72 / 99
俺、今、女子パリポ
俺、今、女子野外パーティ参加中
しおりを挟む
さてテントその他の準備ができて、二日間お世話になる我が家が完成して、最初にするのは——食事であった。
萌さんとよし子さんのパリポ二人はさっさと踊りに行きたがるのかと思いきや、まずは腹ごしらえとのことで、ちょっと意外な感じであったが、
「ちゃんと食べとかないと、いいとこでばてちゃうしね」
何でも、昔何も食べずに踊りだして、腹ぺこで大変な目にあったことがあったとのことであった。
二年前くらいのことであるというが、
「まだ野外パーティに慣れてなくて、食料もろくに持ち込んでないじゃない。そこでろくに食べずにずっと踊っていたら、朝方に出店の食事も売り切れちゃって……すごい腹ペコでね」
なんだか本気でつらかったようで目がマジになるよし子さん。
「隣のテントの家族が余ったカップラーメンくれなければ餓死してたかもしれないわ。あのとき。ねえそうよね萌」
「……ええ、ああ。そうね」
もちろんそんなことを萌さんと入れ替わった俺が知るわけもないので、少し焦り気味で相槌をうつ。まあ一晩で餓死はしないと思うが、そのくらいつらかったと言うことなのだろう。そう思って適当に同意をしてみたのだが、
「あれ、萌の反応鈍いな。あの時半狂乱になってたのはあなたの方なのに」
「ウワーアノトキハホントニタイヘンダッタワー」
実感がわかないので、どうしても気持ちが入らない俺の言葉は心に浮かんだセリフ棒読み状態なのであるが、
「そういう過去の経験のおかげで私たちはこんな美味しいごはんが食べられるのですね!」
「ええ……ああ、お口にあって幸いよ」
ヨイショを常に忘れない和泉珠琴の発言がタイミングよく挟まって、俺の反応の薄さはお流れとなる。助かった。
でも、それも、
「いえ、本当に美味しいです。野外でこんな調理器具しかないところで美味しい食事が食べれて感動します……」
よし子さんの料理のおかげ。生田緑もよし子さんの料理の腕に本当にびっくりしてしまっているようだった。
「感動です」
そのおかげで話題は完全によし子さんの調理の話に移る。
確かに、それは大したものだった。このイベントのキャンプエリアは、炭とか焚き火とかは禁止なので、持って来たアウトドア用のちっちゃなガスコンロ三つだけしかつかえないのに、またたく間に五人分の料理をつくってしまうよし子さんの手際。
たしかに驚嘆に値するものであった。
よし子さんは萌さんのマンションで予め仕込んできたタレにつけた牛肉の塊と途中の休憩の道の駅で買った野菜を絶妙な火加減で炒めると、それに合わせて隣のコンロで鍋で炊いたご飯がちょうど炊きあがる。他はやはりあらかじめ作ってきていたマリネとかパテとかの前菜と、肉料理の後にさっと作った地場ハーブとチーズオムレツ。
「野外で食べると味が何割か増し増しになるから。そのせいかと思うけど……」
「いえ、何割か引いても、それでもとてもおしいいです」
確かに、この一週間、よし子さんのすばらしい手料理を食べ続けた俺であるが、その毎日の美味しいごはんに比べても、何割か増しの美味しさに今日は感じられる。初めて食べたリア充コンビには、景色のプラスとあわせれば、これは衝撃的な美味しさだろう。
なにせ、
「すごい夕焼けになってきましたね」
喜多見美亜の指し示す空を見れば、そびえる山々の稜線の向こう側が真っ赤にそまり、それはこの世のものとは思えない美しさ。
「「「「「……」」」」」
思わず絶句しながらも、食べるのはやめない我ら五人は、最高の気分で夕食を終えるのであった。
しかし、そのあと、何するでもなく数分がたてば、
「さあ、そろそろ行きますか!」
よし子さんの呼びかけで、俺たちはついに野外パーティのメイン会場へと向かうのだった。
*
キャンプエリアから百メートルくらい歩いて、着いたのは奥に野外ステージのある、俺の通っていた小学校の校庭くらいの広場であった。でっかいスピーカーに四方を囲まれた、そこが今回のパーティのメイン会場であるらしかった。
そこにいる人の数はまだあまり多くなかったが、パーティのメインの時間帯となる明日の土曜の夜には、去年はそこがいっぱいになるくらいに踊る人々であふれたと言う。ああ、俺の小学校の校庭に全校集会で生徒であふれた時みたいな感じかな?
