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042:地下7階5
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しっかりとした休憩を取ったら再び7階の探索に出発だ。
すでに何度も通った道なので慣れたものだが、今回は間が悪いことに6階で一度オークとの戦闘が発生した。走って逃げるという選択肢もあるにはあるが、事故が怖い。特に途中には罠や鍵のかかった扉があり、さらに間が悪ければ臭い魔物もいる可能性があった。
とはいえしょせんオークはオークだ。姿が見えたところで近づいてくるのを待ち、増援の発生しにくい場所で手早く処理すれば良い。数も1体と少ないので逃げるよりも倒した方がかえって安全だった。
それが済めば6階はあとは移動のみ。特に問題になるようなこともなく7階への階段に到着した。
「さあここからだ。7階は階段を下りたところがすでにオークの範囲に入るようだからな。慎重に行こう」
前回も帰り際にそこでオークとの戦闘が発生したのだ。気軽に下りたらオークが待っていましたという可能性もある。階段の途中からは慎重に、階段下の安全を確かめてから下りることになった。
「良さそう。右も左もなし。ここからはオーク・ゾンビの次のところだよね?」
「ああ、部屋はパスでいいぞ。その次の分かれ道を入る」
宝箱があるからと全部の部屋や行き止まりを調べていくつもりはない。まずは8階への階段を発見することだ。
階段を下りたところから左へ。その先の丁字路は右にオークのいる部屋があるが今回は動きはあるのかどうか。前回の帰り道での増援はその部屋にいたオークだと考えられる。そうすると今回も部屋から出てこちらに向かってくる可能性はあるのだ。
丁字路手前で止まったフリアが様子をうかがう。
「今のところ動きはないかな。でも左、行きたい方向にあの臭い魔物がいると思う。ちょっと近いかも」
「臭いやつは遅いよな? 安全を取ってオークを始末してからにするか?」
「それがいいかもな。いるといっても2か3かってところだろう。倒してしまえば少なくとも今は安全になる」
「よし、そうしよう。臭いやつが来る前にオークを倒す。それから臭いやつ。この順番だ」
決まったところでフリアが通路を右へ折れ、オークの様子を確認する。立てられた指の数は2本。オークが2ということで良いだろう。
早く片付けることが必須だ。そのままエディとクリストが前に出てフェリクスとカリーナが魔法で支援という形が良さそうだった。
部屋の中にいるオークが視認できた、そのタイミング。
「ファイアー・ボルト!」
フェリクスとカリーナの魔法がそれぞれ別のオークを目掛けて放たれる。
続けてエディとクリストが武器を構えて突撃だ。
炎の矢をまともに受けたオークが武器を構えることもできずにうろたえ、そこにきれいに突撃が決まる。エディの斧がオークの腹をえぐり、クリストの剣が脇腹から胸にかけて切り裂く。急襲を受けたオークが瞬く間に倒された。
「よし、いいな。まあしょせんはオーク、こんなもんだろう」
見回すと部屋の隅に宝箱があった。
「宝箱、前に見た時にはなかったよな」
「なかったね。やっぱり何もない部屋と行き止まりは宝箱が置かれている可能性があるっていうことでいいみたいだ」
罠や仕掛けや採集物や、そういったものがない部屋と行き止まりが設置の候補になるのだろう。そして訪れるたびに抽選が行われているのだ。だから宝箱を求めてこのダンジョンに来るのなら、全ての部屋と行き止まりを確認する必要がある。そういうことになるのだろう。
「鍵あり、罠なし、開けるね」
早速フリアが調べて解錠する。
「おー? 布袋かな?」
中には赤茶色の布製の袋が入っていた。飾り縫いが施され、ところどころには黄色っぽい色のイヌの刺繍も入っている。
「どれ、中身は、空だな。何か意味があるのか? わからん」
「鑑定してみないとどうしようもないものっぽいね。イヌの絵が気になるといえば気になるけれど」
