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「イーズ様ぁ! 戻りましたぁ! 交渉成立ですぅ……!」
隣国の王宮、応接室の重厚な扉を蹴破らんばかりの勢いで、ララさんが飛び込んできた。
その後ろには、台車を引いた数人の衛兵たちが、死んだ魚のような目で続いてくる。
台車の上には、天井に届きそうなほどの紙の束が、うず高く積まれていた。
「……おかえり、ララさん。とりあえず、その『紙の山』が何なのか説明してくれるかしら?」
私は紅茶のカップを置き、嫌な予感しかしない物体を指差した。
ララさんは煤だらけだった顔を綺麗に洗い、聖母のような微笑みを浮かべて胸を張る。
「はい! 私、ヴィル様とカイン様の陣営に乗り込んで、お二人の情熱をすべて受け止めてきました! これはお二人からの、イーズ様への『愛の回答書』です!」
「回答書? 私が求めたのは『今すぐ立ち去れ』という公式な合意文書のはずだけど?」
「それがですね、お二人とも『言葉では伝えきれない』っておっしゃって……。結局、カイン様が効率的に要約したラブレター500通と、ヴィル様が魂を削って書き上げたポエム500通、合わせて1000通をお預かりしました!」
「……。………………。捨ててきて」
私は即答した。
だが、ララさんは「そんなことおっしゃらずに! 一通目だけでも読んでください!」と、一番上の封筒を私に押し付けてきた。
封筒からは、バラの香りと……なぜかプロテインの粉末がさらさらと溢れ出している。
「……うっ。何これ、匂いだけで胸焼けがするわ」
「それはヴィル様特製の『筋肉とバラの香り』です! 『君の強靭な精神を、僕の筋肉で包み込みたい』というメッセージだそうですよ!」
「……ゼクス。悪いけど、この紙の山を今すぐシュレッダーにかけて。最高出力で」
壁際で胃を押さえていたゼクスは、台車の上の紙束を一瞥し、激しく首を振った。
「……無理だ。……その紙の量、物理的に要塞の壁を再建できるレベルだぞ。……それに、カイン卿の書いた手紙を見ろ。……封筒の裏に『読まなければ、この国の物流を三日間止める』と書いてある……」
「……あのお兄様、本当に自分の能力を無駄遣いする天才ね!」
私は絶望的な気分で、一番上のカインの手紙を開いた。
そこには、愛の言葉ではなく、びっしりとグラフと数式が並んでいた。
『イーズへ。君が帰宅した場合の幸福度曲線をシミュレーションした結果、現在の1200%に達することが証明された。なお、拒否した場合は、私がこの王宮の全窓ガラスを、君の好きな色のステンドグラスに勝手に張り替える予算を承認済みだ。――愛する兄より』
「……ただの嫌がらせじゃない。公費の無駄使いよ、そんなの!」
次に、ヴィルフリードのポエムを適当に一枚抜き取った。
『ああ、イーズ。君の吸う空気になりたい。君の肺の中で、僕の愛を酸素として供給し続けたい。君が吐き出す二酸化炭素さえ、僕にとっては甘い香辛料……(以下略)』
「……。………………」
私は無言で、手紙をライターで燃やした。
灰がひらひらと絨毯に落ちる。
「ララさん。あなた、これを全部持ってくるために、あいつらと何時間話したの?」
「三時間くらいでしょうか? ヴィル様がポエムを朗読し、カイン様がそれを数値化して添削するという、地獄のような共同作業を横で見ていました! 私、なんだか新しい世界が見えた気がします!」
「……。……ララさん、あなたも汚染されたわね。……今すぐ除霊……じゃなくて、美味しいお菓子でも食べて正気を取り戻しなさい」
私はララさんの口にマカロンを押し込み、窓の外を見下ろした。
門の外では、ヴィルフリードとカインが並んで、こちらに向かって大きく手を振っている。
二人の背後には、巨大なスピーカーが設置され、今にも「愛の合唱」が始まりそうな雰囲気だ。
「……いいわ。ララさん、ゼクス。私たちは、この1000通の手紙を逆利用するわよ」
「逆利用? どうするんですか、イーズ様?」
「これだけの紙があれば、焚き火の燃料には困らないわ。……ジュリアン殿下に言って、今夜、王宮の前で『大バカ二人の愛のキャンプファイヤー』を開催してもらいましょう。……自分の愛が燃え上がる物理的な姿を見て、少しは頭を冷やしなさいな!」
「……。……お前、本当に情け容赦ないな。……だが、いいアイデアだ。……俺の胃も、あれが灰になれば少しは軽くなるだろうよ」
ゼクスが不敵な笑みを浮かべた。
私の逃亡劇は、ついに「物理的な炎上」を伴う最終決戦へと向かおうとしていた。
お兄様、殿下。
あなたたちの愛、私が最高に効率的な方法で灰にしてあげるわ!
