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俺、今、女子オタ充
俺、今、女子メイド喫茶中
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——で、俺は、同人ショップを出てから、少し歩くと、雑居ビルの二階にあるメイド喫茶に入るのだった。俺は、さっき買った同人誌をそこで読もうと思ったのだった。
ここは——そのメイド喫茶は——俺の、体が入れ替わる前の行きつけの場所だった。
俺は、秋葉原にくればほとんどここに寄ってたのだから、となれば、結果的に、中学校二年くらいからは、月に二、三回は来ていたことになるだろう。
ここは、奇をてらわず、無理をせず、——言ってしまえば、芸のない凡庸な喫茶なのだが、……程よく構ってくれて、程よくほおっておかれて、——俺見たいな、趣向をこらしすぎてたり、頑張りすぎているメイド喫茶には気後れしてしまって落ち着かないような男にぴったりの場所なのであった。
俺は、そんな、久々の俺的癒しスペースにやって来くると、シャレオツで意識高い系を演じることを強制された近頃の生活から一瞬解放されたような気がして、なんだかホッとして、——自分の家であるかのように感じ、我がもの顔で店内の奥に進もうとするのだが、
「「「お帰りなさいお嬢様!」」」
「んっ?」
俺は、メイドさんたちにお嬢様と言われて少しきょとんとしてしまう。
俺——お嬢様? ああ、そうか。
ああ、俺、今は少女の中の人だったんだと、すぐに自分の今の境遇を思い出し、取り作ったような笑顔で会釈をする。
うん。素で自分が女になってたこと忘れてた。
それは、なんだか馴染みの場所に久々に戻って来て、俺が「俺」であると思ってしまった、自分を一瞬取り戻したような気がしていた。そんな、理由もありそうだが……
もっと言えば、なんだか、いつのまにか喜多見美亜と自分の区別がつかなくなって来たような気がしてた。あいつの生活を向ケ丘勇がしているような気がする、それが普通の生活に思えて来て……
俺はちょと不安になる。
実は、これってなんかやばくないの? 俺的にも、もしかしたらあいつ的にも?
随分と長く、入れ替わり状態のままでいてしまったので、俺たちの自我がなんか混ざって、その区別が危うくなっている。そんな気がしてしまうのだった。
ならば——そんなことを思うと、俺はその場に少し固まってしまうのだが、
「こちらにどうぞ」
メイドさんに言われハッとする俺。
——そのまま空いている席に案内され、座る。
そして、
「お嬢様はここは初めてですか?」
メイドさんはにっこりと微笑みなながら言う。
俺は、その馴染みの笑顔に、思わず、
「あっ、いえ……じゃなくて、はい。初めてです」
危うく「俺」自身のことを言いそうになるののだが、危うく言葉を正す。
すると、
「そうですか……それはようそこいらっしゃいました。初めましてスズメです」
と言って、お辞儀をしながら、にっこりと微笑んでくれるチーフメイドのスズメさん。
それを見て、もう俺と何度もあってるでしょ、と言うか美少女としてやって来ると、いつものぞんざいな扱いと随分ちがうもんだな、この人そっちの気あるとか言ってたけど本当っぽいな、——とか言う今の自分の気持ちが顔に出ないように注意しながら、手渡されたメニューを受け取るのだったが、
「ご注文はお決まりでしょうか? お決まりの頃また伺いますか?」
「いえ……このオム・ナポリタンの萌え萌えビームマシマシセットで……ドリンクはすぅいーと・きゅんきゅん・べりべり・そーだ氷少なめでお願いします。あっ、オム・ナポリタンに書く文字は『ゆうちゃん』でお願いします……」
と初めてにしては、よどみなさすぎる流暢さで、一気に注文を言うのだった。
スズメさんは、初見さんがなんだか常連みたいな雰囲気をかもしだしている、その様子をなんだか不審そうにおもっていながらも、
「まあ、お嬢様。初めてなのにその選択。この店の一番の組み合わせを一見の見抜くとはさすがですわ」
動揺を見せずにプロの接待を続けるのだが、
「お名前はゆう……? 『ゆうこ』さんとか『ゆうか』さんとか?」
しまった、
「いえ、あっ……」
ついうっかり習慣で自分の名前を言ってしまったことに気づく俺だった。
ならば、
「——『ゆう』です」
これはこのまま「ゆう」で通すしかないよね。
でも、
「——あれ、失礼しました。そうですね『ゆう』って普通に女の子の名前ですものね」
うん、俺、そう言う名前で良かった。
こんなこともあろうかと、男女共用の名前をつけてくれた親に感謝か。いや、こんな事態を想定は絶対にしてなかっただろうけど。まあ、助かったのは事実なので、とりあえず両親に感謝をしながら、一礼して次に入ってきたご主人様に向かうスズメさんの後ろ姿を見送る。
俺は、そのまま買った斉藤フラメンコ先生の同人誌を読み始めるのだった。
そして……
「うむ……」
なんだこれは?
