月の涙

acolorofsugar

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 私のロボットは、いつのまにかまた月に帰り、まだ見ぬ主人を求めて街を歩きます。
 あれほど大げさに万能を語った〈我〉も街の雑踏の中、そのざわめきの中呑み込まれ、裏返しになった宇宙の中、文字に姿を変えて本の中へ。あなたがそれを開く日をまって、じっと書店の角で埃をかぶりながら、時は過ぎます。流れます。
 月は闇。蝕に入り街には灯り。果てしなく続く街灯が、そのまま星になってゆく。
 影が語ります。影こそ語ります。星の光でできる影。私のロボットは、幾多の自分の影と語ります。
 何もかもをいっぺんに語り、何の意味も持たなくなったその言葉。すべてが語られて何も選ぶ事のないその言葉。
 相変わらず途方にくれたロボットは、ため息をつくと、また路地から路地へと彷徨い歩き、街の奥深く、深く、呑み込まれ、消えます。移ろうこの街が、月の海を吹く風に、乗ってどこかに消え去ってしまう、その風に乗り、街に生まれた夢と一緒、私のロボットも、この街と一緒に旅立ったのでしょう。
 夢の後。
 月の上には何もなし。
 街も人もそれ以外も消え、残るのは、輝く星の光に照らされた、砂ばかり。涙が虚無に消え、何億年も、宇宙から降る塵が積み重なったこの月の大地、立つ旗ははためきもせず、そこを歩くものも今はいない。
 宇宙は今日も黒く深く、遠く、未来へと、過去へと、ひたすらに伸びるその中で、物事はすべて有る様に有る。無いように無く、有るからこそ有る、有るものも、無いものも、たぶん、きっと。
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