居酒屋で記憶をなくしてから、大学の美少女からやたらと飲みに誘われるようになった件について

古野ジョン

文字の大きさ
42 / 52

第42話 友達の様子がまたおかしい

しおりを挟む
 今週はちょっと忙しかったから、水曜になってようやく夏織と一緒にお昼を食べる時間が出来た。先週の土曜、夏織は怜とデートに行ったはず。告っちゃいなよと煽っていたから、今日は良い結果が聞けると思って楽しみにしていたのだけど――

「やはり、私に恋は早かったんだな……」

 信じられないぐらい落ち込んでる!? こんな暗い顔をした夏織なんて初めて見た! さっきからお昼のサンドイッチに全く手をつけてないし! いっつも食欲旺盛なのに!

「ちょっと夏織、大丈夫?」
「……大丈夫だ」

 ぜったい大丈夫じゃない! いつもより髪のツヤも無いし、服装もなんだか整っていない感じがする。こんなヨレヨレのシャツを着ていることなんかなかったのに。

 夏織がここまで暗くなるなんて、理由は一つしか考えられない。もしかして……怜の奴、夏織のことを振ったの?

「ねえ、夏織」
「なんだ?」
「もしかして、怜くんに告ったの?」
「……いや、違うんだ」

 暗い表情のまま、夏織は首を横に振った。告ってない? もしかしてデートで何か失敗した、とかなのかな。

「デート、楽しくなかった?」
「いや、楽しかった。怜との時間は夢のようだった」
「じゃあ、なんでそんなに落ち込んでるの?」
「私は……怜を傷つけてしまったかもしれないんだ」

 傷つけた? 夏織が? 怜のことを?

 いまいちピンと来ない。たしかに夏織は普通の子と変わっているかもしれないけど、むやみやたらに他人を傷つけるような真似はしないはず。

「夏織、私でよかったら聞くからさ。詳しく話してくれない?」
「ああ。私もよく分からないこともあるんだが……」

 夏織はぼそぼそと呟くように、デートの日のことを話し始めた。

***

「『先に帰ってください』と言われて電話が切れた。駅で怜のことを待とうかとも思ったが、雨で電車が止まるかもしれないと聞いて……諦めたんだ」
「そっか。……そっか」

 全ての事情を聞き終えた私は、二人に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。まさか「隠れファン」が怜に直接ちょっかいをかけるなんて思わなかったから、油断していた。私がもう少し牽制していれば……!

「あんなに声を荒げた怜を見たのは初めてだった。いつもはもっと穏やかなのに、明らかに様子が変だった」
「怜くんが?」
「それなのに、私は怜に言われるままタクシーで逃げてしまった。本当なら、私も残ってそばにいるべきだったのに……」

 夏織は本当にその出来事を悔いているみたいだった。たぶん、怜は自分だけでなんとか対処するつもりだったんだろうし、夏織が必要以上に気に病むことはないと思うんだけど。義理堅い性格だし、そうはいかないんだろうな。

「怜はあの出来事で混乱しているように見えた。だから私と会わずに一人で帰ろうとしたのだろう」
「それで?」
「でも、私は電話で『怜と一緒にいたい』と言ってしまった。タクシーで逃がしてもらった身分で、随分と我儘を言ってしまったなと猛省している」
「それで怜くんのことを傷つけたと思っているの?」
「私は酷い女だ。腹を切って詫びたい」
「ほ、本当に切らないでね!?」

 今の夏織なら本気で切ってしまいそうだから恐ろしい。でも、それくらい怜のことを想っているってことだもんね。

 とにかく、夏織が怜に対して申し訳なく思っていることは分かった。でも、私の中で引っかかった部分がある。どうして怜が「混乱」しているように見えたのか、ということだ。

 夏織が言うには、例の二人に「どうやって篠崎さんと出会ったのですか」と聞かれてから怜の様子がおかしくなったってことみたいだ。夏織にはその理由が分からないんだろうけど、私には分かる。……たぶん、怜はまだ「打ち明けて」いなかったんだ。

 怜は夏織と出会った日のことを覚えていない。だから、例の二人にそのことを聞かれて答えに窮した。正直に返答すれば、今までその事実を夏織に隠していたことがバレてしまうからね。

 あのバカ、まだ夏織に言ってなかったんだ。もっと早く打ち明けておけばこんなことにならなかったのに。どーせ真面目そうなアイツのことだし、「夏織さんに嫌われたくないっ!」とか思って言い出せなかったんだろうな。これだけ惚れ込んでいる夏織がいまさら怜を嫌いになるわけないのに。

「で、夏織はどうしたいの? 怜くんとは連絡とってるの?」
「わっ、私から電話出来るわけないだろう!? 私は彼を傷つけた立場なんだぞ!」
「ちょっ、落ち着いてってば! じゃあ向こうから電話とか来たの?」
「いや、全く来ないんだ。私のような自分勝手な女は嫌いになったのかもしれないな……」
「あんまり自分を卑下しないでよ。夏織はそんな人間じゃないから」
「ありがとう、桜」
「キャンパスで会ったりしてないの? 食堂で見かけたりとかは?」
「いや、それが……全くないんだ。月曜から今日まで、怜の姿を全く見かけていない」

 いっつも怜のことを目ざとく見つける夏織が「全く見かけていない」ってことは、もしかしてキャンパスにも来ていないのかな。……それって、大丈夫なの? ちゃんと生きてるんだよね?

「分かった、夏織」
「えっ?」

 気付けば、夏織の肩に手を置いていた。せっかくこの子が恋をしているんだ。だったら手助けしてあげるのが親友の務め、だもんね!

「怜くんのことは私が何とかする。だから元気出して」
「い、いいのか?」
「親友だもん、気にしないで。でもね、一つだけ確認したいの」
「確認?」
「夏織はさ……」

 じっと親友の目を見る。本当に綺麗な瞳だ。怜といる時にはキラキラと輝いているんだろうな。なんて思いながら、私はあることを尋ねた。

「何があっても、怜くんのことが好きって言える?」

 一瞬だけ、夏織が目を見開いた。さっきまでの鬱々とした表情が消えて……凛とした顔つきに戻る。そして、夏織はためらうことなく堂々と口を開いた。

「ああ。私は怜のことが好きだ!」

 恋をしている親友の姿は、宝石のように美しく見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』

本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」 かつて、私は信じていた。 優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な── そんな普通のお兄ちゃんを。 でも── 中学卒業の春、 帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、 私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった! 家では「戦利品だー!」と絶叫し、 年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、 さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!? ……ちがう。 こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない! たとえ、世界中がオタクを称えたって、 私は、絶対に── お兄ちゃんを“元に戻して”みせる! これは、 ブラコン妹と 中二病オタク姫が、 一人の「兄」をめぐって 全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──! そしていつしか、 誰も予想できなかった 本当の「大好き」のカタチを探す、 壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

処理中です...