「まあ鑑定行きってことでいいだろう。さあ次だ。臭いやつだったな」
部屋から出たらそのまま通路を真っすぐに進む。事前に知れていたことだが、すぐに臭い魔物の姿が見えてきた。
「2体。それと羽音もした。もしかしたら前もいたコウモリっぽいのが来るかも」
フリアが報告をして後退、エディとクリストが前に出る。臭い魔物もピンク色のコウモリのような魔物も強力なものではない。数次第だが前衛だけで片付けられるだろう。
接敵したところでエディもクリストも臭い魔物に対しては殴る形での攻撃になる。切り裂くとどうにも臭いが気になるので殴るのだ。斧の背で、あるいは盾で、そして剣の腹で。数度殴ればそれで倒せる。すると、案の定倒しきったかどうかというタイミングで羽音が大きく聞こえてくる。予定通りの増援だ。
頭にだけ毛の生えたピンク色のコウモリのような魔物が3体、攻撃を受けるつもりはないのでどれほど危険かは分からないが、少なくとも剣の一振りで倒せる程度には弱い。臭い魔物に続きこちらもエディとクリストがさっさと倒しきって終了した。
「増援とはいえ、この程度ならどうということはないな。まあこういうこともあるっていう紹介みたいなもんだろうが」
「だろうね。やるなら同時にもっと大量にだろうし、まだまだ配慮されている感じがするよね」
7階にもなっていまだにテストが続いている。8階9階で一気に使ってくるのかそれとも10階の先のためのテストなのか。もっともここまで考えてきたダンジョンのことが、全て杞憂だという可能性もないわけではなかったが。
この先は左へ右へと分かれ道があり、さらにオーク・ゾンビのいた部屋があり、そして前回は調べていない左への分かれ道と続く。今回の探索はこの最後の分かれ道の先だ。地図を見る限りではその先で刃の動く部屋へとつながるはずだった。
分かれ道に先に入ったフリアがすぐに戻ってくる。これは魔物か罠か。
「すぐ先が部屋になっていてブタみたいな魔物が2と臭いのが2」
「あー、どうする、丸ごと焼くか?」
「そうだね、あの臭い魔物の魔石を取るならこういうタイミングしかないような気がするし、やっておこうか」
今までは臭いを気にしていつか来る後続に任せるつもりだったが、これはいい機会なのだろう。部屋が見通せる場所まで移動したところで。
「ファイアー・ボール!」
部屋の中へフェリクスの魔法が放たれた。
ゴウッという音とまばゆい光、部屋の中央付近に炎の球が作られ魔物がことごとくそれに巻き込まれる。
火球が消えた後には崩れた魔物が3体、ふらふらと揺れているブタのような魔物が1体。そこへクリストが飛び込み、最後の1体も切り倒した。
「さすがにここまで焼き尽くせば臭いもそこまではしないか」
「切り開いた生肉状態よりはましってところだな。布で覆えば何とかなるって言えるところだろう。どれ、魔石は、他の人型と同じで胸のところだな」
これで初めての魔物の魔石を獲得だ。ギルドに鑑定してもらえば魔物の種類も確定するだろう。
後始末を終えたところで探索を再開する。その部屋は入ってきたところから正面にも通路があり、その先は少し進んだところで左に扉、そしてその先ではやはり刃が天井から振り下ろされる罠のある部屋へとつながった。
「よし、これでここまで埋まったな。近いしそこの部屋も調べておくか」
階段は部屋の中にある場合の方が多いのだ。ここを見逃すよりは地図を埋めていく方が良いだろうと判断した。
「鍵あり、罠なし、気配あり。うーん、グール! なんだけど他にもいるかも?」
「グールとそれ以外にも、か。よし、まずはグールだ。他にいたとしてもグールよりはましだろう」
フリアが解錠しエディと場所を変わる。
準備ができたところでクリストが扉を開ける。ここからは位置と数次第だが、とにかくエディがグールを引き受けることから始まるのだ。正面にグール、そう確認したところまでは確かにいつもどおりだった。
エディが前に出ようとしたとき、グールが手につかんでいたものをそこへ投げつける。バアンッという大きな音を立て、それを受けたエディの足が止まる。
