俺、今、女子リア充

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俺、今、ある意味女子リア充

女子体育祭中

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 ——そして、沙月の家でのホームパーティをした週末が終わり、週明けの学校で、昼休みのことだった。喜多見未亜の体に戻った俺は、百合ちゃんに廊下で呼び止められると、
「私、さっちゃんとは少し距離をとってみたいと思います」
 と、なんとも衝撃的な言葉を投げかけられたのだった。
 いや、そうなるかもと全く予想してなかったといえば嘘になるけど。
 俺がここしばらく、百合ちゃんと入れ替わってから、彼女を助けようと奮闘した結果は、誰も喜ぶ者のいない、どうにもやりきれない結末へと至ってしまったようだった。
「なんで……」
 と俺は言う。
 土曜日、沙月と百合ちゃんの二人は最後は抱き合って泣き崩れ、そのままどっちがどっちにあやまっているのか、どっちがどっちに怒っているのかも分からないほどぐちゃぐちゃに感情をぶつけ合っていた。
 それは、とても、美しいとか感動的とか言えるものではなかったけど、しかし本心を隠さずにぶつけ合って——相手が傷つくのも、その関係が壊れてしまうのもかまわずに心をさらけ出して——もしかしたらそこで新しい二人の関係が生まれるのではと俺は期待しないでもなかったのだった。
 でも、
「——やっぱり、起きてしまったことは、無くすことはできないんです。気にしなくても、許しても——なんだか私たちは、昔の私たちでは無くなってしまっていました」
 そうなのだった。全てをさらけ出して、虚飾を剥いで、本当の自分をさらけ出して、本当の親友だった二人が見たものは、長年の嘘の下で、良くも悪くも(悪くも良くも?)大きく変わっていた相手の姿であったのだった。
 それでも、そこから、二人は元に戻れるのでは? ——なんて期待するのは、二人がなんとか続けていた関係をぶち壊した俺が言える義理ではないのだが……
「それに気にしないって言っても、やっぱり全部は無理です。私も、やっぱりさっちゃんを恨んじゃうし、さっちゃんも私になんだか複雑な感情を持ってしまうようです。このまま、昔みたいに戻ろうって、努力を続けても、今は帰ってどんどんそれから遠ざかってしまいそうな気がします」
 俺は、無言で顔を伏せた。結局、俺は百合ちゃんに何もしてあげられなかった。それどころか、彼女がひどい境遇に耐えても一縷の望みを抱いていた沙月との関係修復、その長年の努力もふいにしてしまったのだった。
「ごめん……」
 俺は、元気なく小さな声で呟く。
「ごめん?」
 百合ちゃんは、不思議そうに俺を見ながら言う。
「だって、俺が余計な事をしなければ、もしかして百合ちゃんはこの後、沙月と仲直りの機会があったかもしれない。でも、俺が余計な事をいろいろ動いて、こんなことにしてしまった……」
「……うん、なるほど。まあ、そうですね」
「おまけに、こんな沙月との話、クラスのみんなに、話さない方が良いよね?」
 首肯する百合ちゃん。
「なら、結局百合ちゃんはまだいない者アンタッチャブルのままで、結局事態は何も好転していない」
 俺がやったことは全部無駄どころが、余計に悪くしただけだったのだった。
 俺は、改めて、自分がやらかしてしまったことの取り返しのつかなさに落ち込み、肩を落とすのだった。
 だが、
「好転してない? そうでしょうか?」
 百合ちゃんはなんだかずいぶんと明るく、まるで、悩みがふっきれたかのような口調で言う。
「さっちゃんと、距離を取ってみようとは言いましたが、絶交するとか私は言ってるわけではありませんよ」
「でも、今は会う気が起きないんだよね」
「はい。今、彼女と会ったら、私はなんだか彼女にひどい事をつい言ってしまいそうな気がするし、さっちゃんも私に自然に接することは無理だと思います」
「やっぱり、会えないんだよね。俺のせいで……」
「そうですね。でも、それはあくまで『今』ですよ」
「今?」
「私たちは、無駄に長く、ずるずるともつれ歪んだ感情にとらわれていました。それがちゃんとほどけるには、やっぱり時間がかかるのではないでしょうか」
「それは……」
「いえ、違います。向ケ丘くん……」
 百合ちゃんは俺を見てにっこりと微笑むと、
「今回は、大変ありがとうございました」
 深く礼をするのだった。

   *

 ——時間がかかる。

 その言葉の意味を、俺は後に知ることになる。
 この事件と、その後の様々なドタバタがを経て、数年後の事。
 もう大学生やら、社会人やらになっている当時の仲間たちが一堂に会した、同窓会みたいなもの。
 なんだか入れ替わりを通じて、本気で____他人じゃない__#__#感じになっていた俺たちは、その後のいろいろな紆余曲折も超えて、なんだかいろんな大人な関係も生まれたり、無くなったりの、いっちょまえの青春模様もあった後……
 いやこれは話し始めると長くなるので結論だけいうと……
 そんな風に定期的に会って飲み会なんか開いていた俺たちの元に、ある日、沙月がやってきたのだった。そのちょっと前から、実は百合ちゃんとは関係が戻っていたと言う彼女は、俺たちの前には本当に久々に現れたのだったが、そんな彼女が、みんなに向かって、
「みなさん、あの時は、本当にありがとう。そして、ごめんなさい」
  と言いながら、深い思いが込められた礼をした時に、俺は理解したのだった。
 世の中、なんだか時間がかかる、いや、時間しか解決できないものがあるのだと。
 世の中って、人間って、そんなもんなんだと。

