婚約破棄!悪役令嬢は手切れ金で優雅に高飛びさせていただきますわ!

苺マカロン

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「――却下だ」

白銀砦の執務室。

私の提出した『挙式および披露宴に関する事業計画書(予算案)』を一読したギルバート様は、それをバサリと机に放り投げた。

「なっ……!?」

私は思わず立ち上がった。

「なぜですか、閣下! 完璧なプランのはずです! 無駄を極限まで削ぎ落とし、コストパフォーマンスを最大化した自信作ですよ!?」

「エーミール。君の言う『無駄の削減』とは、具体的にどこだ?」

「全部です」

私は指折り数えた。

「まず、招待状。紙代と郵送費がもったいないので、口頭伝達または『伝書鳩(騎士の走り使い)』で済ませます」

「……」

「次に、ウェディングドレス。新品は資産価値が下落する一方なので、カーテンの生地をリメイクします。私が縫えばタダです」

「……」

「料理。フルコースは食べ残し(ロス)が出るので、ビュッフェ形式の『芋煮会』にします。これもタダ同然のジャガイモがありますから」

「……」

「そして会場。王都の教会はレンタル料が高いので、ここの『中庭』で。雨が降ったら傘をさせば問題ありません」

「ふざけるな!!」

ギルバート様が机をバンと叩いた。

「一生に一度の晴れ舞台だぞ!? なんだその『村の収穫祭』みたいなプランは!」

「ですが、結婚式自体は法的拘束力を強めるための儀式(セレモニー)に過ぎません。そこに金貨数千枚を投じるのは、投資対効果(ROI)が見合いません!」

私は電卓を突きつけて抗議した。

「そのお金があれば、新しい温泉掘削機が買えます! 騎士たちのプロテインも一年分買えます!」

「金の問題じゃない! 俺は、君に世界一美しいドレスを着せて、世界一盛大な式で皆に祝福されたいんだ!」

「閣下の自己満足(エゴ)です!」

「愛だ!」

平行線である。

私の「超・節約プラン」と、ギルバート様の「超・豪華プラン」。
水と油。氷と炎。

そこへ、騒ぎを聞きつけたガストン団長たちが乱入してきた。

「ど、どうしたんすか!? 夫婦喧嘩っすか!?」

「ガストン、聞いてくれ。こいつが結婚式で『芋煮』を出そうとしている」

「い、芋煮ぃぃ!?」

ガストン団長が絶望の表情で崩れ落ちた。

「嘘だろ……俺たち、てっきり『肉ケーキ』が出るもんだと……」

「肉ケーキなどという高カロリー・高コストな物体は却下です」

私が切り捨てると、騎士たちからブーイングが起きた。

「反対! 断固反対!」

「エーミール様のドレス姿が見たい!」

「肉をよこせ!」

四面楚歌だ。
私の味方は電卓しかいない。

「……はぁ。分かりました」

私は腕組みをして、少し譲歩する姿勢を見せた。

「では、折衷案を出しましょう。……ドレスはレンタルにします。料理には、少しだけ肉(鶏ムネ肉)を入れましょう」

「違う、そうじゃない」

ギルバート様は頭を抱えた。

「エーミール。金ならある。王都で巻き上げた……いや、稼いだ金貨五万枚があるだろう? あれを使えばいい」

「あれは『内部留保』です! 将来のリスクに備えて貯蓄すべきです!」

「君は、俺との結婚生活にそんなにリスクを感じているのか?」

ギルバート様が悲しそうな目をする。
ズルい。その「捨てられた大型犬」みたいな目は反則だ。

「……うっ。そういうわけでは……」

「なら、パーッと使おう。俺の愛の大きさを示すためだと思って」

「……」

私は計算機をカチャカチャと叩きながら、脳内で必死にシミュレーションを行った。

結婚式に金をかけるメリット。
・ギルバート様の機嫌が良くなる。
・騎士たちの士気が上がる。
・私のドレス姿の記録が残る(自己満足)。

……弱い。
金貨五万枚を投じる理由としては弱すぎる。

何か……何か、もっと決定的な『利益』を生み出す方法は……。

その時。
私の脳裏に、ある閃き(アイデア)が稲妻のように走った。

「――待ちたまえ」

私は顔を上げた。

「結婚式……人を呼ぶ……大勢の貴族……富裕層……」

「エーミール?」

「注目度……メディア……宣伝効果……」

ブツブツと呟く私を見て、ギルバート様が嫌な予感を覚えたように後ずさる。

「おい、その顔はやめろ。また何か悪巧みをしている顔だぞ」

「……見えました」

私はバッと顔を上げ、ニヤリと笑った。

「閣下! 前言撤回します! 結婚式は『超・豪華』にやりましょう! 予算は青天井(アンリミテッド)です!」

「えっ? 急にどうした?」

「ただし! 条件があります!」

私は黒板に向かい、猛スピードで書き殴った。

『結婚式 = 大規模展示即売会(エキスポ)』

「は?」

「ただの結婚式では、金が出ていくだけです。ですが、これを『辺境伯領・大感謝祭&新商品発表会』と位置付ければどうでしょう?」

私は目を輝かせて力説した。

「招待客は、王都の有力貴族、各国の王族、そして豪商たちに限定します。彼らに『ご祝儀』を持参させつつ、会場で当領地の特産品を売り込むのです!」

「……結婚式で商売をする気か?」

「当然です! 引き出物は『新作カタログ』! ウェディングケーキは『特大アイスケーキ(商品サンプル)』! お色直しのドレスは『魔獣毛皮の新作(ファッションショー)』!」

私の妄想が止まらない。

「さらに、参列者からは『参加費』……いえ、『会費』を徴収します。席次もオークション形式にして、高値をつけた人を上座に――」

「待て待て待て!」

ギルバート様が慌てて私を止めた。

「席のオークションはやめろ! 兄上(国王)が来るんだぞ!?」

「陛下なら、一番高い席を買ってくれるはずです(経費で)」

「君なぁ……」

ギルバート様は呆れ果てたが、私は止まらなかった。

「ガストン団長! 貴方たちの出番です!」

「へっ? 肉っすか?」

「違います! 余興として『騎士団演武(マッスル・ミュージカル)』を行います! 鍛え上げた肉体美を見せつけ、傭兵としての契約を取り付けるのです! チケット制にします!」

「マッスル・ミュージカル!? なんかカッコいい!」

騎士たちが乗り気になった。

「閣下! 招待状のデザインは私がやります! 『来ないと損する! 伝説の結婚式!』というキャッチコピーを入れましょう!」

「……もう好きにしろ」

ギルバート様は諦めたように笑った。

「ただし、誓いのキスの時だけは、商売の話はナシだぞ」

「善処します(約束はしません)」

こうして、私たちの結婚式は、単なる愛の誓いの場から、国家規模の一大ビジネスプロジェクトへと変貌を遂げた。

予算は潤沢。
人手も十分。
あとは、いかにして客から金を巻き上げ……もとい、楽しんでいただくか。

「忙しくなりますわよ! 稼ぎ時です!」

「「「イエッサー!!」」」

執務室に響く鬨の声。

数日後。
王都の貴族たちの元に届いた『招待状(という名の挑戦状)』を見て、多くの者が「試されている……!」と震え上がったという。

そして、その中には、廃嫡され鉱山送りになる直前のクラーク元王太子への「特別招待状(見せつけ用)」も含まれていたのだが――それはまた、余興の一つである。
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