フツウな日々―ぼくとあいつの夏休み―

神光寺かをり

文字の大きさ
64 / 78
夏休みの間

64.リーディングアデクトの濫読。

しおりを挟む
「だからあの子は、小さい頃からずっと家の中で本を読んでいた。
 叔母さんや俺の両親が買った絵本や児童文学は、あっという間に読み尽くした。仕方なく、俺の小学校や中学校や高校ン時の教科書やら参考書やらを読み始めたけれど、それもあっという間に読み終わった。
 百科事典も名作全集もあっという間に端から端まで読んで、別冊の索引さくいんまで読み尽くした。
 俺のオフクロが買ってきた料理の本とか裁縫さいほうの本とか、オヤジが好きで読んでる時代劇の小説とか推理小説とか、そういう大人が読む本も読んだ。
 解らない字があれば辞書を引いて読んでた。時々辞書そのものを読むこともある。
 気に入って何度も繰り返して読んでいるヤツもあるし二度と読まない本もあるけれど、とにかく家中の本を読んで、読んで、読みまくった。
 おかげでうんと小さな頃から小憎こにくらしいほどいろんな事を知ってた。
 あ、『二度と読まない』と決めた本の中身はすっかり忘れるみたいだな。
 それだからとんでもないフツウなことを『何も知らない』事もあるけどね」

 シィお兄さんはちょっとだけ笑った。

 龍もちょっと笑った。「トラ」がものすごくたくさんのことを知っている理由が解ったのと、「トラ」にも判らないことがあるらしいことが知れたので、なんだかホッとした。「トラ」も自分と同じ子供なのだと思って、安心した。

 でもシィお兄さんの笑顔はすぐに消えて、ちょっと悲しそうな顔になった。でもその顔も深呼吸でするふりをして、すぐに消してしまった。

「小学校に上がる前には、あの子は漢字博士になってたよ。
 普通なら素晴らしいことだけど、あの子にとっては不運だった。
 読めちゃったんだ……ウチの墓地の、一番新しいお墓にを、ね」

 龍の全身が強張った。膝の上でげんこつを握りしめた。靴下の中の足の指が全部縮まった。

 大きく広がったまま固まった鼻の穴の奥に、古い本の甘い匂いがした記がする。
 カチカチにこおった耳元で、水が渦を巻く音が聞こえた。
 頭の中が真っ白になって、目の前が薄暗くなった。
 吹雪の中みたいに真っ白な脳みその中で、龍は必死に考えた。

『その瞬間、「トラ」は何を感じたのだろう?』

 自分が図書館でその文字の読み方を知ったときと同じくらい驚いた?
 自分がその文字が書いてあるお墓を見つけたときと同くらい怖くなった?

 違う、違う。

 きっと、そんなくらいのビックリやブルブルじゃ足りない。
 絶対にそんなにちょっぴりなドキドキで済むはずがない。

 だって、自分の名前のお墓なんだから。

 龍は下の唇をぎゅっと噛んだ。血が出る寸前ぐらいに強く噛み締めた。
 そして真っ白な顔をシィお兄さんに向けた。
 優良ドライバーなお兄さんは、まっすぐ前を向いたまま、

「あの子は頭のいい子だから、作り話で説明して誤魔化そうったって通用しないと思った。
 だから、俺の両親は全部話した。
 多分……多分だけど、あの子は全部理解してると思う。全部解っていると思う。
 あのお墓が自分のものじゃないことはもちろん……母親にとって『自分は死んでしまった「寅」兄さんの身代わりだ』って事も」

 シィお兄さんは肩こりほぐしの体操をするみたいに首を左右に傾げた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...