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そこにあるのは、真っ白の無。可能性だけが蠢く真空、白いゆえの真の闇。何物もあるがゆえ何物もない真の闇。この闇の中では、時々薄暗い力があちこちで煌いています。それは回り、集まり、もしかしたら、なにかが起きようとしています。それは可能性が転がり落ちて、それが現実に衝突しようとしているところかもしれません。しかし、光、いやまだ光とその他のエネルギーが分かれる前の原初の光。その中にはまだ何もありません。時さえも無い始まり前の闇、何かが始まりそうな予感はあるが、このままいではいつまでたっても何も起きないように思えます。待とうと思ったって、だいたい、まだ時間も存在しないのですから、どうやって待てば良いと言うのでしょう。時間の無い永遠の中にずっと我々は閉じ込められてしまうのか? すべての過剰が相殺された、その平板の中に閉じ込められた我々は、このまま無として生きてゆかなければならないのか。可能性の蠢動としてだけ存在していかなければならないのか?
いや安心ください。その無は、今、無から出でて無ではない世界を作ろうと動き始めました。宇宙が始まりつつあります。何かが始まる予感に無が満ちてきます。ワクワクする可能性。その引き起こす不思議な胸騒ぎに、私のロボットは、その中で目を開きます。その瞬間、周りは光に包まれました。有があつまって無となった場所に原初の光があり、宇宙が始まったのです。歓声が上がり、ひな壇に整列したオーケストラの演奏が始まる。無限の夢の連鎖の中に降りたロボットは、いつの間にか周りに現れた群集に囲まれて、きょとんとしながら立ちすくみます。
すると、——パーティが始まります。宇宙の始まりを祝うパーティの始まりです。始まりの力の舞う空の下、光の中のパーティ。ついに始まったパーティを、待ち切れなかったかのように会場に殺到する参加達。狭い入り口から次から次へと参加者達がなだれ込み、用意されていた会場はあっという間にいっぱいになってゆきます。ロボットの横を、次から次へと、パーティの参加者達が通り抜けて行き、このままではテーブルも料理も直ぐにいっぱいになってしまうのではと、思えます。
しかし不思議なことにテーブルは決していっぱいにはならないようです。人が増えれば増えるだけテーブルの数も増え、どんどんと料理が運ばれてきて、ウェイターの数も増える。オーケストラのメンバーもどんどんと増え、音もどんどん大きく演奏されるようになりますが、音が届かないくらい会場が大きくなっていったらオーケストラが分散して会場のあちらこちらに現れ始める。
パーティはますます大きくなります。まさに幾何級的に。参加者が携帯で電話をかけているのは友達のようで、さそわれてやってきた友達がまた別の友達達に電話をかけて、さらにパーティは大きくなります。この瞬く間の出来事に、ロボットはびっくりして目を丸くしています。
でも、もしかして、祭り事の大好きな自分の主人は、この騒ぎにつれられてこの場に現れるのではと少し期待もしたのですが、あっという間に地平線を越えて広がって行った、このパーティの広さと人数では、やはり目的の人物を探し出すのは至難の業です。そうであれば私のロボットもこのパーティをひとまず楽しんで見たらどうかと思うのですが、
「ああ、このままではとても落ち着かず、探す人が見つからぬまで、落ち着かず」と、とてもそんな様子でもなさそう。
周りでは楽しそうに杯を重ねる、男も女も、老いも若きも、人間もそれ以外も。明るい声の溢れるパーティ会場。宇宙中から集めた美味に美酒。ゆったりとした音楽の中、皆心から楽しんでいます。
そんな中、ただ一人、途方にくれて立っているロボットにウェイターがワイングラスを渡します。
「あの、私はロボットですから」とワインは飲めないと断ろうとすると、
ウェイターがウィンク。
よく見るとワイングラスの中は上質のオイルでした。
その一杯を飲み干すと、ロボットも少し落ち着いてきました。探し人は有るとは言え、あせっても何か変わるわけでなし、それならばこの場は楽しむが良し。
いつの間にかロボットも、陽気な集団の仲間入り。
杯に杯を重ね、互いに高らかに叫びあいます。
「あめでとう」
「おめでとう」
何がおめでとうなのかロボットにはいまいちよく分りませんでしたが、それは周りの連中も同じよう。なんだか良く分からないままに騒いで気分が良くなればそれでよし。たまには浮世のうさを忘れ、こんなのも良いと美味に埋まり、美酒に溺れる。
乾杯、何百回目の乾杯でしょう、
そして音楽はスローに、するとダンスが始まります。
手を取られてロボットも踊ります。次から次へとパートナーがかわり、音楽も変わり。
ダンスの輪は瞬く間に広がって、いつの間にか会場中が踊りだす。いつの間にか見渡す限り一面のダンスの輪。
酔いもまわり良い気分のロボットも、さらに踊る、舞い回る。
乾杯。手渡された杯を片手にまた乾杯。
