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第8話 小太郎
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大分に摩耗した墨は文箱に戻され、代わりに太筆が掴み出される。
左手が、一尺四方に切りそろえた厚手の紙を一枚、つまみ上あげ、机の上に広げ置く。
太筆がどろりとした墨液に飛び込む。
引き上げられた筆の穂先が、文机の紙の上に落ちた。
ヌルヌルと墨が走る。
が、間もなく止まった。書くべき文字数は少ないらしい。
源太郎は最後の一画の筆を、勢いよく払った。
改心の書き上がりと見える。満足が手の動きを大きくする。
書き終えた筆が、まっすぐに頭上へ持ち上げられた。
と――。
筆先諸共に、紙が頭上へ持ち上がった。
濃すぎる墨液のために、紙は、机の上では筆先から離れ得なかったらしい。
紙に手を添え押さえていなかった源太郎の手抜かりではある。
しかしそのために彼を責めるのは、あまりにも可哀想ではないか。
源太郎の腹づもりでは、書き上がってすぐに、紙を素早く、晴れがましく大げさにそれを弟たちに披露する筈であったのだ。
その「儀式」を経ずに、弟たちは兄の墨蹟を見てしまった。
紙には、太々、黒々と、ただ三文字。
小太郎
運の悪い時には、運の悪いことが重なるもので、このとき、開け放たれていた窓から一陣の冷風が吹き込んだ。
風にあおられて、紙は筆から引き離された。
まだ乾かない墨が、冷風に揉まれて、とろりと滴る。
紙が舞う。墨は踊る。
源太郎は筆を投げ捨てた。
朝から座り続けていた足はすぐには立たない。
膝立ちで、両手を持ち上げ、舞い浮かぶ紙を追いかける。
徳次郎は身をねじる。
ねっとりとした墨が小さなしぶきとなって踊り散る、その一滴一滴から逃げまわる。
大柄な侍が二人、あちらへフラフラ、こちらへユラユラと、まるで不格好に舞い踊っているかのようだ。
酒に酔って興に乗った農夫の手踊りの方がまだ上手い。
結局、その紙は武田家でも名高い二人の武偏者の追っ手を逃れた。
床に落ち、板間を滑り、たどり着いたのは、源五郎の膝先だった。
先に源太郎が言った通りだ。源五郎・源次郎の兄弟がものを悟るのに、長くくどくどとした書き物は必要が無い。
ただ三文字、それだけで二人は悟りきった。
二人の「甥」として生まれてくる赤子が、その三文字の名を付けられようとしている。
源五郎は紙切れをつまみ上げ、汚物を捨てる手つきで、手焙りの中に放り込んだ。
「あ、これ!」
「何をするか!?」
口々に叫ぶ兄たちに、源五郎が射込むごとき鋭い視線を向けた。
覚えず、二人が、怯んだ。武勇名高い真田兄弟が恐怖する程、恐ろしげな眼光なのである。
火桶の中の紙切れは小さな炎の柱となった。
「私どもは、何も見ませんでした」
はかない火柱が煙に変じて立ち上る中、平然と言ったのは、源次郎だった。声音は、谷の冷や水よりも冷たい。
源太郎の顔が怒りで覆い尽くされた。
長兄が弟たちを睨み付ける。源五郎と源次郎は口を引き結び、奥歯をかみしめて、兄を――実質的な家長であり、直接の主君とも呼べる源太郎を――睨み返した。
「何が不服か?」
重々しく源太郎が問う。
「義と忠とに反します」
これは源次郎の答えだ。源五郎は口をつぐんでいる。
源太郎の視線は、黙っている源五郎に向けられた。
「儂の考えに不満があるのか?」
「あります」
間髪を入れず答えた源五郎だったが、次の言葉を出すまでに、僅かに間を入れた。
ゆっくりとまぶたを閉じ、深く息を吐き出し、また吸い込み、再び眼を見開く。源太郎がこの眼を見据え返す。
源五郎は静かにいった。
「小太郎と申しますのは、海野宗家の家長が代々受け継ぐ通名にございます」
源太郎は僅かに苛ついて、しかし頷く。
「その通りだ」
「海野の姓を名乗る宗家が絶えた後は、真田の宗家がその名を受け継いでおります」
「その通りだ」
「我らの真田家は――つまり兄上は、真田宗家ではありません」
