ダンジョン・エクスプローラー

或日

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043:地下7階6

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 ヒーリング・ポーションが見つかった部屋にはそれ以上のものはなかったので、改めて探索を再開する。部屋に入ったところから右へと通路が伸びているのでその先だ。
 しばらくは真っすぐな通路が続いていたが、その先は壁に突き当たっている。そしてその壁はいつもの行き止まりとは様子が違っていた。宝箱があるとかないとかではない、壁そのものが変わっていた。
「通路行き止まりっぽいんだけど、ほらこの先、壁に何か描いてある」
 そう言われて見通した通路の先は確かに行き止まりのようではあったが、その突き当たった壁には扉のような大きさで上部が半円になるように模様が描かれていた。
「魔法陣ぽいわね? 何が描いてあるのかしら」
「見たことのない模様な気がするけれど、ここからだと分からないね」
 魔法使い2人にもさすがに離れた場所からは暗すぎて判別できないようで、フリアが先行してそこへと近づく。そしてすぐに引き返してきたその表情は驚きが隠せなかった。
「‥‥何て言えばいいんだろう、あの模様の、外側部分ね描かれた模様、あれの内側の線があるよね? あそこから内側が全部透きとおって向こうが見えるの」
 聞いても何を言っているのか分からない。いや、もちろん言っている意味は分かった。透きとおって向こうが見える。ガラスのようなものだろうか。だがここからでは内側にも模様が描かれているように見えるのだ。
「近寄ってみましょう」
 そう言うとカリーナが真っ先に模様へ近づいていく。他の皆も慌ててそれに続いた。
 すぐには模様は変わらなかった。だが、もう少し、もう少し近づけば模様の詳細も分かりそうという距離で、不意に模様が消え、そして壁の向こう側、こちら側と同じように通路が続いている様子が映し出された。
 模様の外周部分はそのままに、内側部分が全て透けて向こうが見える。確かにそのとおりだった。
「何だこれは、どうなっているんだ?」
 手を伸ばすがさすがに触れる勇気は湧いてこない。手を入れてそれがどうなるのか分からないのだ。
「‥‥ポータルよ。これは壁抜け用のポータルだと思うわ」
 そう言ったカリーナは顔を覆って震えていた。
「ポータルってのはあれだろ、小包だとか手紙だとかを送れるっていう」
 王都と地方都市との連絡用として設置されている貴重な空間魔法の成果だった。
「でもあれって部屋一つ丸ごと使って小包一つとかいうのじゃない? 非効率的だって言われて普及していないっていう」
「そうよ、空間魔法の研究ではあれが限界で、そしてあれが限界だったせいで研究が止まったとまで言われているものよ。生きているものは入れないと言われているものよ。でもこの魔法陣の外周部分はあれとほぼ同じものだと思うわ。同じ理論で作られていると思う。ここにあって向こうに通路が見えているということは、本来は通路をつなげられない場所をこうやってつなげているのだと思うわ」
 カリーナが少し早口になって言う。
 もし本当にそうなら大発見なのだろうが、しかし通ることには抵抗があり、ふらふらと近づいていくカリーナを止めなければならなかった。
「まず何か投げ込んでみよう。それで少なくとも物が通るのかどうかは分かる」
 そう言うとクリストは荷物にあった革袋を1つ取り出し向こう側へと投げ込んだ。革袋には何事もなく、向こう側の地面へと落ちる。
「変化はなさそうだな。よし、まず物はいい。ここまではまあ普通のポータルと同じってことでいいだろう。次は、そうだな、なあ、どこかに捕まえられるような魔物はいないか? あのコウモリみたいなやつでいいんだが」
「ああ、投げ込んでみるんだね?」
「そうだ、それで生きていても通れて、それで戻ってこれるかどうかが分かるだろう」
 自分たちで試すよりも安全を優先だ。う回するのも一つの手だが、他の所にも同じ仕組みがあるかもしれないし、下り階段がこの先かもしれない。それに放っておけばカリーナが駆け込んでしまいそうなのでここは実験した方が良さそうだった。
「ここ、こっちに行くと前はブタみたいな魔物がいた部屋なんだけど、そこからこうぐるっと回ってみようか。どこかで見つかるかもしれないよ」
 方針を決め、一度引き返す。後ろを振り返り続けるカリーナをなだめるのも一苦労だったが、それはもう仕方がない。またここに来るから試すからというしかないのだ。
 手すりのある部屋へ戻り、そこから通路へ。丁字路を左へ進みすぐに右へ折れるとその先には部屋がある。
「ブタみたいなの1、臭いの2、あと羽音もするからたぶん当たり」
 幸運なことにコウモリのような魔物もいそうだった。他の魔物も大したことはない。コウモリのような魔物を倒してしまわないように気をつけるだけだ。
 エディとクリストがすぐさま突入してブタのような魔物をクリストが切り、エディが盾と斧で臭い魔物を殴り飛ばす。戦闘自体はこれでほぼ終了だ。
