ねくろすおーにら-死者の夢-

神光寺かをり

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2017年1月8日。こんな夢を見た。

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 サイドカー付のモンスターバイクが、突然私の店の前に止まりました。
 ライダーは俳優の梅宮辰夫氏で、後部のシートに「兄弟分」の松方弘樹氏が乗っておられました。
 M氏はいそいそと降車し、楽しそうに私の店の中を覗かれました。

「何かお探しですか?」

 私がお訊ね致しますと、M氏は嬉しげにお笑いになり、

「この店にね、真田幸村の缶バッチがたくさんあると聞いてね」

 と仰いました。

 私は店にあるだけの缶バッチを並べました。
 ニコニコと笑いながら品物を選んでいるM氏のお顔は、その半分から喉のあたりにかけて、肌が酷く荒れて赤黒く爛れて、もう半分も肌色が大変にお悪い様子でした。

「ご病気だと伺っておりましたが?」

 おそるおそるお伺いしましたところ、

「うん、外出の許可が出てね」

 嬉しげにお笑いになったM氏は、

「昔、真田幸村の役を演ってね※」

「はい、存じ上げております。拝見させて頂きました」

「うん。それでね、そのとき“兄ぃ”に頼み込んで兄貴の役をやって貰ってったんだ。だから外出許可が出たら、“兄ぃ”と一緒にゆかりの地を廻ろうと思ってね」
 
 そう仰ると、M氏は結局の所、お出しした缶バッチの全部の種類を一つずつ、お買いあげになりました。
 M氏が懐に手をお入れになった時、U氏がその手を押さえて、

「ここは俺が出すよ。この旅は、お前の退院祝いじゃないか」

 ご自分の札入れをお出しになったU氏は、優しげに頬笑んでおられましたが、私に代金をお渡し下さった時には、大変寂しそうな、お辛そうなお顔をなさっておいででした。

「ああ、すまないねぇ。そういうことなら遠慮なく乗っかるよ」

 M氏は嬉しそうに、本当に嬉しそうにお品を胸に押し抱いて、

「じゃあね、また来るよ」

 軽く左の手を挙げて、U氏と連れ立ってお店の外へお出になりました。
私も、お見送りをしようと、その後について外に出ました。
サイドカーの中におられた大御所歌手の北島三郎氏が、お二人を満面の笑みでお迎えになり、

「さぁて、次はどこへ行くんだい?」

 と謡うように仰いました。
 M氏はU氏に背負われるようにしてバイクにお乗りになり、もう一度、

「じゃあね、また来るよ」

 と、私に手を振ってくださいました。

 サイドカー付のモンスターバイクは、吼えるような排気音を残して、あっという間に、どこかへ行ってしまいました。


……そんな夢を見た。




※映画「真田幸村の謀略」(1979年 東映)
 テレビドラマ「家康が最も恐れた男 真田幸村」(1998年 テレビ東京)でも幸村役を演じているが、こちらでは兄の信之役は前田吟氏だったので該当しない。
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