 で……

「未亜! 次が勝負よ!」

 そんな未来の話はおいといて、____今__#__#、俺、女子リア充で体育祭中だ。
 俺は斜に構えたオタクとしてまことに不本意ながら、なんだかすごいリアルで重要な場面にいる。
 体育祭の女子バレー、俺は今、その決勝を戦っているのだった。
 それも試合を決める最後の最後の瞬間。敵と味方が2セットづつ取って、最終セットにまでもつれこんだこの試合、こちらのサーブで始まる、このラリーで点を取れば我がクラスの勝利となる。そんな重要な瞬間に俺はいたのだった。
 俺は、喜多見未亜あいつの体に戻った後、結局、体育祭ではバレーボールのクラス代表にエントリーさせられていたのだった。百合ちゃんが自分の体の中に入っていた時は、試合参加はあきらめぎみで、何か理由をつけてバレーの代表は辞退しようとしていたあいつだったが、俺が中に戻ったらちょっと欲が出た。
 と言うか鬼が出た。
 その犠牲者が俺だった。
 辞退なんてクラスが意気消沈してしまうようなことをせずに、俺を鍛えてなんとかできないかと、あいつは思ったのだった。クラスのみんなの期待にもこたえて、なんとか中学時代の名選手の評判に恥じない試合を「俺」にさせようと思ったのだった。
 で、鬼コーチと言うか鬼そのものに変貌したあいつは、その後、俺を鍛えに鍛えた。何度も(心の中のイメージ的に)ちゃぶ台をかえされて罵倒されたり、(やっぱりイメージ的に)コンダラ引っ張らさせられて鍛えられた俺。
 そして遂に迎えた体育祭。チームメイトの女子たちと一緒に奮闘したかいもあり、——この日、一年の我がクラスが三年と決勝を戦うまでに至ったのだった。
 正直俺もがんばったよ。女子の中で男が本気出してるのずるい感じもするが、中学校時代は県の強化選手、有名高校がスカウトにもきたと言う喜多見未亜あいつの替わりだ。少しはバレーの経験があるとはいえ、俺が、いくら本気出したってあいつの足元にも及ばないだろうし……
 だから、俺は少しでもあいつの評判を落とさないように一心不乱にゲームに集中するのだった……
 そして、それも今がクライマックス。
 ——頑張りどころ!
「未亜、次ボール上がったらお願い」
 セッターのクラスメイトの女子が、俺の耳元で囁いたあとに出したサインは速攻のAクイック。シーソーゲームの果て、これで決めれば勝負が決まるが、相手にサーブが渡ったら、そのまま盛り返されてしまいそうなぎりぎりの我が方の精神状態。
「……うぷっ」
「……?」
 なんだか吐きそうなくらいくらい緊張して、胃液が上ってくるを感じた俺。
 うん、やばい。
 なんだが、こんなリア充の大舞台は慣れてなくて、緊張してうっかりしっぱいしてしまいそうな感がマシマシとなってくる俺であった。

 しかし、

「未亜さん! がんばって!」

 その声に振り向けば、クラスの連中がなんだかびっくりして、一瞬言葉を失っている様子。ああ、なるほど。それは——なにしろ、そんなふうに喜多見未亜に声援を送ったのが、いない者アンタッチャブル、麻生百合であったからだった。
 ずっとじっと隅でおとなしくしていた彼女が突然声をあげたことに当惑しているクラスの連中。その顔はどう見ても歓迎の表情ではない。いや、彼女が突然さけんだことに、ドン引きして、仲間面するなと明らかな不快な表情を浮かべたものさえいたが、

「がんばって!」

 そんな外野の心持ちなどかまわずに、力一杯、まっすぐに俺(喜多見未亜)を見て叫ぶ、百合ちゃん。
 それは、とても楽しそうで、とても美しかった。
 そして、
「未亜負けるな!」
 百合ちゃんのことをちらりと見て、にっこりと笑ってから声援を送る女帝、生田緑。
 それならば、
「未亜、みんな、ここが踏ん張りどこよ!」
 和泉珠琴もそれに続かないわけがなく。
「がんばれ!」
「負けるな!」
 リア充トップ2が声援を送ればクラス中がそれに呼応して……うんなんだか、絶対に負けられない、負けない。そんな気分が盛り上がってくる。
 そして、後ろからサーブを打つ音が聞こえ。その瞬間百合ちゃんが、声に出さずに口を動かしたその言葉は……

(向ケ丘くん! 頑張れ!)

 そんな風に言っているように見えた。

 ならば……
 
 ポンと俺の前に素早く上がったボール。

 あらかじめジャンプしていた俺は腕を思いっきり振り下ろし……

 コートは大歓声に包まれるのだった。
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