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夏休みの間
58.叱らないで。
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二人はうなずきあって、笑いあった。それで二人とも笑い終わった頃に、
「さて、お話は済んだかしら?」
すぐ近くで、静かな声がした。
振り向くと、Y先生とシィお兄さんが立っていた。
「兄様、お帰りなさいませ」
龍には「トラ」がものすごく丁寧に喋っているように聞こえた。でも、「トラ」とシィお兄さんの間では、それが普通のことだった。
シィお兄さんは「トラ」の方を見て、
「うん、ただいま」
と微笑んだあと、今度はその優しい顔を龍の方へ向けた。
「君は、そろそろ家に帰った方が良いだろう。ご両親も心配していると思うよ」
シィお兄さんは龍にビニルの袋を渡した。
ほんわりと暖かいその袋をのぞき込むと、さっきまで自分が着ていた服が、きちんと畳まれて入っている。
「急いで乾かしはしたけれども、念のため帰ったら一度お日様に当てた方が良いわね」
Y先生は口では龍に話しかけていたけれども、視線は「トラ」の方に向いていた。
その目の色は、ちょっと叱っているような、厳しいモノだった。
さっきまでにこにこと笑っていた「トラ」の顔から、笑顔がすっとかき消えた。
背筋をピンと伸ばして、まだ少し濡れている目の周りをごしごしと拭き、ちょっと乱れていた髪の毛を手櫛で整える。
その動作はからくり時計の仕掛け人形のようにぎこちなくて、正確で、機械みたいだった。
「トラ」の硬い仕草に龍はぎくりとした。「トラ」が怒られてしまうと感じたからだ。
龍には、「トラ」怒られるようなことをしていないと思えたけれども、Y先生の目の色は間違いなく怒っている。
だから龍は「トラ」と同じように背筋を伸ばし、「トラ」と同じように顔と髪の毛を整え、先生の顔をじっと見て、大声で言った。
「ごめんなさい」
Y先生とシィお兄さんと、そして「トラ」が、一斉にすこしびっくりした顔を龍に向けた。
それから、
「どうしたの?」
三人で一斉に言った。
龍はピンと背筋を伸ばしたまま、答えた。
「良くわからないけれど、ごめんなさい。『トラ』は……えっと……ヒメコさんは、悪くないので、謝る必要はないから、僕が謝りますので、叱らないでください」
龍の言っていることを文字に書くと、なんだか良くわからない言葉になってしまうのだけれども、その時の龍は、自分の頭の中を自分なりに整頓して、精一杯言葉にしているつもりだった。
だから言い終わった後、龍は不思議にとてもさっぱりした気分になっていた。
自分一人がさっぱりしたことで状況が好転したとか、逆に悪化したとか、そんな周りの様子のことは、この時の龍の気分にはまるきり関係がなかった。
「さて、お話は済んだかしら?」
すぐ近くで、静かな声がした。
振り向くと、Y先生とシィお兄さんが立っていた。
「兄様、お帰りなさいませ」
龍には「トラ」がものすごく丁寧に喋っているように聞こえた。でも、「トラ」とシィお兄さんの間では、それが普通のことだった。
シィお兄さんは「トラ」の方を見て、
「うん、ただいま」
と微笑んだあと、今度はその優しい顔を龍の方へ向けた。
「君は、そろそろ家に帰った方が良いだろう。ご両親も心配していると思うよ」
シィお兄さんは龍にビニルの袋を渡した。
ほんわりと暖かいその袋をのぞき込むと、さっきまで自分が着ていた服が、きちんと畳まれて入っている。
「急いで乾かしはしたけれども、念のため帰ったら一度お日様に当てた方が良いわね」
Y先生は口では龍に話しかけていたけれども、視線は「トラ」の方に向いていた。
その目の色は、ちょっと叱っているような、厳しいモノだった。
さっきまでにこにこと笑っていた「トラ」の顔から、笑顔がすっとかき消えた。
背筋をピンと伸ばして、まだ少し濡れている目の周りをごしごしと拭き、ちょっと乱れていた髪の毛を手櫛で整える。
その動作はからくり時計の仕掛け人形のようにぎこちなくて、正確で、機械みたいだった。
「トラ」の硬い仕草に龍はぎくりとした。「トラ」が怒られてしまうと感じたからだ。
龍には、「トラ」怒られるようなことをしていないと思えたけれども、Y先生の目の色は間違いなく怒っている。
だから龍は「トラ」と同じように背筋を伸ばし、「トラ」と同じように顔と髪の毛を整え、先生の顔をじっと見て、大声で言った。
「ごめんなさい」
Y先生とシィお兄さんと、そして「トラ」が、一斉にすこしびっくりした顔を龍に向けた。
それから、
「どうしたの?」
三人で一斉に言った。
龍はピンと背筋を伸ばしたまま、答えた。
「良くわからないけれど、ごめんなさい。『トラ』は……えっと……ヒメコさんは、悪くないので、謝る必要はないから、僕が謝りますので、叱らないでください」
龍の言っていることを文字に書くと、なんだか良くわからない言葉になってしまうのだけれども、その時の龍は、自分の頭の中を自分なりに整頓して、精一杯言葉にしているつもりだった。
だから言い終わった後、龍は不思議にとてもさっぱりした気分になっていた。
自分一人がさっぱりしたことで状況が好転したとか、逆に悪化したとか、そんな周りの様子のことは、この時の龍の気分にはまるきり関係がなかった。
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