俺、今、女子リア充

acolorofsugar

文字の大きさ
28 / 99
俺、今、ある意味女子リア充

女子体育祭中

しおりを挟む
 ——そして、沙月の家でのホームパーティをした週末が終わり、週明けの学校で、昼休みのことだった。喜多見未亜の体に戻った俺は、百合ちゃんに廊下で呼び止められると、
「私、さっちゃんとは少し距離をとってみたいと思います」
 と、なんとも衝撃的な言葉を投げかけられたのだった。
 いや、そうなるかもと全く予想してなかったといえば嘘になるけど。
 俺がここしばらく、百合ちゃんと入れ替わってから、彼女を助けようと奮闘した結果は、誰も喜ぶ者のいない、どうにもやりきれない結末へと至ってしまったようだった。
「なんで……」
 と俺は言う。
 土曜日、沙月と百合ちゃんの二人は最後は抱き合って泣き崩れ、そのままどっちがどっちにあやまっているのか、どっちがどっちに怒っているのかも分からないほどぐちゃぐちゃに感情をぶつけ合っていた。
 それは、とても、美しいとか感動的とか言えるものではなかったけど、しかし本心を隠さずにぶつけ合って——相手が傷つくのも、その関係が壊れてしまうのもかまわずに心をさらけ出して——もしかしたらそこで新しい二人の関係が生まれるのではと俺は期待しないでもなかったのだった。
 でも、
「——やっぱり、起きてしまったことは、無くすことはできないんです。気にしなくても、許しても——なんだか私たちは、昔の私たちでは無くなってしまっていました」
 そうなのだった。全てをさらけ出して、虚飾を剥いで、本当の自分をさらけ出して、本当の親友だった二人が見たものは、長年の嘘の下で、良くも悪くも(悪くも良くも?)大きく変わっていた相手の姿であったのだった。
 それでも、そこから、二人は元に戻れるのでは? ——なんて期待するのは、二人がなんとか続けていた関係をぶち壊した俺が言える義理ではないのだが……
「それに気にしないって言っても、やっぱり全部は無理です。私も、やっぱりさっちゃんを恨んじゃうし、さっちゃんも私になんだか複雑な感情を持ってしまうようです。このまま、昔みたいに戻ろうって、努力を続けても、今は帰ってどんどんそれから遠ざかってしまいそうな気がします」
 俺は、無言で顔を伏せた。結局、俺は百合ちゃんに何もしてあげられなかった。それどころか、彼女がひどい境遇に耐えても一縷の望みを抱いていた沙月との関係修復、その長年の努力もふいにしてしまったのだった。
「ごめん……」
 俺は、元気なく小さな声で呟く。
「ごめん?」
 百合ちゃんは、不思議そうに俺を見ながら言う。
「だって、俺が余計な事をしなければ、もしかして百合ちゃんはこの後、沙月と仲直りの機会があったかもしれない。でも、俺が余計な事をいろいろ動いて、こんなことにしてしまった……」
「……うん、なるほど。まあ、そうですね」
「おまけに、こんな沙月との話、クラスのみんなに、話さない方が良いよね?」
 首肯する百合ちゃん。
「なら、結局百合ちゃんはまだいない者アンタッチャブルのままで、結局事態は何も好転していない」
 俺がやったことは全部無駄どころが、余計に悪くしただけだったのだった。
 俺は、改めて、自分がやらかしてしまったことの取り返しのつかなさに落ち込み、肩を落とすのだった。
 だが、
「好転してない? そうでしょうか?」
 百合ちゃんはなんだかずいぶんと明るく、まるで、悩みがふっきれたかのような口調で言う。
「さっちゃんと、距離を取ってみようとは言いましたが、絶交するとか私は言ってるわけではありませんよ」
「でも、今は会う気が起きないんだよね」
「はい。今、彼女と会ったら、私はなんだか彼女にひどい事をつい言ってしまいそうな気がするし、さっちゃんも私に自然に接することは無理だと思います」
「やっぱり、会えないんだよね。俺のせいで……」
「そうですね。でも、それはあくまで『今』ですよ」
「今?」
「私たちは、無駄に長く、ずるずるともつれ歪んだ感情にとらわれていました。それがちゃんとほどけるには、やっぱり時間がかかるのではないでしょうか」
「それは……」
「いえ、違います。向ケ丘くん……」
 百合ちゃんは俺を見てにっこりと微笑むと、
「今回は、大変ありがとうございました」
 深く礼をするのだった。

   *

 ——時間がかかる。

 その言葉の意味を、俺は後に知ることになる。
 この事件と、その後の様々なドタバタがを経て、数年後の事。
 もう大学生やら、社会人やらになっている当時の仲間たちが一堂に会した、同窓会みたいなもの。
 なんだか入れ替わりを通じて、本気で____他人じゃない__#__#感じになっていた俺たちは、その後のいろいろな紆余曲折も超えて、なんだかいろんな大人な関係も生まれたり、無くなったりの、いっちょまえの青春模様もあった後……
 いやこれは話し始めると長くなるので結論だけいうと……
 そんな風に定期的に会って飲み会なんか開いていた俺たちの元に、ある日、沙月がやってきたのだった。そのちょっと前から、実は百合ちゃんとは関係が戻っていたと言う彼女は、俺たちの前には本当に久々に現れたのだったが、そんな彼女が、みんなに向かって、
「みなさん、あの時は、本当にありがとう。そして、ごめんなさい」
  と言いながら、深い思いが込められた礼をした時に、俺は理解したのだった。
 世の中、なんだか時間がかかる、いや、時間しか解決できないものがあるのだと。
 世の中って、人間って、そんなもんなんだと。

