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座付き作家
嘘か誠か、誠か嘘か。
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「そりゃ、言い様は悪かったけれどもね。……それにお宅の若様は誤解してなさる。私はフレキ様の騙りなんぞしてやしないよ」
「ほう、この期に及んでまだ本物と言い通す気か? それとも勅使に向かって切ってみせた大見得の方が嘘だったとも?」
小柄なマイヨールの上に覆い被さるようにしてブライトが言う。クレールにはそれが酷く滑稽なしぐさに見えた。
大男の顔を見上げて、マイヤー・マイヨールはヘラヘラと笑っている。
「ああ、正直に言いましょうよ。
全部が全部本物って訳じゃない。それはしかたないことで。芝居にするには脚色ってやつが必要なんだ。
だから私あたしは大分手を加えてる。なにしろ私が殿下のところから貰ってきたのは、プロットみたいな走り書きだけだったからね」
マイヨールは「貰って」という単語をことさら強調して言った。
皇弟から直接手渡されたかのごとき言いぶりに、クレールは驚いて目を丸く見開き、ブライトはいぶかしんで瞼を半分閉じた。
針の様に細く鋭い目で睨まれたマイヤーは、
「ああ、これは内緒の話。どうかご内密に、ご内密に」
いかにも白々しく慌てて、己の唇に人差し指を一本立ててあてがって見せた。
その芝居ぶりを見て、ブライトは「偽物」との確信を抱いた。
「イイ度胸だよ。どうしようもない阿呆め」
呆れもしたし、感心もした。
かぶりを振る彼を見て、味方に付けた、と思ったのだろう。マイヨールは心中で
『此奴は私を嫌っちゃいない』
にやりと笑った。
ところがブライトは、不満げに彼を見上げるエルに、
「姫若さま、この野郎の言うことを真に受けちゃぁなりませんぜ。
こいつは人生全部がお芝居の野郎だ。どこからどこまでが本当で、どこから先が嘘っぱちなのか、本人にすら解らなくなってやがる」
強い口調で言った。
「大方はそうであろうと思ってはおりましたけれども……」
クレールはため息を吐いた。
「もし、芥子粒ほども期待していなければ、どんなに良かったことか」
肩を落とし、暗い顔でうつむく。
礼拝堂に据えられた大理石の告知天使を思わせる端正な横顔の、冷え切った美しさに、マイヨールの目は奪われた。
背筋に震えが走る、などという表現があるが、実際に彼は大きく身震した。
『あの若様の艶っぽさは、ホンモノだ』
震えを隠すため、身振り口ぶりを大げさにし、
「ああ、非道い。非道いなあ、若様も私を信用してくださらないなんて」
薄めを開けてちらりと見る。クレールという若い貴族が、己に向ける眼差しには不審の色が濃い。
『それがまた、艶っぽい』
生唾を飲み込むと、マイヨールは頭をぶるっと振った。
『これ以上魅入られちゃならない』
この不思議に美しい人に、これ以上踏み込めば理性を失ってしまいかねない。
「ええい、若様に信用してもらえるなら、構うことはない、私の秘密を見せて差し上げましょう」
くるりときびすを返す。
「付いてきてくださいな。こっちに証拠がございますよ」
「ほう、この期に及んでまだ本物と言い通す気か? それとも勅使に向かって切ってみせた大見得の方が嘘だったとも?」
小柄なマイヨールの上に覆い被さるようにしてブライトが言う。クレールにはそれが酷く滑稽なしぐさに見えた。
大男の顔を見上げて、マイヤー・マイヨールはヘラヘラと笑っている。
「ああ、正直に言いましょうよ。
全部が全部本物って訳じゃない。それはしかたないことで。芝居にするには脚色ってやつが必要なんだ。
だから私あたしは大分手を加えてる。なにしろ私が殿下のところから貰ってきたのは、プロットみたいな走り書きだけだったからね」
マイヨールは「貰って」という単語をことさら強調して言った。
皇弟から直接手渡されたかのごとき言いぶりに、クレールは驚いて目を丸く見開き、ブライトはいぶかしんで瞼を半分閉じた。
針の様に細く鋭い目で睨まれたマイヤーは、
「ああ、これは内緒の話。どうかご内密に、ご内密に」
いかにも白々しく慌てて、己の唇に人差し指を一本立ててあてがって見せた。
その芝居ぶりを見て、ブライトは「偽物」との確信を抱いた。
「イイ度胸だよ。どうしようもない阿呆め」
呆れもしたし、感心もした。
かぶりを振る彼を見て、味方に付けた、と思ったのだろう。マイヨールは心中で
『此奴は私を嫌っちゃいない』
にやりと笑った。
ところがブライトは、不満げに彼を見上げるエルに、
「姫若さま、この野郎の言うことを真に受けちゃぁなりませんぜ。
こいつは人生全部がお芝居の野郎だ。どこからどこまでが本当で、どこから先が嘘っぱちなのか、本人にすら解らなくなってやがる」
強い口調で言った。
「大方はそうであろうと思ってはおりましたけれども……」
クレールはため息を吐いた。
「もし、芥子粒ほども期待していなければ、どんなに良かったことか」
肩を落とし、暗い顔でうつむく。
礼拝堂に据えられた大理石の告知天使を思わせる端正な横顔の、冷え切った美しさに、マイヨールの目は奪われた。
背筋に震えが走る、などという表現があるが、実際に彼は大きく身震した。
『あの若様の艶っぽさは、ホンモノだ』
震えを隠すため、身振り口ぶりを大げさにし、
「ああ、非道い。非道いなあ、若様も私を信用してくださらないなんて」
薄めを開けてちらりと見る。クレールという若い貴族が、己に向ける眼差しには不審の色が濃い。
『それがまた、艶っぽい』
生唾を飲み込むと、マイヨールは頭をぶるっと振った。
『これ以上魅入られちゃならない』
この不思議に美しい人に、これ以上踏み込めば理性を失ってしまいかねない。
「ええい、若様に信用してもらえるなら、構うことはない、私の秘密を見せて差し上げましょう」
くるりときびすを返す。
「付いてきてくださいな。こっちに証拠がございますよ」
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