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公安部特務班
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「それじゃ早速手伝って貰おうかしら」
「何なりと!」
神代雪那警視の尽力?で、引き続き捜査担当継続が決まった桜樹菜々子警視は張り切って答える。
空港で逮捕したC国の殺し屋は、C国でもあまり知られていない、田舎の方の非常にマイナーな"方言"を話す。
奴は警察にその言語を解する者がいないと見て、C国の共通語や英語、フランス語も少しは解るくせに知らないふりで、方言で捜査官達を馬鹿にしてからかうばかりだ。
雪那は菜々子の張り切りぶりに笑いながら
「思い知らせてやりましょ♪」
と、片目を瞑ってみせる。
「C国F省の言葉ね」
菜々子も微笑うと、調書に軽く目を通す。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
舐め切った態度で取調べ室で“くつろいでいた”殺し屋は、部屋に入ってきた若い男の取調べ官を一瞥したが、すぐに元の態度に戻る。
…が、次の瞬間、容疑者の男は驚いたように取調べ官を見つめた。
彼の口から飛び出したのはC国F省の、しかもかなり荒々しいヤクザ言葉だった。
容疑者は急に神妙な態度になる。
目の前の取調べ官の男はきれいな顔立ちをしていたが、この目の前の男と空港で殺そうとした美女が同一人物だとは、容疑者はもちろん気付いていない。
雰囲気がまるで違う。
この取調べ官には本物の凄みがあった。
雪那は足を組んで、萎びた菜っ葉のようにしゅんとした容疑者からさっさと必要な証言を引き出していく。
容疑者はふと雪那の後方で淡々と無言で調書を取っている女を眺める。
やけに器量良しな小娘みたいな女のくせに、こいつもF省の言葉が解るのか…。
しかも、並々ならぬスピードだ。
菜々子は、短時間にF語と日本語の"2か国語"で調書を取っていたのだ。
同時通訳ならぬ"同時翻訳"である。
明らかに只者ではない2人の前で、容疑者はやがてがっくりとうなだれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
予想通りC国の殺し屋は"雇われ"だった。
確かにテロ組織にインターポールの捜査官を殺せとの依頼を受けたが、組織の本拠地、首謀者などの情報は、殺し屋自身も本当に知らないと思われた。
前日に菜々子を襲った外国人グループ(奴らも最初雪那を舐めてかかって痛い目を見た)はフランス国籍だったが、彼らも組織で雇われた、腕は良いが末端の"鉄砲玉"に過ぎなかった。
トカゲの尻尾切りだ。
彼らは本国に送還され、相応の刑罰を受けるだろう。
それでも雪那は全く焦っていなかった。
「よくある手口ですね」
雪那は公安部長に進捗を報告する。
さすがに"普通の敬語"である。
「最初は、こんなものでしょう」
公安部長は、その実績から雪那を相当信頼しているが、今回はやや懸念があった。
「だが、彼らは桜樹警視を狙って来ているのだろう?もし彼女に何かあれば問題に…。それにこちら側の情報が中途半端に漏れているのも気になる」
「大丈夫です」
雪那は、はっきりと答える。
「桜樹警視がこちら側にいる限り、彼女は安全です。それに"奴ら"…もしくは"奴"ですかね。彼女がいれば必ず尻尾を出します。」
奴ら、もしくは奴…と言ったのは、テロ組織が果たして正規の構成員で組織されているのか、首謀者は単独で他は雇われた烏合の衆に過ぎないのか、両方の可能性があるからだ。
しかし…
「桜樹警視をおとりに使うつもりかね?」
公安部長は意外そうに訊く。
「まさか。事実を言ったまでです。それに…」
雪那はきっぱりと言った。
「桜樹警視は私が必ず護ります」
公安部長は、雪那と桜樹菜々子警視が婚約者同士である事を知る数少ない人物だった。
婚約者の警護、という事で公私の問題が全くない訳ではなかったが、彼の他に適任はいるかと問われれば、いないと言うのもまた事実だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
警視庁公安部には、従来の課とは独立した機密機関がある。
それが「公安部特務班」であった。
"特務"の名の通り、特務班には特別な任務とそれに対するある程度の独自の捜査権限が与えられていた。
勿論、特務班には優秀な人材が配置されている…。
…というのは、以前は建前で、実際には優秀ではあるが非常に癖の強い、扱いにくい連中が飼い殺しにされているような部署だった。
特務班本来のあるべき姿になったのは、神代雪那警視の室長赴任後である。
癖が強いだけにプライドが高く、閑職に追いやられて腐っていたこの連中が、警察庁から出向という形で赴任した、この女みたいな顔の若いエリート上司をすんなり認めるはずがなかった。
だが雪那は、その知性と胆力で、あっという間に彼らを掌握してしまった。