そして、また、良い気分で踊る今の相手は、ずいぶんと立派そうな風貌の男でした。
古めかしい格好、ローブのような、日本の着物のような、ゆったりとしたした服に身を包み、威厳に満ちた顔は王の様にも哲学者の様にもみえました。
周りと違う威圧感のある姿にロボットは少し酔いもさめてしまいそうなくらい。ステップを失敗しないように踊りも恐る恐る。
足元が気になり、よろりよろり、ひどく酔っているのか相手の足も突然によろめき、このままでは何時足を踏んでしまうかと心配でたまらないのですが、二人してよろけて思わず倒れてしまいそうなのを何とか抑えたその瞬間、
——と、その時ちょうど音楽が止み、ダンスの時間は終了します。
ロボットはほっとしました。この相手にダンスをしくじって足でも踏んでしまったらどうなるのだろうと内心心配でしょうがなかったのです。
ダンスが終わり一礼するロボットに、男はにこやかにほほ笑んで、杯を高らかに上げると、一気に飲み干します。
人の良さそうな赤ら顔になった男を見て、ロボットは、思ったよりこの人は怖い人でもないのかなと思い直していると、
周りでは、
「皇帝陛下だ」「……銀河帝国」とか言う言葉がささやかれています。
この立派そうな男の事でしょうか。
気がつくと、周りは、男よりさらに怖そうなボディガードらしき屈強な宇宙人たちに取り囲まれています。
やはり只者ではなさそうな男とこの場の雰囲気に飲まれて、ロボットはあっという間に酔いも醒め、動きも止まりますが、
「おや君は飲まないのかね。このめでたき日に、この始まりで終わりの饗宴で何を遠慮しているのかね」とその男。
「あ、いえ……」
といつの間にか横にいたウェイターからグラスが渡され、
「それでは乾杯」と男。
ロボットも一気に杯をあおり、それを見て男もうれしそうな顔。
「飲みたまえ、宇宙の子らよ。この輝く星の下、生まれた不幸を笑い、幸福に涙しろ。果てしなく続く歴史の旅人よ、この世は、暗黒と光の交じり合う、表が裏へと続くメビウスの、始まりが終わりを呑みつくすウロボロスの、因果の消え去る今宵こそ、杯をあげ、飲みつくせ」
「……はい」
しかしもうすっかり酔いの醒めたロボットは浮かない顔。酔いが醒めるとまた思い出すのは探し人の事。よく考えたらこんなところで酔っ払って騒いでいる場合ではなかったのです。
「なんだ、何を悩んでおる、おぬし、かまう事はないぞ、この宇宙に在るものならば、全ては私の臣下であり子らである、この帝国の王たるもの名にかけて、我は力になろうぞ。我は……」
男の話はそのままずっと続きそうだったのですが、ロボットはさえぎるように、
「あの……すみません、少し用事がありまして」と。
「用事? 今このパーティの最中に他の用事とは何事ぞ」
銀河皇帝の周りの怖い風貌の宇宙人たちに睨まれてロボットはビクッとしてしまいますが、
「私は探しているのです」と勇気を振り絞って言います。
皇帝はなんだそんな事かと言うような表情をしながら、
「探す? それは物か、人か」と。
いや安心ください。その無は、今、無から出でて無ではない世界を作ろうと動き始めました。宇宙が始まりつつあります。何かが始まる予感に無が満ちてきます。ワクワクする可能性。その引き起こす不思議な胸騒ぎに、私のロボットは、その中で目を開きます。その瞬間、周りは光に包まれました。有があつまって無となった場所に原初の光があり、宇宙が始まったのです。歓声が上がり、ひな壇に整列したオーケストラの演奏が始まる。無限の夢の連鎖の中に降りたロボットは、いつの間にか周りに現れた群集に囲まれて、きょとんとしながら立ちすくみます。
すると、——パーティが始まります。宇宙の始まりを祝うパーティの始まりです。始まりの力の舞う空の下、光の中のパーティ。ついに始まったパーティを、待ち切れなかったかのように会場に殺到する参加達。狭い入り口から次から次へと参加者達がなだれ込み、用意されていた会場はあっという間にいっぱいになってゆきます。ロボットの横を、次から次へと、パーティの参加者達が通り抜けて行き、このままではテーブルも料理も直ぐにいっぱいになってしまうのではと、思えます。
しかし不思議なことにテーブルは決していっぱいにはならないようです。人が増えれば増えるだけテーブルの数も増え、どんどんと料理が運ばれてきて、ウェイターの数も増える。オーケストラのメンバーもどんどんと増え、音もどんどん大きく演奏されるようになりますが、音が届かないくらい会場が大きくなっていったらオーケストラが分散して会場のあちらこちらに現れ始める。
パーティはますます大きくなります。まさに幾何級的に。参加者が携帯で電話をかけているのは友達のようで、さそわれてやってきた友達がまた別の友達達に電話をかけて、さらにパーティは大きくなります。この瞬く間の出来事に、ロボットはびっくりして目を丸くしています。
でも、もしかして、祭り事の大好きな自分の主人は、この騒ぎにつれられてこの場に現れるのではと少し期待もしたのですが、あっという間に地平線を越えて広がって行った、このパーティの広さと人数では、やはり目的の人物を探し出すのは至難の業です。そうであれば私のロボットもこのパーティをひとまず楽しんで見たらどうかと思うのですが、