隣国の王宮、応接室の重厚な扉を蹴破らんばかりの勢いで、ララさんが飛び込んできた。
その後ろには、台車を引いた数人の衛兵たちが、死んだ魚のような目で続いてくる。
台車の上には、天井に届きそうなほどの紙の束が、うず高く積まれていた。
「……おかえり、ララさん。とりあえず、その『紙の山』が何なのか説明してくれるかしら?」
私は紅茶のカップを置き、嫌な予感しかしない物体を指差した。
ララさんは煤だらけだった顔を綺麗に洗い、聖母のような微笑みを浮かべて胸を張る。
「はい! 私、ヴィル様とカイン様の陣営に乗り込んで、お二人の情熱をすべて受け止めてきました! これはお二人からの、イーズ様への『愛の回答書』です!」
「回答書? 私が求めたのは『今すぐ立ち去れ』という公式な合意文書のはずだけど?」
「それがですね、お二人とも『言葉では伝えきれない』っておっしゃって……。結局、カイン様が効率的に要約したラブレター500通と、ヴィル様が魂を削って書き上げたポエム500通、合わせて1000通をお預かりしました!」
「……。………………。捨ててきて」
私は即答した。
だが、ララさんは「そんなことおっしゃらずに! 一通目だけでも読んでください!」と、一番上の封筒を私に押し付けてきた。
封筒からは、バラの香りと……なぜかプロテインの粉末がさらさらと溢れ出している。
「……うっ。何これ、匂いだけで胸焼けがするわ」
「それはヴィル様特製の『筋肉とバラの香り』です! 『君の強靭な精神を、僕の筋肉で包み込みたい』というメッセージだそうですよ!」
「……ゼクス。悪いけど、この紙の山を今すぐシュレッダーにかけて。最高出力で」
壁際で胃を押さえていたゼクスは、台車の上の紙束を一瞥し、激しく首を振った。
「……無理だ。……その紙の量、物理的に要塞の壁を再建できるレベルだぞ。……それに、カイン卿の書いた手紙を見ろ。……封筒の裏に『読まなければ、この国の物流を三日間止める』と書いてある……」
「……あのお兄様、本当に自分の能力を無駄遣いする天才ね!」
私は絶望的な気分で、一番上のカインの手紙を開いた。
そこには、愛の言葉ではなく、びっしりとグラフと数式が並んでいた。
『イーズへ。君が帰宅した場合の幸福度曲線をシミュレーションした結果、現在の1200%に達することが証明された。なお、拒否した場合は、私がこの王宮の全窓ガラスを、君の好きな色のステンドグラスに勝手に張り替える予算を承認済みだ。――愛する兄より』
「……ただの嫌がらせじゃない。公費の無駄使いよ、そんなの!」
次に、ヴィルフリードのポエムを適当に一枚抜き取った。
『ああ、イーズ。君の吸う空気になりたい。君の肺の中で、僕の愛を酸素として供給し続けたい。君が吐き出す二酸化炭素さえ、僕にとっては甘い香辛料……(以下略)』
「……。………………」
私は無言で、手紙をライターで燃やした。
灰がひらひらと絨毯に落ちる。
「ララさん。あなた、これを全部持ってくるために、あいつらと何時間話したの?」
「三時間くらいでしょうか? ヴィル様がポエムを朗読し、カイン様がそれを数値化して添削するという、地獄のような共同作業を横で見ていました! 私、なんだか新しい世界が見えた気がします!」
「……。……ララさん、あなたも汚染されたわね。……今すぐ除霊……じゃなくて、美味しいお菓子でも食べて正気を取り戻しなさい」
私はララさんの口にマカロンを押し込み、窓の外を見下ろした。
門の外では、ヴィルフリードとカインが並んで、こちらに向かって大きく手を振っている。
二人の背後には、巨大なスピーカーが設置され、今にも「愛の合唱」が始まりそうな雰囲気だ。
「……いいわ。ララさん、ゼクス。私たちは、この1000通の手紙を逆利用するわよ」
「逆利用? どうするんですか、イーズ様?」
「これだけの紙があれば、焚き火の燃料には困らないわ。……ジュリアン殿下に言って、今夜、王宮の前で『大バカ二人の愛のキャンプファイヤー』を開催してもらいましょう。……自分の愛が燃え上がる物理的な姿を見て、少しは頭を冷やしなさいな!」
「……。……お前、本当に情け容赦ないな。……だが、いいアイデアだ。……俺の胃も、あれが灰になれば少しは軽くなるだろうよ」
ゼクスが不敵な笑みを浮かべた。
私の逃亡劇は、ついに「物理的な炎上」を伴う最終決戦へと向かおうとしていた。
お兄様、殿下。
あなたたちの愛、私が最高に効率的な方法で灰にしてあげるわ!
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