「ファイアー・ボルト!」
さらにグールを削る目的で用意していたフェリクスの魔法は投げつけられたものに命中してしまい、そしてグールに向かって駆け込む予定だったクリストも燃えて落ちるそれに進路をふさがれ先手を取れなかった。
「グール1、ゾンビ2!」
後方から確認したフリアが叫ぶ。
「スロウ!」
合わせてカリーナの魔法が入り、グールとゾンビの行動が遅くなる。少なくとも魔物に先手を取られる状況は防ぐことができただろう。ここからは仕切り直しだ。
エディが再度前進しグールとの距離を詰めて盾を構える。グールの振るわれた腕はまだ盾までは到達していない。さらにグールとの間に斧の先端を置く。
クリストもグールに迫り剣を振るう。
「ファイアー・ボルト!」
改めて発せられたフェリクスの魔法はグールの右側にいるゾンビへ。
ガアンッと殴る音はグールの攻撃がようやくエディの盾に当たったものだ。そこに合わせられた斧がグールの体にめり込み、さらに間合いを詰めていたクリストが剣が胴体を横なぎにする。
再びグールが腕を持ち上げるところへエディは斧をそのまま置いて剣を抜き、胴を払う。さらにクリストも振り切っていた剣をもう一度グールの体へとたたきつけた。
フェリクスの魔法で焼かれたゾンビとグールの倒れるタイミングはほぼ同時だっただろうか。その後ろにいたゾンビがようやく見えた。
「ファイアー・ボルト!」
もたもたと動き出したゾンビにカリーナの魔法が放たれると、その体を炎に包まれ、もたもたとした動きのまま崩れるように燃え落ちた。
「よし、あとは大丈夫だな。最初に投げつけてきたのは何だ? これか?」
「ゾンビぽいね、でも大きさがゴブリンくらいかな。うーん、ゴブリン・ゾンビがここにいて、それを投げつけてきた?」
「ああ、これはゴブリンか、そんな感じの体格だな」
「ゴブリン・ゾンビも初めてだがそれを投げてくるという行動も初めてだ。こういうパターンもあるということだな」
「ゴブリンだったのは投げるのに都合のいい大きさだったのかもね。7階でゴブリンは変だけど、こういう使い方には意味があるっていうことかな」
ダンジョンもここに来て魔物の配置や使い方にさまざまな方法を取り入れ始めていた。
グールにゴブリン・ゾンビの体を投げつけられるという一風変わった戦闘を終え、後始末にかかる。ゴブリン・ゾンビとして話しているが本当のところはその魔石をギルドが鑑定して初めて分かることだろう。
前回のオーク・ゾンビといい貴重なサンプルになるのではないだろうか。
「宝箱があるね」
真っ先に気がついたのはフェリクスだった。
今回の宝箱はグールとゾンビに隠れた中央最奥の壁際だったようだ。早速フリアが調べ始める。
「鍵なし、罠、たぶんあり。こことここが触れているとどこかで何かが起こる仕掛けかな? 触れてなければいいんじゃないかな? たぶん? ね、開けてみて」
寝転がるようにして調べていたフリアに言われてクリストが蓋に手をかける。問題なく開けると中には金貨が山のような形で積まれていた。
「久しぶりに金貨か。あー、見たことのある絵柄だな。たぶん同じやつだ」
「何だっけ、どことかで流通しているっていうあれだよね」
金貨は全部で55枚あった。前回出たのが3階だったから、久しぶりの金貨の山だった。
「ねえ、気になったんだけど、この金貨って10階で使えたりするのかしら」
「あ? ああ、そうか、そういうこともあり得るのか」
このダンジョンで出るものに意図があるのなら、この金貨は10階の先で使われていたものという可能性があった。キルケーで流通しているというのなら、そのキルケーが地下世界のことだという可能性があった。
「あー、そうすると金貨だとかはためておいた方がいいってことがあるのか。どうするか、まあギルドに恩を売るってわけじゃないが渡すべきなんだろうな。で、地下世界の物だっていうことならギルドに使ってもらうと」
「いいんじゃないかな。僕たちはまたその時に考えようよ。金貨が使えるとなれば使う先があるんだし、地下世界で依頼を受けて冒険したらいい」
