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夏休みの間
40.本当の名前。
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「ひぃちゃんのお母さんはね……私の旦那さんの妹なんだけれど……どうしても男の子が欲しかったのね。
だからひぃちゃんがお腹の中にいた頃から男の子の名前を付けて、青のベビー服や、青い色のガラガラとかおしゃぶりとかを買って、布団や毛布も全部青い色でそろえちゃったの。
生まれる前から、生まれてくるのは絶対男の子だって、思い込んじゃったのよ。
あんまり強く思い込んでしまった物だから、生まれてきて女の子だって判っても、女の子の吹くや玩具を買う気には、どうしてもならなかった。
最近は男の子用の服でも赤や黄色の可愛い者があるけれど、ひぃちゃんのお母さんは青や緑や、黒っぽい物ばかりを着せたり持たせたりしたの。あの人はそっちの方が男の子っぽいと考えているのでしょうね。
だって、一年近く男の子のつもりだったんですもの。急に女の子だって思い直すなんてこと、できなくなっちゃったのね。
それだから名前も新しく女の子の名前を考えられなくて、お腹の中にいたころ呼んでいた男の子の名前をそのままつけちゃったの。
役所に出す書類に書くのは、私たちが止めさせたわよ。
それでもひぃちゃんのお母さんはひぃちゃんのことを戸籍上の……つまり市役所に出した『本当の名前』では呼べない。
ううん、彼女にとってはひぃちゃんの……ヒメコって名前のほうが偽物で、自分の付けた名前の方が『本物の名前』なのでしょうけれども」
先生はふう、と息を吐いた。とっても苦しそうなため息だった。
「ともかく、ひぃちゃんのお母さんは、ひぃちゃんが大分大きくなった今でも、男の子の服ばかり買ってくるの。
ズボンもシャツも、それから下着も、全部。玩具も水鉄砲とかけん玉とかミニカーとか。ランドセルも黒、ノートも鉛筆も青や緑や黒っぽいものでそろえている。
だからひぃちゃんはズボンもシャツも下着も男の子の物を着ている。それしか着る物がないのだもの。
私は時々、
『ひぃちゃんが女の子の格好をしたいなら、女の子の服を買って着せてあげたいな』
と思うことがあるのだけれど、ひぃちゃんはほしがらないから……自分が欲しくないならそれでいいのだけれど……。
ああ、でも今日は、ひぃちゃんの服が君を助ける役に立ったから、男の子の服で良かったと思いましょう」
先生は嗤った。無理矢理に笑ったみたいな顔だった。。
龍はそのひぃちゃんという女の子が、どんな子供なのか知りたくなった。
お母さんは男の子だと思い込んでいて、他の家族は女の子だと思っているその子は、自分ではどちらだと思っているのだろうか。
「あの、ひぃちゃん……じゃなくて、ヒメコさんにお礼を言いたいんですけれど。服のこと、貸してくれてありがとうって」
龍が言うと、Y先生はちょっと考え込んだ。そして、
「君に会わせて良いかどうか……」
なんていう、なんだかよくわからない言葉を口の中でモゾモゾ言った。
何故先生が悩んでいるのか、龍にはさっぱり判らなかったけれど、失礼にならないように言葉を自分なりに選んで、
「ヒメコさんが会いたくないって言ったら、会いません。でもお礼は言いたいです」
頭を下げた。
だからひぃちゃんがお腹の中にいた頃から男の子の名前を付けて、青のベビー服や、青い色のガラガラとかおしゃぶりとかを買って、布団や毛布も全部青い色でそろえちゃったの。
生まれる前から、生まれてくるのは絶対男の子だって、思い込んじゃったのよ。
あんまり強く思い込んでしまった物だから、生まれてきて女の子だって判っても、女の子の吹くや玩具を買う気には、どうしてもならなかった。
最近は男の子用の服でも赤や黄色の可愛い者があるけれど、ひぃちゃんのお母さんは青や緑や、黒っぽい物ばかりを着せたり持たせたりしたの。あの人はそっちの方が男の子っぽいと考えているのでしょうね。
だって、一年近く男の子のつもりだったんですもの。急に女の子だって思い直すなんてこと、できなくなっちゃったのね。
それだから名前も新しく女の子の名前を考えられなくて、お腹の中にいたころ呼んでいた男の子の名前をそのままつけちゃったの。
役所に出す書類に書くのは、私たちが止めさせたわよ。
それでもひぃちゃんのお母さんはひぃちゃんのことを戸籍上の……つまり市役所に出した『本当の名前』では呼べない。
ううん、彼女にとってはひぃちゃんの……ヒメコって名前のほうが偽物で、自分の付けた名前の方が『本物の名前』なのでしょうけれども」
先生はふう、と息を吐いた。とっても苦しそうなため息だった。
「ともかく、ひぃちゃんのお母さんは、ひぃちゃんが大分大きくなった今でも、男の子の服ばかり買ってくるの。
ズボンもシャツも、それから下着も、全部。玩具も水鉄砲とかけん玉とかミニカーとか。ランドセルも黒、ノートも鉛筆も青や緑や黒っぽいものでそろえている。
だからひぃちゃんはズボンもシャツも下着も男の子の物を着ている。それしか着る物がないのだもの。
私は時々、
『ひぃちゃんが女の子の格好をしたいなら、女の子の服を買って着せてあげたいな』
と思うことがあるのだけれど、ひぃちゃんはほしがらないから……自分が欲しくないならそれでいいのだけれど……。
ああ、でも今日は、ひぃちゃんの服が君を助ける役に立ったから、男の子の服で良かったと思いましょう」
先生は嗤った。無理矢理に笑ったみたいな顔だった。。
龍はそのひぃちゃんという女の子が、どんな子供なのか知りたくなった。
お母さんは男の子だと思い込んでいて、他の家族は女の子だと思っているその子は、自分ではどちらだと思っているのだろうか。
「あの、ひぃちゃん……じゃなくて、ヒメコさんにお礼を言いたいんですけれど。服のこと、貸してくれてありがとうって」
龍が言うと、Y先生はちょっと考え込んだ。そして、
「君に会わせて良いかどうか……」
なんていう、なんだかよくわからない言葉を口の中でモゾモゾ言った。
何故先生が悩んでいるのか、龍にはさっぱり判らなかったけれど、失礼にならないように言葉を自分なりに選んで、
「ヒメコさんが会いたくないって言ったら、会いません。でもお礼は言いたいです」
頭を下げた。
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