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最初の夫婦と最初の娘たちの話
この世界で最初の夫婦に最初の双子の赤ん坊が生まれた時のこと。
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この世で最初のお百姓さんが耕す畑は少し広くなり、この世で最初の機織り職人が織る布は少し大きくななっていました。
でも相変わらずお百姓さんはこの世に一人しかおらず、機織り職人はこの世に一人しかおりません。
こういったわけですから、二人の間に赤ちゃんができて、月が満ちて明日にも赤ん坊が生まれるかも知れないと判っていても、この世で最初のお父さんは畑から離れるわけにはゆきませんでした。
月が満ちて明日にも赤ん坊が出てくるかも知れないと判ってみても、この世で最初のお母さんは糸錘を手放すわけには行きませんでした。
最初の時と違ったのは、この世にいるのは二人きりではなく、この世で最初の娘のフッラという産婆の役をできる三人目がいるということでした。
この世で最初の赤ん坊で、この世で最初のお医者さんで、この世で最初のお産婆さんのフッラは、自分が生まれたときのことをよくよく思い出しました。
何がいるのか、どうすればよいのか、よくよく考えました。
そうしてたった一人で産湯を沸かし、たった一人で産着を仕立て、たった一人で準備を整えました。
それから、この世で最初のお母さんの大きなお腹に、よくよく聞こえる方の耳を当てました。
お母さんのお腹の中では、小さな心の臓の拍動が
「ととと、ととと」
「ととと、ととと」
と、二つ重なって鳴っておりました。
「私の弟妹はきっと双子に違いない」
フッラが言いますと、お母さんは大変びっくりしました。
だって、この世にはこのお母さんより先に双子のお母さんになった人が一人もないのです。
ですから、誰も双子の取り上げ方を知りませんし、誰も双子の取り上げ方を教えてはやれないのです。
兎にも角にも、ホウセンカの花の咲いた頃、この世で最初のお母さんは産気づきました。
そうして、この世で最初の夫婦が住まいにしていた岩の洞窟の中の、布団にしていた藁の山の中で、最初の双子の赤ん坊は生まれたのです。
この世で最初にお産婆さんをすることになったフッラは、この世で最初の双子の最初の子の右の手が出てきたときに、
「この子が先に生まれた子」
と判るようにホウセンカの花びらの汁を小さな爪に塗りつけました。双子で生まれた赤ん坊の見分けが付かなくなったら大変だからです。
ホウセンカの花の汁を塗り終わると、フッラはその赤い爪の赤ん坊を引っ張り出すために手を掴もうとしました。すると、その手はヒュッと引っ込んでしまいました。
「この子はなんてのんびりやさんなのだろう。皆が自分の生まれるのを待っているというのに」
フッラはため息を吐きました。
でもゆっくりとはしていられません。直ぐにまた手が出てきたからです。
その爪にホウセンカの印が付いておりませんでしたので、この世で最初のお産婆さんは、これが始めに手を出した赤ん坊では無いと判りました。
「この子はなんてせっかちさんなんだろう。姉を追い越して生まれようとするなんて」
フッラはため息を吐きました。
でもゆっくりとはしていられません。
こちらの手まで引っ込んでしまっては大変ですので、この世で最初のお産婆さんは大急ぎで手を握り、大慌てて手を引っ張りました。
こうして、この世で二番目に生まれてきた赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきたのです。
勢いの良さは、最初の赤ん坊の時と同じか、もっとずっとありました。
でも最初の時とはちがって、今度はしっかり受け止めてくれるお産婆さんがおります。
この世で二番目の赤ん坊は、頭のてっぺんから藁の布団の上に落ちたりはしませんでした。
赤ん坊の顔が半分は石ころにぶつかって潰れることもありませんでした。
この世で最初のお産婆さんは急いで赤ん坊に産湯を使わせ、慌てて産着を着せました。
何しろもう一人の赤ん坊が残っているのですからね。
