ダンジョン・エクスプローラー

或日

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054:地下7階9

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 巨大なヴァルチャー、そしてグリフォンを倒すことに成功したら残りは普通のヴァルチャーだけなのだが、武器を振り回して追い立てた結果、3体を落としたところでヴァルチャーは近づいてくることをやめ、上空へと待避してそのまま姿を隠してしまった。
「よし、これで良さそうだな。それにしてもここは天井が高いよな。6階から下りてくる階段はあの程度だったってのに、何だこれ」
「まあ今更だよね。このダンジョンでそういう突っ込みは意味がないよ」
 ヴァルチャーにしろグリフォンにしろ、高度を取ってそこからの降下突撃に意味のある魔物だった。そのための広い空間なのだろうが、それにしてもここまでするのかという印象だ。やはり階段を下りている間に高さがずれるのか、それともそもそもあの階段は転送ポータルのように移動させる仕組みになっているのか。8階の洞窟でもそうだったが、このダンジョンは高さにも変化を付けられるようになっていたということが確定したのだ。
「すまんフリア、この部屋の調査をしておいてくれ。俺たちはこいつらをどうにかする」
 フリアに部屋を調べる作業を任せ、倒した魔物の後始末に取りかかる。ヴァルチャーの数が多いのでまずはこれからだった。
「ねえ、グリフォンて貴重よね。持って帰れないかしら」
「そうだな、あー、査察の件もあるし持って帰ればいい成果にはなるか。ここからだとどうだ、持って行けるか?」
「うーん、さっきの通路を引き返すよね、水たまりは凍らせて通ればいいか、後は途中の魔物だけど、ああ、6階のオークだけなんだね。行けるね」
 地図を見て確認したフェリクスの判断もあって、グリフォンは持ち帰ることになる。ただし巨体なので1人が前足側から担ぎ上げて引きずるか、後ろ足を誰かが担当して持ち上げるかしていくしかない。
「持ち上げる魔法はなかったか?」
「あるけれど、乗るかしらね、これ。後ろ足の側を乗せればいいのかしら」
「ああ、それでいいだろう。お? こいつも首輪があるな」
 6階のタイガーにも首輪のあるものがいたが、どうやらこのグリフォンもそうだったようで、首輪には革袋がぶら下がっていた。
「でも明からに大きいし装飾があるね。タイガーのは普通の小さな革袋だったけれど、これは違うね」
 タイガーの首から見つかった物は小さな金属板のサイズにあった小さなものだった。今回のものは口の幅が40センチほどありそうな大きさのものだ。さらに凝った飾り縫いがされていて、首輪とは別にこの袋の持ち手のひもが束ねて縛られていた。
「これは、今回の成果として持って行けってことか? ひもをほどけば外せるな、どれ。ああ、普通のバッグになりそうだが、中には何か入っているのか? いや、空だな。何だ? 意味が分からんが」
「ねえ、気になるんだけど。その飾り縫い、蓋の外周と本体の外周と、両方ともポータルのものに似ているのよ。ちょっと鑑定させてよ」
 気がついたカリーナがスクロールを取り出してバッグを受け取り鑑定を始め、その結果が出始めた瞬間に床に突っ伏した。
「おい、どうした? やばかったか?」
「‥‥やばかったわ。出てしまったわ。ホールディング・バッグ。勇者の冒険の書で読んだでしょう、マジックバッグよ」
 マジックバッグ。冒険の書に登場するいくらでも物が入れられるという魔法のカバンだ。
 空間魔法の研究はテレポーテーション、移動用ポータルとこのマジックバッグが最大の目標だったとまで言われている。結局マジックバッグに関しては重量軽減などの成果はあったものの、バッグに魔法を付与することができずに頓挫している。