とも思えば、なるほど、結構大人数だな。それがみんなで大騒ぎなら、結構なもりあがりだろうなと思うが……。
しかし、まあ、俺の通っていた小学校と言われても、お前の通っていた学校の広さなんて知らんよと言われそうである。いや、俺もそう思うが、他に例えが思いつかないので許してほしい。
こう言う時は東京ドームの大きさとか引き合いに出せば良いのかもしれないが、俺は行ったことないし、目の前の広場を東京ドーム何個分といえば良いのかわからない。いや、たぶんこの広場、東京ドームより大きくはないかもしれないから、何分の一個分と言わなきゃいけないのかな?
どっちにしても良くわからない。
しかし……。
というか……。
改めて考えてみれば、世の中の人は、東京ドーム何個分とか言われて、実感湧くのだろうか。
俺は今、東京ドームで広さを表現できなかった自らを鑑みるとともに、世間の人々も本当にそれで広さを実感できているのかと疑問に思う。
だって、そんなにみんな東京ドームに行ったことあるのだろうか?
もしそうだとすれば、一体なんのために行くのだろうか?
野球を見にいくのか? 昔ならいざ知らず。うっすらと覚えている自分の幼年時代。確かにもっと野球は存在感あったような気がするが、今少なくとも若者が必ず見てるなんてことはないと思うが。
じゃあ、何を見にいくのか?
他のスポーツとか? コンサートとかかな?
でも、他のスポーツも俺は興味ないし、俺がスタジアムに行くなんてことがあるとすると声優コンサートくらいしかないが、この頃はばんばんと大会場で行われる声優のコンサートも、武道館とか西武球場とかは聞くが、東京ドームでやったのは水樹奈々くらいしか知らないし。うん、その人は大御所過ぎて、俺が応援したいような声優とはちょっとずれるんだよね。だから俺は東京ドームに行くことはないだろう。
やっぱり、俺が東京ドームを訪問する機会はこのまま一生ないかもしれない。
さっきまで、そんなことをまるで気にもしていなかった、というか思いつきもしなかったが、世間様ではそれが広さの単位としてまかり通っているのだとすれば……。
いったいスタジアムってのはどのくらいの広さなんだ? 世間の人たちはそれをみんな知っているのか? だから東京ドーム何個分とか言われてもピンと来ちゃうのか?