思った通りに、すぐに爪の赤い手が出てきました。また引っ込んでしまっては大変ですので、この世で最初のお産婆さんは大急ぎで手を握り、大慌てて手を引っ張りました。
この世で三番目の赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきました。
ですけれど、今度はしっかり受け止めてくれるお産婆さんがおりました。
この世で三番目の赤ん坊は、藁の布団の上で三度もころがりませんでした。
赤ん坊の体の半分が石ころに挟まって潰れることもありませんでした。
この世で最初のお産婆さんは急いで赤ん坊に産湯を使わせ、慌てて産着を着せました。
双子で生まれた娘達は、二人揃って大きな声で泣きました。
この世で最初のお母さんは、赤ん坊を抱き上げて首を傾げました。畑から戻ってきたこの世で最初のお父さんも、とてもとても不安になりました。
一度に二人の赤ん坊を同時に育てた人など、この世には一人だっていないのです。この世で最初の夫婦は心配になったのです。
するとこの世で最初の双子の赤ん坊は、不安がる両親に向かって元気の良い声で言ったのです。
「お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが悲しむことは、この世の総てが悲しむことと同じででした。
でも今は私たち姉妹がおります。
この世に生まれてよろこんでいる私たちのために、この世には悲しみだけでなく、喜びの声にも満ちるでしょう。
お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが苦しむことは、この世の総てが苦しむことと同じでした。
でも今は私たち姉妹がおります。
私たちはお父さんを助けることができ、私たちはお母さんを助けることができます。
さあ泣かないで、悲しまないで。
どうかよろこんで、笑ってください」
この世で最初のお父さんとお母さんは大変よろこんで、この最初の双子の赤ん坊を抱きしめました。
この世で最初のお父さんとお母さんは、この世で最初のこの双子の娘に名前を付けました。
後から手を出したのに先に生まれた、爪の白い娘はマッハと言う名前です。
先に手を出したのに後から生まれた、爪の赤い娘はジョカと言う名前です。
それは、赤いホウセンカの花の咲いた日のことでした。
でも相変わらずお百姓さんはこの世に一人しかおらず、機織り職人はこの世に一人しかおりません。
こういったわけですから、二人の間に赤ちゃんができて、月が満ちて明日にも赤ん坊が生まれるかも知れないと判っていても、この世で最初のお父さんは畑から離れるわけにはゆきませんでした。
月が満ちて明日にも赤ん坊が出てくるかも知れないと判ってみても、この世で最初のお母さんは糸錘を手放すわけには行きませんでした。
最初の時と違ったのは、この世にいるのは二人きりではなく、この世で最初の娘のフッラという産婆の役をできる三人目がいるということでした。
この世で最初の赤ん坊で、この世で最初のお医者さんで、この世で最初のお産婆さんのフッラは、自分が生まれたときのことをよくよく思い出しました。
何がいるのか、どうすればよいのか、よくよく考えました。
そうしてたった一人で産湯を沸かし、たった一人で産着を仕立て、たった一人で準備を整えました。
それから、この世で最初のお母さんの大きなお腹に、よくよく聞こえる方の耳を当てました。
お母さんのお腹の中では、小さな心の臓の拍動が
「ととと、ととと」
「ととと、ととと」
と、二つ重なって鳴っておりました。
「私の弟妹はきっと双子に違いない」
フッラが言いますと、お母さんは大変びっくりしました。
だって、この世にはこのお母さんより先に双子のお母さんになった人が一人もないのです。
ですから、誰も双子の取り上げ方を知りませんし、誰も双子の取り上げ方を教えてはやれないのです。
兎にも角にも、ホウセンカの花の咲いた頃、この世で最初のお母さんは産気づきました。
そうして、この世で最初の夫婦が住まいにしていた岩の洞窟の中の、布団にしていた藁の山の中で、最初の双子の赤ん坊は生まれたのです。
この世で最初にお産婆さんをすることになったフッラは、この世で最初の双子の最初の子の右の手が出てきたときに、