「ああ、このままではとても落ち着かず、探す人が見つからぬまで、落ち着かず」と、とてもそんな様子でもなさそう。
周りでは楽しそうに杯を重ねる、男も女も、老いも若きも、人間もそれ以外も。明るい声の溢れるパーティ会場。宇宙中から集めた美味に美酒。ゆったりとした音楽の中、皆心から楽しんでいます。
そんな中、ただ一人、途方にくれて立っているロボットにウェイターがワイングラスを渡します。
「あの、私はロボットですから」とワインは飲めないと断ろうとすると、
ウェイターがウィンク。
よく見るとワイングラスの中は上質のオイルでした。
その一杯を飲み干すと、ロボットも少し落ち着いてきました。探し人は有るとは言え、あせっても何か変わるわけでなし、それならばこの場は楽しむが良し。
いつの間にかロボットも、陽気な集団の仲間入り。
杯に杯を重ね、互いに高らかに叫びあいます。
「あめでとう」
「おめでとう」
何がおめでとうなのかロボットにはいまいちよく分りませんでしたが、それは周りの連中も同じよう。なんだか良く分からないままに騒いで気分が良くなればそれでよし。たまには浮世のうさを忘れ、こんなのも良いと美味に埋まり、美酒に溺れる。
乾杯、何百回目の乾杯でしょう、
そして音楽はスローに、するとダンスが始まります。
手を取られてロボットも踊ります。次から次へとパートナーがかわり、音楽も変わり。
ダンスの輪は瞬く間に広がって、いつの間にか会場中が踊りだす。いつの間にか見渡す限り一面のダンスの輪。
酔いもまわり良い気分のロボットも、さらに踊る、舞い回る。
乾杯。手渡された杯を片手にまた乾杯。
そして、また、良い気分で踊る今の相手は、ずいぶんと立派そうな風貌の男でした。
古めかしい格好、ローブのような、日本の着物のような、ゆったりとしたした服に身を包み、威厳に満ちた顔は王の様にも哲学者の様にもみえました。
周りと違う威圧感のある姿にロボットは少し酔いもさめてしまいそうなくらい。ステップを失敗しないように踊りも恐る恐る。
足元が気になり、よろりよろり、ひどく酔っているのか相手の足も突然によろめき、このままでは何時足を踏んでしまうかと心配でたまらないのですが、二人してよろけて思わず倒れてしまいそうなのを何とか抑えたその瞬間、
——と、その時ちょうど音楽が止み、ダンスの時間は終了します。
ロボットはほっとしました。この相手にダンスをしくじって足でも踏んでしまったらどうなるのだろうと内心心配でしょうがなかったのです。
ダンスが終わり一礼するロボットに、男はにこやかにほほ笑んで、杯を高らかに上げると、一気に飲み干します。
人の良さそうな赤ら顔になった男を見て、ロボットは、思ったよりこの人は怖い人でもないのかなと思い直していると、
周りでは、
「皇帝陛下だ」「……銀河帝国」とか言う言葉がささやかれています。
この立派そうな男の事でしょうか。
気がつくと、周りは、男よりさらに怖そうなボディガードらしき屈強な宇宙人たちに取り囲まれています。
やはり只者ではなさそうな男とこの場の雰囲気に飲まれて、ロボットはあっという間に酔いも醒め、動きも止まりますが、
「おや君は飲まないのかね。このめでたき日に、この始まりで終わりの饗宴で何を遠慮しているのかね」とその男。
「あ、いえ……」
といつの間にか横にいたウェイターからグラスが渡され、
「それでは乾杯」と男。
ロボットも一気に杯をあおり、それを見て男もうれしそうな顔。
「飲みたまえ、宇宙の子らよ。この輝く星の下、生まれた不幸を笑い、幸福に涙しろ。果てしなく続く歴史の旅人よ、この世は、暗黒と光の交じり合う、表が裏へと続くメビウスの、始まりが終わりを呑みつくすウロボロスの、因果の消え去る今宵こそ、杯をあげ、飲みつくせ」
「……はい」
しかしもうすっかり酔いの醒めたロボットは浮かない顔。酔いが醒めるとまた思い出すのは探し人の事。よく考えたらこんなところで酔っ払って騒いでいる場合ではなかったのです。
「なんだ、何を悩んでおる、おぬし、かまう事はないぞ、この宇宙に在るものならば、全ては私の臣下であり子らである、この帝国の王たるもの名にかけて、我は力になろうぞ。我は……」
男の話はそのままずっと続きそうだったのですが、ロボットはさえぎるように、
「あの……すみません、少し用事がありまして」と。
「用事? 今このパーティの最中に他の用事とは何事ぞ」
銀河皇帝の周りの怖い風貌の宇宙人たちに睨まれてロボットはビクッとしてしまいますが、
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皇帝はなんだそんな事かと言うような表情をしながら、
「探す? それは物か、人か」と。
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