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——そういえば、と私は思います、私は物なのか人なのかと。
物語を語るこの私は何処にいて、何者なのだろうかと。いや何物? いやいやそもそも私などと言うのが、物であれ人であれ存在するものなのかと。確かに、今、物語をひねり出し、言葉を重ねてゆく何ものかはここに存在します。それは人間のように見えるでしょう。それは、その何ものかが手を動かしてこの物語がこの世に現れ進んでゆくのは、間違いないのですが、それは「私」と同じなのでしょうか。なかなか出てこない次の言葉に業を煮やし、手を止めて天井を見ている男は「私」なのでしょうか。そんな気もしますが、どうにもあやしいような気もします。その瞬間、何処からか現れた言葉は、私の表面を滑り落ちて、いつの間にか、ちゃっかりと物語の中に埋まります。
で、その言葉と言えば——
銀河大戦
果てしなく続く宇宙。悠久の時の流れの中で、輝く星々に満ち、幾多の生命を育んだそれは、時には、光無き闇の中、幾多の生命を、戦士達の叫びを、血を吸い尽くしたのでした。それは、銀河大戦と呼ばれたその戦いは、何時から始まり、いったい何時になったら終わるものか、それを知るものはもちろんの事、考えて見ることさえできるものはいないのです。分かるのは、今も戦いが続いていると言う事と、それはずっと続いてきたと言う事と……そして今終わる気配さえ無いと言うことでした。戦いは、もう一万年は続いていると言うものもいるし、いやいや一億年は続いていると言うものもいる。あるいは戦いはまだ数秒しか続いていないのだが戦いの衝撃で時間が歪み永遠のように感じられているだけだけだと言うものもいる。果たしてどちらが本当か、その言いあいのために、また一つの銀河大戦が起きているくらいであるが、その戦いもすでに悠久の戦い、いや一瞬と言う者も現れると……時間定義の戦いが起きてまた一つの銀河大戦が起きる。
——永遠に永遠が重なり瞬間となる。
——永遠に永遠が繰り込まれて永遠が膨張してゆきます。
——何度も何度も永遠は繰り返し、
——最後には、
——空っぽ。
銀河の戦い。それは果たして本当に行なわれているものなのか。ここ、星々の果てで、静かな夜空を眺めていると、とてもそんな風には思えないのですが、彼は、自らの生涯の無為をその空の中に思い出します。彼は若いときには敵どころか味方にも恐れられる戦士として結構名の知れたものでした。幾多の敵の戦艦を単身乗り込んだ身一つで破壊して行く姿は今では伝説となっていました。
「しかしすべては幻だ」
彼は小さな声でつぶやきます。失った片足の幻肢の痛みを感じながら、あれほどリアルに感じた戦いの数々が、今では薄れ行く記憶の中にしか存在しないことに寂しさと、そしてちょっとの安堵を感じます。
「俺ももう終わりだな」
戦士としての自分の死と、残された生の絶対を感じながら空を見る、彼の目に映る、瞬く星がその光を消します。今日も銀河のどこか戦いは続き、人々が叫び、星が砕けます。今、空から消えた星はそんな戦場の中にあったものなのかも知れません。
星、流れ星を見て、彼は星々を流星に変える戦いの事を思い出します。無数の光線の飛び交う光年の戦線でした。宇宙船が、密集し、すれ違います。あちらこちらで起きる爆発に、巻き込まれてさらに爆発する宇宙船。割れる空間に吸い込まれて消える者達の叫び声も、敵を打ち倒した勝利の雄叫びも、虚無がすべて吸い取ってしまいます。鼓動と呼吸、自分自身のリアルだけが残る、激動の中の孤独。
光、光、衝撃。彼は興奮して叫んでいます、劣勢の共和国軍が起死回生で試みた電撃戦、敵の陣深く、次第にその数を減らしながらも、彼の軍団は食い込んでゆき、終には帝国皇帝の宇宙船を照準に捉えて、最後の加速。
……しかし、気がつくと、宇宙を漂う瓦礫の中、彼は漂っています。彼の最後の戦いが終わった時、爆発する宇宙船から脱出した後の事は覚えていません。最後の攻撃の結果も、どうなったか。そのままかれは漂い続けます。動くもののない、先頭の残骸とともに、漆黒の闇の中、自らの無意識につながってゆくその大海の中、男は目をつむりその中に沈み、沈み、幾年がたち、
——目を開けると一面の星空。
男は、今も戦いが何処かで続いているだろう空に向かって、優しくほほ笑みながらその生涯を閉じるのでした。