「メイジ・ハンド!」
 待ってましたとばかりにカリーナが魔法の手でコウモリのような魔物をつかんだ。
「お、捕まえたな。そいつは足にでもロープを縛って袋に入れておいてくれ」
 弱い魔物だ、下手にいじって死なせてしまっては元も子もない。成功に大喜びのカリーナが早速フリアの手助けを受けてその足にロープを結び、危険と思われるくちばし部分もひもで縛って袋に詰め込んだ。目的は達成されたのでここから引き返し、ポータルまで移動する。
 慎重に袋から取り出したコウモリのような魔物は無事まだ生きていた。
 焦るカリーナから引き取ったクリストがその胴体をつかみ、ポータルへと投げ込んだ。ロープにつながった魔物は投げ込まれた勢いのまま地面に落ちそうになりながら、必死に羽ばたいて体勢を整える。その行動はポータルを抜けてからも続いた。
「これ、向こう側に行っているわよね」
「たぶんな、逃げたそうだが、引っ張るぞ」
 クリストがロープを引くと、羽ばたく力だけでは抗えずに魔物がこちらまで引き戻されてくる。ポータルを抜けてこちら側に戻っても必死に向こうへと逃げようと羽ばたいているところをみると、どうやら何事もなく無事のようだった。申し訳ないがこの魔物の役目はこれで終了だ。ナイフを差し込んで倒しておく。
「行くわよ」
 宣言したカリーナがポータルをにらむと、そのまま駆けだしてしまった。
「あ、おい、」
 そうなるだろうとは予想していたが、さすがにもう少し慎重に動いてほしかった。そのままポータルを駆け抜けたカリーナが後ろを振り返り、壁をぐるっと見渡す。恐らく向こう側のポータルを見ているのだろう。そして右手にはスタッフを握り、左手には拳を作って両手を上に突き上げる。にんまりとした表情からは今にも歓喜の声が聞こえてきそうだった。
「このダンジョンには空間魔法の未来があるわ」
 カリーナが興奮を隠せないように言うその気持ちも分からなくはない。
 空間魔法というものにはさまざまな可能性があり研究が行われてきたのだが、成果が少ないことでも知られているのだ。基本理念は完成しているというし研究はずっと続けられているというのに実現した要素は少ないのだ。研究を続けるだけの長い長い時間が経過し、その成果の少なさゆえに空間魔法はすっかり時代遅れの行き詰まった魔法扱いとなっていた。
 そこにこれだ。完全な形で実現している場所と場所をつなぐ、しかも人が通ることのできるポータルだ。目の前にあるのは壁を抜けるだけの短距離だが、短距離があって長距離がないとは考えにくい。大体だ、短距離のポータルが実現しているということは夢物語だったショートテレポートもまた可能になるということなのではないだろうか。
 夢が広がる。まさに空間魔法の未来がここにはあった。
 あれも、これもとカリーナの口から荒唐無稽と言われ実現せずにいる魔法の数々が飛び出してくる。
「あまり興奮するなよ。まだ7階だぞ」
「ふぅ、分かってはいるのよ。でもねえ、これはさすがにすごいわよ。とてもすごいわよ。最高よ。失われたとかいうレベルじゃないわ。完全に私たちの上を行っているわよ」
 とても楽しそうに上気した顔で言う姿を見るとうらやましくもなってくる。
「こうなるとさ、僕らも僕ら向きのものを見たくなるよね」
 そうなるのだ。フェリクスから言えば力術系統の普通の攻撃魔法の変わり種だとか、変化球の魔法でも良い。あるいは武器や防具だ。風変わりな道具は出ているが武器防具などの装備品はほとんど出てきていない。
「まあな。とはいえ俺たち向きってなると危ないんだよな。あれだ、+1の剣と矢ってのが出ているだろう。+1があって2だ3だがないはずがない。それこそ+10だとかな、それ以上の数字が付いているものもだ。出せないんだと思うぜ。今まで出たものを考えるとな、魔法も使い方次第ってのはいろいろと出ているがダメージに直結するようなものがない。危ないからだろう」
 強力な武器が宝箱から出たケースは今のところなかった。宝飾品のナイフはあったがあれは武器としては使えないものだろう。だが+1の矢が出ているのだから出せないわけではないのだろうと思える。武器だけではなく、盾や鎧だってそうだ。そうなると何か理由があるということになるが、それで思い当たるのは単純に探索の効率を考慮しているのではないかということだった。
 強力な攻撃性能の魔法や武器を出してしまってダンジョンの難易度そのものが変わることを懸念しているのではないかということだ。今はまだ普通の武器防具魔法を使って探索してほしいのではないかと思えるのだ。
「なるほどね、そう考えると魔法が全部ひねりが効いているのも分かるよね」
「ああ、直接攻撃に使える魔法がないとは考えられないからな。恐らく出ないというのは出せないからだろう」
 このダンジョンに探索のために入っている冒険者は自分たちだけだ。そのパーティーを10階へと案内している最中なのだ。難易度のバランスを崩すような装備を冒険者の側に持たせたくなくて出してこない、そう考えるのがもっとも納得の行く理由だった。
「話はこれくらいとして、なあ、これは鑑定できないのか?」
