【短編集】喫茶「凡人」

古野ジョン

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第二話 色紙

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 今日は、朝から一日中しとしとと雨が降っていた。そのせいもあって、大して客も来ず朝から暇していた。店にあるコップを何回も磨いては、棚に戻すのを繰り返していた。

 午後になり、一人の男性客がやってきた。身長は平均的だが、なんだか肩幅が広い。カウンターに座ったのを見て、声をかけた。

「いらっしゃいませ。ご注文はいかがなさいますか?」

「えーと……サンドイッチと、ナポリタン。あとコーヒーね」

「かしこまりました」

随分と食べるんだな。体格が良いだけある。

 調理しながら、ふと男の方を見た。髪は少しぼさついていて、服装も寝間着みたいなやつだ。昼まで寝ていたのだろうか。

「お待たせしました。サンドイッチとナポリタン、それにコーヒーです」

「どうもね」

 そう言うや否や、男はぱくぱくとサンドイッチを食べ始めた。コーヒー用の砂糖を出そうとしたときには、既にサンドイッチを平らげてしまっていた。

「サンドイッチ、おかわりで」

「かしこまりました」

 そう言いながら、皿を受け取った。随分と腹が減っているみたいだな。

 結局、その男はサンドイッチを三皿、ナポリタンを二皿食べてしまった。コーヒーには砂糖をたっぷりと入れ、満足げに飲んでいた。

 俺は皿を片付けながら、男に話しかけた。

「今日はお仕事はお休みですか?」

「うーんと、雨だからね。休みになったんだ」

「へえ、そうだったんですね」

 現場作業員か何かだろうか。それなら、この体格にも納得がいく。

「随分と体格が良いんですね」

「ははは、ありがとう。この仕事は身体が資本だからね。コーヒー、もう一杯」

「かしこまりました」

 俺はそう言って、コーヒーの準備を始めた。

 その間、男はもの珍しそうに店の中を見回していた。すると、サイン色紙が貼られた壁を見てぎょっとしていた。

「コーヒー、お待たせしました。サイン色紙、気になりますか?」

「あの、この人ってよく来るの?」

 男は、ある野球選手の色紙を指さしてそう尋ねてきた。たしか、今は引退してコーチをしているはずだ。

「ええ、よくいらっしゃいますよ」

「それ、先に言ってくれよ~~」

 そう言うと、男はあっという間にコーヒーを飲み干した。

「すまん、これで会計してくれ。釣りはいいから」

 そして一万円札をカウンターに置き、帰り支度を始めた。

「あの、何か用事でも?」

「いや、用事っていうか……いろいろとまずいんだ」

「何がですか?」

 男は店のドアを開け、俺に言い残した。

「コーチにさ、炭水化物は止められてるんだ」
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