俺は、その同人マンガを読み進めて、なんだか妙な気分になった。
いや、同人誌が面白くなかったわけじゃないよ。いつもの、二次創作の枠を超えたと言うか、ほぼオリジナルの、斉藤フラメンコ先生の独特のエネルギーあふれた絵とストーリーに俺は冒頭からグッと引き込まれた訳だが、なんだこれ……?
主人公の少女は中学校時代はバレーボールの名選手だったが、背が伸びないためにやめたという、なんだか似たようなキャラクターの少女を知っているような、いないような設定。
いや、そのマンガの中の少女は、バレーボール選手としては低い背をカバーするため、合気道の達人の祖母から触らずに対戦相手を転ばす空気投げの秘術を授けられて選手に復活する。
すると、合気道の主人公に対抗して、ライバル高校の選手が催眠術の天才でやはり触らずに主人公たちを転ばそうとするという超展開。
バレーと言うよりは異能バトルマンガになるので、こんな非現実的な設定に、違うもあってるもないが。そのあとの物語は……
「なんだこりゃ」
その主人公は実は、中身は男(男子高校生提督)と入れ替わっていて、心技体が揃わないとできない合気の秘術が出せないためにライバルに負けそうになる。その時に、少女が入れ替わった男子学生とみんなの前で、
「今なら戻れると思うの」
「そうだな」
キスをして元に戻るのだった。
そして試合に勝ち、二人はカップルになってハッピーエンドと言う物語なんだが……その提督と呼んでれば良いはずの男子高校生提督にはあえて名前が付いていて、
「ユウ……だって……?」
これって、なんだか、俺と喜多見美亜の話がばれてないか?
俺はあまりの内容の一致に、愕然としながらマンガを閉じるのだったが……
「ふうん、もしかしてこんなふうにすれば私たちも元に戻れるのかもね」
「へっ?」
振り返って、俺は椅子からずり落ちそうになるほどに驚く。
そこには、ニコニコとしながらも、眉間にしわを寄せた、俺、向ケ丘勇——つまり喜多見美亜がいたのであった。
*
ハードディスクに続いて、二度目の、痛恨の失敗だった。スマホの検索で俺の居場所は喜多見美亜にバレていたのだった。
俺が今持っているスマホは当然あいつのものだった。あいつになりきらないといけない俺はあいつのスマホで、あいつの交友関係者と連絡を取らないといけない。なのであいつは、少し逡巡しながらも俺に自分のスマホを渡した。まあ、かなりいやそうだったけど、しょうがなくと言った感じでだった。
でも、それはまあ、しょうがないとあいつも納得していた。あいつのリア充ライフの核となるギアは、あいつのものでないとだめなのだ。だが、それは、あいつの秘密の塊みたいなもんだ。だから、あいつは慎重に過去のメールとか着信記録とかSNSのログとか消されたり移動したりしたあと、素に近い状態にして俺に渡したのだった。
とは言っても、マルチアカウント用にセキュリティをかけたわけではないし、そんな電子機器に強いわけでもない女子高生が急場でやった削除作業など穴だらけなんだろうが……そもそも俺はリア充の生活の覗こうなんて気がさらさら起きないのであいつのプライバシーは保たれているのであった。
と言うか、そもそも、俺はこのスマホになるべく触りたくないのだった。
スマホが震えたならば、俺にとってはそれは黙示録の始まるラッパの音に等しいのだった。だって、それは、リア充連中となんらかのコミニケーションを取らないといけないことが始まってしまうと言う合図であったのだった。
