上 下
71 / 77
二人の王子様と一人のお姫様

勇猛な王子の涙

しおりを挟む
 それで、決闘ですが……。
 最初に結果を申し上げましょう。
 ゲオルグ王子の負け。負けも負け、惨敗ざんぱいでありました。
 
 確かにゲオルグ王子がである事に間違いはございません。

「我はこれまでに、何者にも、一度たりとも負けたことなし!」

 と豪語するだけはある激しさと力強さで、背丈ほどもある長い剣を軽々とブウンブウンと振り回し、フレイ様に斬りかかりました。
 ところが、細身のフレイ様が素早くさっとふところに飛び込んでサーベルで軽く一突きすると、あっけなく降参してしまったのです。

 ゲオルグ王子の「誰にも一度も負けたことがない」という言葉は、真実でありました。
 幼いころから腕力と体力が有り余っておいでだったゲオルグ王子は、病気にったことは一切無かったと言います。間違いなく、ゲオルグ王子は大層ご壮健そうけんなのです。
 またロウのお国には、王様が一番可愛がっている末子様を叩いたり殴ったり切ったりする気概をしめす者が一人も居なかったものですから、怪我をした事もありません。
 要するにフレイ様と剣を合わせたその時より前にゲオルグ王子と立ち会って「負けた」お相手のうちの幾人かは、王子様に「勝ちをお譲りになった」のでありましょう。そうして、そのことに王子はちっともお気づきになっていなかったのでありましょう。

 そんなわけですから、フレイ様の細身のお刀……当然、刃も切っ先も落とした練習用のものです……が、ほんのチョットお腹をつついた時の、傷とも呼べぬ小さな小さな傷の痛みに、ワンワンと声を出し、涙も洟水も涎もだらだらと流して、大いに泣いてしまったのです。

 試合を見ていた人々は、しばらく呆気あっけにとられていました。フレイ様もフレイア様も、キルハの王様とお妃様も、キルハの王様の妹のウーファの王妃様も、キルハの宮廷の人々も、キルハの国の人々も、それからロウの国から来ていたゲオルグ王子の従者も、みんなぽかんと口を開け、少しの間は誰も声も出せませんでした。

 最初に口を開いたのはフレイ様でした。なんと仰ったのかというと、泣きじゃくるゲオルグ王子にハンカチを差し出しながら、

「ねえ君、大丈夫かい?」

 というお言葉でした。
 ただそのお言葉はゲオルグ王子の泣き声でかき消されて、誰にも聞こえませんでした。

 次に口を開いたのは、キルハの王様でした。

「私は何も見なかった。ゲオルグ殿はこのままご帰国なさるがよろしかろう」

 試合そのものを無かったことにしてゲオルグ王子の「無敗」の誇りプライドを傷つけずに、婚姻の申し出は破談にする、とお考えになってのお言葉です。
 なにしろ、こんなに打たれ弱い男を、可愛いお姫様のお婿さんにするわけにはゆきません。

 王様から国外退去を言い渡されたゲオルグ王子は、すごすごとお国へ帰って行くこととなったのです。
しおりを挟む

処理中です...