾をまくり上げた、リリア妃のヒールの足だ。
細い足を、衛兵たちが見守る中惜しげもなく晒し、リリア妃はヒールの尖りをぐりぐりと贅肉に押し込んでいく。
「ああ! ああ! やめてくれ!!」
ずっとふてぶてしかったバルリ候が切羽詰まった声で懇願している。
リリア妃は手を伸ばし、バルリ候の上着に着いた金の立派な飾り紐をするすると引き抜いた。
「あ、あ、あ」
バルリ候がそれだけでなぜか恐怖に震えるような? 声を出した。
「さあ、豚よ。鳴きな!」
リリア妃が悪魔のような微笑みで先程抜き取った飾り紐を使って、バルリ候を鞭打った。
「あああ!」
さほど痛くもなさそうなのに、バルリ候は縛られた両手を胸の前で震わせている。
ビシッ!
ビシッ!
ビシッィ!
「ああ!」
「ああ!」
「ああん!」
私はその光景を、レイピアを握ったまま呆然と立ち尽くして見ていた。
えええ!?
なに?
何が起きているの!?
リリア妃の卓越した鞭捌きの美しさに反して、身を悶え、涙を浮かべて呻いているバルリ候のなんと、醜いことだろう。
これが、王を小ばかにし、リリア妃を利用し殴り、私の未来を無理やり変えさせた、狡猾な元宰相とは思えなかった。
「リリア様ぁぁぁ!」
と、バルリ候の声色が明らかに変わり、鳥肌が立って壁際に避難した私の目の前を、小さなお菓子の箱がポーンと飛んでいった。
飛んで来た方を見ると、開かれた扉の向こう側に侍女のアニーが居て、
「あ、間違えて飛んで行ってしまいました。あ~れ~」
と棒読みで言う。
「馬が取って来て差し上げますよ」
無駄にいい声でヴァレリー王子が尋問室に入室し、お菓子の箱を拾ったと思ったら、おもむろに私を抱き上げて退室した。
背後で扉が閉められる。
「馬が間違って飛んで行ったお菓子を回収しただけですからね」
ヴァレリー王太子はそこに居た衛兵に念を押した。
「ああ! 申し訳ありません! 言います! 本当の事を言います! ですからお願いです! もっと強くぅぅぅ!!」
と扉の向こうでバルリ候のけったいな喚き声が続いている。
「さあ、ルイーズ嬢はお耳を塞いで下さい。馬に乗って帰りましょう」
ヴァレリー王太子は言いながら素早く階段を下る。
扉の壊れた塔を出て、壁に空いた穴から面会室に入ると、そのまま控室まで逆再生のように戻って行った。
ソファーに降ろされる。
「書記官がしっかり記録していましたよ。リリア妃もなかなかしたたかだ。後はあの二人のお戯れの中から証言が引き出されるでしょう」
ヴァレリー王子が言う。
「いやー、珍妙な者を見てしまった」
「あれが、全て記録されるのか? 裁判で証言として公開されるんだぞ」
「生きていけないな」
それまで黙っていた近衛たちが一気にしゃべり出す。
「すげーな、M。見たか、バルリ候の股間」
「目ももう、完全に逝っちゃってたぞ」
ここにきてアニーが後ろから私の両耳を塞いだ。
もう遅いです。
そうか。
あれが、プレイ、なんですね。
ヴァレリー王太子は私をひょいと抱き上げる。
「う、馬って」
私が言ったのではありませんからね。
「こんにちは。リリア妃殿下。ああ、しゃべらないでね。私の事は馬だと思ってください。ほら、リリア妃殿下をお助けして」
ヴァレリー王太子の声に後ろから王太子の近衛たちが駆け上がって来た。
「失礼します」
とリリア妃を抱き上げる。
「な、な、な」
リリア妃の返答も待たずに、階段を一気に目的地まで登って行く。
さすが皆さん。鍛えているだけある。
私もここ最近は相当頑張っているのに、まだまだ現場では役に立たないようだ。
尋問室の前では、あっけに取られた衛兵たちが待ち構えていた。
いきなりの王太子の登場に、臣下の礼を取る。
その前に私とリリア妃は降ろされた。
「ほら、行っておいで」
ヴァレリー王太子に扉を開けられて、私はリリア妃と共に入室した。
もちろん、衛兵、書記官も連れてだ。
「な、何しに来た!!」
大きなテーブルの向こうで衛兵に囲まれたバルリ候が立ち上がって喚いた。