着信、その瞬間、俺は、心臓がばくばく言って、挙動不審になってしまうのであった。電話恐怖症だった。SNS恐怖症だった。だから、俺はこのスマホのことなんて考えたくもない。だから、俺はスマホの設定なんてあんまり深く考えずにいたのだったが……
「最初は、あんたが、どんな男か分からなかったから、保険で自分のケータイに位置サーチ機能許可しておいたのよね。変な行動してたりしないかとか、どんな奴だとかわりと行く場所確認すればわかることあるでしょ……」
あいつの携帯のサーチ機能で俺の居場所はあいつにずっとモロばれだったのであった。
「まあでも、結果は、あんたは私の指事以外の場所にはほとんどに行かない……そもそも出かけたい先なんてほとんど無い真性の引きこもり野郎だったってことだけど——なんだか今日は随分と不思議な動きをしたので追いかけてみれば……確かにあなたなら秋葉原に来るって言うのはありそうなことね……予想するべきだったわ」
「…………」
「今日は緑や珠琴の合コンを断ってどうするのかと思ったら、こう言う動きだったとはね。ずっと行動見張ってて初めてよね。こんな大胆なことしたの。引きこもりもやるときゃやるのね」
「…………」
いや、俺が秋葉原に来るのは大胆でもないのだが、生田緑の命令に逆らってまでと言うのは、確かに今考えれば、我ながら大胆な行動だったと言える。
「うん。こういうことするんだったら、ずっと見張っておいたかいがあるってものだわ。正直、全然代わり映えのしない行動しかしないあんたを見張るの少し飽きて来てたのよね」
「…………」
いや、しかし、俺はドヤ顔のこいつを見ながら思う。
なんだが、偉そうに言ってるけど、この話だと、こいつはずっと俺の行く先を監視していたってことじゃないか? それって……
「ストーカー……」
「はい? 何ですって?」
「いえ、何でもありません。旧ソ連の名作映画です」
俺は、有無を言わせぬあいつの勢いに、言いかけた言葉を飲み込むと、——ああ、このタイミングだ、
「ともかく——悪かった!」
テーブルに頭を打ち付けんばかりに平身低頭で謝るのだった。
「……?」
「——秋葉原に来てしまって悪かった」
俺はこいつと余計な話をして、傷口が広がらないうちに、リア充美少女をオタクの街に連れて来た非礼について、さっさと謝ってしまおうと思ったのだった。
「こんなとこ……?」
なんだか淡々としたあいつの口調だっだ。うわっ、すぐ感情的になるあいつがこれは、——結構怒ってるのかな。
俺は少しビビって声を震わせながら言う。
「決してお前のリア充ライフを貶めようなんて思ってたわけじゃないんだ」
「……?」
「どうしても耐えられなかったんだ。入れ替わりがいつ元にもどるか分からないし、このままずっと秋葉原にこれ無いのかと思ったらつい……」
「『つい』……?」
「リア充がオタク街に来ちゃいけないのは知っている。でも今回だけにするから、どうか許してほしい」
俺は、おろした頭を少し斜めにあげた。
人間、一気に、こんな風に謝られたら、そんな強くは出れないだろう。あいつも、なんとかこれで許してくれるんじゃないだろうか? 俺はそんな期待をしながら、あいつの様子をちらりと見たのだった。
でも……
あれ……
「何それ? 何謝ってるのあんた」
なんだか呆れ顔の喜多見美亜だった。
「怒って……ないのか?」
「なんで?」
「オタクの街に来てるんだよ俺は」
「それが何か?」
「おまえみたいなリア充が来るところじゃ無いだろ。こんなとこに来たってばれたら、おまえの評判が落ちちゃって……」
「誰に?」
「おまえのリア充仲間なんかに」
「緑や珠琴に?」
「ほかクラスの他のリア充どもとか……」
「……なるほど」あいつは嘆息をしながら言った。「気を使ってくれるのは嬉しいけど——過剰に考えすぎねあんたは」