武道自慢の連中の中には、雪那に決闘を申し込み、返り討ちに合って痛い目にあった者もいる。
雪那には剣道で国体での優勝歴があった。
ならば、丸腰で隙だらけの状況ではどうか、という事で「歓迎会」で総がかりを仕掛けた事もあったが、これも悉く返り討ちにされた。
柔道まで強いとは聞いていないとぼやく"部下"達に
「汗くさくて気持ち悪いのに、しょっ中オトコとなんか組んでいられないわよ」
と、のたまった。
柔道は警察学校以外では正式に習っていなかった、という。
何より、この神代雪那警視が彼らの中では最も癖が強いと言えた。
もちろんそればかりでなく、雪那は仕事の面でも部下達各々の特性を的確に把握し、それぞれに最も適任な仕事を担当させた。
それによって、公安部特務班は雪那の赴任以来、素晴らしい実績を上げてきた。
そのような訳で、特務班の面々は今ではすっかり雪那の信奉者だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
優秀だが癖の強い特務班の面々が、果たして桜樹菜々子警視を素直に受け入れるかどうか、やや不安があったが、それは杞憂に過ぎなかった。
特務班の連中は「人は見かけによらない」事を、雪那の前例で思い知らされているし、既に菜々子の先日の"武勇伝"は伝わっていた。
先日、彼女を紹介された時も、特務班の連中だけは不敵な目を輝かせ、歓迎の目を向けていた。
特務班は他の課とは別に部屋が設けられている。
雪那に警護されて出勤した菜々子は既に特務班の連中と打ち解けていた。
特務班には言語、武道、射撃などそれぞれに特化した捜査員達がいる。
「うちの警視どのしか解らない言語を解するのは、さすが」
と菜々子を讃えたり
特に先日の「不思議な銃」に関して知りたがる者も多かった。
「あれは弾丸の代わりに薬液を塗った鍼を詰めて急所に刺すことで相手の動きを止めるものですが…細かい構造については秘密です」
とのことだった。
それにしても、弾丸より細かい鍼を正確に打つ菜々子の腕は大したものだ、と特務班の連中も感心するしかない。
菜々子はあまり力がない代わり、動体視力や反射神経に優れている。
正確に相手の急所をつく事で逮捕術にも長けていた。
最も自分に合った武道は合気道とのことだが、これも極めればただの護身術ではなく強力な戦闘力を持つとの事…。
(ナナコはアタシのものなのに…)
雪那は、菜々子と部下達の仲の良さに、内心やや穏やかではなかったが、今後の警護のためにも彼らが良い関係を築いておく事は好ましい、と考え私情は表に出さないでおくのであった。
*お読み下さってありがとうございます。
「何なりと!」
神代雪那警視の尽力?で、引き続き捜査担当継続が決まった桜樹菜々子警視は張り切って答える。
空港で逮捕したC国の殺し屋は、C国でもあまり知られていない、田舎の方の非常にマイナーな"方言"を話す。
奴は警察にその言語を解する者がいないと見て、C国の共通語や英語、フランス語も少しは解るくせに知らないふりで、方言で捜査官達を馬鹿にしてからかうばかりだ。
雪那は菜々子の張り切りぶりに笑いながら
「思い知らせてやりましょ♪」
と、片目を瞑ってみせる。
「C国F省の言葉ね」
菜々子も微笑うと、調書に軽く目を通す。
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舐め切った態度で取調べ室で“くつろいでいた”殺し屋は、部屋に入ってきた若い男の取調べ官を一瞥したが、すぐに元の態度に戻る。
…が、次の瞬間、容疑者の男は驚いたように取調べ官を見つめた。
彼の口から飛び出したのはC国F省の、しかもかなり荒々しいヤクザ言葉だった。
容疑者は急に神妙な態度になる。
目の前の取調べ官の男はきれいな顔立ちをしていたが、この目の前の男と空港で殺そうとした美女が同一人物だとは、容疑者はもちろん気付いていない。
雰囲気がまるで違う。
この取調べ官には本物の凄みがあった。
雪那は足を組んで、萎びた菜っ葉のようにしゅんとした容疑者からさっさと必要な証言を引き出していく。
容疑者はふと雪那の後方で淡々と無言で調書を取っている女を眺める。
やけに器量良しな小娘みたいな女のくせに、こいつもF省の言葉が解るのか…。
しかも、並々ならぬスピードだ。
菜々子は、短時間にF語と日本語の"2か国語"で調書を取っていたのだ。
同時通訳ならぬ"同時翻訳"である。
明らかに只者ではない2人の前で、容疑者はやがてがっくりとうなだれた。
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予想通りC国の殺し屋は"雇われ"だった。
確かにテロ組織にインターポールの捜査官を殺せとの依頼を受けたが、組織の本拠地、首謀者などの情報は、殺し屋自身も本当に知らないと思われた。
前日に菜々子を襲った外国人グループ(奴らも最初雪那を舐めてかかって痛い目を見た)はフランス国籍だったが、彼らも組織で雇われた、腕は良いが末端の"鉄砲玉"に過ぎなかった。
トカゲの尻尾切りだ。
