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53 ハッピーエンド
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「ガルガンの能力なんて、本当は副産物に過ぎないのです。デビュタント舞踏会の前日、王宮の謁見の間で久しぶりにお会いした時には、私の心はどうしようもなくあなたに傾いていました」
衆人環視の中、ヴァレリー王太子のプロポーズは続く。
「最初はその可憐な美しさに見惚れてしまった。でも、私も婚約者のある身、そしてあなたは弟の婚約者。浮ついた気持ちに蓋をしました」
どきどきどきどき。
心臓が早鐘のようだ。
どうしようどうしようどうしよう。
「でも、馬鹿な義弟の婚約破棄騒動かあり、あなたと関わり合ううちに、蓋なんていつの間にか外れてしまった。あなたは姿だけでなく、心も清らかで美しく、そしてしたたかで強い。打ちのめされても立ち上がる姿は、あなたは恥じていたけれど、私にとっては凛とした美しい、荒野に咲く花のように見えた」
王太子の青い瞳が熱を持ち、その言葉が嘘ではないことが解る。
そうだ。私は何度も殿下の前で、醜態を晒した。
あの惨めな姿を、そんな風に思ってくれているとは。
知らず、感激が込み上げてくる。
「私の婚約解消が無くても、私は何としてもあなたを手に入れるために動いたでしょう。けれど、事ここに至って、私とあなたの間には何一つ弊害が無い。もうこれは、神様に祝福を受けているも同然です」
再度私の手を取って、ヴァレリー王太子はその指にキスをした。
「私と、結婚してください」
いつもの飄々とした表情ではない、真剣な眼差しに、私は、完全に落ちた。
私の人生はいつだって平坦だった。
それは恋愛面でも同じ事で、いつの間にか決まった婚約に心が弾む事は無かった。
山も無く、谷も無く、淡々と過ごした婚約期間だった。
当然そのまま結婚し、その後は与えられた役割を粛々とこなし続けていく予定だった。
婚約破棄は凪いだ湖に爆弾が投下されたようなものだった。
あの数日間、激しく浮き沈みしたあの時、思い返してみれば要所要所でヴァレリー王太子がいてくれた。
背中を押し、支え、私が踏み出す手伝いをしてくれた。
そして、そんながむしゃらな私を、美しいと言ってくれる。
室内は静寂に包まれていた。
誰一人、何一つ、私の邪魔をするものは無い。
「……はい」
返事は小さく一言だった。
それまでの静寂が嘘のように、どおっと歓声が起きた。
室内に居る人たちばかりでなく、窓の外、扉の外にも騎士団の団員たちが固唾を飲んで成り行きを見守っていたのだ。
「ルイーズ! ルイーズ! 私の一生をあなたに捧げるわ!」
ビクトリア様が抱き着いて来る。
「俺やブルージュ公の後継は、ルイーズだな」
大公様の言葉に、
「忠誠を誓います! ルイーズ様ぁ!!」
と騎士たちが今にも泣き出しそうなお顔で、次々と忠誠を誓いに来る。
「ほら、申し分ない。大人気だね、ルイーズ嬢」
近衛兵たちとハイタッチを交わしていた王太子が満足気に言う。
お母様に頭を抱かれ、お父様がお母様ごと私を抱きしめ、多くの人に祝福されながら私と王太子殿下との結婚が決まった。
過去に例のない速さで、私の結婚の準備は進められた。
それでも婚姻式までには数ヶ月を要した。
その間に私は騎士団のトーナメント戦に出場して優勝したり、国境でおきた小さな争いに、王太子と共に出張して圧勝したりして、国内外にその人間離れした強さをアピールした。
お陰で『白ユリの騎士』の二つ名は、騎士団だけでなく、国を超え、近隣各国にまで通じるようになった。
二つ名など恥ずかしいのだが、『白い災い』よりもなんぼかマシなので良しとする。
「ルイーズ様が狙われます。危険です」
親衛隊長ガスパール卿は、私の名が有名になればなるほど心配性になっていく。
でも私、鍛錬も欠かさずしているし、様々な技術を取得していくうちに、誰にも負ける気がしなくなっているのだ。
ガルガンが『縛り』と言っていたが、私の強さは正に人外。
きっとガルガンが何か聖なる方とでも契約をしたのだろうと思うのだが、知らぬが仏で、そこは追及しないでおく。
ガルガンの力が砂埃を巻き上げ、その中をヴァレリー王太子が私を抱いて戦場を駆け回る。
そのインパクトの強い姿は、絵付きで新聞にまで掲載され、ラマティア王国の下々にまでルイーズ旋風が巻き起こった。
そして春である。