そんなことを思うと、俺が異常なのかと、どんどんと不安になるが、
「あの、珠琴さん……」
「はい! 何ですか!」
俺はちょうど良い感じで横を歩いていたゲスカワリア充に聞いて見ることにする。
「ちょっと聞きたいことがあるのだけれど」
「はい! 何でも! 何でも! 聞いて! くだ! さい!」
異常に気合の入った受け答えの続く和泉珠琴だった。
こいつからしたら、萌さんは、読モやてったりプロモビデオに出たり、超美人のかっこいいお姉様である。痺れる憧れる相手である。お近づきになって何か御利益でもと思っているのか、その応対は体育会系の新入部員かテレビで見たブラック企業の朝礼かと思うような様子であるが、
「東京ドームって行ったことある?」
「はい? 東京ドーム?」
脈略なしに突然『東京ドーム』っていわれて困惑した様子であった。
「ド、ド、ドームちゃうわ……じゃなくて……いえ、行ったことがないとはないようなきがするものの……前向きに検討いたしたく存じますが……行きます。来週まで、いえここから帰ったらすぐ行きます……行きますのでしばしご容赦いただけますとさ幸いに存じますと言うか……」
無理に話を続けて行くうちに、ますます混乱して支離滅裂な感じになってきたが、
……つまり、こいつも行ったことないんだな。
野球とか興味なさそうだものな。ドームで開催しそうな他のスポーツも。そういやこのリア充は音楽の話もあまりしないから、コンサートで行くと言うこともなさそう。
でも、野球やってるいけてる男には興味ありそうだから、どっかの野球部との合コンで東京ドームにでも行ったことがあるかもと思ったが——無いようだ。
「……ああ、別に東京ドームに行ったことがないと何かダメなわけじゃなくて……よく言うじゃない、東京ドーム何個分とかって。この目の前の公園をそれで表現しようかなって思ったんだけど——何個分じゃなくて何分の一個分とかって表現になると思うけど——私も行ったことがないからわからなくて」
「……そう言うことでしたか。私はてっきり素敵な女性になるには東京ドームに行く必要があるのかと」
なんで、素敵な女性がドーム行かなきゃならないんだよ。トンチンカンな答えを返してくるゲスリア充である。HA○AK○かなんかでそう言う特集でもしてるのかよ。
「……この目の前の広場ってちょうど自分が通っていた小学校の校庭くらいの大きさだなって思ったけど、それじゃ違う小学校の人に伝わらないので、他に表現方法がないかなって思って、東京ドームはどうかって思ったのだけど……」
いや、よく考えてみれば、なぜ広さを今表現しなければならないのか、俺の言っていることも支離滅裂だが、
「ああ! そういうことでしたか! なら、心配ありません!」
「……?」
やけに『私に任せろ』みたいな表情の和泉珠琴である。
「大丈夫です! 私の小学校の校庭もこのくらいでした! ちょうどサッカーコート一つ分くらい!」
ああ、そうかそういう言い方すれば良いのね。ちょっと感心した俺に、とても誇らしげなゲスカワリア充であった。単に、校庭の広さを普通に伝えただけといえばだけであるが、……でもなんだか良い雰囲気のまま俺たちの野外パーティはついに始まるのだった。
というわけで……。
そのサッカーコート一つ分だか、東京ドームの何分の一だかの大きさの広場に、俺たちは、パーティが始まって二、三時間経った、集まった人々も程よく気持ちが温まり、盛り上がりはじめた頃に入った。
その時ちょうどかかっているメロディックなピアノのフレーズ、
「チェンジズ・オブ・ライフだ……キャアアアアアアアアアア!」
すると、萌さん——喜多見美亜の体の中にいる——が、お気に入りだったらしいその曲に、入るなり盛り上がって絶叫する。そして、となりの熟練のパーティーピーポーって感じの中年のカップルがつられて叫ぶ。
で、会場の盛り上がりの変化に気づたらしきDJがかけている曲の音響をちょっといじって、ためをつくり、
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
続く激しい歪んだバスドラムにあわせて会場中から歓声が上がり、俺も思わず合わせて叫んでしまう。
それを見て、
「……楽しい……かも」
「……キャー……とか?」
生田緑と和泉珠琴が仲間に入ろうと声を出すが、まだ少し遠慮がち?