彼らは本国に送還され、相応の刑罰を受けるだろう。
それでも雪那は全く焦っていなかった。
「よくある手口ですね」
雪那は公安部長に進捗を報告する。
さすがに"普通の敬語"である。
「最初は、こんなものでしょう」
公安部長は、その実績から雪那を相当信頼しているが、今回はやや懸念があった。
「だが、彼らは桜樹警視を狙って来ているのだろう?もし彼女に何かあれば問題に…。それにこちら側の情報が中途半端に漏れているのも気になる」
「大丈夫です」
雪那は、はっきりと答える。
「桜樹警視がこちら側にいる限り、彼女は安全です。それに"奴ら"…もしくは"奴"ですかね。彼女がいれば必ず尻尾を出します。」
奴ら、もしくは奴…と言ったのは、テロ組織が果たして正規の構成員で組織されているのか、首謀者は単独で他は雇われた烏合の衆に過ぎないのか、両方の可能性があるからだ。
しかし…
「桜樹警視をおとりに使うつもりかね?」
公安部長は意外そうに訊く。
「まさか。事実を言ったまでです。それに…」
雪那はきっぱりと言った。
「桜樹警視は私が必ず護ります」
公安部長は、雪那と桜樹菜々子警視が婚約者同士である事を知る数少ない人物だった。
婚約者の警護、という事で公私の問題が全くない訳ではなかったが、彼の他に適任はいるかと問われれば、いないと言うのもまた事実だった。
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警視庁公安部には、従来の課とは独立した機密機関がある。
それが「公安部特務班」であった。
"特務"の名の通り、特務班には特別な任務とそれに対するある程度の独自の捜査権限が与えられていた。
勿論、特務班には優秀な人材が配置されている…。
…というのは、以前は建前で、実際には優秀ではあるが非常に癖の強い、扱いにくい連中が飼い殺しにされているような部署だった。
特務班本来のあるべき姿になったのは、神代雪那警視の室長赴任後である。
癖が強いだけにプライドが高く、閑職に追いやられて腐っていたこの連中が、警察庁から出向という形で赴任した、この女みたいな顔の若いエリート上司をすんなり認めるはずがなかった。
だが雪那は、その知性と胆力で、あっという間に彼らを掌握してしまった。
武道自慢の連中の中には、雪那に決闘を申し込み、返り討ちに合って痛い目にあった者もいる。
雪那には剣道で国体での優勝歴があった。
ならば、丸腰で隙だらけの状況ではどうか、という事で「歓迎会」で総がかりを仕掛けた事もあったが、これも悉く返り討ちにされた。
柔道まで強いとは聞いていないとぼやく"部下"達に
「汗くさくて気持ち悪いのに、しょっ中オトコとなんか組んでいられないわよ」
と、のたまった。
柔道は警察学校以外では正式に習っていなかった、という。
何より、この神代雪那警視が彼らの中では最も癖が強いと言えた。
もちろんそればかりでなく、雪那は仕事の面でも部下達各々の特性を的確に把握し、それぞれに最も適任な仕事を担当させた。
それによって、公安部特務班は雪那の赴任以来、素晴らしい実績を上げてきた。
そのような訳で、特務班の面々は今ではすっかり雪那の信奉者だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
優秀だが癖の強い特務班の面々が、果たして桜樹菜々子警視を素直に受け入れるかどうか、やや不安があったが、それは杞憂に過ぎなかった。
特務班の連中は「人は見かけによらない」事を、雪那の前例で思い知らされているし、既に菜々子の先日の"武勇伝"は伝わっていた。
先日、彼女を紹介された時も、特務班の連中だけは不敵な目を輝かせ、歓迎の目を向けていた。
特務班は他の課とは別に部屋が設けられている。
雪那に警護されて出勤した菜々子は既に特務班の連中と打ち解けていた。
特務班には言語、武道、射撃などそれぞれに特化した捜査員達がいる。
「うちの警視どのしか解らない言語を解するのは、さすが」
と菜々子を讃えたり
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「あれは弾丸の代わりに薬液を塗った鍼を詰めて急所に刺すことで相手の動きを止めるものですが…細かい構造については秘密です」
とのことだった。
それにしても、弾丸より細かい鍼を正確に打つ菜々子の腕は大したものだ、と特務班の連中も感心するしかない。
菜々子はあまり力がない代わり、動体視力や反射神経に優れている。
正確に相手の急所をつく事で逮捕術にも長けていた。
最も自分に合った武道は合気道とのことだが、これも極めればただの護身術ではなく強力な戦闘力を持つとの事…。
(ナナコはアタシのものなのに…)
雪那は、菜々子と部下達の仲の良さに、内心やや穏やかではなかったが、今後の警護のためにも彼らが良い関係を築いておく事は好ましい、と考え私情は表に出さないでおくのであった。
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