俺、今、女子リア充

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俺、今、女子オタ充

俺、今、女子拉致られ中

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 俺は、下北沢花奈しもきたざわはなとなった自分の視線の変化にとっさに対応できずに、何が起きたのか良く理解しないまま、目の前の光景を眺める。すぐ目の前には、喜多見美亜あいつの顔があった。
 その——あいつの——中には多分、下北沢花奈がいる。そして、彼女は、なんだか済まなそうな表情を浮かべながら俺のことを見ているのだった。
 俺は……
 突然自分に駆け寄ってきたこの子にキスをされ……?
 入れ替わった?
 うん——正解。
 視線を横にずらすと、びっくりした様子の俺——向ケ丘勇の顔があった。
 もとに戻すと、喜多見美亜の顔。
 なるほど、俺の目の前にいるのが、俺の体と、喜多見美亜あいつの体なら、消去法でいくと、残りは下北沢花奈しかない。
 ——俺は、どうやら下北沢花奈と入れ替わってしまったのだった。
 しかし——なぜ?
 なんの交流もなかった同じ高校女の子が、いきなり俺=喜多見美亜に駆け寄ってきて、キスをする?
 何? この子?
 喜多見美亜あいつのこと好きなの?
 レズなの?
 もしかして喜多見美亜あいつをずっと狙ってたの?
 なら、どうすんの、俺? これ御免なさいするの?
 いや、もしかして喜多見美亜あいつは意外とこう言うのいける口だったらどうする? やっぱりあいつに、確認した方がいいのかな?
 ——君は、ゆるゆりですか、ガチゆりですか? って?
 いやいや——まてまて……

 よく考えろDon't panic!

 落ち着けDon't panic!

 ——俺はなんだか混乱してしまっている自分に言い聞かせる。
 俺は、自分が入れ替わった女子あいつに同性がアタックをかけてくると言う、定外の事態にパニクって、混乱の極みにあったのだった。様々な考えが次から次へと頭の中に無秩序に湧いてしまい、なんだか、さっぱり考えをまとめることができないでいたのだった。
 しかし、
「こんなことして、ごめんなさい。でも、今、私、これしか手思いつかなくて……逃げるにはこれしかないって……限界ギリギリなんです私」
 いきなりの熱烈なキスを仕掛けてきた下北沢花奈は随分と落ち着いた様子で言う。
「……いきなり入れ替わらせてもらって……無責任だと思ってもらっても構いません……恨んでもらっても構いません。でも……」
 なんだか、話は怪しげな雲行き。
 何? この子は、もしかして、俺たちの事情入れ替わりに通じている?
 俺が、そんな疑問が心に浮かんで、少し冷静になりかけるが、
「——後のことは頼みます。すみません」
「はい?」
 その瞬間、ぺこりと礼をした下北沢花奈=喜多見美亜は、そのまま後ろを向くと、呆然としてその場に立ちすくむ俺たちを尻目に、脱兎のごとく駆け出すのだった。

「ひゃっほー! 自由だあああ!」

 なんだかとっても嬉しそうに叫ぶ下北沢花奈=喜多見美亜を、ぽかんとして、見守る俺たちだった。
「何あれ?」
「…………わからん」
 なんだったんだ、これ? と言うか、俺は下北沢花奈あの子になってしまって、この後どうすりゃいいの?
 どこに住んでいるか知らない。どんな性格で、普段どんな生活しているのかもわからない。どんな友達がいるのかもわからない。どう行動したら良いのかわからない。
 正直、今、俺はこの後足をどっちに踏み出せば良いのか迷うほどに、自分がこの後どうすれば良いのかと途方に暮れていたのだったが……
 それは、どうも余計な心配だったようだ。

「あっ、いたいた!」
「見つけたわよ花奈!」

 突然俺の目の前に現れた、大学生くらいに見えるお姉様二人が突然俺(下北沢花奈)の両腕をがっしりと抱えながら言う。
「さあ、もう逃げようたってそうはいかないからね!」
「もうこれ以上遅れたら原稿間に合わないからね。あなた自分の筆が遅い自覚持ちなさいよね」
「そうよ! あなたは下北沢花奈である以前に、斉藤フラメンコなんだからね! 多くの読者の期待背負ってるんだからね!」
 はい? 斉藤フラメンコ? さっきメイド喫茶で読んでた、あのバレーボール漫画を描いていた、俺のお気に入りの同人作家。
 それが下北沢花奈? えっ? もしかして斉藤フラメンコの中の人って、下北沢花奈だったの?
「どっちにしても、もう半日も私たちから逃げ回って休養は十分なはずよね」
「これからたっぷりと働いてもらうので覚悟しなさい」
「……って、待って。俺は下北沢花奈でも、斉藤フラメンコでも……」
「はあ? 何を言ってるの? ふざけたことを言わないで。もう逃がさないわよ」
「問答無用!」
「……うわっ! 待って!」
「言い訳は仕事場で聞いてあげるから——行くわよ!」
「俺は……俺は……!」
 俺は、下北沢花奈ではないと必死に説明しようとするのだが、小柄な彼女の体では足を踏ん張ってもズルズルと引きずられ……
 なら……
 うん——頼む。
 ろくに抵抗もできずに、お姉様二人にどこかに連れていかれる俺は、喜多見美亜あいつにアイコンタクトをする。
 すると、首肯するあいつ。
 うん——多分あいつはわかってくれたはずだ。
 喜多見美亜あいつ喜多見美亜あいつの体を探して欲しいって。
 それが俺に残された、最後の希望。今の俺に取って、喜多見美亜あいつは、その時には、まだよく分かっていなかった、この先に待つ地獄から、俺を出口に導いてくれる、唯一の案内人ウェルギリウスであったのだった。

