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嵐の前の静けさとは、まさにこのことだった。
別荘の裏手に広がるシャーミー農場。そこには、月光を浴びて黄金色に輝く(ように見える)広大なジャガイモ畑が広がっていた。
明日はついに、王宮をも黙らせる「最高級ジャガイモ」の初収穫日だ。
「……いい、みんな。明日の夜明けとともに、私たちの運命が決まるわ。このジャガイモが市場に出れば、私は名実ともに『自由な農場主』として歴史に名を刻むのよ」
シャーミーは、戦場に赴く将軍のような面持ちで、並み居る面々を見渡した。
泥まみれの王子リュカ、やる気満々のマイカ、冷静なカイル、そして半透明の白ちゃん。
彼らは皆、この数ヶ月で培った「農夫の魂」を宿した瞳で頷いた。
「わかっている、シャーミー。俺もこの日のために、手のマメを潰しながら土を捏ねてきたんだ。明日、俺の育てた(つもりの)芋が、王都の食卓を支配するのをこの目で見届けてやる!」
「お姉様! 私、お祝いに特大のお団子を百個用意しておきましたわ! 収穫が終わったら、みんなで泥んこパーティーをしましょう!」
そんな平和な決起集会の最中。
森の奥から、地響きのような不穏な音が響いてきた。
「……お嬢様。来ましたな。この地域の『真の主』たちが」
セバスが鋭い眼差しで森を睨みつける。
暗闇の中から現れたのは、一頭一頭が小象ほどもある巨大なイノシシの群れだった。
それもただのイノシシではない。この地方で「大地の荒らし屋」と恐れられる、凶暴な野生の魔獣たちだ。
「なっ、何よあいつら! 私のジャガイモを狙ってるっていうの!? 許さないわよ、一粒だって渡さないんだから!」
「シャーミー、下がっていろ。奴らは飢えている。……騎士団の槍をも弾き返すその皮を、君の鍬一本でどうにかできる相手ではない」
カイルが素早くシャーミーの前に立ち、腰の護身用短剣を抜いた。
いつもの眼鏡の奥の瞳が、今は獲物を狙う鷹のように冷たく、鋭い。
「何言ってるのよ、カイル! あんたこそ下がりなさい! あんたの手は、書類を動かしたり、私の……その、変な告白をしたりするためにあるんでしょ! こんなところで汚れていい手じゃないわよ!」
シャーミーが叫んだ瞬間、自分でも驚くほど心臓が跳ねた。
「変な告白」と言いながら、彼女の脳裏には、数日前にカイルに壁に追い詰められた時の温度、香りが鮮明に蘇っていた。
(……え? ちょっと待って。私、今なんて思った? カイルの手が汚れるのが嫌? 大切にしたいって……それ、私が一番嫌ってた『恋』っていう病気じゃない!?)
「……シャーミー? 急に顔を真っ赤にしてどうした。恐怖で理性が飛んだか?」
「う、うるさいわね! 理性ならとっくにジャガイモと一緒に土に埋めたわよ! ……いいわ、みんな! 迎撃よ! 私の恋心……じゃなくて、ジャガイモを守り抜くわよ!」
シャーミーの号令とともに、農場は一転して戦場と化した。
「白ちゃん、あいつらの足元を凍らせて! リュカ殿下、あなたは……その辺で派手な音でも立てて注意を引いて!」
「任せろ! 俺の美声で、イノシシどもを魅了してやろう! おお、麗しき大地の豚よ、俺のポエムを聴けぇぇ!」
王子の絶叫(という名の騒音)にイノシシたちが怯む隙に、レオが手作りの罠を作動させ、マイカが「はわわー!」と叫びながらお団子(特製・超硬質)を投石機で撃ち込む。
ドカッ! バキッ! ブヒィィィン!
カオスな乱戦の中、一頭の巨大なボス・イノシシが、防御を突き抜けてシャーミーへと突進してきた。
「しまっ……! 間に合わないわ!」
シャーミーが鍬を構え直そうとしたその時。
背後から強い力で抱き寄せられ、視界がぐるりと回った。
「……無茶をするなと言っただろう、シャーミー」
カイルの声が耳元で響く。
彼はシャーミーを抱えたまま地面を転がり、間一髪で突進を回避していた。
月明かりの下、重なり合う二人の体。
土と草の匂いに混じって、カイルの激しい鼓動がシャーミーの背中に伝わってくる。
「……カイル。あなた、怪我は……」
「……ない。それより、君の方が大事だ。……いいか、君がいない農場など、私には一片の価値もないんだ。だから、勝手に死ぬな」
カイルの瞳が、真っ直ぐにシャーミーを射抜いた。
その瞬間、シャーミーの脳内で「ジャガイモ・ビジネス」の数字がすべて弾け飛んだ。
(……ああ、もう。認めざるを得ないわ。私、この理屈っぽくて、独占欲が強くて、泥まみれの眼鏡のことが……大っ嫌いなはずなのに、誰よりも……!)
