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066:地下9階7
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扉を開けマイコニドの王がいた部屋へと戻る。すぐそこでガス・スポアが、ヴァイオレット・ファンガスが破裂して崩れ、毛皮の魔物が倒れ、マイコニドが、マイコニドの王が倒れている。それ以外には何もないように見えた。
「ねえ、何でわたしたち、ここの後始末をしなかったんだろう」
そういえば魔物から討伐証明や魔石を確保していなかった。この部屋に来るまでは毛皮の魔物もオーガもきちんと始末してきていたのに、この部屋は放置している。別にグリムロックのように面倒だったから放置したとかいう気持ちもないのに、なぜだろう。
「‥‥特に何も思い出せないな、なぜ放置したんだ? まあいい、今からでもやっておこうか」
違和感を感じながらも手近なところから後始末をしていく。ガス・スポアが2,ヴァイオレット・ファンガスが4、毛皮の魔物が3、マイコニドが2、最後にマイコニドの王だ。胸を切り開き心臓のそばにある魔石を取りだそうとして、また違和感を覚えた。魔石が黒く濁っている。
「なあ、王の魔石はこんな色だったか?」
クリストは魔石を手のひらに乗せ、仲間のところまで戻ってそれを見せる。
「んー? 違うような。マイコニドって赤っぽいか黄色っぽいかじゃなかったっけ」
「そうだよな‥‥」
「‥‥やだ、それ呪われているんじゃないの? 危ないわよ、割った方がいいわ」
のぞきこんだカリーナがそう言うと魔石を指先で払い落とすように地面に落とし、手に持った杖で突いてそれを割った。
「おい、割ってもいいもんなのか‥‥何だ? 今何かおかしな感覚が」
「ねえ、何かいるよ。奥、おかしいよ、壁だったよね?」
「壁だったな。今は布に見えるが‥‥」
部屋の最奥、マイコニドの王が立っていた背後の壁、そこは確かに壁だったはずだ。それが今は違って見える。天井からつり下げられた黒い布、幕のように見えるのだ。そしてその向こう側に何物かの気配がした。
「やべーな、どうやら本命のようだ」
目の前で天井からつり下げられていた布がバサリと床へ落ちる。その向こうもまた広い部屋になっていて、中央には玉座のようなイスがあり、その手前には怪しい人型の魔物が1体。青黒い肌に黒いローブ、頭はタコのようで口元に触手のようなひげのようなものが幾本も生えてうごめいている。そして玉座の周りには人の頭ほどの大きさ、いや、人の脳みそに毛むくじゃらの手足が生えたようなものが8体、うろうろと動き回っていた。その人型の魔物が手に持っていた杖を振るうと、雷撃がクリスト、カリーナ、フリアとちょうど縦に並ぶ形になっていた3人を貫いた。
「ちっ! 広がれ! フェリクス、カリーナ、全力でやってくれ!」
痛みに耐えたクリストが斜めに走り出し、それに併せてエディも縦を構えて突撃を開始。そしてフェリクスとダメージから立て直したカリーナが同時にファイアーボールを放ち、玉座を包むようにして炎の渦が巻き起こった。
その渦の中で杖を振った魔物がそのままゆっくりと炎の中から歩み出る。足元の小さな魔物は倒せたようだが、この魔物はやはり別のようだ。接近したクリストが剣で斬りかかるが杖で払われ、切り返して胴を切りつけたものの効果があったかどうか。エディも接近して盾を振ってけん制してから斧を突き込み胴に当たるが貫けはせず、逆に杖によって振り払われてしまう。ようやく立ち直ったフリアも壁際を移動しながらけん制目的でダーツを投げつけるが、これも防御を抜けずに終わった。
「ライトニング・ボルト!」
フェリクスの放った雷撃が正面から魔物を貫き、よろめかせる。好機と見たクリストが足を胴を狙って剣を振り、エディも斧を突き込んでから強撃を放ちダメージを積む。立て続けにダメージを受けた魔物が杖を振ると、エディの足元から黒い槍のようのものが吹き上がり盾ごと体を貫く。このダメージを受けたエディは頭に手を当ててしゃがみ込んでしまった。
「メルフス・マイニュート・ミーティアズ‥‥それからディスペル・マジック! フリア、エディはたぶんもうろうよ! クラリティで直るわ!」
