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夏休みの間
64.リーディングアデクトの濫読。
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「だからあの子は、小さい頃からずっと家の中で本を読んでいた。
叔母さんや俺の両親が買った絵本や児童文学は、あっという間に読み尽くした。仕方なく、俺の小学校や中学校や高校ン時の教科書やら参考書やらを読み始めたけれど、それもあっという間に読み終わった。
百科事典も名作全集もあっという間に端から端まで読んで、別冊の索引まで読み尽くした。
俺のオフクロが買ってきた料理の本とか裁縫の本とか、オヤジが好きで読んでる時代劇の小説とか推理小説とか、そういう大人が読む本も読んだ。
解らない字があれば辞書を引いて読んでた。時々辞書そのものを読むこともある。
気に入って何度も繰り返して読んでいるヤツもあるし二度と読まない本もあるけれど、とにかく家中の本を読んで、読んで、読みまくった。
おかげでうんと小さな頃から小憎らしいほどいろんな事を知ってた。
あ、『二度と読まない』と決めた本の中身はすっかり忘れるみたいだな。
それだからとんでもないフツウなことを『何も知らない』事もあるけどね」
シィお兄さんはちょっとだけ笑った。
龍もちょっと笑った。「トラ」がものすごくたくさんのことを知っている理由が解ったのと、「トラ」にも判らないことがあるらしいことが知れたので、なんだかホッとした。「トラ」も自分と同じ子供なのだと思って、安心した。
でもシィお兄さんの笑顔はすぐに消えて、ちょっと悲しそうな顔になった。でもその顔も深呼吸でするふりをして、すぐに消してしまった。
「小学校に上がる前には、あの子は漢字博士になってたよ。
普通なら素晴らしいことだけど、あの子にとっては不運だった。
読めちゃったんだ……ウチの墓地の、一番新しいお墓になんて書いてあるかを、ね」
龍の全身が強張った。膝の上でげんこつを握りしめた。靴下の中の足の指が全部縮まった。
大きく広がったまま固まった鼻の穴の奥に、古い本の甘い匂いがした記がする。
カチカチに凍った耳元で、水が渦を巻く音が聞こえた。
頭の中が真っ白になって、目の前が薄暗くなった。
吹雪の中みたいに真っ白な脳みその中で、龍は必死に考えた。
『その瞬間、「トラ」は何を感じたのだろう?』
自分が図書館でその文字の読み方を知ったときと同じくらい驚いた?
自分がその文字が書いてあるお墓を見つけたときと同くらい怖くなった?
違う、違う。
きっと、そんなくらいのビックリやブルブルじゃ足りない。
絶対にそんなにちょっぴりなドキドキで済むはずがない。
だって、自分の名前のお墓なんだから。
龍は下の唇をぎゅっと噛んだ。血が出る寸前ぐらいに強く噛み締めた。
そして真っ白な顔をシィお兄さんに向けた。
優良ドライバーなお兄さんは、まっすぐ前を向いたまま、
「あの子は頭のいい子だから、作り話で説明して誤魔化そうったって通用しないと思った。
だから、俺の両親は全部話した。
多分……多分だけど、あの子は全部理解してると思う。全部解っていると思う。
あのお墓が自分のものじゃないことはもちろん……母親にとって『自分は死んでしまった「寅」兄さんの身代わりだ』って事も」
シィお兄さんは肩こりほぐしの体操をするみたいに首を左右に傾げた。
叔母さんや俺の両親が買った絵本や児童文学は、あっという間に読み尽くした。仕方なく、俺の小学校や中学校や高校ン時の教科書やら参考書やらを読み始めたけれど、それもあっという間に読み終わった。
百科事典も名作全集もあっという間に端から端まで読んで、別冊の索引まで読み尽くした。
俺のオフクロが買ってきた料理の本とか裁縫の本とか、オヤジが好きで読んでる時代劇の小説とか推理小説とか、そういう大人が読む本も読んだ。
解らない字があれば辞書を引いて読んでた。時々辞書そのものを読むこともある。
気に入って何度も繰り返して読んでいるヤツもあるし二度と読まない本もあるけれど、とにかく家中の本を読んで、読んで、読みまくった。
おかげでうんと小さな頃から小憎らしいほどいろんな事を知ってた。
あ、『二度と読まない』と決めた本の中身はすっかり忘れるみたいだな。
それだからとんでもないフツウなことを『何も知らない』事もあるけどね」
シィお兄さんはちょっとだけ笑った。
龍もちょっと笑った。「トラ」がものすごくたくさんのことを知っている理由が解ったのと、「トラ」にも判らないことがあるらしいことが知れたので、なんだかホッとした。「トラ」も自分と同じ子供なのだと思って、安心した。
でもシィお兄さんの笑顔はすぐに消えて、ちょっと悲しそうな顔になった。でもその顔も深呼吸でするふりをして、すぐに消してしまった。
「小学校に上がる前には、あの子は漢字博士になってたよ。
普通なら素晴らしいことだけど、あの子にとっては不運だった。
読めちゃったんだ……ウチの墓地の、一番新しいお墓になんて書いてあるかを、ね」
龍の全身が強張った。膝の上でげんこつを握りしめた。靴下の中の足の指が全部縮まった。
大きく広がったまま固まった鼻の穴の奥に、古い本の甘い匂いがした記がする。
カチカチに凍った耳元で、水が渦を巻く音が聞こえた。
頭の中が真っ白になって、目の前が薄暗くなった。
吹雪の中みたいに真っ白な脳みその中で、龍は必死に考えた。
『その瞬間、「トラ」は何を感じたのだろう?』
自分が図書館でその文字の読み方を知ったときと同じくらい驚いた?
自分がその文字が書いてあるお墓を見つけたときと同くらい怖くなった?
違う、違う。
きっと、そんなくらいのビックリやブルブルじゃ足りない。
絶対にそんなにちょっぴりなドキドキで済むはずがない。
だって、自分の名前のお墓なんだから。
龍は下の唇をぎゅっと噛んだ。血が出る寸前ぐらいに強く噛み締めた。
そして真っ白な顔をシィお兄さんに向けた。
優良ドライバーなお兄さんは、まっすぐ前を向いたまま、
「あの子は頭のいい子だから、作り話で説明して誤魔化そうったって通用しないと思った。
だから、俺の両親は全部話した。
多分……多分だけど、あの子は全部理解してると思う。全部解っていると思う。
あのお墓が自分のものじゃないことはもちろん……母親にとって『自分は死んでしまった「寅」兄さんの身代わりだ』って事も」
シィお兄さんは肩こりほぐしの体操をするみたいに首を左右に傾げた。
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