「‥‥何というか、夢が広がるな」
貨幣経済が確立された世界が広がっているのなら使う人がいて使う先があるということになる。そこで依頼を受けて冒険して金を稼ぐのだ。そうして使う先のことを考えられると言うことは、まさに新しい世界に足を踏み入れるようなものだ。今はまだため込む段階ではない。行った先で稼ぎためる方法を考えることもまた冒険の醍醐味だった。
部屋を出ると通路を左へ、そこは刃が振り回される罠が出迎えてくれたが、動きを良く見て避けて移動するだけだ。部屋の右の通路へ出て少し進めば左への分かれ道があり、その先はまだ探索していない部分になる。少し進むと部屋にたどり着いた。
「うーん、右に通路、奥に手すり、これ吹き抜けのどこかだね。それで左、宝箱」
「地図、地図。どうだ? どの辺りになりそうなんだ」
クリストとフェリクスが頭を付き合わせて地図をのぞき込む。
「たぶんここ、えーと、吹き抜けからこっちを見て部屋が見えたらそうなんだけど、うん、当たりだね。あの手首がいた部屋があそこじゃないかな」
手すり越しに吹き抜けを見ると、左の方、離れてはいるがうっすらと手すりが見えて部屋があることが分かる。そして右前方には、これは近い位置にう手すりが見えていた。右へ長く続く手すりで、部屋というよりは通路かもしれない。
「宝箱、鍵あり、罠なし、開けるね」
フリアはどちらかというと宝箱重視。すぐに解錠し蓋を開ける。
「ポーションだね、お? これはもしかしたら普通のポーションかも?」
いつものポーション瓶に赤い液体が入っていて、揺するとそれがキラキラと光る。ヒーリング・ポーションの色合いだった。
「ようやく普通のポーションか。念のために持っておくのも有りだな」
魔法を使いたくない、使えない状況での貴重な回復手段だ。鑑定して持っておく価値があるだろうと思われた。もっともこの場では鑑定はしない。あくまでも現状では鑑定する候補の一つだ。
すでに何度も通った道なので慣れたものだが、今回は間が悪いことに6階で一度オークとの戦闘が発生した。走って逃げるという選択肢もあるにはあるが、事故が怖い。特に途中には罠や鍵のかかった扉があり、さらに間が悪ければ臭い魔物もいる可能性があった。
とはいえしょせんオークはオークだ。姿が見えたところで近づいてくるのを待ち、増援の発生しにくい場所で手早く処理すれば良い。数も1体と少ないので逃げるよりも倒した方がかえって安全だった。
それが済めば6階はあとは移動のみ。特に問題になるようなこともなく7階への階段に到着した。
「さあここからだ。7階は階段を下りたところがすでにオークの範囲に入るようだからな。慎重に行こう」
前回も帰り際にそこでオークとの戦闘が発生したのだ。気軽に下りたらオークが待っていましたという可能性もある。階段の途中からは慎重に、階段下の安全を確かめてから下りることになった。
「良さそう。右も左もなし。ここからはオーク・ゾンビの次のところだよね?」
「ああ、部屋はパスでいいぞ。その次の分かれ道を入る」
宝箱があるからと全部の部屋や行き止まりを調べていくつもりはない。まずは8階への階段を発見することだ。
階段を下りたところから左へ。その先の丁字路は右にオークのいる部屋があるが今回は動きはあるのかどうか。前回の帰り道での増援はその部屋にいたオークだと考えられる。そうすると今回も部屋から出てこちらに向かってくる可能性はあるのだ。
丁字路手前で止まったフリアが様子をうかがう。
「今のところ動きはないかな。でも左、行きたい方向にあの臭い魔物がいると思う。ちょっと近いかも」
「臭いやつは遅いよな? 安全を取ってオークを始末してからにするか?」
「それがいいかもな。いるといっても2か3かってところだろう。倒してしまえば少なくとも今は安全になる」
「よし、そうしよう。臭いやつが来る前にオークを倒す。それから臭いやつ。この順番だ」
決まったところでフリアが通路を右へ折れ、オークの様子を確認する。立てられた指の数は2本。オークが2ということで良いだろう。
早く片付けることが必須だ。そのままエディとクリストが前に出てフェリクスとカリーナが魔法で支援という形が良さそうだった。
部屋の中にいるオークが視認できた、そのタイミング。
「ファイアー・ボルト!」
フェリクスとカリーナの魔法がそれぞれ別のオークを目掛けて放たれる。
続けてエディとクリストが武器を構えて突撃だ。
炎の矢をまともに受けたオークが武器を構えることもできずにうろたえ、そこにきれいに突撃が決まる。エディの斧がオークの腹をえぐり、クリストの剣が脇腹から胸にかけて切り裂く。急襲を受けたオークが瞬く間に倒された。
「よし、いいな。まあしょせんはオーク、こんなもんだろう」
見回すと部屋の隅に宝箱があった。
「宝箱、前に見た時にはなかったよな」
「なかったね。やっぱり何もない部屋と行き止まりは宝箱が置かれている可能性があるっていうことでいいみたいだ」
罠や仕掛けや採集物や、そういったものがない部屋と行き止まりが設置の候補になるのだろう。そして訪れるたびに抽選が行われているのだ。だから宝箱を求めてこのダンジョンに来るのなら、全ての部屋と行き止まりを確認する必要がある。そういうことになるのだろう。
「鍵あり、罠なし、開けるね」
早速フリアが調べて解錠する。
「おー? 布袋かな?」
中には赤茶色の布製の袋が入っていた。飾り縫いが施され、ところどころには黄色っぽい色のイヌの刺繍も入っている。
「どれ、中身は、空だな。何か意味があるのか? わからん」
「鑑定してみないとどうしようもないものっぽいね。イヌの絵が気になるといえば気になるけれど」
「まあ鑑定行きってことでいいだろう。さあ次だ。臭いやつだったな」
部屋から出たらそのまま通路を真っすぐに進む。事前に知れていたことだが、すぐに臭い魔物の姿が見えてきた。
「2体。それと羽音もした。もしかしたら前もいたコウモリっぽいのが来るかも」
フリアが報告をして後退、エディとクリストが前に出る。臭い魔物もピンク色のコウモリのような魔物も強力なものではない。数次第だが前衛だけで片付けられるだろう。
接敵したところでエディもクリストも臭い魔物に対しては殴る形での攻撃になる。切り裂くとどうにも臭いが気になるので殴るのだ。斧の背で、あるいは盾で、そして剣の腹で。数度殴ればそれで倒せる。すると、案の定倒しきったかどうかというタイミングで羽音が大きく聞こえてくる。予定通りの増援だ。
頭にだけ毛の生えたピンク色のコウモリのような魔物が3体、攻撃を受けるつもりはないのでどれほど危険かは分からないが、少なくとも剣の一振りで倒せる程度には弱い。臭い魔物に続きこちらもエディとクリストがさっさと倒しきって終了した。
「増援とはいえ、この程度ならどうということはないな。まあこういうこともあるっていう紹介みたいなもんだろうが」
「だろうね。やるなら同時にもっと大量にだろうし、まだまだ配慮されている感じがするよね」
7階にもなっていまだにテストが続いている。8階9階で一気に使ってくるのかそれとも10階の先のためのテストなのか。もっともここまで考えてきたダンジョンのことが、全て杞憂だという可能性もないわけではなかったが。
この先は左へ右へと分かれ道があり、さらにオーク・ゾンビのいた部屋があり、そして前回は調べていない左への分かれ道と続く。今回の探索はこの最後の分かれ道の先だ。地図を見る限りではその先で刃の動く部屋へとつながるはずだった。
分かれ道に先に入ったフリアがすぐに戻ってくる。これは魔物か罠か。
「すぐ先が部屋になっていてブタみたいな魔物が2と臭いのが2」
「あー、どうする、丸ごと焼くか?」
「そうだね、あの臭い魔物の魔石を取るならこういうタイミングしかないような気がするし、やっておこうか」
今までは臭いを気にしていつか来る後続に任せるつもりだったが、これはいい機会なのだろう。部屋が見通せる場所まで移動したところで。
「ファイアー・ボール!」
部屋の中へフェリクスの魔法が放たれた。
ゴウッという音とまばゆい光、部屋の中央付近に炎の球が作られ魔物がことごとくそれに巻き込まれる。
火球が消えた後には崩れた魔物が3体、ふらふらと揺れているブタのような魔物が1体。そこへクリストが飛び込み、最後の1体も切り倒した。
「さすがにここまで焼き尽くせば臭いもそこまではしないか」
「切り開いた生肉状態よりはましってところだな。布で覆えば何とかなるって言えるところだろう。どれ、魔石は、他の人型と同じで胸のところだな」
これで初めての魔物の魔石を獲得だ。ギルドに鑑定してもらえば魔物の種類も確定するだろう。
後始末を終えたところで探索を再開する。その部屋は入ってきたところから正面にも通路があり、その先は少し進んだところで左に扉、そしてその先ではやはり刃が天井から振り下ろされる罠のある部屋へとつながった。
「よし、これでここまで埋まったな。近いしそこの部屋も調べておくか」
階段は部屋の中にある場合の方が多いのだ。ここを見逃すよりは地図を埋めていく方が良いだろうと判断した。
「鍵あり、罠なし、気配あり。うーん、グール! なんだけど他にもいるかも?」
「グールとそれ以外にも、か。よし、まずはグールだ。他にいたとしてもグールよりはましだろう」
フリアが解錠しエディと場所を変わる。
準備ができたところでクリストが扉を開ける。ここからは位置と数次第だが、とにかくエディがグールを引き受けることから始まるのだ。正面にグール、そう確認したところまでは確かにいつもどおりだった。
エディが前に出ようとしたとき、グールが手につかんでいたものをそこへ投げつける。バアンッという大きな音を立て、それを受けたエディの足が止まる。
「ファイアー・ボルト!」
さらにグールを削る目的で用意していたフェリクスの魔法は投げつけられたものに命中してしまい、そしてグールに向かって駆け込む予定だったクリストも燃えて落ちるそれに進路をふさがれ先手を取れなかった。
「グール1、ゾンビ2!」
後方から確認したフリアが叫ぶ。
「スロウ!」
合わせてカリーナの魔法が入り、グールとゾンビの行動が遅くなる。少なくとも魔物に先手を取られる状況は防ぐことができただろう。ここからは仕切り直しだ。
エディが再度前進しグールとの距離を詰めて盾を構える。グールの振るわれた腕はまだ盾までは到達していない。さらにグールとの間に斧の先端を置く。
クリストもグールに迫り剣を振るう。
「ファイアー・ボルト!」
改めて発せられたフェリクスの魔法はグールの右側にいるゾンビへ。
ガアンッと殴る音はグールの攻撃がようやくエディの盾に当たったものだ。そこに合わせられた斧がグールの体にめり込み、さらに間合いを詰めていたクリストが剣が胴体を横なぎにする。
再びグールが腕を持ち上げるところへエディは斧をそのまま置いて剣を抜き、胴を払う。さらにクリストも振り切っていた剣をもう一度グールの体へとたたきつけた。
フェリクスの魔法で焼かれたゾンビとグールの倒れるタイミングはほぼ同時だっただろうか。その後ろにいたゾンビがようやく見えた。
「ファイアー・ボルト!」
もたもたと動き出したゾンビにカリーナの魔法が放たれると、その体を炎に包まれ、もたもたとした動きのまま崩れるように燃え落ちた。
「よし、あとは大丈夫だな。最初に投げつけてきたのは何だ? これか?」
「ゾンビぽいね、でも大きさがゴブリンくらいかな。うーん、ゴブリン・ゾンビがここにいて、それを投げつけてきた?」
「ああ、これはゴブリンか、そんな感じの体格だな」
「ゴブリン・ゾンビも初めてだがそれを投げてくるという行動も初めてだ。こういうパターンもあるということだな」
「ゴブリンだったのは投げるのに都合のいい大きさだったのかもね。7階でゴブリンは変だけど、こういう使い方には意味があるっていうことかな」
ダンジョンもここに来て魔物の配置や使い方にさまざまな方法を取り入れ始めていた。
グールにゴブリン・ゾンビの体を投げつけられるという一風変わった戦闘を終え、後始末にかかる。ゴブリン・ゾンビとして話しているが本当のところはその魔石をギルドが鑑定して初めて分かることだろう。
前回のオーク・ゾンビといい貴重なサンプルになるのではないだろうか。
「宝箱があるね」
真っ先に気がついたのはフェリクスだった。
今回の宝箱はグールとゾンビに隠れた中央最奥の壁際だったようだ。早速フリアが調べ始める。
「鍵なし、罠、たぶんあり。こことここが触れているとどこかで何かが起こる仕掛けかな? 触れてなければいいんじゃないかな? たぶん? ね、開けてみて」
寝転がるようにして調べていたフリアに言われてクリストが蓋に手をかける。問題なく開けると中には金貨が山のような形で積まれていた。
「久しぶりに金貨か。あー、見たことのある絵柄だな。たぶん同じやつだ」
「何だっけ、どことかで流通しているっていうあれだよね」
金貨は全部で55枚あった。前回出たのが3階だったから、久しぶりの金貨の山だった。
「ねえ、気になったんだけど、この金貨って10階で使えたりするのかしら」
「あ? ああ、そうか、そういうこともあり得るのか」
このダンジョンで出るものに意図があるのなら、この金貨は10階の先で使われていたものという可能性があった。キルケーで流通しているというのなら、そのキルケーが地下世界のことだという可能性があった。
「あー、そうすると金貨だとかはためておいた方がいいってことがあるのか。どうするか、まあギルドに恩を売るってわけじゃないが渡すべきなんだろうな。で、地下世界の物だっていうことならギルドに使ってもらうと」
「いいんじゃないかな。僕たちはまたその時に考えようよ。金貨が使えるとなれば使う先があるんだし、地下世界で依頼を受けて冒険したらいい」
「‥‥何というか、夢が広がるな」
貨幣経済が確立された世界が広がっているのなら使う人がいて使う先があるということになる。そこで依頼を受けて冒険して金を稼ぐのだ。そうして使う先のことを考えられると言うことは、まさに新しい世界に足を踏み入れるようなものだ。今はまだため込む段階ではない。行った先で稼ぎためる方法を考えることもまた冒険の醍醐味だった。
部屋を出ると通路を左へ、そこは刃が振り回される罠が出迎えてくれたが、動きを良く見て避けて移動するだけだ。部屋の右の通路へ出て少し進めば左への分かれ道があり、その先はまだ探索していない部分になる。少し進むと部屋にたどり着いた。
「うーん、右に通路、奥に手すり、これ吹き抜けのどこかだね。それで左、宝箱」
「地図、地図。どうだ? どの辺りになりそうなんだ」
クリストとフェリクスが頭を付き合わせて地図をのぞき込む。
「たぶんここ、えーと、吹き抜けからこっちを見て部屋が見えたらそうなんだけど、うん、当たりだね。あの手首がいた部屋があそこじゃないかな」
手すり越しに吹き抜けを見ると、左の方、離れてはいるがうっすらと手すりが見えて部屋があることが分かる。そして右前方には、これは近い位置にう手すりが見えていた。右へ長く続く手すりで、部屋というよりは通路かもしれない。
「宝箱、鍵あり、罠なし、開けるね」
フリアはどちらかというと宝箱重視。すぐに解錠し蓋を開ける。
「ポーションだね、お? これはもしかしたら普通のポーションかも?」
いつものポーション瓶に赤い液体が入っていて、揺するとそれがキラキラと光る。ヒーリング・ポーションの色合いだった。
「ようやく普通のポーションか。念のために持っておくのも有りだな」
魔法を使いたくない、使えない状況での貴重な回復手段だ。鑑定して持っておく価値があるだろうと思われた。もっともこの場では鑑定はしない。あくまでも現状では鑑定する候補の一つだ。
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そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
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