しかし、
「みんな、踊りましょ!」
よし子さんに言われるまでもなく踊りはじめた萌さん、つまり喜多見美亜の体が躍動するのを見て、会場を包み込む歓声に合わせて、
「「キャー!」」
今度は腹から声をだしたリア充コンビ。目の前の萌さん(喜多見美亜)の踊るのを見よう見まねで真似ながら、気持ちよさそうに踊り出す。
うん。
「……始まった」
俺は、一気に始まった——動き始めた——感のある宴の様子を見ながら、同時に始まったもう一つの企みも思い起こしながら、まずはちから強く大地を踏みしめて、踊るのであった。
萌さんとよし子さんのパリポ二人はさっさと踊りに行きたがるのかと思いきや、まずは腹ごしらえとのことで、ちょっと意外な感じであったが、
「ちゃんと食べとかないと、いいとこでばてちゃうしね」
何でも、昔何も食べずに踊りだして、腹ぺこで大変な目にあったことがあったとのことであった。
二年前くらいのことであるというが、
「まだ野外パーティに慣れてなくて、食料もろくに持ち込んでないじゃない。そこでろくに食べずにずっと踊っていたら、朝方に出店の食事も売り切れちゃって……すごい腹ペコでね」
なんだか本気でつらかったようで目がマジになるよし子さん。
「隣のテントの家族が余ったカップラーメンくれなければ餓死してたかもしれないわ。あのとき。ねえそうよね萌」
「……ええ、ああ。そうね」
もちろんそんなことを萌さんと入れ替わった俺が知るわけもないので、少し焦り気味で相槌をうつ。まあ一晩で餓死はしないと思うが、そのくらいつらかったと言うことなのだろう。そう思って適当に同意をしてみたのだが、
「あれ、萌の反応鈍いな。あの時半狂乱になってたのはあなたの方なのに」
「ウワーアノトキハホントニタイヘンダッタワー」
実感がわかないので、どうしても気持ちが入らない俺の言葉は心に浮かんだセリフ棒読み状態なのであるが、
「そういう過去の経験のおかげで私たちはこんな美味しいごはんが食べられるのですね!」
「ええ……ああ、お口にあって幸いよ」
ヨイショを常に忘れない和泉珠琴の発言がタイミングよく挟まって、俺の反応の薄さはお流れとなる。助かった。
でも、それも、
「いえ、本当に美味しいです。野外でこんな調理器具しかないところで美味しい食事が食べれて感動します……」
よし子さんの料理のおかげ。生田緑もよし子さんの料理の腕に本当にびっくりしてしまっているようだった。
「感動です」
そのおかげで話題は完全によし子さんの調理の話に移る。
確かに、それは大したものだった。このイベントのキャンプエリアは、炭とか焚き火とかは禁止なので、持って来たアウトドア用のちっちゃなガスコンロ三つだけしかつかえないのに、またたく間に五人分の料理をつくってしまうよし子さんの手際。
たしかに驚嘆に値するものであった。
よし子さんは萌さんのマンションで予め仕込んできたタレにつけた牛肉の塊と途中の休憩の道の駅で買った野菜を絶妙な火加減で炒めると、それに合わせて隣のコンロで鍋で炊いたご飯がちょうど炊きあがる。他はやはりあらかじめ作ってきていたマリネとかパテとかの前菜と、肉料理の後にさっと作った地場ハーブとチーズオムレツ。
「野外で食べると味が何割か増し増しになるから。そのせいかと思うけど……」
「いえ、何割か引いても、それでもとてもおしいいです」
確かに、この一週間、よし子さんのすばらしい手料理を食べ続けた俺であるが、その毎日の美味しいごはんに比べても、何割か増しの美味しさに今日は感じられる。初めて食べたリア充コンビには、景色のプラスとあわせれば、これは衝撃的な美味しさだろう。
なにせ、
「すごい夕焼けになってきましたね」
喜多見美亜の指し示す空を見れば、そびえる山々の稜線の向こう側が真っ赤にそまり、それはこの世のものとは思えない美しさ。
「「「「「……」」」」」
思わず絶句しながらも、食べるのはやめない我ら五人は、最高の気分で夕食を終えるのであった。
しかし、そのあと、何するでもなく数分がたてば、
「さあ、そろそろ行きますか!」
よし子さんの呼びかけで、俺たちはついに野外パーティのメイン会場へと向かうのだった。
*
キャンプエリアから百メートルくらい歩いて、着いたのは奥に野外ステージのある、俺の通っていた小学校の校庭くらいの広場であった。でっかいスピーカーに四方を囲まれた、そこが今回のパーティのメイン会場であるらしかった。
そこにいる人の数はまだあまり多くなかったが、パーティのメインの時間帯となる明日の土曜の夜には、去年はそこがいっぱいになるくらいに踊る人々であふれたと言う。ああ、俺の小学校の校庭に全校集会で生徒であふれた時みたいな感じかな?