物語を語るこの私は何処にいて、何者なのだろうかと。いや何物? いやいやそもそも私などと言うのが、物であれ人であれ存在するものなのかと。確かに、今、物語をひねり出し、言葉を重ねてゆく何ものかはここに存在します。それは人間のように見えるでしょう。それは、その何ものかが手を動かしてこの物語がこの世に現れ進んでゆくのは、間違いないのですが、それは「私」と同じなのでしょうか。なかなか出てこない次の言葉に業を煮やし、手を止めて天井を見ている男は「私」なのでしょうか。そんな気もしますが、どうにもあやしいような気もします。その瞬間、何処からか現れた言葉は、私の表面を滑り落ちて、いつの間にか、ちゃっかりと物語の中に埋まります。
で、その言葉と言えば——
銀河大戦
果てしなく続く宇宙。悠久の時の流れの中で、輝く星々に満ち、幾多の生命を育んだそれは、時には、光無き闇の中、幾多の生命を、戦士達の叫びを、血を吸い尽くしたのでした。それは、銀河大戦と呼ばれたその戦いは、何時から始まり、いったい何時になったら終わるものか、それを知るものはもちろんの事、考えて見ることさえできるものはいないのです。分かるのは、今も戦いが続いていると言う事と、それはずっと続いてきたと言う事と……そして今終わる気配さえ無いと言うことでした。戦いは、もう一万年は続いていると言うものもいるし、いやいや一億年は続いていると言うものもいる。あるいは戦いはまだ数秒しか続いていないのだが戦いの衝撃で時間が歪み永遠のように感じられているだけだけだと言うものもいる。果たしてどちらが本当か、その言いあいのために、また一つの銀河大戦が起きているくらいであるが、その戦いもすでに悠久の戦い、いや一瞬と言う者も現れると……時間定義の戦いが起きてまた一つの銀河大戦が起きる。
——永遠に永遠が重なり瞬間となる。
——永遠に永遠が繰り込まれて永遠が膨張してゆきます。
——何度も何度も永遠は繰り返し、
——最後には、
——空っぽ。
銀河の戦い。それは果たして本当に行なわれているものなのか。ここ、星々の果てで、静かな夜空を眺めていると、とてもそんな風には思えないのですが、彼は、自らの生涯の無為をその空の中に思い出します。彼は若いときには敵どころか味方にも恐れられる戦士として結構名の知れたものでした。幾多の敵の戦艦を単身乗り込んだ身一つで破壊して行く姿は今では伝説となっていました。
「しかしすべては幻だ」
彼は小さな声でつぶやきます。失った片足の幻肢の痛みを感じながら、あれほどリアルに感じた戦いの数々が、今では薄れ行く記憶の中にしか存在しないことに寂しさと、そしてちょっとの安堵を感じます。
「俺ももう終わりだな」
戦士としての自分の死と、残された生の絶対を感じながら空を見る、彼の目に映る、瞬く星がその光を消します。今日も銀河のどこか戦いは続き、人々が叫び、星が砕けます。今、空から消えた星はそんな戦場の中にあったものなのかも知れません。
星、流れ星を見て、彼は星々を流星に変える戦いの事を思い出します。無数の光線の飛び交う光年の戦線でした。宇宙船が、密集し、すれ違います。あちらこちらで起きる爆発に、巻き込まれてさらに爆発する宇宙船。割れる空間に吸い込まれて消える者達の叫び声も、敵を打ち倒した勝利の雄叫びも、虚無がすべて吸い取ってしまいます。鼓動と呼吸、自分自身のリアルだけが残る、激動の中の孤独。
光、光、衝撃。彼は興奮して叫んでいます、劣勢の共和国軍が起死回生で試みた電撃戦、敵の陣深く、次第にその数を減らしながらも、彼の軍団は食い込んでゆき、終には帝国皇帝の宇宙船を照準に捉えて、最後の加速。
……しかし、気がつくと、宇宙を漂う瓦礫の中、彼は漂っています。彼の最後の戦いが終わった時、爆発する宇宙船から脱出した後の事は覚えていません。最後の攻撃の結果も、どうなったか。そのままかれは漂い続けます。動くもののない、先頭の残骸とともに、漆黒の闇の中、自らの無意識につながってゆくその大海の中、男は目をつむりその中に沈み、沈み、幾年がたち、
——目を開けると一面の星空。
男は、今も戦いが何処かで続いているだろう空に向かって、優しくほほ笑みながらその生涯を閉じるのでした。
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