「……?」
「私が、秋葉原で美少女の絵とか見ながらハアハアしてたんなら別だけど……そんな訳じゃ無いでしょ。あなたでも私の体で行動してるんあんらそのくらいは気を使うわよね」
「イグザクトリー!」
ぶんぶんと首を縦に振る俺。なんとも、俺がさっきの同人誌ショップでしていた顔を見られたら危ないところだった。こいつに見つかったのが、このメイド喫茶の方で良かったと思う俺だった。
「ともかく、——ただここに来ただけで評判落ちるなんて、どんな薄氷の上のリア充生活なのよ? 実際、緑や珠琴といっしょに秋葉原に来て、社会勉強ついでに、メイド喫茶行って見たりしたこともあるわよ。それを緑は、次の日クラスで面白おかしく話していたけれど、セカンドグループの女子が、そんな行動をしても揺るがない緑の威光を見てすごい悔しがっているような、畏れるような目をして見ていたわ。分かる? そのぐらいで評判落ちない普段の行動があるからこそ私たちはクラスのトップ張ってられるのよ。そうよ。意識の問題なのよ」
「…………」
なんだか、よく分からないが、こいつは、結果的に俺の秋葉行きを咎めるつもりのないようだった。
でも、じゃあ、ここまで許されたとして、今日はこれからどうするのかなって俺は思うのだが。
「この間の牛丼食べるかで悩んでる時(http://ncode.syosetu.com/n7085dp/22/)も、なんだそれって思ったけど、——妙に気を使ってかえってへんなことになりそうなのよねあんたは……なら……」
「なら……」
俺は、なんだか、面白そうに笑っている、喜多見美亜の表情を見て、どうせろくなことにならないな、この後。と、諦めの境地に至りながら、
「私がリア充女子的秋葉探索の態度を教えてあげる!」
とドヤ顔で言う喜多見美亜言葉を聞くのであった。
ここは——そのメイド喫茶は——俺の、体が入れ替わる前の行きつけの場所だった。
俺は、秋葉原にくればほとんどここに寄ってたのだから、となれば、結果的に、中学校二年くらいからは、月に二、三回は来ていたことになるだろう。
ここは、奇をてらわず、無理をせず、——言ってしまえば、芸のない凡庸な喫茶なのだが、……程よく構ってくれて、程よくほおっておかれて、——俺見たいな、趣向をこらしすぎてたり、頑張りすぎているメイド喫茶には気後れしてしまって落ち着かないような男にぴったりの場所なのであった。
俺は、そんな、久々の俺的癒しスペースにやって来くると、シャレオツで意識高い系を演じることを強制された近頃の生活から一瞬解放されたような気がして、なんだかホッとして、——自分の家であるかのように感じ、我がもの顔で店内の奥に進もうとするのだが、
「「「お帰りなさいお嬢様!」」」
「んっ?」
俺は、メイドさんたちにお嬢様と言われて少しきょとんとしてしまう。
俺——お嬢様? ああ、そうか。
ああ、俺、今は少女の中の人だったんだと、すぐに自分の今の境遇を思い出し、取り作ったような笑顔で会釈をする。
うん。素で自分が女になってたこと忘れてた。
それは、なんだか馴染みの場所に久々に戻って来て、俺が「俺」であると思ってしまった、自分を一瞬取り戻したような気がしていた。そんな、理由もありそうだが……
もっと言えば、なんだか、いつのまにか喜多見美亜と自分の区別がつかなくなって来たような気がしてた。あいつの生活を向ケ丘勇がしているような気がする、それが普通の生活に思えて来て……
俺はちょと不安になる。
実は、これってなんかやばくないの? 俺的にも、もしかしたらあいつ的にも?
