44 / 83
12
しおりを挟む
「死ぬかもしれなかったんだぞ?! どんなに……どんなに、心配したか……っ!」
涙が混じって少し裏返った声でパーシーが息子を叱る。その声は広場に響いた。
感極まって、それ以上続けられなくなったのか、パーシーは眼鏡を外し、手のひらで目元を覆って肩を震わせる。
ぎゅっと拳を握り、目に涙を貯めたヒューゴが、なんとか絞り出したような声で「ごめんなさい」と口にした。サラが何も言わずに息子の肩を撫で、その形を確かめると強く抱いた。
「本当に、良かった……っ」
パーシーが妻と息子をまとめて抱き締める。震えるヒューゴの手が、両親の服にぎゅっと縋り付いた。
家族の無事の再会を遠巻きに見ているユーダレウスの腕には、ティニが抱えられていた。
「……っ、ご、ごぇんなさ! っひ! ぐ、ぅえっ」
謝ろうとしているのはなんとなくわかる。わかるが、酷くしゃくりあげるせいで、ひとつもまともな言葉になっていない。
舌でも噛まれたら厄介なので、一先ず息を落ち着かせようと、ユーダレウスはひくひくと痙攣する背中をさすってみた。すると、ティニはユーダレウスの首元にしがみついて、わっと赤ん坊のように泣き出した。
完全に逆効果だった。ユーダレウスは顔を顰める。顔のすぐ近くで発せられる、劈くような泣き声から少しでも耳を離そうと首を傾げてみるが、全く意味はなかった。
「あの、大丈夫でしょうか……まさか怪我とか」
耳に直接叩き込まれる声に、弟子を叱る気すら失せたユーダレウスが、遠くの虚空へと眼差しを向けていると、ティニの余りの泣き様にパーシーが心配そうに声をかけてきた。息子をきつく抱き締めていたサラも、抱き締められていたヒューゴも、火が付いたように泣き出したティニをぽかんと見上げていた。
彼らが知る限り、ティニは大人しく、幼い見かけのわりにはしっかりとした子供だった。それは間違っていない。だからこそ、これほど泣いているティニに、何か怪我でもあったのではないかと疑うことに無理はない。
ユーダレウスとしても、ティニがここまで感情を露わにして泣くことは予想していなかった。死の縁に立たされたせいで、例のあの晩の記憶が蘇ったのかと一瞬疑ったが、ティニの口から出てくるのは後悔と、謝罪らしき言葉だけだ。
「……問題ない」
苦々しくそう答えた声は、わあわあと泣くティニの声にかき消されずにすんだのだろうか。
少なくとも、ユーダレウスが何かしら言ったことはわかったのだろう。パーシーは、案じるような、微笑んだような、曖昧な顔で頷いた。
ユーダレウスはティニの脇に片手を入れ、身体を少し離して顔を見る。普段は人形のようなその顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
この顔を押し付けられていた自分の肩は、今、どんな有り様になっているのか。ユーダレウスは想像しかけて途中でやめた。
「怪我はないな?」
答えを促すように、息もつけないほどに激しくしゃくりあげているティニを軽く揺する。ティニは目元から溢れる涙を小さな手でこすりながら何度も頷いた。
「反省してるな?」
「っ、ごえ、んなさ……っ!」
また始まった壮絶な泣き顔が可笑しくて、ユーダレウスは思わず苦笑する。自分は、ティニが無事であったことに心から安堵しているのだと、笑って初めて気が付いた。
腕にかかる重さも、温もりも、呼吸する振動も。確かに生きている証だった。目に映るすべてが、触れるすべてが、ティニといういのちの形をしていた。
「……わかってんならいい」
これ以上こすらないように、ティニの手を掴んで目元から離してやると、ティニの顎先からは頬を伝ってきた涙がいくつも滴った。
露わになった顔を見て、本当に酷い顔だと、ユーダレウスはふっと息を零す。大きく揺すって抱き直すと、ティニは手を伸ばし、目の前の肩にしがみついて、また、声をあげて泣いた。
親に抱かれて安心した子供のようだった。