カリーナは別の魔法を用意しながら魔物が自分に強化魔法を使っていると判断してディスペルをかける。この効果か、魔物の体の周りで透明なガラス片のようなものが散ったのが見えた。何かしらの効果が終了したのだ。さらにフリアに指示して膝を着いたエディの回復に向かわせる。フリアは腰のポーション入れから水色の液体が入った瓶を取り出すとエディの近くに駆け寄りその中身をぶちまけた。
「もう一度、ライトニング・ボルト!」
フェリクスは再度雷撃を放ち、魔物にダメージを積む。その攻撃によろめいた魔物が杖を振って次の魔法を使おうとしたところを狙って、カリーナが自分の頭上に展開していた小さな光の塊を魔物の頭を狙って飛ばし始めた。光の粒が流星のように魔物の頭部に命中し小さな爆発を起こす。ダメージを与えながらさらに魔法を使うための集中を妨害する狙いからだった。その光を絶え間なくぶつけられた魔物が手を止め、そこにクリストが飛び込んで剣を深く胴体に突き刺し、さらに手を離して腰からショートソードを抜き、それもまた胴体に突き刺した。さらにポーションの効果で立ち直ったエディが斧を腰だめに構え、正面から体当たりをするように突っ込み、斧の刃を深く潜らせ強撃を重ねて魔物を一歩下がらせる。だがまだ倒れることはなく、そこから杖を振ってクリストを打ち据え、またエディに向かって振るおうとしたためにエディは斧から手を離して距離を取る。
まだ光の粒を残していたカリーナがそこから残り全てを集中させて魔物の頭部に命中させると、魔物はビクビクと体を震わせ、そしてだらりと手が垂れ下がり、ようやく地面へと崩れ落ちていった。
「ふう、何とかなったな。皆大丈夫か?」
「ファイアボール2つにライトニングボルト2つでも足りないとか、どういう防御力なんだろう。押し切れて良かったよ」
「武器はどうも防御魔法を使っていたのかしらね、あまり効いていなかったみたいだし、魔法もたぶん抵抗されていたんでしょうねえ、いまいちだったわ。声を出さずに魔法を使っていたのも気になるわね」
エディ、クリスト、フェリクスがひたすらダメージを積み上げに行き、カリーナがディスペルを当てて防御魔法を止め、状態異常を受けたエディをフリアが回復でき、最後にまとめてダメージを与えられた成果だろう。とにかくこれでボスであろう魔物を撃破だ。周囲を見渡すと奥の玉座の周りに小さな脳みそのような魔物が焼け焦げた状態で崩れていて、そして玉座の左右には宝箱が現れていた。ここはどうやら撃破ボーナスとして出現するタイプだったようだ。加えてこの魔物が使っていた杖もここに残っている。何度もダメージを受けながらのクリアだったが、十分な成果を得られたと考えていいだろう。
クリストたちが魔物の後始末をしている間にフリアが2つの宝箱を開けに動き、グローブが1つ、小さなクリスタルが1つ見つかった。鑑定は後の楽しみに取っておくとして、ここからは戻ることになるのだが、扉の先のまだ魔物が残っていることが確認できた場所へ行くと、やはりここでももう魔物の姿はなく、このエリアのボスを倒したのだとようやく実感が湧いてきた。そこからは部屋から通路へまた部屋へと移動していき、最後に階段を上って水場のある部屋へと到達する。そこから中央の大きな円形の部屋へと戻ってみると、そこでは中央の円形の場所に水が満ちていた。のぞきこむと底の部分からぷくぷくと水が湧いているのが見える。石でできているように見えたがそこから湧く水というのは不思議なものだ。そしてその水は時折虹色にキラリと輝いた。
「ああ、やっぱりこれは水が出て来るようになっていたんだね。それであのボスを倒した成果がこれと。何だろうね、ただの水なのかな。たまに色が変わって見えるけれど」
「せっかくだしこの水も鑑定してみましょうか。もしかしたらポーションかもしれないし。って、待って待って、中に何かあるわね、見たことのある形、大きさ、これはあれじゃないかしら」
「どれ、あああるな。で、見たことのあるやつだ。よ、っと、順番だとここは5か?」
「そうね、5ね。9階で5、これで終わりかもう1枚あるか、いずれにせよ今までどおりの金属板ね」
これまでに6階で3、7階で4が見つかっている四角い金属製の手のひらに乗る程度の大きさの板だ。これで3枚目。何の意味があるのかはこの先で分かるかもしれないし分からないかもしれない。それが決まるまでは死蔵ということでいいだろう。
ひとまずここで休憩するとして荷物を降ろし、準備をする。それからお楽しみの鑑定だ。
まずはマイコニドの王が使っていた杖。短い杖の先端に青い水晶が付けられているこれはマジック・ミサイル・ワンドだった。王が魔法を使うのがおかしいとは思ったのだが、それはこの杖の効果だったらしい。7チャージを有し、1チャージで1レベルのマジック・ミサイルが使えるのだという。2チャージで2レベルだ。使用したチャージは夜明けとともに回復するが、全てのチャージを使い切ってしまうと20分の1の確率でこのワンドは壊れてしまうという。
「今使っている杖と交換するほどではないけれど、マジック・ミサイルを遠慮なく使えるのはいいね」
「私はかなり欲しいわね。攻撃魔法がファイアー・ボルトから飛ばしてファイアーボールよりはマジック・ミサイルも使える方がいいもの」
「そうだな。普段はカリーナが持っている方がいいのか。誰でも使えるってことならフリアが使ってもいい。状況によって使い分けよう」
続いてボスの魔物が使っていた杖だが、捻れた木製の杖の先端に開いた手のような形の木の飾りが付けられたこれはウィザリング・スタッフ。3チャージを有し、1チャージごとに対象に死霊ダメージを与えるという。さらにこのダメージへの抵抗に失敗すると追加で筋力と耐久力の抵抗が落ちるというのだから恐ろしい。使用したチャージはやはり夜明けごとに回復するようだ。
「使いどころが難しいね。これこそ今使っている杖と交換するほどではないものかな」
「相手が何かっていうことが分かっているのならファイアー・スタッフと交換はありかもしれないけれど」
「筋力と耐久力が落ちるってのはかなり有効なんだろうがな。ここで出たってことはどこかでその死霊ダメージが弱点になるようなやつが出るのかもな」
そして宝箱から見つかったもの。1つはシーヴァリー・グラヴズ。薄い絹の手袋のように見えるこれは装備すると目に見えなくなり、そして装備者の手先の早業や鍵開け、罠解除といった作業に対してボーナスが得られるのだという。これはもうフリアが装備することで決まりだ。
「おー、これいいね。こういうのいいよ。やっぱり失敗はするからね、成功の確率を上げられるっていうことだもんね」
最後に小さなクリスタル。アイウーン・ストーン・サステナンスという無色透明で紡錘型をしたこのクリスタルが使用者の頭の周りを旋回している間、飲食の必要がなくなるという代物だった。これに関しては非常に珍しい効果だが必要かといわれると悩ましい、というよりもマジックバッグに大量の食料を入れている自分たちには無用だろうというものだった。
「これは俺たちには不要か。まさに売却のための道具って感じだな」
「使いどころがよくわからないよね。でもギルドに引き渡すものとしては十分だよ」
ここまででも十分すぎるほどの成果だったが、もう一つ、池に満ちた水を鑑定してみるとこの効果がとてつもなかった。水を飲むことで盲目、聴覚喪失、恐怖、魅了、毒、もうろうの状態から1つを終了させることができるのだという。一度に一つしか回復しないとも言えるが、状態異常を受ける場合はほとんどが何かを一つだ。レッサー・レストレーションの魔法で盲目、聴覚喪失、毒には対応できるがそれは2レベルの魔法だ。さらに魅了を回復するには5レベルのグレーター・レストレーションの魔法が必要でこのパーティーでは使えるものがいない。この水をくんで持ち歩けば石化以外の状態異常にはほぼ対応できることになるのだから素晴らしい。これはもう使用済みで空いている薬瓶に入れていくことで決定だった。
「これで石化以外は安心よ。助かるわね」
「問題は石化を使うやつが結構いたってことだがな。恐怖、魅了、毒、もうろうはあったし、どこかに盲目だ聴覚喪失だとかもあったのか。空いている瓶は全部これだな」
ここまででクリアできるエリアは全てクリアしてきている。残りは上り階段の先、洞窟になっているエリア1つだけだ。それをクリアすればいよいよ両開きの扉の先、恐らくはこのフロア全体でのボスがいるのだろう場所へ挑むことになる。その先にはすでに10階への階段だろう場所が見えていた。いよいよそこへ手が届く段階が近づいてきたのだ。
今回の成果を振り返り、そして次のエリアへの思いをはせ、今はダメージを回復し、装備のメンテナンスをし、そしてゆっくりと暖かい食事をして、睡眠を取り、気力を回復させる時間だ。だが次、そして次と見えている今、なかなか興奮は冷めることはなく、水の湧くぽこぽこという小さな静かな音を聞きながら寝返りを打つことになるのだった。
「ねえ、何でわたしたち、ここの後始末をしなかったんだろう」
そういえば魔物から討伐証明や魔石を確保していなかった。この部屋に来るまでは毛皮の魔物もオーガもきちんと始末してきていたのに、この部屋は放置している。別にグリムロックのように面倒だったから放置したとかいう気持ちもないのに、なぜだろう。
「‥‥特に何も思い出せないな、なぜ放置したんだ? まあいい、今からでもやっておこうか」
違和感を感じながらも手近なところから後始末をしていく。ガス・スポアが2,ヴァイオレット・ファンガスが4、毛皮の魔物が3、マイコニドが2、最後にマイコニドの王だ。胸を切り開き心臓のそばにある魔石を取りだそうとして、また違和感を覚えた。魔石が黒く濁っている。
「なあ、王の魔石はこんな色だったか?」
クリストは魔石を手のひらに乗せ、仲間のところまで戻ってそれを見せる。
「んー? 違うような。マイコニドって赤っぽいか黄色っぽいかじゃなかったっけ」
「そうだよな‥‥」
「‥‥やだ、それ呪われているんじゃないの? 危ないわよ、割った方がいいわ」
のぞきこんだカリーナがそう言うと魔石を指先で払い落とすように地面に落とし、手に持った杖で突いてそれを割った。
「おい、割ってもいいもんなのか‥‥何だ? 今何かおかしな感覚が」
「ねえ、何かいるよ。奥、おかしいよ、壁だったよね?」
「壁だったな。今は布に見えるが‥‥」
部屋の最奥、マイコニドの王が立っていた背後の壁、そこは確かに壁だったはずだ。それが今は違って見える。天井からつり下げられた黒い布、幕のように見えるのだ。そしてその向こう側に何物かの気配がした。
「やべーな、どうやら本命のようだ」
目の前で天井からつり下げられていた布がバサリと床へ落ちる。その向こうもまた広い部屋になっていて、中央には玉座のようなイスがあり、その手前には怪しい人型の魔物が1体。青黒い肌に黒いローブ、頭はタコのようで口元に触手のようなひげのようなものが幾本も生えてうごめいている。そして玉座の周りには人の頭ほどの大きさ、いや、人の脳みそに毛むくじゃらの手足が生えたようなものが8体、うろうろと動き回っていた。その人型の魔物が手に持っていた杖を振るうと、雷撃がクリスト、カリーナ、フリアとちょうど縦に並ぶ形になっていた3人を貫いた。
「ちっ! 広がれ! フェリクス、カリーナ、全力でやってくれ!」
痛みに耐えたクリストが斜めに走り出し、それに併せてエディも縦を構えて突撃を開始。そしてフェリクスとダメージから立て直したカリーナが同時にファイアーボールを放ち、玉座を包むようにして炎の渦が巻き起こった。
その渦の中で杖を振った魔物がそのままゆっくりと炎の中から歩み出る。足元の小さな魔物は倒せたようだが、この魔物はやはり別のようだ。接近したクリストが剣で斬りかかるが杖で払われ、切り返して胴を切りつけたものの効果があったかどうか。エディも接近して盾を振ってけん制してから斧を突き込み胴に当たるが貫けはせず、逆に杖によって振り払われてしまう。ようやく立ち直ったフリアも壁際を移動しながらけん制目的でダーツを投げつけるが、これも防御を抜けずに終わった。
「ライトニング・ボルト!」
フェリクスの放った雷撃が正面から魔物を貫き、よろめかせる。好機と見たクリストが足を胴を狙って剣を振り、エディも斧を突き込んでから強撃を放ちダメージを積む。立て続けにダメージを受けた魔物が杖を振ると、エディの足元から黒い槍のようのものが吹き上がり盾ごと体を貫く。このダメージを受けたエディは頭に手を当ててしゃがみ込んでしまった。
「メルフス・マイニュート・ミーティアズ‥‥それからディスペル・マジック! フリア、エディはたぶんもうろうよ! クラリティで直るわ!」
カリーナは別の魔法を用意しながら魔物が自分に強化魔法を使っていると判断してディスペルをかける。この効果か、魔物の体の周りで透明なガラス片のようなものが散ったのが見えた。何かしらの効果が終了したのだ。さらにフリアに指示して膝を着いたエディの回復に向かわせる。フリアは腰のポーション入れから水色の液体が入った瓶を取り出すとエディの近くに駆け寄りその中身をぶちまけた。
「もう一度、ライトニング・ボルト!」
フェリクスは再度雷撃を放ち、魔物にダメージを積む。その攻撃によろめいた魔物が杖を振って次の魔法を使おうとしたところを狙って、カリーナが自分の頭上に展開していた小さな光の塊を魔物の頭を狙って飛ばし始めた。光の粒が流星のように魔物の頭部に命中し小さな爆発を起こす。ダメージを与えながらさらに魔法を使うための集中を妨害する狙いからだった。その光を絶え間なくぶつけられた魔物が手を止め、そこにクリストが飛び込んで剣を深く胴体に突き刺し、さらに手を離して腰からショートソードを抜き、それもまた胴体に突き刺した。さらにポーションの効果で立ち直ったエディが斧を腰だめに構え、正面から体当たりをするように突っ込み、斧の刃を深く潜らせ強撃を重ねて魔物を一歩下がらせる。だがまだ倒れることはなく、そこから杖を振ってクリストを打ち据え、またエディに向かって振るおうとしたためにエディは斧から手を離して距離を取る。
まだ光の粒を残していたカリーナがそこから残り全てを集中させて魔物の頭部に命中させると、魔物はビクビクと体を震わせ、そしてだらりと手が垂れ下がり、ようやく地面へと崩れ落ちていった。
「ふう、何とかなったな。皆大丈夫か?」
「ファイアボール2つにライトニングボルト2つでも足りないとか、どういう防御力なんだろう。押し切れて良かったよ」
「武器はどうも防御魔法を使っていたのかしらね、あまり効いていなかったみたいだし、魔法もたぶん抵抗されていたんでしょうねえ、いまいちだったわ。声を出さずに魔法を使っていたのも気になるわね」
エディ、クリスト、フェリクスがひたすらダメージを積み上げに行き、カリーナがディスペルを当てて防御魔法を止め、状態異常を受けたエディをフリアが回復でき、最後にまとめてダメージを与えられた成果だろう。とにかくこれでボスであろう魔物を撃破だ。周囲を見渡すと奥の玉座の周りに小さな脳みそのような魔物が焼け焦げた状態で崩れていて、そして玉座の左右には宝箱が現れていた。ここはどうやら撃破ボーナスとして出現するタイプだったようだ。加えてこの魔物が使っていた杖もここに残っている。何度もダメージを受けながらのクリアだったが、十分な成果を得られたと考えていいだろう。
クリストたちが魔物の後始末をしている間にフリアが2つの宝箱を開けに動き、グローブが1つ、小さなクリスタルが1つ見つかった。鑑定は後の楽しみに取っておくとして、ここからは戻ることになるのだが、扉の先のまだ魔物が残っていることが確認できた場所へ行くと、やはりここでももう魔物の姿はなく、このエリアのボスを倒したのだとようやく実感が湧いてきた。そこからは部屋から通路へまた部屋へと移動していき、最後に階段を上って水場のある部屋へと到達する。そこから中央の大きな円形の部屋へと戻ってみると、そこでは中央の円形の場所に水が満ちていた。のぞきこむと底の部分からぷくぷくと水が湧いているのが見える。石でできているように見えたがそこから湧く水というのは不思議なものだ。そしてその水は時折虹色にキラリと輝いた。
「ああ、やっぱりこれは水が出て来るようになっていたんだね。それであのボスを倒した成果がこれと。何だろうね、ただの水なのかな。たまに色が変わって見えるけれど」
「せっかくだしこの水も鑑定してみましょうか。もしかしたらポーションかもしれないし。って、待って待って、中に何かあるわね、見たことのある形、大きさ、これはあれじゃないかしら」
「どれ、あああるな。で、見たことのあるやつだ。よ、っと、順番だとここは5か?」
「そうね、5ね。9階で5、これで終わりかもう1枚あるか、いずれにせよ今までどおりの金属板ね」
これまでに6階で3、7階で4が見つかっている四角い金属製の手のひらに乗る程度の大きさの板だ。これで3枚目。何の意味があるのかはこの先で分かるかもしれないし分からないかもしれない。それが決まるまでは死蔵ということでいいだろう。
ひとまずここで休憩するとして荷物を降ろし、準備をする。それからお楽しみの鑑定だ。
まずはマイコニドの王が使っていた杖。短い杖の先端に青い水晶が付けられているこれはマジック・ミサイル・ワンドだった。王が魔法を使うのがおかしいとは思ったのだが、それはこの杖の効果だったらしい。7チャージを有し、1チャージで1レベルのマジック・ミサイルが使えるのだという。2チャージで2レベルだ。使用したチャージは夜明けとともに回復するが、全てのチャージを使い切ってしまうと20分の1の確率でこのワンドは壊れてしまうという。
「今使っている杖と交換するほどではないけれど、マジック・ミサイルを遠慮なく使えるのはいいね」
「私はかなり欲しいわね。攻撃魔法がファイアー・ボルトから飛ばしてファイアーボールよりはマジック・ミサイルも使える方がいいもの」