「外側から見た大きさより中の空間はずっと大きい。口に入る大きさのものであれば何でも入り、最大重量250キログラム、かつ容量1800リットルまでのものを収めることができる。袋の中から取り出すにはそれを明確に思い描きながら口から手を入れれば良い。容量を超えたり袋が破かれたりしたならば袋は破裂し、中身は周囲に散乱する。袋を裏返したならば中身は損害を受けることなくその場にこぼれ出す。呼吸をするものを入れた場合は1分までならば生存できるがそれ以上は窒息する。‥‥はー」
 一気に読み上げ、最後にはため息。これぞまさにマジックバッグだった。
「すげーな、マジックバッグか。なあ、このダンジョンで最大の成果なんじゃないか?」
「そうだと思うわ。ねえ、このバッグ持っていくべきよ。これでほとんどの荷物の問題が解決するわよ」
「そうか、そうだな、そうなるのか。マジか、すげーな。そういう想像をすることはあったが、そうか」
「そうよ。鑑定結果もこのまま秘匿したいわね。今は空なのかしら、中に何が入っているか知らないと手を入れてもダメなのね。そういうときは裏返す、よし」
 カリーナが袋を裏返すと、カチンと小さな硬い音をさせて小さな金属板が落ちた。
「ん? これタイガーのところで見たわね。数字は4ね、古語で4の数字」
「ああ、このグリフォンもそういう扱いだったのか。で、タイガーが3でグリフォンが4ね。これは1階から5階までの間に1と2があるのが決まりかもな」
「何の意味があるのかさっぱりだけど、きっとどこかで使うことになるんだろうねえ」
 このダンジョンがこれほど分かりやすく怪しいものを用意しているのだ。何かしらの用途があるのだろうが、現時点ではそれは分からなかった。1と2を探すのはそれが何かが分かってからでもいいだろう。
「宝箱とかも何もないね、ここ。奥で左右の扉があったんだけど、こっち側はたぶんあのグレイウーズのところだよ」
 フリアが戻ってきて報告する。どうやらこの部屋で調べるべきなのはこのグリフォンだけだったらしい。
「どしたの? すごかった?」
「おう。マジックバッグが見つかった」
「え、本当に? マジックバッグってあれだよね、何でも入る」
「マジだ。鑑定結果が出た。やっぱりこのダンジョンはすげーな」
 フリアも興味津々で結果をのぞき込み、バッグを受け取ってぐるぐる回して眺める。
 腰に手を当てて立ち上がったクリストが上を眺める。上空では時折ヴァルチャーが飛ぶ姿が見られるがこちらを攻撃しようという意図はまったく感じられない。
「よし、今日はここまでだ。グリフォンを担いで地上へ戻ろう。おい、鑑定結果は一応隠しておけよ。持っている分にはいいが、使うのは次からだぞ」
 クリストがグリフォンの前足を担ぎ上げる。
 カリーナが魔法の円盤を作りだしその上に腰から後ろを乗せ、円盤を押すようにしてクリストに付いていく形を取った。前衛はフリアとエディが務め、フェリクスは支援だ。
 部屋を出ると水たまりの部屋で、さすがにグリフォンを運びながらう回するのは難しかったため、その水たまりを凍らせて通過する。
 その先は通路を進むだけで魔物の脅威などは全くなく、無事に6階に到着。そこからは吹き抜けに沿ってぐるりと回廊を進み、隠し扉を開けたらその先を慎重に進む。途中通路上のオーク1体との戦闘はあったが、そこはエディとフェリクスで難なく対処した。
 後は5階に上がり、昇降機で1階を目指すだけだ。
 昇降機にグリフォンを運び込むと全員が乗れないため、別れて1階で合流し、そこからはラットを追い払いながら出口を目指す。重労働ではあったが困難な状況になることは一度もなく、無事に地上へたどり着いた。

 ダンジョンを出るとまだ外は明るく、入り口の前にはなぜかアドルフォと、そしてモニカともう1人、少し偉そうな様子の男性が立っていた。
「おう、お疲れ。って、おいそれ、」
「わ、わ、グリフォンじゃないですか、何階です? 7階? うわ、すごい、大きい」
 高い山、崖などに巣を作り馬や牛を襲って食べる凶暴な魔物ではあるが、この辺りでは見かけること自体ほとんどない。