涙が混じって少し裏返った声でパーシーが息子を叱る。その声は広場に響いた。
感極まって、それ以上続けられなくなったのか、パーシーは眼鏡を外し、手のひらで目元を覆って肩を震わせる。
ぎゅっと拳を握り、目に涙を貯めたヒューゴが、なんとか絞り出したような声で「ごめんなさい」と口にした。サラが何も言わずに息子の肩を撫で、その形を確かめると強く抱いた。
「本当に、良かった……っ」
パーシーが妻と息子をまとめて抱き締める。震えるヒューゴの手が、両親の服にぎゅっと縋り付いた。
家族の無事の再会を遠巻きに見ているユーダレウスの腕には、ティニが抱えられていた。
「……っ、ご、ごぇんなさ! っひ! ぐ、ぅえっ」
謝ろうとしているのはなんとなくわかる。わかるが、酷くしゃくりあげるせいで、ひとつもまともな言葉になっていない。
舌でも噛まれたら厄介なので、一先ず息を落ち着かせようと、ユーダレウスはひくひくと痙攣する背中をさすってみた。すると、ティニはユーダレウスの首元にしがみついて、わっと赤ん坊のように泣き出した。
完全に逆効果だった。ユーダレウスは顔を顰める。顔のすぐ近くで発せられる、劈くような泣き声から少しでも耳を離そうと首を傾げてみるが、全く意味はなかった。
「あの、大丈夫でしょうか……まさか怪我とか」
耳に直接叩き込まれる声に、弟子を叱る気すら失せたユーダレウスが、遠くの虚空へと眼差しを向けていると、ティニの余りの泣き様にパーシーが心配そうに声をかけてきた。息子をきつく抱き締めていたサラも、抱き締められていたヒューゴも、火が付いたように泣き出したティニをぽかんと見上げていた。
彼らが知る限り、ティニは大人しく、幼い見かけのわりにはしっかりとした子供だった。それは間違っていない。だからこそ、これほど泣いているティニに、何か怪我でもあったのではないかと疑うことに無理はない。
ユーダレウスとしても、ティニがここまで感情を露わにして泣くことは予想していなかった。死の縁に立たされたせいで、例のあの晩の記憶が蘇ったのかと一瞬疑ったが、ティニの口から出てくるのは後悔と、謝罪らしき言葉だけだ。
「……問題ない」
苦々しくそう答えた声は、わあわあと泣くティニの声にかき消されずにすんだのだろうか。
少なくとも、ユーダレウスが何かしら言ったことはわかったのだろう。パーシーは、案じるような、微笑んだような、曖昧な顔で頷いた。
ユーダレウスはティニの脇に片手を入れ、身体を少し離して顔を見る。普段は人形のようなその顔は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
この顔を押し付けられていた自分の肩は、今、どんな有り様になっているのか。ユーダレウスは想像しかけて途中でやめた。
「怪我はないな?」
答えを促すように、息もつけないほどに激しくしゃくりあげているティニを軽く揺する。ティニは目元から溢れる涙を小さな手でこすりながら何度も頷いた。
「反省してるな?」
「っ、ごえ、んなさ……っ!」
また始まった壮絶な泣き顔が可笑しくて、ユーダレウスは思わず苦笑する。自分は、ティニが無事であったことに心から安堵しているのだと、笑って初めて気が付いた。
腕にかかる重さも、温もりも、呼吸する振動も。確かに生きている証だった。目に映るすべてが、触れるすべてが、ティニといういのちの形をしていた。
「……わかってんならいい」
これ以上こすらないように、ティニの手を掴んで目元から離してやると、ティニの顎先からは頬を伝ってきた涙がいくつも滴った。
露わになった顔を見て、本当に酷い顔だと、ユーダレウスはふっと息を零す。大きく揺すって抱き直すと、ティニは手を伸ばし、目の前の肩にしがみついて、また、声をあげて泣いた。
親に抱かれて安心した子供のようだった。
0
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる