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クロスオーバー
しおりを挟む「うおおおおおーじょ、女子が入ってきた! ってカオルかよ~ 女子が入ってきたと思ったじゃんか」
男子トイレ――小用便器で立ちションしていたクラスメイトが驚いてふたりを見てる。
「な? これで認めるだろ? ボクが男だって」
「え、ええ……ども~」
「あ、どもです……」
チアキは小便男子に頭を下げるとズササササーっとトイレを出ていった。
「お、おい、今、カオルの後ろに居たのって……」
「ああ、正真正銘の女子だな」
「えええーっ! み、見られたぞ!」
「フンッ、大丈夫だよ。キミらの汚いブツ――略して汚ブツなんて視界に入ってもモザイク処理されるようになってるからサ」
「いや、それ、オマエだけだから!」
「ああそうか。じゃ、失礼するよ」
カオルはいつだって個室を使用する。それは女子と間違われて騒がれるのが嫌だというのもあったが、ズバリ、汚ブツが目に飛び込まないようにということのほうが大きかった。
「ああ、ボクが見たいブツはただひとつ、シノブのブツだけさ。ボクは自分のブツだってあんまり見たくないくらいなんだからね」
そうしてカオルは個室に入ると目を閉じ、ズボンを下ろした……
「ん?」
――うわぁああああああ――――――――っ
――きゃああああああ―――――――――
ふたつの悲鳴がトイレからした。それは学食にいるシノブにまで聞こえるほどの声だった。
「お、おい、どーした? 何かあったのか?」
トイレの前に飛んできたシノブの問いかけに答えたのか、ふたりが同時に答えた。
「な、ない!」
「あ、ある!」
2人が同時に叫んだものだから、何を言ってるのかよくわからず、シノブは再びたずねようとした。
「お、おい! どうしたって言うんだよ!」
――ガチャン カタカタ ジャァアァアアア
その後、2人からはなんの返事もなかったが。しばらくして2人同時にトイレからでてきた。
「あ、ど、どうも……」
チアキはどこか魂が抜けたような顔をしている。
「いやいやいや、まさか……しかし……」
カオルも普通ではなかった。カオルと言えば自信家であり、常に弱みを見せない。それが焦点の定まらぬ視線で何かをブツブツとつぶやいている。
「おい!」
「キャッ」
「わっ」
カオルが声をかけると、急に現実に引き戻されたようにふたりは正気にもどった。
「あのぉ、わ、私、ちょっと所用ができましたので、これにて失礼いたしますぅ」
「所用って? 気分でも悪いの? 保健室なら案内するけど」
「いえいえいえいえ~。そ、その……お、女の子の? 事情? 的な?」
「あ、ああ……そうか、それなら保健室は一階の、職員室の反対側だから」
「あ、ありがとうございます……じゃ」
「お、おう」
シノブは危なっかしく走り出したチアキの後ろ姿を心配そうに眺めた後、カオルの方にふり返った。
「で? カオルも気分悪いの?」
「や、ボ、ボクは……その……ああ、そうだね。気分が悪いんだ。だからボクも保健室に行くよ」
「ついてってやろうか?」
「い、いや……いいよ。そのくらい自分で行けるさ」
「あ、ああ。そか。じゃ、また後でな」
「うん……」
2人の様子がおかしい。いいや、チアキはもともとおかしいから良いとしても、カオルの様子はどう考えてもおかしい。そう思ったシノブだったが、放課後になるといつものカオルに戻っていたので、2人の異変についてシノブはやがて忘れてしまった。
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