「……わかったわよ。わかったわよ、バカ! 死なないわよ、あなたに借りを返さなきゃいけないんだから!」
シャーミーは真っ赤な顔でカイルを突き飛ばして立ち上がると、落ちていた鍬を力いっぱい握りしめた。
「おらぁぁぁ! 私の恋路……じゃなくて収穫祭を邪魔するイノシシども! 覚悟しなさい! 今夜はボタン鍋パーティーよぉぉぉ!!」
覚醒した悪役令嬢(農場主)の咆哮が、夜の森に響き渡った。
決戦の夜明け。
それは、シャーミーが自分の恋心という「最強の種」を自覚した瞬間でもあった。
別荘の裏手に広がるシャーミー農場。そこには、月光を浴びて黄金色に輝く(ように見える)広大なジャガイモ畑が広がっていた。
明日はついに、王宮をも黙らせる「最高級ジャガイモ」の初収穫日だ。
「……いい、みんな。明日の夜明けとともに、私たちの運命が決まるわ。このジャガイモが市場に出れば、私は名実ともに『自由な農場主』として歴史に名を刻むのよ」
シャーミーは、戦場に赴く将軍のような面持ちで、並み居る面々を見渡した。
泥まみれの王子リュカ、やる気満々のマイカ、冷静なカイル、そして半透明の白ちゃん。
彼らは皆、この数ヶ月で培った「農夫の魂」を宿した瞳で頷いた。
「わかっている、シャーミー。俺もこの日のために、手のマメを潰しながら土を捏ねてきたんだ。明日、俺の育てた(つもりの)芋が、王都の食卓を支配するのをこの目で見届けてやる!」
「お姉様! 私、お祝いに特大のお団子を百個用意しておきましたわ! 収穫が終わったら、みんなで泥んこパーティーをしましょう!」
そんな平和な決起集会の最中。
森の奥から、地響きのような不穏な音が響いてきた。
「……お嬢様。来ましたな。この地域の『真の主』たちが」
セバスが鋭い眼差しで森を睨みつける。
暗闇の中から現れたのは、一頭一頭が小象ほどもある巨大なイノシシの群れだった。
それもただのイノシシではない。この地方で「大地の荒らし屋」と恐れられる、凶暴な野生の魔獣たちだ。
「なっ、何よあいつら! 私のジャガイモを狙ってるっていうの!? 許さないわよ、一粒だって渡さないんだから!」
「シャーミー、下がっていろ。奴らは飢えている。……騎士団の槍をも弾き返すその皮を、君の鍬一本でどうにかできる相手ではない」
カイルが素早くシャーミーの前に立ち、腰の護身用短剣を抜いた。
いつもの眼鏡の奥の瞳が、今は獲物を狙う鷹のように冷たく、鋭い。
「何言ってるのよ、カイル! あんたこそ下がりなさい! あんたの手は、書類を動かしたり、私の……その、変な告白をしたりするためにあるんでしょ! こんなところで汚れていい手じゃないわよ!」
シャーミーが叫んだ瞬間、自分でも驚くほど心臓が跳ねた。
「変な告白」と言いながら、彼女の脳裏には、数日前にカイルに壁に追い詰められた時の温度、香りが鮮明に蘇っていた。
(……え? ちょっと待って。私、今なんて思った? カイルの手が汚れるのが嫌? 大切にしたいって……それ、私が一番嫌ってた『恋』っていう病気じゃない!?)
「……シャーミー? 急に顔を真っ赤にしてどうした。恐怖で理性が飛んだか?」
「う、うるさいわね! 理性ならとっくにジャガイモと一緒に土に埋めたわよ! ……いいわ、みんな! 迎撃よ! 私の恋心……じゃなくて、ジャガイモを守り抜くわよ!」
シャーミーの号令とともに、農場は一転して戦場と化した。
「白ちゃん、あいつらの足元を凍らせて! リュカ殿下、あなたは……その辺で派手な音でも立てて注意を引いて!」
「任せろ! 俺の美声で、イノシシどもを魅了してやろう! おお、麗しき大地の豚よ、俺のポエムを聴けぇぇ!」
王子の絶叫(という名の騒音)にイノシシたちが怯む隙に、レオが手作りの罠を作動させ、マイカが「はわわー!」と叫びながらお団子(特製・超硬質)を投石機で撃ち込む。
ドカッ! バキッ! ブヒィィィン!
カオスな乱戦の中、一頭の巨大なボス・イノシシが、防御を突き抜けてシャーミーへと突進してきた。
「しまっ……! 間に合わないわ!」
シャーミーが鍬を構え直そうとしたその時。
背後から強い力で抱き寄せられ、視界がぐるりと回った。
「……無茶をするなと言っただろう、シャーミー」
カイルの声が耳元で響く。
彼はシャーミーを抱えたまま地面を転がり、間一髪で突進を回避していた。
月明かりの下、重なり合う二人の体。
土と草の匂いに混じって、カイルの激しい鼓動がシャーミーの背中に伝わってくる。
「……カイル。あなた、怪我は……」
「……ない。それより、君の方が大事だ。……いいか、君がいない農場など、私には一片の価値もないんだ。だから、勝手に死ぬな」
カイルの瞳が、真っ直ぐにシャーミーを射抜いた。
その瞬間、シャーミーの脳内で「ジャガイモ・ビジネス」の数字がすべて弾け飛んだ。
(……ああ、もう。認めざるを得ないわ。私、この理屈っぽくて、独占欲が強くて、泥まみれの眼鏡のことが……大っ嫌いなはずなのに、誰よりも……!)
「……わかったわよ。わかったわよ、バカ! 死なないわよ、あなたに借りを返さなきゃいけないんだから!」
シャーミーは真っ赤な顔でカイルを突き飛ばして立ち上がると、落ちていた鍬を力いっぱい握りしめた。
「おらぁぁぁ! 私の恋路……じゃなくて収穫祭を邪魔するイノシシども! 覚悟しなさい! 今夜はボタン鍋パーティーよぉぉぉ!!」
覚醒した悪役令嬢(農場主)の咆哮が、夜の森に響き渡った。
決戦の夜明け。
それは、シャーミーが自分の恋心という「最強の種」を自覚した瞬間でもあった。
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