フレキ=ゲー編ガップ民話集

神光寺かをり

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地上に巨人が生まれて、そのあと絶えた訳

人々を説得するのは大変なことですが、とても大切なことです

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 やがてミーミルはすすり泣くような声と、嘆くような叫びを耳にしました。その声は彼のよく知った声でした。

「ああ私はニスロクエル伯父とジョカ叔母の家に近付いた。ガドレエル伯父とマッハ叔母の家にも近付いた」

 この世で最初の狩人さんのマッハと料理人さんのジョカは、この世で最初の双子でしたので、生まれる前からとても仲が良く、大きく育ってからも互いに近い所で住み暮らしていました。ですから、片方の家に近付くことは、もう片方の家に近付くことと同じ事でした。
 ミーミルが急ぎ足で歩いてゆきますと、ニスロクエルとジョカの子のカトとバツと、ガドレエルとマッハの子のモーディとヒルドとが、こちらに向かって駆け寄りました。

「小さな兄弟よ」

 カトとバツとモーディとヒルドはミーミルに呼びかけました。彼等はフッラとペネムエルの子供たちよりも背丈が高かったので、普段から彼等の従弟妹たちを「小さな兄弟姉妹」と呼んでいたのです。
 さて初め、カトとバツとモーディとヒルドは、彼等の従弟に笑顔を向けておりましたが、すぐに落胆して悲しそうな顔をしました。
 ミーミルの体が土埃と汗で大変汚れており、またその手に何も持っていなかったからです。
 カトとバツはミーミルから半歩離れたところに立って、訊ねました。

「小さな兄弟、君はどこから来て何処へ行くのか?」

 続けてバツが言いました。

「その手に何も持っていないというのに、どうしてどこかへ行こうと考えているのですか?」

 ミーミルは答えて言いました。

「私はムスペルの山の頂から戻って来て、あなた方兄弟姉妹たちの所へ行くのです」

 するとモーディが言いました。

「もしあなたが、あなたの家族のための食物を求めて兄弟姉妹たちの家に行こうというのなら、止めておきなさい。私たちも他の兄弟姉妹たちも、自分たちの食物すら持っていないのです」

 ミーミルは大変驚きました。料理人のジョカの家の蔵にも、狩人のマッハの家の蔵にも、食べ物がない筈がないのです。彼女らと彼女らの一族の仕事は食べ物を作ることなのですから。
 ミーミルは彼等に尋ねました。

「あなた方の蔵の中の蓄えは、いったいどうしたのですか?」

 ヒルドが答えて言いました。

「あの人たちがやってきて、奪い盗り、食べ尽くしてしまいました」

 ミーミルには食べ物を奪っていった者達が誰であるのか、すぐに解りました。そこで従兄姉たちに言いました。

「兄弟姉妹よ、私はここに来る途中で、他の兄弟たちが争って、互いの血肉をむさぼるのを見ました」

 カトが答えて言いました。

「彼等は自分たちで食べ物を得る術を知らないので、互いに争って奪い合うことしかできないのだ」

 バツが続けて言いました。

「彼等は今のことばかり考えて明日の食べ物のことを考えることができませんでした」

 モーディが続けて言いました。

「彼等はそこにある物を全部食べ尽くしてしまっても、なお満ち足りるということを知らない」

 ヒルドが続けて言いました。

「ですから私たちの家の蔵は皆空です。誰かが私たちに何かを与えてくれなければ、私たちには今食べる物が一つもありません」

 ミーミルは小さく息を吐きました。

 ジョカとニスロクエルの子らも、ガドレエルとマッハの子らも、自分たちで食べ物を得ようとしないということ関しては、互いに肉を貪っている兄弟たちと大差が有りません。
 しかしミーミルはそのことを口にはしませんでした。そんなことを喋っている時間はないのです。
 ミーミルは彼等に言いました。

「最も尊き御方は、私たちの兄弟が大地を血で穢していることをお嘆きになっています。その穢れを流すため、天の海があふれることをお許しになりました。私はそのことを皆に知らせるために駆けてきました」

 カトは問いました。

「あなたは何故ほかの兄弟姉妹たちの所ではなく、私たちのところへ来たのですか?」

 ミーミルは答えて言いました。

「あなた方の母上にこのことを伝えるためです。叔母上がかまどの火を大きくき、高く煙を上げたなら、このことを地上の隅々まで伝えられるでしょう。ああ、こうしている間にも時が過ぎてゆきます。やがて地上に天の波が押し寄せ、地は水につかり、総ては水の底に沈むでしょう」

 カトとバツはにわかにはそのことを信じませんでした。しかし彼等はフッラとペネムエルとその子供たちがいつも正しい人々であるということを知っておりましたので、ミーミルの言うことが嘘であるとも思えませんでした。
 彼等はしばらく黙っていましたが、しばらくしてバツが悲しそうに言いました。

「私たちの母の竈の火は、すっかり消えてしまっています。彼等が油もたきぎも総て奪っていったからです」

 ミーミルは落胆しましたが、すぐに顔を上げました。そしてモーディとヒルドに向き直って言いました。

「あなた方の母上にこのことを伝えてください。叔母上が鏑矢かぶらやを空にはなったなら、その風を切る音で、このことを地上の隅々まで伝えられるでしょう。ああ、こうしている間にも時が過ぎてゆきます。やがて地上に天の波が押し寄せ、地は水につかり、総ては水の底に沈んでしまいます」

 モーディとヒルドも俄にはそのことを信じませんでした。しかし彼等はフッラとペネムエルとその子供たちがいつも正しい人々であるということを知っておりましたので、ミーミルの言うことが嘘であるとも思えませんでした。
 彼等はしばらく黙っていましたが、しばらくしてヒルドが悲しそうに言いました。

「私たちの母の矢は、一本も残っていません。彼等が争い事のために使ってしまったからです」

 これを聞くと、さすがにミーミルは力を失いかけました。彼と彼の父親とがようやく知った事実を、この世に伝える術が一つも残っていないからです。
 しかしミーミルは落胆しませんでした。彼は心の中で力強く言いました。

「私が荒れ地を駆けてていたとき、ほんの小さな小石につまづいて、私は転んでしまった。私はそのことを忘れていない。眼には見えない小さな石にさえ、私をつまづかせる力があったではないか。大きな体のこの私に、あの石ころほどの力がないはずがない」

 そして彼の従兄弟たちに告げました。

「兄弟姉妹よ、どうか、すぐ高い山へ向かってください。今あなた方の手の中にあるものをは捨てなさい。持っている土地を惜しんではなりません。そのためにあなた方は命を失うことになるからです」

 ミーミルの従兄弟たちは互いに顔を見合わせて黙り込みました。ミーミルは力強く言いました。

「あなた方自身が私の言葉を信用できなかったとしたなら、それは仕方のないことです。でも、どうか私の言ったことをあなたの家族に伝えてください。私と私の兄弟姉妹と、私の母とは、山の頂であなた方を待っています」

 ミーミルはカトとバツとモーディとヒルドの返事を聞くより先に駆け出しました。
 あと二人、このことを知らせなければならない人がいるからです。
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