   * 

 俺が拉致されてタクシーに乗せられて連れ込まれたのは、秋葉原からそう遠くない、場所にある年季の入ったアパートであった。
 俺はそこに着くなり正座させられて、二人の怖いお姉様に説教されているところだった。
「まさか二階の窓から縄をつたって降りるとわね。気分転換で外の空気吸いたいっていうから許したら、まさかそんなもの用意してるとは思わなかったわ」
「この子、中学校時代は体操部だったって言うじゃない? 鈍臭そうに見えて実は身軽。盲点だったわ。我々をずっと欺いていたなんて、これは孔明もかくやというものね」
「ジャーンジャーンジャーン!」
「げえっ 関羽」
「はは、違う違う! この子は関羽みたいな義は無いでしょ」
「じゃあ董卓」
「無理無理。この子に悪逆非道働くようなそんな度胸あるわけないじゃないの」
「じゃあ黄忠」
「なんで一番若い子を老将にするのよ」
「ははそうねじゃあ……」
「………………」

 俺に、説教していたはずが、いつのまにか三国志談義に華が咲く二人であった。
 で話題は、すぐに武将同士のカップリングの話になって、甲高い声で、ヒヒヒ言って……これはあれだな。まごうかたなき、オタクなお姉様方だな、と俺は思った。
 ぱっと見はそんな風に見えない、今時女子大生二人だが、中身は——オタク高校生の俺が言うのもなんだが——かなりきてるなこれ。オタク度高い。
 まず喋りかたでわかるよな。早口で、高い声で、モニョモニョ喋って、相手の反応確かめずに勝手に一人で盛り上がる。
 でも、格好は随分と女子大生然としていて、多分普段はうまく周りに紛れこんでるタイプ。と言うか容姿だけ見たら結構レベル高い二人だった。
 セミロングのさらさらヘアに切れ長の目、柳腰のしなやかな体付きだが出るところ出ている、怪しい感じのセクシーお姉さん。こちらが代々木公子よよぎきみこ。都内のお嬢さま女子大に通う二十一歳。
 もう一人はショートヘアで均整のとれた体つき、活発スポーツ女子大生風の健康優良少女のふりをして、心の中はドロドロのカップリング 厨の暗黒女子大生。こちらが赤坂律あかさかりつ。都内私立大学理系に通う二十歳。
 もし街ですれ違っても、絶対オタク女子だなんて思わない、普段は厚い仮面を被ってうまく学生生活をエンジョイしてそうな二人であった。
 だがいまこの密室では、
「ねえ、花奈くんよ——君は自分の責任わかってるのかよ——」
「うわっ、怖いですぞー。こうなったきみちゃん怖いですぞー」
 なんだか丸出しの二人であった。
 それは精神的なものだけでなく。
「ああ、それはともかく、暑ちーねー、もう夏だね」
「うんそうだけど、やっぱりこの部屋、エアコン壊れてない?」
 この部屋に入ったらさっさと上着を脱いだだけならまだいいが……そのまま下着姿になってしまうお姉様二人であった。
 女だけだからって、遠慮なく涼んでいるのだろうけど。俺は、どうにも直視できずについつ俯く、と言うか今は女なんだから必要もないのに前かがみとなってしまうのだった。
「ともかく花奈は心入れ替えて、夏コミ用の作品を完成させなさいよ分かった?」
 俺が目をそらしているには、説教をしっかり聞いてないのだと思って、したから覗き込むように俺の目を見ようとする公子さんであった。すると、なんだかぶら下がったタワワが、ぶるんぶるんときて××××××××ぶっ!
「何? 真面目に聞いてるの花奈?」
 今度は律さんが、少し怒ったような、でもまあ、ふざけたような感じで、後ろから密着して俺の首を後ろからしめて……すると、なんだか程よくしまって弾力のあるゴムまりのような××××××××ぶっ!
 俺は思わずビクッと、逃げるように少し前に出る。
 すると、その様子をみた公子さんが、首を傾げながら言う。
「なんだか変だな? 花奈、今日おかしくない?」
 いや、おかしくないです。男子高校生的には正常な反応です。
 でも、
「絶対変だよね。なんだか——花奈っぽくない」
「そうだよね、まるで童貞男子っぽい反応っていうか……」
「ああ、それそれ! むっちりすけべで興味津々だけど怖がって当まきにしか眺められないみたいな——」
「うん、うん。わかるー!」
 うるせえ! 童貞むっつりスケベで悪かったな!
 俺は心の中で叫ぶ。
 でも、女子高生の体の中にいたからって、その崇高なマインド、——童貞くささは消えるわけもなく、
「花奈? 今日具合でも悪いの?」
「逃げたりできるくらいだから元気なのだと思ったけど」
 さらにぐっとくっついてくるお姉様方にますます心はドキドキとして、ますます俺は(精神的)前のめりとなるのだが、
「あれ?」
 ——ピンポーン!
 呼び鈴の鳴る音。
 俺は、——期待した。
 これは! もしかして、もう、喜多見美亜あいつが、あいつの体に入って逃げた下北沢花奈を捕まえて連れてきてくれたのかも、って。
 でも、その期待もむなしく、
「誰かしら?」
「ああ、ピザさっき取っておいたから」
 と言うとさっとジャージを着て入り口に向かう公子さん。
 そして、
「うん。じゃあ糧食レーションも来て備えも万端なんだから……今夜は、このまま修羅場っちゃおうね!」
 と、テーブルに置かれた三缶目のビールを開けながら律さんは言うのだった。
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