とも思えば、なるほど、結構大人数だな。それがみんなで大騒ぎなら、結構なもりあがりだろうなと思うが……。
しかし、まあ、俺の通っていた小学校と言われても、お前の通っていた学校の広さなんて知らんよと言われそうである。いや、俺もそう思うが、他に例えが思いつかないので許してほしい。
こう言う時は東京ドームの大きさとか引き合いに出せば良いのかもしれないが、俺は行ったことないし、目の前の広場を東京ドーム何個分といえば良いのかわからない。いや、たぶんこの広場、東京ドームより大きくはないかもしれないから、何分の一個分と言わなきゃいけないのかな?
どっちにしても良くわからない。
しかし……。
というか……。
改めて考えてみれば、世の中の人は、東京ドーム何個分とか言われて、実感湧くのだろうか。
俺は今、東京ドームで広さを表現できなかった自らを鑑みるとともに、世間の人々も本当にそれで広さを実感できているのかと疑問に思う。
だって、そんなにみんな東京ドームに行ったことあるのだろうか?
もしそうだとすれば、一体なんのために行くのだろうか?
野球を見にいくのか? 昔ならいざ知らず。うっすらと覚えている自分の幼年時代。確かにもっと野球は存在感あったような気がするが、今少なくとも若者が必ず見てるなんてことはないと思うが。
じゃあ、何を見にいくのか?
他のスポーツとか? コンサートとかかな?
でも、他のスポーツも俺は興味ないし、俺がスタジアムに行くなんてことがあるとすると声優コンサートくらいしかないが、この頃はばんばんと大会場で行われる声優のコンサートも、武道館とか西武球場とかは聞くが、東京ドームでやったのは水樹奈々くらいしか知らないし。うん、その人は大御所過ぎて、俺が応援したいような声優とはちょっとずれるんだよね。だから俺は東京ドームに行くことはないだろう。
やっぱり、俺が東京ドームを訪問する機会はこのまま一生ないかもしれない。
さっきまで、そんなことをまるで気にもしていなかった、というか思いつきもしなかったが、世間様ではそれが広さの単位としてまかり通っているのだとすれば……。
いったいスタジアムってのはどのくらいの広さなんだ? 世間の人たちはそれをみんな知っているのか? だから東京ドーム何個分とか言われてもピンと来ちゃうのか?
