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「おーねーさーまー! 遊びに来ましたわー!」
雲一つない秋晴れの午後、別荘の静寂を切り裂いたのは、鈴を転がすような、しかし心臓に悪いほど明るい声だった。
門の前に止まったのは、ピンクのレースでデコレーションされた、これでもかと目立つ馬車。
そこから、ふわふわのドレスを翻して飛び出してきたのは、この国の新ヒロイン(仮)であるマイカだった。
「……うげっ。出たわね、天然最終兵器」
シャーミーは手に持っていた特大のジャガイモを落としそうになりながら、眉間に深いシワを寄せた。
今の彼女は、泥だらけの作業着に、頭には手ぬぐいという「農場主モード」。
対するマイカは、まるでお花畑から抜け出してきたような、隙のない令嬢ファッションである。
「お姉様、お久しぶりです! あら、その格好……最先端の『泥美容』ですのね? さすがはお姉様、王都を離れても美への追求を忘れないなんて素敵ですわ!」
「……美容じゃないわよ。ただの泥よ。それよりマイカさん、あなたどうしてここにいるの? ここは追放された悪女がひっそりと芋を掘る聖域なのよ?」
シャーミーが突き放すように言っても、マイカの顔から笑顔は消えない。
それどころか、彼女は両手に抱えた重そうな重箱を差し出してきた。
「リュカ様がお仕事で全然遊んでくれないので、お姉様にお団子を届けてあげようと思いまして! あ、もちろんカイル様もご一緒ですよね? 『視察に行く』って言ったきり、王宮に戻ってこないって皆さんが探してましたわよ?」
その言葉に、物陰でこっそり草むしりをしていたカイルの肩が、びくんと跳ねた。
彼は今、ボロボロの帽子を深く被り、必死に気配を消している。
「カイル? 誰のことかしら。ここには、口の悪い草むしり職人の『眼鏡さん』しかいないわよ」
「……そうだ。私はただの草むしり職人だ。人違いだろう、男爵令嬢」
カイルが低い声で(必死に裏声を混ぜて)答えるが、マイカは「はわわ」と目を輝かせた。
「まあ! カイル様にそっくりの声の職人さん! 世の中には不思議なことがあるのですね。……ところで職人さん、その眼鏡、カイル様が愛用していた限定モデルの最高級品にそっくりですわ!」
「……っ。細かいところだけ鋭いわね、あなた!」
シャーミーが思わずツッコミを入れる。
マイカは構わず庭に上がり込み、畝(うね)の間を軽やかなステップで歩き始めた。
「お姉様、このお庭、とっても整っていて気持ちいいです! そうだわ、私もお手伝いします! 幸せを分かち合うために、このお団子を土に埋めればいいのかしら?」
「やめなさい! それはただのゴミの不法投棄よ! それに、そんなヒラヒラのドレスで畑に入ったら、一瞬で雑草の餌食になるわよ!」
「大丈夫ですわ! 私、こう見えても根性だけはあるんです! えいっ!」
マイカがやる気満々に拳を握った瞬間、彼女の足元を通りかかった「白ちゃん(幽霊)」が、いたずら心で彼女の裾を少しだけ引っ張った。
「はわわっ!? 今、何かにエスコートされたような気がします! お姉様、ここには見えないエルフさんでも住んでいるのですか?」
「エルフじゃないわ、ただの暇な幽霊よ。……もう、勝手にしなさい。ただし、私の大事なジャガイモを踏んだら、その場で慰謝料を三倍に吊り上げるからね!」
「はい、お姉様! 愛のムチ、ありがとうございます!」
(……全然、嫌味が効かない。こいつ、やっぱり無敵だわ)
シャーミーは深いため息をついた。
王都では「悪役令嬢」として彼女を散々いびって(つもりで)きたが、マイカにはすべて「お姉様からの熱烈なコミュニケーション」として変換されていたらしい。
「セバス、お茶の準備をして。……毒は入れなくていいわ。この子、毒を盛っても『刺激的なスパイスですわ!』とか言って完食しそうだもの」
「承知いたしました、お嬢様。マイカ様のポジティブエネルギーに、白ちゃんもたじたじのようでございますな」
セバスがクスクスと笑いながら屋敷へ戻っていく。
カイルは諦めたように帽子を取り、泥だらけの顔でマイカを睨んだ。
「……マイカ。王宮の奴らには、私のことは黙っていろ。いいか、絶対にだぞ」
「あら、やっぱりカイル様! どうしてそんなに泥だらけに? ……あ、わかりました! これが王都で噂の『大地のパワーを吸収する極秘任務』ですね!」
「……もうそれでいい。勝手に解釈しろ」
こうして、シャーミーの農場に、最も噛み合わない三人が揃ってしまった。
泥だらけの元令嬢、逃亡中の宰相、そして花畑全開の天然娘。
「お姉様、お団子食べましょう! お口、あーんしてください!」
「自分でお食べ! ……あ、ちょっと、それ限定品の高いお団子じゃない。……一個だけよ、一個だけ食べるから!」
賑やかすぎる……というか、うるさすぎる女子会(?)の幕が上がった。