花々が咲き乱れ、麗らかな風が吹くその日、王都では朝から花火の音が響き渡り、凱旋通りには紙吹雪が舞っていた。
以前からそのカリスマ性と一度見たら忘れられない華やかな美しさで人気を博していた王太子が、最近大人気の『白ユリの騎士』と結婚するのだ。
結婚パレードで一目、未来の王と王妃を拝みたいと、国中から人々が集まっていた。
王宮では滞りなくヴァレリー王太子の婚姻式が行われた。
招待された貴族たちに囲まれ、私は王よりティアラを戴いた。
王の後ろに並んだ王妃、大公様ご夫妻、ビクトリア様が感無量の表情だ。
その時のお父様、お母様の顔ったら、涙でぐしょぐしょだ。従兄弟のアルベールまで涙を堪えている。
私までもらい泣きしてしまいそうだった。
でも、今日の主役は私です。
泣いてお化粧を崩す訳にはいかないのだ。
「ルイーズゥゥゥ!! これでもう名実ともにあなたは私たちの家族よ!」
「ヴァレリーを、この国を頼んだぞ」
王も王妃も、外聞なく私の入宮を喜んでくれた。
続いて王宮親衛隊が私に忠誠を誓う。
「これでもう無茶はさせません」
親衛隊長ガスパール卿が渋い顔でおかしな忠誠の誓い方をしたので、厳粛な儀式なのに笑顔が零れてしまう。
私が笑うと家族の皆が、招待された貴族たちまでもが笑ってくれる。
幸せだな。
天地がひっくり返ったあの婚約破棄騒動から、まだ一年も経っていない。
でも、私、今まで頑張って生きて来た。
そしてこれからも、ガルガンの能力と共に幸せであるためにずっと頑張り続ける。
これは恵まれた私の責務なのだ。
「さて、パレードに向かうよ」
金髪を太陽の光に輝かせた私の夫が、大輪の花を思わせる華やかな笑顔で私に手を差し出す。
私はその手に自分の手を乗せた。
そこにはもう、かつての様な躊躇はなかった。
完
お読みいただきありがとうございました!
初めて書いた小説を完結できたことに私も感無量!
ですが、「完結」のボタンを押せない私。
見直して、どうしてもここは駄目でしょう、という部分を直してから「完結」ボタンを押すつもりです。
お気に入り登録もしおりも感想も、面白い小説がたくさんある中でポチっとして頂けてとても嬉しかったです。
感謝感謝~。
ありがとうございました~。
衆人環視の中、ヴァレリー王太子のプロポーズは続く。
「最初はその可憐な美しさに見惚れてしまった。でも、私も婚約者のある身、そしてあなたは弟の婚約者。浮ついた気持ちに蓋をしました」
どきどきどきどき。
心臓が早鐘のようだ。
どうしようどうしようどうしよう。
「でも、馬鹿な義弟の婚約破棄騒動かあり、あなたと関わり合ううちに、蓋なんていつの間にか外れてしまった。あなたは姿だけでなく、心も清らかで美しく、そしてしたたかで強い。打ちのめされても立ち上がる姿は、あなたは恥じていたけれど、私にとっては凛とした美しい、荒野に咲く花のように見えた」
王太子の青い瞳が熱を持ち、その言葉が嘘ではないことが解る。
そうだ。私は何度も殿下の前で、醜態を晒した。
あの惨めな姿を、そんな風に思ってくれているとは。
知らず、感激が込み上げてくる。
「私の婚約解消が無くても、私は何としてもあなたを手に入れるために動いたでしょう。けれど、事ここに至って、私とあなたの間には何一つ弊害が無い。もうこれは、神様に祝福を受けているも同然です」
再度私の手を取って、ヴァレリー王太子はその指にキスをした。
「私と、結婚してください」
いつもの飄々とした表情ではない、真剣な眼差しに、私は、完全に落ちた。
私の人生はいつだって平坦だった。
それは恋愛面でも同じ事で、いつの間にか決まった婚約に心が弾む事は無かった。
山も無く、谷も無く、淡々と過ごした婚約期間だった。
当然そのまま結婚し、その後は与えられた役割を粛々とこなし続けていく予定だった。
婚約破棄は凪いだ湖に爆弾が投下されたようなものだった。
あの数日間、激しく浮き沈みしたあの時、思い返してみれば要所要所でヴァレリー王太子がいてくれた。
背中を押し、支え、私が踏み出す手伝いをしてくれた。
そして、そんながむしゃらな私を、美しいと言ってくれる。
室内は静寂に包まれていた。
誰一人、何一つ、私の邪魔をするものは無い。
「……はい」
返事は小さく一言だった。
それまでの静寂が嘘のように、どおっと歓声が起きた。
室内に居る人たちばかりでなく、窓の外、扉の外にも騎士団の団員たちが固唾を飲んで成り行きを見守っていたのだ。
「ルイーズ! ルイーズ! 私の一生をあなたに捧げるわ!」