「その通りだ」
三度同じ言葉を相槌と繰り返した源太郎は、三度目の後に、
「いや、その通りであった」
僅かに言い直した。
「今は、違うと?」
問い返す源五郎の声は厳しい。
源太郎がきっちりと座り直す。小柄な弟の眉間辺りを睨み付けた。
「我らが父上は、海野宗家・信濃守棟綱の外孫にて、真田道端頼昌が次男であった。確かに海野家の嫡流とは言いがたい。しかし信濃守は既に没し、嫡男・小太郎幸義の血筋も今は絶え果てた。父の兄……つまり我らの伯父であるが、その十郎左衛門綱吉が宗家を継いだとして、倅の右馬亮に『小太郎』の輩行を受け継がせた」
「右馬亮殿は、いま、真田の本城におられます」
「我が配下として、番勤している」
源太郎は低い声で、強く言い切った。
「そう見ているのは、兄上だけです」
源五郎の声にも同じ強さがあった。
源太郎の目が細く閉じられた。完全に目をつむったわけではない。針のように細められた眼で、次弟をじっと見ている。
源五郎も眼を細く、視線を鋭くし、兄を見つめ返している。
「世の者は、父上が、親を失った甥である右馬亮殿を保護しているのだ、と見ています」
「間違いなく保護しているではないか。伯父御が討死なさり、小太郎は行方知れずとなった。父上が、この甥を死んだものと見ても当然であった。故に、伯父御が宗家を継いだ時と同じ事を、父上がなさり、今の真田家として建て直した」
「先の海野小太郎は武運拙く落命なされましたが、右馬亮殿は強運に導かれて海野白鳥神社にかくまわれ、命を長らえました」
「父上は年若かった右馬亮を手元に引き取った。ちょうど儂や徳とお前達の間の年頃で、儂はあれを弟のように遇したし、あれも儂や徳を兄と慕ってくれている」
「ですが、実の兄弟ではありません」
「源五郎!」
源太郎は床板に拳をたたきつけた。徳次郎と源次郎の肩が、僅かにびくりと動いた。
源五郎は動かない。
細く開かれたまぶたの奥の眼に光が凝っている。
二つほど息を吐いた源太郎は、三つ目の息を呑み込むと、努めて静かな声で、
「……冷たいことをいうな」
さみしげな笑顔を作って見せた。
「それがしにとっても、右馬亮殿は兄とも慕う方です。ですがあの方は、真田弾正家の者ではありません」
源五郎の目が、一度、ほんの僅かの間だけ、隙間無く閉ざされた。
実に僅かな間を置いて、再び細目が開いた。
「父上が砥石に留まり、真田本城を右馬亮殿に任せておられるのは、彼の城が真田本家の持ち物であるためです。父上は、少なくとも形の上では、右馬亮殿の真田家と、我が家とは別家であると分別を付けておられるのだと、それがしは見ております。されば――」
源五郎の目が見開かれた。
「さればこそ、我らの子供らに宗家の輩行を付けることは、間違いの元でありましょう。そのようなことをしたなら、兄上が本家の本筋を押しのけて、宗家を乗っ取った形になる。兄上は不孝・不忠のそしりを、進んで受けたいと仰せか!」
言葉のはじめの方は、低く抑えた声だった。それは言葉が進む程に大きな音となり、最後は殆ど叫び声となっていた。
源太郎は答えない。源五郎も言葉を足さない。徳次郎は黙ったきりで、源次郎も口をつぐんでいた。
冷たい風が、手焙りから立ち上る煙を押し流した。
兄弟の間に漂う、重く激しい沈黙を破ったのは、徳次郎であった。
気と胸を張って座っている二人の弟たちと、文机と暗さを増しつつある窓外の寒空を背にした兄のちょうど真ん中に、徳次郎は文字通りに割り込んだ。
「それがしも、見ておりませぬ。始めから仕舞いまで、兄上のなさったことを、それがしは存じ上げませぬ」
弟たちに背を向けて、兄と向かい合ったその顔は、一種の安堵と覚悟に満たされている。
「儂がこの三ヶ月の間、於北の腹に『小太郎よ、小太よ』と呼びかけていたことも、か?」
源太郎が口をへの字に曲げる。
「三ヶ月も前から!?」
源五郎と源次郎が同時に声を上げた。
源太郎の肩ががくりと落ちた。
「腹の中の小太郎は、儂がその名で呼びかける度に、よう動くのだと、於北が言うのだよ。だからもう、儂の小太郎は、おのれの名前をそうだと覚えておるのだ」