そんなことを思うと、俺が異常なのかと、どんどんと不安になるが、
「あの、珠琴さん……」
「はい! 何ですか!」
俺はちょうど良い感じで横を歩いていたゲスカワリア充に聞いて見ることにする。
「ちょっと聞きたいことがあるのだけれど」
「はい! 何でも! 何でも! 聞いて! くだ! さい!」
異常に気合の入った受け答えの続く和泉珠琴だった。
こいつからしたら、萌さんは、読モやてったりプロモビデオに出たり、超美人のかっこいいお姉様である。痺れる憧れる相手である。お近づきになって何か御利益でもと思っているのか、その応対は体育会系の新入部員かテレビで見たブラック企業の朝礼かと思うような様子であるが、
「東京ドームって行ったことある?」
「はい? 東京ドーム?」
脈略なしに突然『東京ドーム』っていわれて困惑した様子であった。
「ド、ド、ドームちゃうわ……じゃなくて……いえ、行ったことがないとはないようなきがするものの……前向きに検討いたしたく存じますが……行きます。来週まで、いえここから帰ったらすぐ行きます……行きますのでしばしご容赦いただけますとさ幸いに存じますと言うか……」
無理に話を続けて行くうちに、ますます混乱して支離滅裂な感じになってきたが、
……つまり、こいつも行ったことないんだな。
野球とか興味なさそうだものな。ドームで開催しそうな他のスポーツも。そういやこのリア充は音楽の話もあまりしないから、コンサートで行くと言うこともなさそう。
でも、野球やってるいけてる男には興味ありそうだから、どっかの野球部との合コンで東京ドームにでも行ったことがあるかもと思ったが——無いようだ。
「……ああ、別に東京ドームに行ったことがないと何かダメなわけじゃなくて……よく言うじゃない、東京ドーム何個分とかって。この目の前の公園をそれで表現しようかなって思ったんだけど——何個分じゃなくて何分の一個分とかって表現になると思うけど——私も行ったことがないからわからなくて」
「……そう言うことでしたか。私はてっきり素敵な女性になるには東京ドームに行く必要があるのかと」
なんで、素敵な女性がドーム行かなきゃならないんだよ。トンチンカンな答えを返してくるゲスリア充である。HA○AK○かなんかでそう言う特集でもしてるのかよ。
「……この目の前の広場ってちょうど自分が通っていた小学校の校庭くらいの大きさだなって思ったけど、それじゃ違う小学校の人に伝わらないので、他に表現方法がないかなって思って、東京ドームはどうかって思ったのだけど……」
いや、よく考えてみれば、なぜ広さを今表現しなければならないのか、俺の言っていることも支離滅裂だが、
「ああ! そういうことでしたか! なら、心配ありません!」
「……?」
やけに『私に任せろ』みたいな表情の和泉珠琴である。
「大丈夫です! 私の小学校の校庭もこのくらいでした! ちょうどサッカーコート一つ分くらい!」
ああ、そうかそういう言い方すれば良いのね。ちょっと感心した俺に、とても誇らしげなゲスカワリア充であった。単に、校庭の広さを普通に伝えただけといえばだけであるが、……でもなんだか良い雰囲気のまま俺たちの野外パーティはついに始まるのだった。
というわけで……。
そのサッカーコート一つ分だか、東京ドームの何分の一だかの大きさの広場に、俺たちは、パーティが始まって二、三時間経った、集まった人々も程よく気持ちが温まり、盛り上がりはじめた頃に入った。
その時ちょうどかかっているメロディックなピアノのフレーズ、
「チェンジズ・オブ・ライフだ……キャアアアアアアアアアア!」
すると、萌さん——喜多見美亜の体の中にいる——が、お気に入りだったらしいその曲に、入るなり盛り上がって絶叫する。そして、となりの熟練のパーティーピーポーって感じの中年のカップルがつられて叫ぶ。
で、会場の盛り上がりの変化に気づたらしきDJがかけている曲の音響をちょっといじって、ためをつくり、
「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
続く激しい歪んだバスドラムにあわせて会場中から歓声が上がり、俺も思わず合わせて叫んでしまう。
それを見て、
「……楽しい……かも」
「……キャー……とか?」
生田緑と和泉珠琴が仲間に入ろうと声を出すが、まだ少し遠慮がち?
しかし、
「みんな、踊りましょ!」
よし子さんに言われるまでもなく踊りはじめた萌さん、つまり喜多見美亜の体が躍動するのを見て、会場を包み込む歓声に合わせて、
「「キャー!」」
今度は腹から声をだしたリア充コンビ。目の前の萌さん(喜多見美亜)の踊るのを見よう見まねで真似ながら、気持ちよさそうに踊り出す。
うん。
「……始まった」
俺は、一気に始まった——動き始めた——感のある宴の様子を見ながら、同時に始まったもう一つの企みも思い起こしながら、まずはちから強く大地を踏みしめて、踊るのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる