クレール 光の伝説:いにしえの【世界】

神光寺かをり

文字の大きさ
140 / 158
事情聴取

村人達の証言

しおりを挟む
 この日、この村内で奇っ怪な死に方をした人間は、合わせて九名だった。
 ヨハネス・グラーヴ卿一行で旗持ちを務めていた若者と、付き従っていた伝令官の男、下男二人と下女三人。そして呑み食い屋にいた二人の農夫である。

 芝居小屋に駆けつけた村の役人は、勅使の従者達の死骸を見つけ、嘔吐おうとし、卒倒そっとうしかけた。
 それらは彼らが今までに見たことのない酷い変死体だった。

 その酷い有様の死体を見て役人達は、

「肉食の獣が爪や牙を持って殺害し、捕食したに違いない」

 と判断した。
 それというのも、幾人かの村人や一座の者が、

「小屋の裏の方から獣の咆吼ほうこうや、大きな何かが暴れたような音が聞こえた」

 と証言していたし、楽屋口の壊されようも、到底人間の行いとは考えられないものだったからだ。

 しかし、呑み食い屋の前の大通りにうち捨てられていた農夫達の死骸は、一目で人の手によって殺されていると判った。
 一人を真正面から唐竹割からたけわりにし、残る一人の胴を両断した凶器は、断面の様子から、卓越した使い手が振るった鋭利な刃物であることが明らかだった。

 役人達にも村人達にも不可解であったのは、死んだ農夫達はそのむごたらしい姿を半時一時間以上も道端にさらしていたというのに、通りを行き交う者が誰一人としてその亡骸に気付いていなかったことだ。

 人々が彼らに気付き、その凄惨せいさん極まる変わり果てた姿を見て悲鳴を上げたのは、ちょうど芝居小屋の中で「化け物」が倒された頃合いのことだ。
 その瞬間に、彼らは突然「目が開けた」のだ。
 今まで見えていなかったものが見え、歪み見えていたものの形が定まった。
 もっとも、彼らは何故自分の目がふさがれて、この時に唐突に「開けた」のか、その真の理由を知ることはなかった。彼らからしてみれば、突如として足元に惨殺体ざんさつたいき出たようなものだったのである。

 実はこの時、人々の目玉から砂粒ほどの赤い石の欠片かけらがこぼれ落ちていた。
 それは【ザ・ムーン】の【アーム】の欠片だった。村の人々はその欠片によって【ザ・ムーン】に操られていたわけだが、そのことを理解しているのは、クレールとブライト、それに彼ら同様に【ザ・ムーン】の【アーム】の欠片で「操られて」いたイーヴァンだけである。

 飲み食い屋の客の中には、目が開けた瞬間に自分が怪我を負っていることに気付かされた者もいた。傷の痛みさえも、その瞬間までは感じなかったという。
 怪我人の数は、傷の大小を合わせて十数人に及ぶ。

 残りの死体は、勅使ヨハネス・グラーヴ卿の一行が宿舎としていた屋敷で見つかった。
 勅使一行に従っていた小者下女、合わせて五名だ。
 不可解なことだが、それらはどう見積もっても「たった今しがた死んだ者」とは思えぬほどに腐敗が進んでいた。

 屋敷には生存者がいた。
 元々その屋敷の留守居をしていた管理人の老人だった。
 彼は、勅使一向が滞在している間、下男働きをする事になっていた。

 屋敷に駆けつけた村役人達は、腐乱死体の傍らで腰を抜かして座り込んでいた老人に、何が起きたのかを問うた。

「皆、突然動かなくなり、見る間に肉が腐り落ちた」

 と、老人は証言をした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

レディース異世界満喫禄

日の丸
ファンタジー
〇城県のレディース輝夜の総長篠原連は18才で死んでしまう。 その死に方があまりな死に方だったので運命神の1人に異世界におくられることに。 その世界で出会う仲間と様々な体験をたのしむ!!

前世は厳しい家族とお茶を極めたから、今世は優しい家族とお茶魔法極めます

初昔 茶ノ介
ファンタジー
 代々続くお茶の名家、香坂家。そこに生まれ、小さな時から名家にふさわしくなるように厳しく指導を受けてきた香坂千景。  常にお茶のことを優先し、名家に恥じぬ実力を身につけた彼女は齢六十で人間国宝とまで言われる茶人となった。  しかし、身体は病魔に侵され、家族もおらず、また家の定める人にしか茶を入れてはならない生活に嫌気がさしていた。  そして、ある要人を持て成す席で、病状が悪化し命を落としてしまう。  そのまま消えるのかと思った千景は、目が覚めた時、自分の小さくなった手や見たことのない部屋、見たことのない人たちに囲まれて驚きを隠せなかった。  そこで周りの人達から公爵家の次女リーリフィアと呼ばれて……。  これは、前世で名家として厳しく指導を受けお茶を極めた千景が、異世界で公爵家次女リーリフィアとしてお茶魔法を極め優しい家族と幸せになるお話……。   ーーーーーーーー  のんびりと書いていきます。  よかったら楽しんでいただけると嬉しいです。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...