シャーミーの「静かな隠居生活」は、マイカの無邪気な襲来によって、さらに予測不可能な方向へと転がり始めたのだった。
雲一つない秋晴れの午後、別荘の静寂を切り裂いたのは、鈴を転がすような、しかし心臓に悪いほど明るい声だった。
門の前に止まったのは、ピンクのレースでデコレーションされた、これでもかと目立つ馬車。
そこから、ふわふわのドレスを翻して飛び出してきたのは、この国の新ヒロイン(仮)であるマイカだった。
「……うげっ。出たわね、天然最終兵器」
シャーミーは手に持っていた特大のジャガイモを落としそうになりながら、眉間に深いシワを寄せた。
今の彼女は、泥だらけの作業着に、頭には手ぬぐいという「農場主モード」。
対するマイカは、まるでお花畑から抜け出してきたような、隙のない令嬢ファッションである。
「お姉様、お久しぶりです! あら、その格好……最先端の『泥美容』ですのね? さすがはお姉様、王都を離れても美への追求を忘れないなんて素敵ですわ!」
「……美容じゃないわよ。ただの泥よ。それよりマイカさん、あなたどうしてここにいるの? ここは追放された悪女がひっそりと芋を掘る聖域なのよ?」
シャーミーが突き放すように言っても、マイカの顔から笑顔は消えない。
それどころか、彼女は両手に抱えた重そうな重箱を差し出してきた。
「リュカ様がお仕事で全然遊んでくれないので、お姉様にお団子を届けてあげようと思いまして! あ、もちろんカイル様もご一緒ですよね? 『視察に行く』って言ったきり、王宮に戻ってこないって皆さんが探してましたわよ?」
その言葉に、物陰でこっそり草むしりをしていたカイルの肩が、びくんと跳ねた。
彼は今、ボロボロの帽子を深く被り、必死に気配を消している。
「カイル? 誰のことかしら。ここには、口の悪い草むしり職人の『眼鏡さん』しかいないわよ」
「……そうだ。私はただの草むしり職人だ。人違いだろう、男爵令嬢」
カイルが低い声で(必死に裏声を混ぜて)答えるが、マイカは「はわわ」と目を輝かせた。
「まあ! カイル様にそっくりの声の職人さん! 世の中には不思議なことがあるのですね。……ところで職人さん、その眼鏡、カイル様が愛用していた限定モデルの最高級品にそっくりですわ!」
「……っ。細かいところだけ鋭いわね、あなた!」
シャーミーが思わずツッコミを入れる。
マイカは構わず庭に上がり込み、畝(うね)の間を軽やかなステップで歩き始めた。
「お姉様、このお庭、とっても整っていて気持ちいいです! そうだわ、私もお手伝いします! 幸せを分かち合うために、このお団子を土に埋めればいいのかしら?」
「やめなさい! それはただのゴミの不法投棄よ! それに、そんなヒラヒラのドレスで畑に入ったら、一瞬で雑草の餌食になるわよ!」
「大丈夫ですわ! 私、こう見えても根性だけはあるんです! えいっ!」
マイカがやる気満々に拳を握った瞬間、彼女の足元を通りかかった「白ちゃん(幽霊)」が、いたずら心で彼女の裾を少しだけ引っ張った。
「はわわっ!? 今、何かにエスコートされたような気がします! お姉様、ここには見えないエルフさんでも住んでいるのですか?」
「エルフじゃないわ、ただの暇な幽霊よ。……もう、勝手にしなさい。ただし、私の大事なジャガイモを踏んだら、その場で慰謝料を三倍に吊り上げるからね!」
「はい、お姉様! 愛のムチ、ありがとうございます!」
(……全然、嫌味が効かない。こいつ、やっぱり無敵だわ)
シャーミーは深いため息をついた。
王都では「悪役令嬢」として彼女を散々いびって(つもりで)きたが、マイカにはすべて「お姉様からの熱烈なコミュニケーション」として変換されていたらしい。
「セバス、お茶の準備をして。……毒は入れなくていいわ。この子、毒を盛っても『刺激的なスパイスですわ!』とか言って完食しそうだもの」
「承知いたしました、お嬢様。マイカ様のポジティブエネルギーに、白ちゃんもたじたじのようでございますな」
セバスがクスクスと笑いながら屋敷へ戻っていく。
カイルは諦めたように帽子を取り、泥だらけの顔でマイカを睨んだ。
「……マイカ。王宮の奴らには、私のことは黙っていろ。いいか、絶対にだぞ」
「あら、やっぱりカイル様! どうしてそんなに泥だらけに? ……あ、わかりました! これが王都で噂の『大地のパワーを吸収する極秘任務』ですね!」
「……もうそれでいい。勝手に解釈しろ」
こうして、シャーミーの農場に、最も噛み合わない三人が揃ってしまった。
泥だらけの元令嬢、逃亡中の宰相、そして花畑全開の天然娘。
「お姉様、お団子食べましょう! お口、あーんしてください!」
「自分でお食べ! ……あ、ちょっと、それ限定品の高いお団子じゃない。……一個だけよ、一個だけ食べるから!」
賑やかすぎる……というか、うるさすぎる女子会(?)の幕が上がった。
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