「ああ、そうね、そうよね。鑑定してみましょう。ポータルの鑑定ができるのか、それともダンジョンの壁って言われるかしらね」
 鑑定結果はこうだ。
 この魔法円と対になる魔法円との間をつなぐポータル。このポータルに入れば即座にもう1つの魔法円に移動できる。これは永続的な効果でありそのほかの魔法円に移動するように書き換えることは出来ない。またほかの魔法円からこの魔法円に移動するようにすることもできない。このポータルはあくまでも対になっている2つの魔法円の間だけで効果を発揮する。
「すごいわね。ほかの魔法円があるということも分かった。これは先が楽しみになるわね」

 名残惜しむようなカリーナを引っ張ってポータルを離れ、再び通路を進み始める。
 その通路はすぐ先で右に折れ、そこからはしばらく直進だった。
「何だろう、何だかわちゃわちゃしている声が聞こえる」
 フリアの言う声に足を止め耳を澄ますと、確かに通路の先の方から話し声のような音が聞こえてきていた。
「そうだな、ここでもう聞こえるってのがおかしなもんだ。魔物同士でもめてんのは一度見たが、またか? 魔物の配置をミスってんじゃないのか」
 冒険者に存在がばれているというのは魔物の側からすれば良いことではないだろう。もめている最中であれば不意打ちも食らいやすい。どう考えてももめる魔物を同じ場所に配置してしまったダンジョン側のミスであるように思えた。それとも魔物同士でももめることもあるというのを見せたかっただけなのか。
「ん、目の前に部屋。当然のようにまだもめてる。右にも別れ道があるけれど、こっちは少し先が部屋かな。扉があるね」
 正面に見えている部屋の中に数体の魔物がいるが、これが言い争いをしているように見える。たまに手が出ている辺り確実に問題があるだろうと思われた。
 そのうち2体は今までにも何度も見たブタのような魔物で、2体は臭い魔物。もう1体の見たことのない魔物は大きさは60センチほどと小さい。緑色をした人型で頭には角が生え、トゲのある尻尾を持っていた。その緑色の魔物が盛んにブタのような魔物に何か言っては頭をたたいたりつついたりと手を出している。ブタのような魔物もそれにいら立っているようで、手を払ったり緑色の魔物を突き飛ばそうとしたりだ。臭い魔物はわれ関せずでいたいのか後ろを向いてしまっているようだ。
 これは不意打ちが可能、そう判断するとそのまま静かに近づく。
「ファイアー・ボルト!」
 フェリクスとカリーナが同時に臭い魔物に対して炎の矢を放つ。
 そしてエディとクリストがそれに続くように部屋に駆け込みブタのような魔物に迫り、斧のそして剣の攻撃を確実に当てていく。どの魔物も弱いことは分かっている。不意打ちが決まった時点で勝負は決まっていた。
 残りは緑色の魔物、となったところでその魔物がすうっと透きとおるようにして姿を消していく。
「不可視化か!」
 すぐに完全に見えなくなる。これはそのまま逃げようというのか、それとも何か仕掛けようというのか。だがそれをわざわざ待っている必要はない。
「ディテクト・イーヴル‥‥そこね!」
 カリーナが魔物を感知する魔法を使い場所を特定すると、スタスタと近づいてスタッフを思い切り振り降ろした。
 ボコリというたたく音がするとともに見えなくなっていた魔物が再び姿を現し、痛かったのだろう頭を押さえながら牙を剥いてカリーナに向かって何事かをほえた。だがほえたところで見えてしまえば単なる的だ。すぐ近くにいたフリアが珍しくナイフを振るってとどめを刺した。
「弱い」
 スタッフで殴りナイフで切るだけで倒せるのだ。攻撃を担当したのはソーサラーとスカウトだ。直接の攻撃力など期待されないクラスだった。それがこれで簡単に倒せる魔物。それは7階にしては随分弱い魔物だろう。
「何かここにいた意味があるのかもしれんが、何も分からないうちに終わったな。まあいい、そんなもんだろう」
 意図があるのかどうかを気にする必要はないだろう。もしかしたらホブゴブリンの隊長のように指揮を執るつもりだったのかもしれないが、しょせん魔物のすることで、どこまで理解できるかも分からないことなのだ。今はこの場にいた全ての魔物を倒しきった、それだけで十分だった。
 部屋には宝箱もなく、見るべき所はなかった。通路は入ってきたところから正面へ抜けるものがあり、探索はそのまま正面へ進む形で再開される。そしてその通路の先は丁字路に突き当たっていた。
 右へも左へもしばらくは通路が続くように見え、今回は右へ折れて進むことにする。するとその先で右側の壁に扉があり、その前まで行ったところでフリアが足を止め、後続を振り返った。
「当たりだと思う。水音がする」
 その報告には何度も会っている。扉の前で水音、それはこれまでと同じパターンであれば階段室があるということと同じだった。
「鍵なし、罠なし、気配なし、水音あり。今までと全部同じ」
 そうして扉を開けると部屋の中、扉から見て右側の奥には水場が、そして入り口から正面には下り階段があった。ここに8階への階段を発見したのだ。
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