随分と長く、入れ替わり状態のままでいてしまったので、俺たちの自我がなんか混ざって、その区別が危うくなっている。そんな気がしてしまうのだった。
ならば——そんなことを思うと、俺はその場に少し固まってしまうのだが、
「こちらにどうぞ」
メイドさんに言われハッとする俺。
——そのまま空いている席に案内され、座る。
そして、
「お嬢様はここは初めてですか?」
メイドさんはにっこりと微笑みなながら言う。
俺は、その馴染みの笑顔に、思わず、
「あっ、いえ……じゃなくて、はい。初めてです」
危うく「俺」自身のことを言いそうになるののだが、危うく言葉を正す。
すると、
「そうですか……それはようそこいらっしゃいました。初めましてスズメです」
と言って、お辞儀をしながら、にっこりと微笑んでくれるチーフメイドのスズメさん。
それを見て、もう俺と何度もあってるでしょ、と言うか美少女としてやって来ると、いつものぞんざいな扱いと随分ちがうもんだな、この人そっちの気あるとか言ってたけど本当っぽいな、——とか言う今の自分の気持ちが顔に出ないように注意しながら、手渡されたメニューを受け取るのだったが、
「ご注文はお決まりでしょうか? お決まりの頃また伺いますか?」
「いえ……このオム・ナポリタンの萌え萌えビームマシマシセットで……ドリンクはすぅいーと・きゅんきゅん・べりべり・そーだ氷少なめでお願いします。あっ、オム・ナポリタンに書く文字は『ゆうちゃん』でお願いします……」
と初めてにしては、よどみなさすぎる流暢さで、一気に注文を言うのだった。
スズメさんは、初見さんがなんだか常連みたいな雰囲気をかもしだしている、その様子をなんだか不審そうにおもっていながらも、
「まあ、お嬢様。初めてなのにその選択。この店の一番の組み合わせを一見の見抜くとはさすがですわ」
動揺を見せずにプロの接待を続けるのだが、
「お名前はゆう……? 『ゆうこ』さんとか『ゆうか』さんとか?」
しまった、
「いえ、あっ……」
ついうっかり習慣で自分の名前を言ってしまったことに気づく俺だった。
ならば、
「——『ゆう』です」
これはこのまま「ゆう」で通すしかないよね。
でも、
「——あれ、失礼しました。そうですね『ゆう』って普通に女の子の名前ですものね」
うん、俺、そう言う名前で良かった。
こんなこともあろうかと、男女共用の名前をつけてくれた親に感謝か。いや、こんな事態を想定は絶対にしてなかっただろうけど。まあ、助かったのは事実なので、とりあえず両親に感謝をしながら、一礼して次に入ってきたご主人様に向かうスズメさんの後ろ姿を見送る。
俺は、そのまま買った斉藤フラメンコ先生の同人誌を読み始めるのだった。
そして……
「うむ……」
なんだこれは?
俺は、その同人マンガを読み進めて、なんだか妙な気分になった。
いや、同人誌が面白くなかったわけじゃないよ。いつもの、二次創作の枠を超えたと言うか、ほぼオリジナルの、斉藤フラメンコ先生の独特のエネルギーあふれた絵とストーリーに俺は冒頭からグッと引き込まれた訳だが、なんだこれ……?
主人公の少女は中学校時代はバレーボールの名選手だったが、背が伸びないためにやめたという、なんだか似たようなキャラクターの少女を知っているような、いないような設定。
いや、そのマンガの中の少女は、バレーボール選手としては低い背をカバーするため、合気道の達人の祖母から触らずに対戦相手を転ばす空気投げの秘術を授けられて選手に復活する。
すると、合気道の主人公に対抗して、ライバル高校の選手が催眠術の天才でやはり触らずに主人公たちを転ばそうとするという超展開。
バレーと言うよりは異能バトルマンガになるので、こんな非現実的な設定に、違うもあってるもないが。そのあとの物語は……
「なんだこりゃ」
その主人公は実は、中身は男(男子高校生提督)と入れ替わっていて、心技体が揃わないとできない合気の秘術が出せないためにライバルに負けそうになる。その時に、少女が入れ替わった男子学生とみんなの前で、
「今なら戻れると思うの」
「そうだな」
キスをして元に戻るのだった。
そして試合に勝ち、二人はカップルになってハッピーエンドと言う物語なんだが……その提督と呼んでれば良いはずの男子高校生提督にはあえて名前が付いていて、
「ユウ……だって……?」
これって、なんだか、俺と喜多見美亜の話がばれてないか?