「この子が先に生まれた子」
と判るようにホウセンカの花びらの汁を小さな爪に塗りつけました。双子で生まれた赤ん坊の見分けが付かなくなったら大変だからです。
ホウセンカの花の汁を塗り終わると、フッラはその赤い爪の赤ん坊を引っ張り出すために手を掴もうとしました。すると、その手はヒュッと引っ込んでしまいました。
「この子はなんてのんびりやさんなのだろう。皆が自分の生まれるのを待っているというのに」
フッラはため息を吐きました。
でもゆっくりとはしていられません。直ぐにまた手が出てきたからです。
その爪にホウセンカの印が付いておりませんでしたので、この世で最初のお産婆さんは、これが始めに手を出した赤ん坊では無いと判りました。
「この子はなんてせっかちさんなんだろう。姉を追い越して生まれようとするなんて」
フッラはため息を吐きました。
でもゆっくりとはしていられません。
こちらの手まで引っ込んでしまっては大変ですので、この世で最初のお産婆さんは大急ぎで手を握り、大慌てて手を引っ張りました。
こうして、この世で二番目に生まれてきた赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきたのです。
勢いの良さは、最初の赤ん坊の時と同じか、もっとずっとありました。
でも最初の時とはちがって、今度はしっかり受け止めてくれるお産婆さんがおります。
この世で二番目の赤ん坊は、頭のてっぺんから藁の布団の上に落ちたりはしませんでした。
赤ん坊の顔が半分は石ころにぶつかって潰れることもありませんでした。
この世で最初のお産婆さんは急いで赤ん坊に産湯を使わせ、慌てて産着を着せました。
何しろもう一人の赤ん坊が残っているのですからね。
思った通りに、すぐに爪の赤い手が出てきました。また引っ込んでしまっては大変ですので、この世で最初のお産婆さんは大急ぎで手を握り、大慌てて手を引っ張りました。
この世で三番目の赤ん坊はとても元気よく、空を飛ぶような勢いでお母さんのお腹から飛び出てきました。
ですけれど、今度はしっかり受け止めてくれるお産婆さんがおりました。
この世で三番目の赤ん坊は、藁の布団の上で三度もころがりませんでした。
赤ん坊の体の半分が石ころに挟まって潰れることもありませんでした。
この世で最初のお産婆さんは急いで赤ん坊に産湯を使わせ、慌てて産着を着せました。
双子で生まれた娘達は、二人揃って大きな声で泣きました。
この世で最初のお母さんは、赤ん坊を抱き上げて首を傾げました。畑から戻ってきたこの世で最初のお父さんも、とてもとても不安になりました。
一度に二人の赤ん坊を同時に育てた人など、この世には一人だっていないのです。この世で最初の夫婦は心配になったのです。
するとこの世で最初の双子の赤ん坊は、不安がる両親に向かって元気の良い声で言ったのです。
「お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが悲しむことは、この世の総てが悲しむことと同じででした。
でも今は私たち姉妹がおります。
この世に生まれてよろこんでいる私たちのために、この世には悲しみだけでなく、喜びの声にも満ちるでしょう。
お父さん、お母さん、ついこの間までこの世にはあなたたちしかいませんでした。
あなたたちが苦しむことは、この世の総てが苦しむことと同じでした。
でも今は私たち姉妹がおります。
私たちはお父さんを助けることができ、私たちはお母さんを助けることができます。
さあ泣かないで、悲しまないで。
どうかよろこんで、笑ってください」
この世で最初のお父さんとお母さんは大変よろこんで、この最初の双子の赤ん坊を抱きしめました。
この世で最初のお父さんとお母さんは、この世で最初のこの双子の娘に名前を付けました。
後から手を出したのに先に生まれた、爪の白い娘はマッハと言う名前です。
先に手を出したのに後から生まれた、爪の赤い娘はジョカと言う名前です。
それは、赤いホウセンカの花の咲いた日のことでした。
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