嘘つき師匠と弟子

聖 みいけ

文字の大きさ
28 / 83

20

しおりを挟む
 最後の地区に護りの術をかけ終わったユーダレウスは、疲れた様子でティニ達を振り返る。
 術をかけること自体は別段難しいことではないのだが、背の高いユーダレウスには窮屈に感じる乗合馬車に揺られて街のあちこちへ移動し、同じことを繰り返すうちに少々気が滅入っていた。

 時刻は昼を大幅に過ぎていた。空はすっかりティニの髪のような重苦しい灰色の曇り空だ。何はともあれ間に合ったようで、ユーダレウスはほっと息をつく。

 連れの二人の様子を窺えば、ミアの方はまだ少し余裕がありそうだが、ティニは疲れているのか普段に輪をかけて表情が硬かった。時間的にもそろそろ空腹を感じる頃だ。一旦どこかで休憩しても、雨が降り出す前に宿に戻れるだろう。

「どこか飯食える店に入るか」

 時間はとうに昼飯時を過ぎていた。店によっては休憩時間に入る時間だ。困ったようにぐるりと周囲を見回すユーダレウスに、ミアがひらりと片手を上げた。

「知り合いがやってる喫茶店でよければ案内できるわ。少し歩くけど……」
「歩けるか、ティニ」
「大丈夫です」

 普段は抱っこ魔の癖に、こういうときは平気なふりをするらしい。それとも、今日は隣にミアがいるから恥ずかしいのだろうか。そんなことを考えながら、ユーダレウスはティニを抱き上げる。

「大丈夫です……」
「おりるか?」

 挑発するようにおろす動作をすると、ティニは黙ってユーダレウスの肩にしがみついた。おりたくないという意思表示に、ユーダレウスはフンと鼻を鳴らしてティニを抱え直す。

「そうしてると、親子みたいね」

 祖母と同じことを言ったミアに、ユーダレウスは思わずにやっと口元を緩めた。見咎めたミアは「なによ」と不満げな顔をしたが、ユーダレウスは「気にするな」と誤魔化して歩き出す。

 ミアを先頭に歩くこと数分。三人は落ち着いた雰囲気の通りについた。

 ミアが一件の喫茶店のドアを押す。
 深いグリーンを基調とした店内は、コーヒーに始まりいろいろなものが混じり合った、独特な香りに満たされていた。どうやら空いている時間らしく、客はというと、一組の老夫婦が穏やかに会話を楽しみながら、午後のゆっくりとした時間を楽しんでいるだけだ。

「邪魔するぞ」

 カウンターの向こうでカップを拭いていた店員らしき若い娘に、ユーダレウスはさらりと声をかけた。途端に娘は怯えたような顔つきになり、肩をすくませこくこくと頷く。
 身なりこそ昨日よりはだが、その眉間に鎮座する皺も、その下の目つきも、まるで悪人のようなことに変わりはない。抱き上げられたティニの無表情も相まって、見慣れぬ者には非常に心臓によろしくない光景だった。

 その様子を見て声を殺して笑うミアを見つけると、娘はほっとしたようにミアを手招き、内緒話をするように顔を寄せた。

「ミア、誰? 彼氏……ではなさそうね」
「ユーダレウス様だってさ」

 ミアはそう言うとひょいと肩をすくめた。一瞬ぽかんとして、離れたところにいる銀髪の男を見た娘は、すぐにいたずらっぽく笑う。

「あんたがそんな冗談言うなんて、きっと嵐がくるわ」
「ばか。嵐がくるって昨日からみんな言ってるじゃない!」

 呆れたように言いながら、見慣れぬ男と少年を伴って、我が家のようにお気に入りの席へと向かうミアを、娘はくすくすと笑い声を零しながら追いかけた。


「ご注文は?」
「私はいつもの。二人は?」
「コーヒー。それとホットミルクはあるか」
「はい、ありますよ」
「じゃあそれひとつ。あとは何か軽食がほしいんだが」

「あんたなら何を推す?」と聞かれ、メニュー表を見ながら少し考える素振りを見せた友人の代わりに、勝手知ったる様子のミアが口を開く。

「おすすめはパンケーキよ。クリームとシロップたっぷりのね」

 隣に座るティニの表情が心持ち輝いたのを見たユーダレウスは、仏頂面で指を三本立てる。

「じゃあそれ三つ。あとはそうだな……このイカのクリームパスタのセットを貰おう」

 確認のために注文を繰り返すと、娘はミアの肩を親しみを込めて小突いてからカウンターへと戻っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...