俺はあまりの内容の一致に、愕然としながらマンガを閉じるのだったが……
「ふうん、もしかしてこんなふうにすれば私たちも元に戻れるのかもね」
「へっ?」
振り返って、俺は椅子からずり落ちそうになるほどに驚く。
そこには、ニコニコとしながらも、眉間にしわを寄せた、俺、向ケ丘勇——つまり喜多見美亜がいたのであった。
*
ハードディスクに続いて、二度目の、痛恨の失敗だった。スマホの検索で俺の居場所は喜多見美亜にバレていたのだった。
俺が今持っているスマホは当然あいつのものだった。あいつになりきらないといけない俺はあいつのスマホで、あいつの交友関係者と連絡を取らないといけない。なのであいつは、少し逡巡しながらも俺に自分のスマホを渡した。まあ、かなりいやそうだったけど、しょうがなくと言った感じでだった。
でも、それはまあ、しょうがないとあいつも納得していた。あいつのリア充ライフの核となるギアは、あいつのものでないとだめなのだ。だが、それは、あいつの秘密の塊みたいなもんだ。だから、あいつは慎重に過去のメールとか着信記録とかSNSのログとか消されたり移動したりしたあと、素に近い状態にして俺に渡したのだった。
とは言っても、マルチアカウント用にセキュリティをかけたわけではないし、そんな電子機器に強いわけでもない女子高生が急場でやった削除作業など穴だらけなんだろうが……そもそも俺はリア充の生活の覗こうなんて気がさらさら起きないのであいつのプライバシーは保たれているのであった。
と言うか、そもそも、俺はこのスマホになるべく触りたくないのだった。
スマホが震えたならば、俺にとってはそれは黙示録の始まるラッパの音に等しいのだった。だって、それは、リア充連中となんらかのコミニケーションを取らないといけないことが始まってしまうと言う合図であったのだった。
着信、その瞬間、俺は、心臓がばくばく言って、挙動不審になってしまうのであった。電話恐怖症だった。SNS恐怖症だった。だから、俺はこのスマホのことなんて考えたくもない。だから、俺はスマホの設定なんてあんまり深く考えずにいたのだったが……
「最初は、あんたが、どんな男か分からなかったから、保険で自分のケータイに位置サーチ機能許可しておいたのよね。変な行動してたりしないかとか、どんな奴だとかわりと行く場所確認すればわかることあるでしょ……」
あいつの携帯のサーチ機能で俺の居場所はあいつにずっとモロばれだったのであった。
「まあでも、結果は、あんたは私の指事以外の場所にはほとんどに行かない……そもそも出かけたい先なんてほとんど無い真性の引きこもり野郎だったってことだけど——なんだか今日は随分と不思議な動きをしたので追いかけてみれば……確かにあなたなら秋葉原に来るって言うのはありそうなことね……予想するべきだったわ」
「…………」
「今日は緑や珠琴の合コンを断ってどうするのかと思ったら、こう言う動きだったとはね。ずっと行動見張ってて初めてよね。こんな大胆なことしたの。引きこもりもやるときゃやるのね」
「…………」
いや、俺が秋葉原に来るのは大胆でもないのだが、生田緑の命令に逆らってまでと言うのは、確かに今考えれば、我ながら大胆な行動だったと言える。
「うん。こういうことするんだったら、ずっと見張っておいたかいがあるってものだわ。正直、全然代わり映えのしない行動しかしないあんたを見張るの少し飽きて来てたのよね」
「…………」
いや、しかし、俺はドヤ顔のこいつを見ながら思う。
なんだが、偉そうに言ってるけど、この話だと、こいつはずっと俺の行く先を監視していたってことじゃないか? それって……
「ストーカー……」
「はい? 何ですって?」
「いえ、何でもありません。旧ソ連の名作映画です」
