呼ばれても戻りません!婚約破棄された悪役令嬢ですので。

八雲

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「おい、嘘だろ……?」

その日、私の領地(ヴォルカ)に現れたのは、五人の武装した男たちだった。

彼らは「荒野の開拓村」なんて生易しいものを想像していたわけではないだろう。

ここは魔境だ。

ボロボロのマント、傷だらけの鎧、そして極限まで張り詰めた緊張感。

彼らは歴戦の冒険者パーティー『紅の猪(レッド・ボア)』。

ドラゴン討伐の依頼を受け、決死の覚悟でこの地へ足を踏み入れた彼らが目にしたもの。

それは――。

「……なんだ、あの要塞は」

リーダー格の大男、ガストンがポカンと口を開けていた。

目の前には、整然と積み上げられた石壁。

湯気を上げる巨大な露天風呂。

そして、庭先で優雅にティータイムを楽しんでいる私とシロの姿だった。

「あら、お客様?」

私はカップを置き、にっこりと微笑んだ。

「ようこそ、ベルガモット・リゾート(仮)へ。ご宿泊ですか? それとも日帰り入浴?」

「に、入浴……だと?」

ガストンが剣の柄に手をかけたまま、後ずさる。

「警戒しろ! ここはドラゴンの巣だぞ! こんな場所に令嬢がいるわけがない! あれは幻覚を見せる魔物だ!」

「誰が魔物ですか。失礼な」

私は立ち上がり、パンパンとドレスの埃を払った。

「私はこの地の領主、コロロです。そこな騎士様(シロ)は、私の……ええと、居候兼試食係です」

「試食係のシロだ」

シロが真顔で挨拶する。

冒険者たちは顔を見合わせた。

「領主……? まさか、噂の『追放された悪役令嬢』か?」

「本当にあんな死地に入植したのか……」

彼らの困惑はもっともだ。

しかし、彼らの視線はすぐに一点に釘付けになった。

テーブルの上に置かれた、山盛りのサンドイッチだ。

具材は、今朝焼いたばかりの「レッドドラゴンのローストビーフ風」。

ジュワリと溢れる肉汁と、香ばしい香りが風に乗って彼らの鼻腔を直撃する。

グゥゥゥゥゥ……。

盛大な腹の虫が、五重奏を奏でた。

「……腹が減っているのね?」

私は察した。

ここに来るまでの道のりは過酷だ。まともな食事など摂れていないだろう。

「食べますか? 一皿、銀貨一枚……と言いたいところだけど」

私は彼らの筋肉を見た。

ガストンの上腕二頭筋、素晴らしい盛り上がりだ。

後ろの魔法使いの男はヒョロいが、荷物持ちの戦士の背筋(広背筋)は芸術的ですらある。

(……使える)

私の脳内で、電卓が弾かれた。

現在、拠点の拡張工事において、圧倒的に人手が足りていない。

私の魔法で大まかな形は作れても、細かい石運びや、将来の農地開拓には「数の力」が必要なのだ。

私は満面の笑みを浮かべた。

「特別に、タダでご馳走してあげますわ。……ただし」

「た、ただし?」

「『条件』があります」

***

数分後。

「うめぇぇぇぇぇ!!」

「なんだこの肉! 力が……力が湧いてくるぞぉぉ!」

「このスープ、死んだ母ちゃんの味よりうめぇ!」

冒険者たちは、涙を流しながらサンドイッチに齧り付いていた。

シロが呆れたように私に耳打ちする。

「コロロ、いいのか? 貴重なドラゴン肉をあんなに振る舞って」

「いいのよ、シロ。これは『先行投資』だもの」

私は彼らが食べ終わるのを待ち、パンパンと手を叩いた。

「さて、お腹はいっぱいになりましたか?」

「ああ! 嬢ちゃん、あんた最高だ! 疑って悪かったな!」

ガストンが親指を立てる。

単純な男たちで助かる。

「では、代金のお支払いを願いましょうか」

「えっ? タダじゃなかったのか?」

「お金はいらないと言いました。代わりに……」

私は背後から、新しく作った道具を取り出した。

五人分の「ミスリル製スコップ」と「鶴嘴(つるはし)」だ。

「身体で払っていただきます」

「……は?」

「あそこの岩山、邪魔なのよね。夕方までに更地にしておいてちょうだい。報酬は、夕食の『ドラゴンステーキ食べ放題』と『温泉入り放題』よ」

冒険者たちがざわついた。

「土木作業だと? 俺たちはSランクを目指す冒険者だぞ!」

「そうだ! 剣を鍬に持ち替えろってのか!」

反発の声が上がる。

想定内だ。

私はスッと鉄扇を取り出した。

「あら、不服ですか? なら、力づくで帰ってもらっても構いませんが……」

私は近くにあった、直径二メートルほどの岩に近づいた。

そして、扇子でポン、と軽く叩いた。

「『衝撃(インパクト)』」

ドォォォォォンッ!!

岩が内部から破裂し、粉々に砕け散った。

小石がパラパラと冒険者たちの足元に転がる。

「ヒッ……」

全員の顔から血の気が引いた。

「おわかりいただけましたか? 私、こう見えても力が有り余っておりますの。もし作業を拒否されるなら、この岩のように……」

「や、やります!」

「スコップ大好きです!」

「土いじりは俺の天職だ!」

彼らの態度は一瞬で改まった。

素晴らしい判断力だ。これなら現場作業でも事故を起こさないだろう。

「契約成立ね。さあ、働いた働いた! 汗を流した後の温泉は最高よ!」

「イエッサー!」

こうして、冒険者パーティー『紅の猪』は、私の領地における第一号の「入植者」兼「建設作業員」となった。

彼らの働きぶりは凄まじかった。

ドラゴンの滋養強壮効果と、私の「物理的指導」の恐怖、そして何より「仕事終わりの温泉とビール(シロが持っていた酒)」というニンジンをぶら下げられた彼らは、人間重機のごとき速度で開拓を進めていった。

「お嬢様、人使いが荒いですね」

セバスが苦笑しながら、冷たい麦茶を作っている。

「人使いが上手と言ってちょうだい。見て、あのガストンさんのスイング。腰が入っていていいわぁ」

私はテラスから、汗だくでつるはしを振るう男たちを眺めた。

領地開発は順調そのもの。

人が増え、建物が増え、笑い声(と悲鳴)が増えていく。

だが、そんな充実した日々に、ついに「あの国」からの招かれざる客が到着しようとしていた。

今度は、冒険者のように話がわかる相手ではなさそうだが……まあ、なんとかなるでしょう。

だって私には、最強の筋肉と、忠実な下僕(冒険者)たちがいるのだから。
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