だから認めて欲しい、とは言わない。
左手が、一尺四方に切りそろえた厚手の紙を一枚、つまみ上あげ、机の上に広げ置く。
太筆がどろりとした墨液に飛び込む。
引き上げられた筆の穂先が、文机の紙の上に落ちた。
ヌルヌルと墨が走る。
が、間もなく止まった。書くべき文字数は少ないらしい。
源太郎は最後の一画の筆を、勢いよく払った。
改心の書き上がりと見える。満足が手の動きを大きくする。
書き終えた筆が、まっすぐに頭上へ持ち上げられた。
と――。
筆先諸共に、紙が頭上へ持ち上がった。
濃すぎる墨液のために、紙は、机の上では筆先から離れ得なかったらしい。
紙に手を添え押さえていなかった源太郎の手抜かりではある。
しかしそのために彼を責めるのは、あまりにも可哀想ではないか。
源太郎の腹づもりでは、書き上がってすぐに、紙を素早く、晴れがましく大げさにそれを弟たちに披露する筈であったのだ。
その「儀式」を経ずに、弟たちは兄の墨蹟を見てしまった。
紙には、太々、黒々と、ただ三文字。
小太郎
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風にあおられて、紙は筆から引き離された。
まだ乾かない墨が、冷風に揉まれて、とろりと滴る。
紙が舞う。墨は踊る。
源太郎は筆を投げ捨てた。
朝から座り続けていた足はすぐには立たない。
膝立ちで、両手を持ち上げ、舞い浮かぶ紙を追いかける。
徳次郎は身をねじる。
ねっとりとした墨が小さなしぶきとなって踊り散る、その一滴一滴から逃げまわる。
大柄な侍が二人、あちらへフラフラ、こちらへユラユラと、まるで不格好に舞い踊っているかのようだ。
酒に酔って興に乗った農夫の手踊りの方がまだ上手い。
結局、その紙は武田家でも名高い二人の武偏者の追っ手を逃れた。
床に落ち、板間を滑り、たどり着いたのは、源五郎の膝先だった。
先に源太郎が言った通りだ。源五郎・源次郎の兄弟がものを悟るのに、長くくどくどとした書き物は必要が無い。
ただ三文字、それだけで二人は悟りきった。
二人の「甥」として生まれてくる赤子が、その三文字の名を付けられようとしている。
源五郎は紙切れをつまみ上げ、汚物を捨てる手つきで、手焙りの中に放り込んだ。
「あ、これ!」
「何をするか!?」
口々に叫ぶ兄たちに、源五郎が射込むごとき鋭い視線を向けた。
覚えず、二人が、怯んだ。武勇名高い真田兄弟が恐怖する程、恐ろしげな眼光なのである。
火桶の中の紙切れは小さな炎の柱となった。
「私どもは、何も見ませんでした」
はかない火柱が煙に変じて立ち上る中、平然と言ったのは、源次郎だった。声音は、谷の冷や水よりも冷たい。
源太郎の顔が怒りで覆い尽くされた。
長兄が弟たちを睨み付ける。源五郎と源次郎は口を引き結び、奥歯をかみしめて、兄を――実質的な家長であり、直接の主君とも呼べる源太郎を――睨み返した。
「何が不服か?」
重々しく源太郎が問う。
「義と忠とに反します」
これは源次郎の答えだ。源五郎は口をつぐんでいる。
源太郎の視線は、黙っている源五郎に向けられた。
「儂の考えに不満があるのか?」
「あります」
間髪を入れず答えた源五郎だったが、次の言葉を出すまでに、僅かに間を入れた。
ゆっくりとまぶたを閉じ、深く息を吐き出し、また吸い込み、再び眼を見開く。源太郎がこの眼を見据え返す。
源五郎は静かにいった。
「小太郎と申しますのは、海野宗家の家長が代々受け継ぐ通名にございます」
源太郎は僅かに苛ついて、しかし頷く。
「その通りだ」
「海野の姓を名乗る宗家が絶えた後は、真田の宗家がその名を受け継いでおります」
「その通りだ」
「我らの真田家は――つまり兄上は、真田宗家ではありません」
「その通りだ」
三度同じ言葉を相槌と繰り返した源太郎は、三度目の後に、
「いや、その通りであった」
僅かに言い直した。
「今は、違うと?」
問い返す源五郎の声は厳しい。