その姿は、少しお痩せになったようだが、依然と変わらないきっちりとした高級文官の服装で、階級章まで身に付けている。
牢獄に居ると言うのに、その両手は縄で縛られているというのに、謙虚さの欠片もない。
私はカツカツと今までこの場でバルリ候の言葉を記していたであろう書記官に歩み寄り、記録書を奪った。
「あ!」
「大丈夫、こっちの方が記録を続けるわ」
私は連れて来た書記官を筆記机に座らせて、奪った記録書をリリア妃に渡した。
「ま、待て!」
バルリ候が顔を青くして止めるが、聞く必要もない。
リリア妃は読み進めていく。
次第に額に血管が浮かび上がり、記録書を持つ手が震えはじめた。
「この、クソ豚が!!」
リリア妃は記録書を放り投げると、嘘のように素早くバルリ候に襲い掛かり、パーンとふくよかな頬を平手で叩く。
そのままぐらついた候の足をヒールを履いた足で引っ掛ける。
ドシンと重い音がしてバルリ候は仰向けに床に倒れた。
その山のような腹の上にガッと乗せられたのは、ドレスの裾をまくり上げた、リリア妃のヒールの足だ。
細い足を、衛兵たちが見守る中惜しげもなく晒し、リリア妃はヒールの尖りをぐりぐりと贅肉に押し込んでいく。
「ああ! ああ! やめてくれ!!」
ずっとふてぶてしかったバルリ候が切羽詰まった声で懇願している。
リリア妃は手を伸ばし、バルリ候の上着に着いた金の立派な飾り紐をするすると引き抜いた。
「あ、あ、あ」
バルリ候がそれだけでなぜか恐怖に震えるような? 声を出した。
「さあ、豚よ。鳴きな!」
リリア妃が悪魔のような微笑みで先程抜き取った飾り紐を使って、バルリ候を鞭打った。
「あああ!」
さほど痛くもなさそうなのに、バルリ候は縛られた両手を胸の前で震わせている。
ビシッ!
ビシッ!
ビシッィ!
「ああ!」
「ああ!」
「ああん!」
私はその光景を、レイピアを握ったまま呆然と立ち尽くして見ていた。
えええ!?
なに?
何が起きているの!?
リリア妃の卓越した鞭捌きの美しさに反して、身を悶え、涙を浮かべて呻いているバルリ候のなんと、醜いことだろう。
これが、王を小ばかにし、リリア妃を利用し殴り、私の未来を無理やり変えさせた、狡猾な元宰相とは思えなかった。
「リリア様ぁぁぁ!」
と、バルリ候の声色が明らかに変わり、鳥肌が立って壁際に避難した私の目の前を、小さなお菓子の箱がポーンと飛んでいった。
飛んで来た方を見ると、開かれた扉の向こう側に侍女のアニーが居て、
「あ、間違えて飛んで行ってしまいました。あ~れ~」
と棒読みで言う。
「馬が取って来て差し上げますよ」
無駄にいい声でヴァレリー王子が尋問室に入室し、お菓子の箱を拾ったと思ったら、おもむろに私を抱き上げて退室した。
背後で扉が閉められる。
「馬が間違って飛んで行ったお菓子を回収しただけですからね」
ヴァレリー王太子はそこに居た衛兵に念を押した。
「ああ! 申し訳ありません! 言います! 本当の事を言います! ですからお願いです! もっと強くぅぅぅ!!」
と扉の向こうでバルリ候のけったいな喚き声が続いている。
「さあ、ルイーズ嬢はお耳を塞いで下さい。馬に乗って帰りましょう」
ヴァレリー王太子は言いながら素早く階段を下る。
扉の壊れた塔を出て、壁に空いた穴から面会室に入ると、そのまま控室まで逆再生のように戻って行った。
ソファーに降ろされる。
「書記官がしっかり記録していましたよ。リリア妃もなかなかしたたかだ。後はあの二人のお戯れの中から証言が引き出されるでしょう」
ヴァレリー王子が言う。
「いやー、珍妙な者を見てしまった」
「あれが、全て記録されるのか? 裁判で証言として公開されるんだぞ」
「生きていけないな」
それまで黙っていた近衛たちが一気にしゃべり出す。
「すげーな、M。見たか、バルリ候の股間」
「目ももう、完全に逝っちゃってたぞ」
ここにきてアニーが後ろから私の両耳を塞いだ。
もう遅いです。
そうか。
あれが、プレイ、なんですね。
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