俺は、有無を言わせぬあいつの勢いに、言いかけた言葉を飲み込むと、——ああ、このタイミングだ、
「ともかく——悪かった!」
テーブルに頭を打ち付けんばかりに平身低頭で謝るのだった。
「……?」
「——秋葉原に来てしまって悪かった」
俺はこいつと余計な話をして、傷口が広がらないうちに、リア充美少女をオタクの街に連れて来た非礼について、さっさと謝ってしまおうと思ったのだった。
「こんなとこ……?」
なんだか淡々としたあいつの口調だっだ。うわっ、すぐ感情的になるあいつがこれは、——結構怒ってるのかな。
俺は少しビビって声を震わせながら言う。
「決してお前のリア充ライフを貶めようなんて思ってたわけじゃないんだ」
「……?」
「どうしても耐えられなかったんだ。入れ替わりがいつ元にもどるか分からないし、このままずっと秋葉原にこれ無いのかと思ったらつい……」
「『つい』……?」
「リア充がオタク街に来ちゃいけないのは知っている。でも今回だけにするから、どうか許してほしい」
俺は、おろした頭を少し斜めにあげた。
人間、一気に、こんな風に謝られたら、そんな強くは出れないだろう。あいつも、なんとかこれで許してくれるんじゃないだろうか? 俺はそんな期待をしながら、あいつの様子をちらりと見たのだった。
でも……
あれ……
「何それ? 何謝ってるのあんた」
なんだか呆れ顔の喜多見美亜だった。
「怒って……ないのか?」
「なんで?」
「オタクの街に来てるんだよ俺は」
「それが何か?」
「おまえみたいなリア充が来るところじゃ無いだろ。こんなとこに来たってばれたら、おまえの評判が落ちちゃって……」
「誰に?」
「おまえのリア充仲間なんかに」
「緑や珠琴に?」
「ほかクラスの他のリア充どもとか……」
「……なるほど」あいつは嘆息をしながら言った。「気を使ってくれるのは嬉しいけど——過剰に考えすぎねあんたは」
「……?」
「私が、秋葉原で美少女の絵とか見ながらハアハアしてたんなら別だけど……そんな訳じゃ無いでしょ。あなたでも私の体で行動してるんあんらそのくらいは気を使うわよね」
「イグザクトリー!」
ぶんぶんと首を縦に振る俺。なんとも、俺がさっきの同人誌ショップでしていた顔を見られたら危ないところだった。こいつに見つかったのが、このメイド喫茶の方で良かったと思う俺だった。
「ともかく、——ただここに来ただけで評判落ちるなんて、どんな薄氷の上のリア充生活なのよ? 実際、緑や珠琴といっしょに秋葉原に来て、社会勉強ついでに、メイド喫茶行って見たりしたこともあるわよ。それを緑は、次の日クラスで面白おかしく話していたけれど、セカンドグループの女子が、そんな行動をしても揺るがない緑の威光を見てすごい悔しがっているような、畏れるような目をして見ていたわ。分かる? そのぐらいで評判落ちない普段の行動があるからこそ私たちはクラスのトップ張ってられるのよ。そうよ。意識の問題なのよ」
「…………」
なんだか、よく分からないが、こいつは、結果的に俺の秋葉行きを咎めるつもりのないようだった。
でも、じゃあ、ここまで許されたとして、今日はこれからどうするのかなって俺は思うのだが。
「この間の牛丼食べるかで悩んでる時(http://ncode.syosetu.com/n7085dp/22/)も、なんだそれって思ったけど、——妙に気を使ってかえってへんなことになりそうなのよねあんたは……なら……」
「なら……」
俺は、なんだか、面白そうに笑っている、喜多見美亜の表情を見て、どうせろくなことにならないな、この後。と、諦めの境地に至りながら、
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