 一緒に立っていた男性がぼうぜんとした顔でこちらを見ている。
「ごめんなさい、ちょっと運ぶの手伝ってもらえるかしら。魔法が切れそうだわ」
「あ、ごめんなさい。すぐに」
 モニカが慌てて出張所へ戻り、すぐに人手を集めて駆けつけた。
 クリストも重かった前足を降ろすと肩を回す。
「ついでにこいつも頼む。魔石と、あとは成果は宝石と魔道具らしいものが2つだな」
 荷物を全て渡すと全員で出張所へ戻り、一休みしたところでお互いに報告となるのだが、先ほど一緒にいた男性の姿は見当たらなかった。
「なあ、さっきの、あいつは誰だ? あれか?」
「あれだ。本部から来た査察官だな。鑑定結果を見てびびったのか支部まで1人で先に戻ったよ」
「マジかよ、何しに来たんだよ」
「知るか。しょせん下っ端だったってことだな。最初は偉そうだった割にグリフォンを見てからは完全に腰が引けていたからな。本物には勝てなかったってことだ」
「まあそうなるか。はあ、このダンジョンはすごすぎるぜ」
「そんなにか? その言い方だとグリフォン以外にも何かあったな?」
「まあな、だがまずは結果を聞いておこうか」
 モニカが鑑定の結果をまとめたものを手渡す。
 その結果は魔物がグリムロックが6体、マグミンが3体、ジャイアント・ヴァルチャーが5体、ヴァルチャーが8体、そしてグリフォンが1体。
 宝石がカーネリアン、ジルコン、オブシディアン、ジャスパー、ガーネットの5個。
 魔道具は2つ。タイム・オーブは手に持っている間、屋外が今は朝なのか昼なのか夕方なのか夜なのかを知ることができる、というもの。
 もう1つ。スマイル・ワンド。3チャージを有する。1チャージ分消費することで見えている人型生物1体を1分間笑顔にすることができる。このワンドは毎朝の夜明けに消費済みのチャージを全て回復する、というもの。
「何だそれは、と言いたいところなんだが。だが時間が分かるってのはいいな、欲しいやつも多そうだ」
「1分間笑顔にするというのも良いのでは? 面白いと思いますよ」
 魔道具はどちらも好評だった。何かに絶大な効果を発揮するというものではなかったが、あると少しだけ便利になるというものだろう。
「これで今回は全部だな。それで? まだあるんだろう?」
「ああ。見るだけだぞ。この鑑定結果も俺たちが持っていく」
 バッグを手元に出し、鑑定結果を見せる。その効果は言うまでもなかった。
「なあ、これは‥‥まじか?」
「マジだな。な、すげーよな」
 バッグはそのまま後ろのカリーナに渡す。これはこれからの探索で活躍することがもう分かっている。
「これが7階で出ますか。これはもう何が何でも10階へ地下世界へ行かないとですよ」
「だな。ダンジョンでは物が出るだけだろうが、地下世界にはこいつを作る方法があるかもしれないってことだ。行かないとなあ」
「伝説の魔物に伝説の魔道具か。すげーな。はあ、でだ、さっきのあいつが今支部に行ったのは本部に助けを求めたんだろう。誰かもっとましなやつが来る。早ければ明日。出なければあさってってところだ。協力を頼む」
「そうだな。会っちまったのも縁のうちだ。仕方がない、やるさ」
 この後本部から査察官が来て支部の、出張所の仕事ぶりを見て、ダンジョンを視察するのだ。目の前の本物を見ればそれがどういうものかなどすぐに分かる。それからまた本部から今度は役員が来て、というようになっていくのだ。
 探索はひとまずここで止めて、それに協力する流れにはなるだろう。
 その後は国の中央からの視察が来るまでには7階の探索に戻れるのではないだろうか。残念ながらそれまでは一休みだ。早く8階への階段を見つけたいところだったが仕方がないだろう。マジックバッグの威力も確かめてみたかったがそれも仕方がないだろう。今は査察、視察に協力するタイミング、一休みの時だった。
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