ビクトリア様が抱き着いて来る。
「俺やブルージュ公の後継は、ルイーズだな」
大公様の言葉に、
「忠誠を誓います! ルイーズ様ぁ!!」
と騎士たちが今にも泣き出しそうなお顔で、次々と忠誠を誓いに来る。
「ほら、申し分ない。大人気だね、ルイーズ嬢」
近衛兵たちとハイタッチを交わしていた王太子が満足気に言う。
お母様に頭を抱かれ、お父様がお母様ごと私を抱きしめ、多くの人に祝福されながら私と王太子殿下との結婚が決まった。
過去に例のない速さで、私の結婚の準備は進められた。
それでも婚姻式までには数ヶ月を要した。
その間に私は騎士団のトーナメント戦に出場して優勝したり、国境でおきた小さな争いに、王太子と共に出張して圧勝したりして、国内外にその人間離れした強さをアピールした。
お陰で『白ユリの騎士』の二つ名は、騎士団だけでなく、国を超え、近隣各国にまで通じるようになった。
二つ名など恥ずかしいのだが、『白い災い』よりもなんぼかマシなので良しとする。
「ルイーズ様が狙われます。危険です」
親衛隊長ガスパール卿は、私の名が有名になればなるほど心配性になっていく。
でも私、鍛錬も欠かさずしているし、様々な技術を取得していくうちに、誰にも負ける気がしなくなっているのだ。
ガルガンが『縛り』と言っていたが、私の強さは正に人外。
きっとガルガンが何か聖なる方とでも契約をしたのだろうと思うのだが、知らぬが仏で、そこは追及しないでおく。
ガルガンの力が砂埃を巻き上げ、その中をヴァレリー王太子が私を抱いて戦場を駆け回る。
そのインパクトの強い姿は、絵付きで新聞にまで掲載され、ラマティア王国の下々にまでルイーズ旋風が巻き起こった。
そして春である。
花々が咲き乱れ、麗らかな風が吹くその日、王都では朝から花火の音が響き渡り、凱旋通りには紙吹雪が舞っていた。
以前からそのカリスマ性と一度見たら忘れられない華やかな美しさで人気を博していた王太子が、最近大人気の『白ユリの騎士』と結婚するのだ。
結婚パレードで一目、未来の王と王妃を拝みたいと、国中から人々が集まっていた。
王宮では滞りなくヴァレリー王太子の婚姻式が行われた。
招待された貴族たちに囲まれ、私は王よりティアラを戴いた。
王の後ろに並んだ王妃、大公様ご夫妻、ビクトリア様が感無量の表情だ。
その時のお父様、お母様の顔ったら、涙でぐしょぐしょだ。従兄弟のアルベールまで涙を堪えている。
私までもらい泣きしてしまいそうだった。
でも、今日の主役は私です。
泣いてお化粧を崩す訳にはいかないのだ。
「ルイーズゥゥゥ!! これでもう名実ともにあなたは私たちの家族よ!」
「ヴァレリーを、この国を頼んだぞ」
王も王妃も、外聞なく私の入宮を喜んでくれた。
続いて王宮親衛隊が私に忠誠を誓う。
「これでもう無茶はさせません」
親衛隊長ガスパール卿が渋い顔でおかしな忠誠の誓い方をしたので、厳粛な儀式なのに笑顔が零れてしまう。
私が笑うと家族の皆が、招待された貴族たちまでもが笑ってくれる。
幸せだな。
天地がひっくり返ったあの婚約破棄騒動から、まだ一年も経っていない。
でも、私、今まで頑張って生きて来た。
そしてこれからも、ガルガンの能力と共に幸せであるためにずっと頑張り続ける。
これは恵まれた私の責務なのだ。
「さて、パレードに向かうよ」
金髪を太陽の光に輝かせた私の夫が、大輪の花を思わせる華やかな笑顔で私に手を差し出す。
私はその手に自分の手を乗せた。
そこにはもう、かつての様な躊躇はなかった。
完
お読みいただきありがとうございました!
初めて書いた小説を完結できたことに私も感無量!
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面白かったです。
ほとんど一気読みでした。
ルイーズが自由に生きていけそうでよかった😆
わぁ!
お読みいただきありがとうございました!
一気読み、うわー、本当にありがとうございます(;'∀')
お疲れ様でした。
ルイーズ、流されやすい子ですが、ヴァレリーがきっと自由に泳がせてくれるでしょう!
と期待しています^^
義弟⇒血の繋がりの無い弟。連れ子等。
実弟⇒血の繋がりのある弟。腹違いや種違いを含む。
ほう!
腹違いと素直に書けば良かったんですね!
ありがとうごさいます^^
コメントありがとうございます。
そんな感じですwww
王子に抱かれて暴走する最強お姫様が第一インスピレーションでした^^