 で……

「未亜! 次が勝負よ!」

 そんな未来の話はおいといて、____今__#__#、俺、女子リア充で体育祭中だ。
 俺は斜に構えたオタクとしてまことに不本意ながら、なんだかすごいリアルで重要な場面にいる。
 体育祭の女子バレー、俺は今、その決勝を戦っているのだった。
 それも試合を決める最後の最後の瞬間。敵と味方が2セットづつ取って、最終セットにまでもつれこんだこの試合、こちらのサーブで始まる、このラリーで点を取れば我がクラスの勝利となる。そんな重要な瞬間に俺はいたのだった。
 俺は、喜多見未亜あいつの体に戻った後、結局、体育祭ではバレーボールのクラス代表にエントリーさせられていたのだった。百合ちゃんが自分の体の中に入っていた時は、試合参加はあきらめぎみで、何か理由をつけてバレーの代表は辞退しようとしていたあいつだったが、俺が中に戻ったらちょっと欲が出た。
 と言うか鬼が出た。
 その犠牲者が俺だった。
 辞退なんてクラスが意気消沈してしまうようなことをせずに、俺を鍛えてなんとかできないかと、あいつは思ったのだった。クラスのみんなの期待にもこたえて、なんとか中学時代の名選手の評判に恥じない試合を「俺」にさせようと思ったのだった。
 で、鬼コーチと言うか鬼そのものに変貌したあいつは、その後、俺を鍛えに鍛えた。何度も(心の中のイメージ的に)ちゃぶ台をかえされて罵倒されたり、(やっぱりイメージ的に)コンダラ引っ張らさせられて鍛えられた俺。
 そして遂に迎えた体育祭。チームメイトの女子たちと一緒に奮闘したかいもあり、——この日、一年の我がクラスが三年と決勝を戦うまでに至ったのだった。
 正直俺もがんばったよ。女子の中で男が本気出してるのずるい感じもするが、中学校時代は県の強化選手、有名高校がスカウトにもきたと言う喜多見未亜あいつの替わりだ。少しはバレーの経験があるとはいえ、俺が、いくら本気出したってあいつの足元にも及ばないだろうし……
 だから、俺は少しでもあいつの評判を落とさないように一心不乱にゲームに集中するのだった……
 そして、それも今がクライマックス。
 ——頑張りどころ!
「未亜、次ボール上がったらお願い」
 セッターのクラスメイトの女子が、俺の耳元で囁いたあとに出したサインは速攻のAクイック。シーソーゲームの果て、これで決めれば勝負が決まるが、相手にサーブが渡ったら、そのまま盛り返されてしまいそうなぎりぎりの我が方の精神状態。
「……うぷっ」
「……?」
 なんだか吐きそうなくらいくらい緊張して、胃液が上ってくるを感じた俺。
 うん、やばい。
 なんだが、こんなリア充の大舞台は慣れてなくて、緊張してうっかりしっぱいしてしまいそうな感がマシマシとなってくる俺であった。

 しかし、

「未亜さん! がんばって!」

 その声に振り向けば、クラスの連中がなんだかびっくりして、一瞬言葉を失っている様子。ああ、なるほど。それは——なにしろ、そんなふうに喜多見未亜に声援を送ったのが、いない者アンタッチャブル、麻生百合であったからだった。
 ずっとじっと隅でおとなしくしていた彼女が突然声をあげたことに当惑しているクラスの連中。その顔はどう見ても歓迎の表情ではない。いや、彼女が突然さけんだことに、ドン引きして、仲間面するなと明らかな不快な表情を浮かべたものさえいたが、

「がんばって!」

 そんな外野の心持ちなどかまわずに、力一杯、まっすぐに俺(喜多見未亜)を見て叫ぶ、百合ちゃん。
 それは、とても楽しそうで、とても美しかった。
 そして、
「未亜負けるな!」
 百合ちゃんのことをちらりと見て、にっこりと笑ってから声援を送る女帝、生田緑。
 それならば、
「未亜、みんな、ここが踏ん張りどこよ!」
 和泉珠琴もそれに続かないわけがなく。
「がんばれ!」
「負けるな!」
 リア充トップ2が声援を送ればクラス中がそれに呼応して……うんなんだか、絶対に負けられない、負けない。そんな気分が盛り上がってくる。
 そして、後ろからサーブを打つ音が聞こえ。その瞬間百合ちゃんが、声に出さずに口を動かしたその言葉は……

(向ケ丘くん! 頑張れ!)

 そんな風に言っているように見えた。

 ならば……
 
 ポンと俺の前に素早く上がったボール。

 あらかじめジャンプしていた俺は腕を思いっきり振り下ろし……

 コートは大歓声に包まれるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...