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最後の地区に護りの術をかけ終わったユーダレウスは、疲れた様子でティニ達を振り返る。
術をかけること自体は別段難しいことではないのだが、背の高いユーダレウスには窮屈に感じる乗合馬車に揺られて街のあちこちへ移動し、同じことを繰り返すうちに少々気が滅入っていた。
時刻は昼を大幅に過ぎていた。空はすっかりティニの髪のような重苦しい灰色の曇り空だ。何はともあれ間に合ったようで、ユーダレウスはほっと息をつく。
連れの二人の様子を窺えば、ミアの方はまだ少し余裕がありそうだが、ティニは疲れているのか普段に輪をかけて表情が硬かった。時間的にもそろそろ空腹を感じる頃だ。一旦どこかで休憩しても、雨が降り出す前に宿に戻れるだろう。
「どこか飯食える店に入るか」
時間はとうに昼飯時を過ぎていた。店によっては休憩時間に入る時間だ。困ったようにぐるりと周囲を見回すユーダレウスに、ミアがひらりと片手を上げた。
「知り合いがやってる喫茶店でよければ案内できるわ。少し歩くけど……」
「歩けるか、ティニ」
「大丈夫です」
普段は抱っこ魔の癖に、こういうときは平気なふりをするらしい。それとも、今日は隣にミアがいるから恥ずかしいのだろうか。そんなことを考えながら、ユーダレウスはティニを抱き上げる。
「大丈夫です……」
「おりるか?」
挑発するようにおろす動作をすると、ティニは黙ってユーダレウスの肩にしがみついた。おりたくないという意思表示に、ユーダレウスはフンと鼻を鳴らしてティニを抱え直す。
「そうしてると、親子みたいね」
祖母と同じことを言ったミアに、ユーダレウスは思わずにやっと口元を緩めた。見咎めたミアは「なによ」と不満げな顔をしたが、ユーダレウスは「気にするな」と誤魔化して歩き出す。
ミアを先頭に歩くこと数分。三人は落ち着いた雰囲気の通りについた。
ミアが一件の喫茶店のドアを押す。
深いグリーンを基調とした店内は、コーヒーに始まりいろいろなものが混じり合った、独特な香りに満たされていた。どうやら空いている時間らしく、客はというと、一組の老夫婦が穏やかに会話を楽しみながら、午後のゆっくりとした時間を楽しんでいるだけだ。
「邪魔するぞ」
カウンターの向こうでカップを拭いていた店員らしき若い娘に、ユーダレウスはさらりと声をかけた。途端に娘は怯えたような顔つきになり、肩をすくませこくこくと頷く。
身なりこそ昨日よりはまともだが、その眉間に鎮座する皺も、その下の目つきも、まるで悪人のようなことに変わりはない。抱き上げられたティニの無表情も相まって、見慣れぬ者には非常に心臓によろしくない光景だった。
その様子を見て声を殺して笑うミアを見つけると、娘はほっとしたようにミアを手招き、内緒話をするように顔を寄せた。
「ミア、誰? 彼氏……ではなさそうね」
「ユーダレウス様だってさ」
ミアはそう言うとひょいと肩をすくめた。一瞬ぽかんとして、離れたところにいる銀髪の男を見た娘は、すぐにいたずらっぽく笑う。
「あんたがそんな冗談言うなんて、きっと嵐がくるわ」
「ばか。嵐がくるって昨日からみんな言ってるじゃない!」
呆れたように言いながら、見慣れぬ男と少年を伴って、我が家のようにお気に入りの席へと向かうミアを、娘はくすくすと笑い声を零しながら追いかけた。
「ご注文は?」
「私はいつもの。二人は?」
「コーヒー。それとホットミルクはあるか」
「はい、ありますよ」
「じゃあそれひとつ。あとは何か軽食がほしいんだが」
「あんたなら何を推す?」と聞かれ、メニュー表を見ながら少し考える素振りを見せた友人の代わりに、勝手知ったる様子のミアが口を開く。
「おすすめはパンケーキよ。クリームとシロップたっぷりのね」
隣に座るティニの表情が心持ち輝いたのを見たユーダレウスは、仏頂面で指を三本立てる。
「じゃあそれ三つ。あとはそうだな……このイカのクリームパスタのセットを貰おう」
確認のために注文を繰り返すと、娘はミアの肩を親しみを込めて小突いてからカウンターへと戻っていった。
