クレール 光の伝説「意外な話――或いは、雄弁な【正義】」

神光寺かをり

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聡明なる美しき若君の語るところによると……

子供は子供らしく

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 それからまた十年ほど経った後のことになりますが――。

 件の御子おこは、とりあえず無事に成長しました。
 大病になることも、大怪我をすることも、もちろん命を失うこともありませんでした。
 父君が危ないことを総て遠ざけ、母君が危ないことに挑ませた、その両方のおかげでしょう。

 ただ困ったことに、少しばかり、そうホンの少しばかり、性格が歪んだひねくれ者になってしまわれました。

 いいえ。
 乱暴粗暴らんぼうそぼうになったとか、根暗陰険ねくらいんけんになったとか、そういうひねくれ方ではないのです。

 少々融通ゆうずうが利かない生真面目な子供におなりになった、ということです。
 まあ、殿様の子供ですから、不真面目では困りますけれども。
……他家のことは、私は存じませんよ。その家それぞれに教育の方針という物があるのでしょうから。
 ただこの家の場合、父君の教育方針と母君のそれとが、言ってみれば全く逆のようなものだったのは、問題であったといえますね。

 若君はそれぞれのいいつけをそれぞれに守り、それぞれにとっての「よい子」でい続けねばなりませんでした。
 御子は、父君の殿様を悲しませてはならないと考えていました。母君の奥方を喜ばせなければならないと考えていました。
 そんなことを十年もしておれば、幾分かの歪みが出ない筈がないでしょう?

 我が強いのに、引っ込み思案で、大笑いすることもなければ、むやみに怒ることもしない……。
 己の考えに酷く固執して、人に合わせて曲がることを知らない。
 それでいて、誰かの「自分とは違う意見」に口を挟んで論争することは好まない。
 人々の輪の中にはすんなりとはいっても、進んで楽しげに振る舞うことはない。
 曲がったことは嫌いなのに、誰かに怒りをぶつけることを嫌う。

 つまりはそんな、に成長なさったのです。

 ああ、どうやら君は、真面目な子供が嫌いらしい。特に親の顔色をうかがうような優秀ぶった子供は大嫌いだと見受けられますね。
 言いたいことは判りますよ。つまり、

「子供は子供らしく、ほほえましく、愚かしく、我が侭で、そして悪意ない残酷さを持つ、無垢なる天使のような存在であるべきだ」

 でしょう?

 ねえ、君。
 君は私などよりもよほど世間のことを知っていますよね。あちらの町、こちらの都市と、旅から旅を続けてきた君ですから。
 その君の目で見た世の中の子供たちは、はたしてそんな絵に描いたような子供ばかりでしたか?
 生まれ出でた子供の全てが、一つ型にはめ込まれたように、同じ判を押したように、全員が全員「かわいらしい無垢なる天使のよう」であるはずがないではないですか。

 大体君自身のことはどうなのです? 君は、大人になった君が思うような、あるいは君が書く物の中に出てくるような、いかにも可愛らしくて無邪気な天使のような子供だったのですか?

 おや、黙りましたね。
 それでよろしい。
 私に話を続けさせたいというのなら、君はそうやって、暫く口をつぐんでいることです。

 そもそもが、君が私に「意外性のある事を話せ」というから、私はこうやって語っているのです。
 だから最低限、最後まで口を挟まずに聞くべきです。

 神殿で説教を聞く時のように、難く口を閉じ、耳をそばだてなさい。
 然うしていられないというのなら、私が難く口を閉じ、耳を塞ぐだけです。

 よいですか?
 それでは、不運な殿様の所の、君の嫌いな真面目で捻くれた子供の話に戻りましょう。
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