「そうだな。普段はカリーナが持っている方がいいのか。誰でも使えるってことならフリアが使ってもいい。状況によって使い分けよう」
続いてボスの魔物が使っていた杖だが、捻れた木製の杖の先端に開いた手のような形の木の飾りが付けられたこれはウィザリング・スタッフ。3チャージを有し、1チャージごとに対象に死霊ダメージを与えるという。さらにこのダメージへの抵抗に失敗すると追加で筋力と耐久力の抵抗が落ちるというのだから恐ろしい。使用したチャージはやはり夜明けごとに回復するようだ。
「使いどころが難しいね。これこそ今使っている杖と交換するほどではないものかな」
「相手が何かっていうことが分かっているのならファイアー・スタッフと交換はありかもしれないけれど」
「筋力と耐久力が落ちるってのはかなり有効なんだろうがな。ここで出たってことはどこかでその死霊ダメージが弱点になるようなやつが出るのかもな」
そして宝箱から見つかったもの。1つはシーヴァリー・グラヴズ。薄い絹の手袋のように見えるこれは装備すると目に見えなくなり、そして装備者の手先の早業や鍵開け、罠解除といった作業に対してボーナスが得られるのだという。これはもうフリアが装備することで決まりだ。
「おー、これいいね。こういうのいいよ。やっぱり失敗はするからね、成功の確率を上げられるっていうことだもんね」
最後に小さなクリスタル。アイウーン・ストーン・サステナンスという無色透明で紡錘型をしたこのクリスタルが使用者の頭の周りを旋回している間、飲食の必要がなくなるという代物だった。これに関しては非常に珍しい効果だが必要かといわれると悩ましい、というよりもマジックバッグに大量の食料を入れている自分たちには無用だろうというものだった。
「これは俺たちには不要か。まさに売却のための道具って感じだな」
「使いどころがよくわからないよね。でもギルドに引き渡すものとしては十分だよ」
ここまででも十分すぎるほどの成果だったが、もう一つ、池に満ちた水を鑑定してみるとこの効果がとてつもなかった。水を飲むことで盲目、聴覚喪失、恐怖、魅了、毒、もうろうの状態から1つを終了させることができるのだという。一度に一つしか回復しないとも言えるが、状態異常を受ける場合はほとんどが何かを一つだ。レッサー・レストレーションの魔法で盲目、聴覚喪失、毒には対応できるがそれは2レベルの魔法だ。さらに魅了を回復するには5レベルのグレーター・レストレーションの魔法が必要でこのパーティーでは使えるものがいない。この水をくんで持ち歩けば石化以外の状態異常にはほぼ対応できることになるのだから素晴らしい。これはもう使用済みで空いている薬瓶に入れていくことで決定だった。
「これで石化以外は安心よ。助かるわね」
「問題は石化を使うやつが結構いたってことだがな。恐怖、魅了、毒、もうろうはあったし、どこかに盲目だ聴覚喪失だとかもあったのか。空いている瓶は全部これだな」
ここまででクリアできるエリアは全てクリアしてきている。残りは上り階段の先、洞窟になっているエリア1つだけだ。それをクリアすればいよいよ両開きの扉の先、恐らくはこのフロア全体でのボスがいるのだろう場所へ挑むことになる。その先にはすでに10階への階段だろう場所が見えていた。いよいよそこへ手が届く段階が近づいてきたのだ。
今回の成果を振り返り、そして次のエリアへの思いをはせ、今はダメージを回復し、装備のメンテナンスをし、そしてゆっくりと暖かい食事をして、睡眠を取り、気力を回復させる時間だ。だが次、そして次と見えている今、なかなか興奮は冷めることはなく、水の湧くぽこぽこという小さな静かな音を聞きながら寝返りを打つことになるのだった。
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不審な動きをする他国の艦船と怪しい組織。そんな中、異世界からの来訪者が現れる。政府の秘密組織も行動を開始する。
古代から権力者たちによって秘密にされてきた異世界との関係。地球とアガルタ、二つの世界を巻き込む陰謀の渦中で、古代の謎が解き明かされていく。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
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