術をかけること自体は別段難しいことではないのだが、背の高いユーダレウスには窮屈に感じる乗合馬車に揺られて街のあちこちへ移動し、同じことを繰り返すうちに少々気が滅入っていた。
時刻は昼を大幅に過ぎていた。空はすっかりティニの髪のような重苦しい灰色の曇り空だ。何はともあれ間に合ったようで、ユーダレウスはほっと息をつく。
連れの二人の様子を窺えば、ミアの方はまだ少し余裕がありそうだが、ティニは疲れているのか普段に輪をかけて表情が硬かった。時間的にもそろそろ空腹を感じる頃だ。一旦どこかで休憩しても、雨が降り出す前に宿に戻れるだろう。
「どこか飯食える店に入るか」
時間はとうに昼飯時を過ぎていた。店によっては休憩時間に入る時間だ。困ったようにぐるりと周囲を見回すユーダレウスに、ミアがひらりと片手を上げた。
「知り合いがやってる喫茶店でよければ案内できるわ。少し歩くけど……」
「歩けるか、ティニ」
「大丈夫です」
普段は抱っこ魔の癖に、こういうときは平気なふりをするらしい。それとも、今日は隣にミアがいるから恥ずかしいのだろうか。そんなことを考えながら、ユーダレウスはティニを抱き上げる。
「大丈夫です……」
「おりるか?」
挑発するようにおろす動作をすると、ティニは黙ってユーダレウスの肩にしがみついた。おりたくないという意思表示に、ユーダレウスはフンと鼻を鳴らしてティニを抱え直す。
「そうしてると、親子みたいね」
祖母と同じことを言ったミアに、ユーダレウスは思わずにやっと口元を緩めた。見咎めたミアは「なによ」と不満げな顔をしたが、ユーダレウスは「気にするな」と誤魔化して歩き出す。
ミアを先頭に歩くこと数分。三人は落ち着いた雰囲気の通りについた。
ミアが一件の喫茶店のドアを押す。
深いグリーンを基調とした店内は、コーヒーに始まりいろいろなものが混じり合った、独特な香りに満たされていた。どうやら空いている時間らしく、客はというと、一組の老夫婦が穏やかに会話を楽しみながら、午後のゆっくりとした時間を楽しんでいるだけだ。
「邪魔するぞ」
カウンターの向こうでカップを拭いていた店員らしき若い娘に、ユーダレウスはさらりと声をかけた。途端に娘は怯えたような顔つきになり、肩をすくませこくこくと頷く。
身なりこそ昨日よりはまともだが、その眉間に鎮座する皺も、その下の目つきも、まるで悪人のようなことに変わりはない。抱き上げられたティニの無表情も相まって、見慣れぬ者には非常に心臓によろしくない光景だった。
その様子を見て声を殺して笑うミアを見つけると、娘はほっとしたようにミアを手招き、内緒話をするように顔を寄せた。
「ミア、誰? 彼氏……ではなさそうね」
「ユーダレウス様だってさ」
ミアはそう言うとひょいと肩をすくめた。一瞬ぽかんとして、離れたところにいる銀髪の男を見た娘は、すぐにいたずらっぽく笑う。
「あんたがそんな冗談言うなんて、きっと嵐がくるわ」
「ばか。嵐がくるって昨日からみんな言ってるじゃない!」
呆れたように言いながら、見慣れぬ男と少年を伴って、我が家のようにお気に入りの席へと向かうミアを、娘はくすくすと笑い声を零しながら追いかけた。
「ご注文は?」
「私はいつもの。二人は?」
「コーヒー。それとホットミルクはあるか」
「はい、ありますよ」
「じゃあそれひとつ。あとは何か軽食がほしいんだが」
「あんたなら何を推す?」と聞かれ、メニュー表を見ながら少し考える素振りを見せた友人の代わりに、勝手知ったる様子のミアが口を開く。
「おすすめはパンケーキよ。クリームとシロップたっぷりのね」
隣に座るティニの表情が心持ち輝いたのを見たユーダレウスは、仏頂面で指を三本立てる。
「じゃあそれ三つ。あとはそうだな……このイカのクリームパスタのセットを貰おう」
確認のために注文を繰り返すと、娘はミアの肩を親しみを込めて小突いてからカウンターへと戻っていった。
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