源太郎がきっちりと座り直す。小柄な弟の眉間辺りを睨み付けた。
「我らが父上は、海野宗家・信濃守棟綱の外孫にて、真田道端頼昌が次男であった。確かに海野家の嫡流とは言いがたい。しかし信濃守は既に没し、嫡男・小太郎幸義の血筋も今は絶え果てた。父の兄……つまり我らの伯父であるが、その十郎左衛門綱吉が宗家を継いだとして、倅の右馬亮に『小太郎』の輩行を受け継がせた」
「右馬亮殿は、いま、真田の本城におられます」
「我が配下として、番勤している」
源太郎は低い声で、強く言い切った。
「そう見ているのは、兄上だけです」
源五郎の声にも同じ強さがあった。
源太郎の目が細く閉じられた。完全に目をつむったわけではない。針のように細められた眼で、次弟をじっと見ている。
源五郎も眼を細く、視線を鋭くし、兄を見つめ返している。
「世の者は、父上が、親を失った甥である右馬亮殿を保護しているのだ、と見ています」
「間違いなく保護しているではないか。伯父御が討死なさり、小太郎は行方知れずとなった。父上が、この甥を死んだものと見ても当然であった。故に、伯父御が宗家を継いだ時と同じ事を、父上がなさり、今の真田家として建て直した」
「先の海野小太郎は武運拙く落命なされましたが、右馬亮殿は強運に導かれて海野白鳥神社にかくまわれ、命を長らえました」
「父上は年若かった右馬亮を手元に引き取った。ちょうど儂や徳とお前達の間の年頃で、儂はあれを弟のように遇したし、あれも儂や徳を兄と慕ってくれている」
「ですが、実の兄弟ではありません」
「源五郎!」
源太郎は床板に拳をたたきつけた。徳次郎と源次郎の肩が、僅かにびくりと動いた。
源五郎は動かない。
細く開かれたまぶたの奥の眼に光が凝っている。
二つほど息を吐いた源太郎は、三つ目の息を呑み込むと、努めて静かな声で、
「……冷たいことをいうな」
さみしげな笑顔を作って見せた。
「それがしにとっても、右馬亮殿は兄とも慕う方です。ですがあの方は、真田弾正家の者ではありません」
源五郎の目が、一度、ほんの僅かの間だけ、隙間無く閉ざされた。
実に僅かな間を置いて、再び細目が開いた。
「父上が砥石に留まり、真田本城を右馬亮殿に任せておられるのは、彼の城が真田本家の持ち物であるためです。父上は、少なくとも形の上では、右馬亮殿の真田家と、我が家とは別家であると分別を付けておられるのだと、それがしは見ております。されば――」
源五郎の目が見開かれた。
「さればこそ、我らの子供らに宗家の輩行を付けることは、間違いの元でありましょう。そのようなことをしたなら、兄上が本家の本筋を押しのけて、宗家を乗っ取った形になる。兄上は不孝・不忠のそしりを、進んで受けたいと仰せか!」
言葉のはじめの方は、低く抑えた声だった。それは言葉が進む程に大きな音となり、最後は殆ど叫び声となっていた。
源太郎は答えない。源五郎も言葉を足さない。徳次郎は黙ったきりで、源次郎も口をつぐんでいた。
冷たい風が、手焙りから立ち上る煙を押し流した。
兄弟の間に漂う、重く激しい沈黙を破ったのは、徳次郎であった。
気と胸を張って座っている二人の弟たちと、文机と暗さを増しつつある窓外の寒空を背にした兄のちょうど真ん中に、徳次郎は文字通りに割り込んだ。
「それがしも、見ておりませぬ。始めから仕舞いまで、兄上のなさったことを、それがしは存じ上げませぬ」
弟たちに背を向けて、兄と向かい合ったその顔は、一種の安堵と覚悟に満たされている。
「儂がこの三ヶ月の間、於北の腹に『小太郎よ、小太よ』と呼びかけていたことも、か?」
源太郎が口をへの字に曲げる。
「三ヶ月も前から!?」
源五郎と源次郎が同時に声を上げた。
源太郎の肩ががくりと落ちた。
「腹の中の小太郎は、儂がその名で呼びかける度に、よう動くのだと、於北が言うのだよ。だからもう、儂の小太郎は、おのれの名前をそうだと覚えておるのだ」
だから認めて欲しい、とは言わない。
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