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「……お父様。少し、よろしいかしら? いえ、よくありませんわね。今すぐ私の目の前で、この『幻想文学』のような帳簿を説明してくださる?」
翌朝。私はブランドン公爵家の事務室の机を扇子で叩き、執務に励んでいる(ふりをしている)父に詰め寄りました。
私の目の前には、この数年間、私が王宮で王子の尻拭いをしている間に溜まりに溜まった、領地の収支報告書。
父は、私の冷ややかな声に肩をビクンと震わせ、おずおずと顔を上げました。
「な、ナナシー……。そんな怖い顔をするな。……経営というのは、その、情熱も必要なんだぞ?」
「情熱? この『雑費:やる気向上のための食事代』という項目が、金貨100枚も計上されているのはどういう情熱かしら? やる気が出る前に、胃もたれして破産しますわよ。それに、この灌漑施設の改修費。……お父様、領民に『念力で水を引け』とでもおっしゃるつもり? 予算が丸ごと消えて、代わりに『希望』という二文字が書き込まれているのですが?」
「いや、それは……その、計算が合わなくてな。つい、精神論で解決しようと……」
「……ため息すら出ませんわ。お父様、あなたは戦場での指揮は一流ですが、家計の指揮は三流以下……いえ、圏外ですわね。今日からこの領地の全権は私が預かります。あなたはそこで、私が淹れた『現実を知るための苦いお茶』でも飲んで大人しくしていなさいな」
私は即座に、山積みになった書類を自分の執務デスクへと移動させました。
ここからは、私の本領発揮です。
不当な中間搾取、計算ミスの放置、そして無駄な公共事業の数々。
私はペンを剣のように振るい、次々と不要な項目を切り捨て、最適な予算配分へと書き換えていきました。
(ふん。王子の宿題を10年もやっていたのです。領地一つ、夕食までの暇つぶしにもなりませんわ)
「お嬢様……。あの、お休みにならなくてもよろしいのですか? もう深夜の二時を回っておりますが」
「侍女、声をかけないで。今、私は領地内の物流網の再構築という、最高に知的なパズルを楽しんでいる最中ですの。……あら、この徴税官。横領の仕方が雑すぎて、私の知能に対する侮辱を感じますわね。明日、即座にクビにして、代わりにこの『算術が得意な不遇の少年』を抜擢しますわ」
翌朝。
ブランドン公爵邸には、驚愕の嵐が吹き荒れました。
「な、なんだこれは……! 一晩で、滞っていた全案件が片付いているどころか、来年までの黒字化計画が完璧に立案されている……!」
父が、寝起きの頭で書類をめくり、絶叫しました。
そこへ、またしても窓から(もう玄関から入ることを諦めたのかしら)アルスター公爵が姿を現しました。
「ナナシー。君の活躍は、私の諜報部からリアルタイムで報告を受けていたよ。一晩で汚職役人を三名摘発し、物流コストを三割削減したそうだな。……素晴らしい。君は、王国の財務卿に据えるべき逸材だ。いや、私の妻になれば、私の広大な領地も好き勝手に弄れるぞ?」
「人の領地の内情をリアルタイムで覗くなんて、デリカシーが地獄に落ちたような真似はおやめなさい。……それから、あなたの領地を弄る? そんな魔境、整理整頓を始める前に、私の寿命が尽きてしまいますわ」
私は隈一つない涼やかな顔で、新作のスコーンを口に運びました。
「ナナシー……。君は、これほどの才能を隠して、あのレオナルドの横で『地味な令嬢』を演じていたのか?」
父の問いに、私は肩をすくめました。
「隠していたわけではありませんわ。あの方が『難しい話は嫌いだ』とおっしゃるから、彼の理解力に合わせてあげていただけです。……でも、ようやく気づきましたわ。無能に合わせることは、最大の知能の無駄遣いであると。……お父様、今日からブランドン公爵家は、王都で一番の『富裕公爵家』に返り咲きますわよ。覚悟なさって?」
「……ふふ、ははは! 頼もしいな! レオナルドの奴、お前という『国宝』を捨てたことを、今頃血の涙を流して悔やんでいるだろうよ」
「悔やむ脳細胞が残っていればの話ですわね」
私が冷たく言い放つと、アルスター公爵が恍惚とした表情で拍手を送りました。
「いい……。効率的で冷徹な君の采配、そしてその後の毒舌。……ナナシー、今日から私は君の『財務管理』に、私の身も心も差し出そう」
「あなたの管理など、コストパフォーマンスが悪すぎて不採用ですわ、この死神公爵!」
私は優雅に背を向け、領民へ出す「新しい減税通知」にサインをしました。
自由を手に入れた悪役令嬢は、今や一国の経済をも動かし始めようとしていたのです。
翌朝。私はブランドン公爵家の事務室の机を扇子で叩き、執務に励んでいる(ふりをしている)父に詰め寄りました。
私の目の前には、この数年間、私が王宮で王子の尻拭いをしている間に溜まりに溜まった、領地の収支報告書。
父は、私の冷ややかな声に肩をビクンと震わせ、おずおずと顔を上げました。
「な、ナナシー……。そんな怖い顔をするな。……経営というのは、その、情熱も必要なんだぞ?」
「情熱? この『雑費:やる気向上のための食事代』という項目が、金貨100枚も計上されているのはどういう情熱かしら? やる気が出る前に、胃もたれして破産しますわよ。それに、この灌漑施設の改修費。……お父様、領民に『念力で水を引け』とでもおっしゃるつもり? 予算が丸ごと消えて、代わりに『希望』という二文字が書き込まれているのですが?」
「いや、それは……その、計算が合わなくてな。つい、精神論で解決しようと……」
「……ため息すら出ませんわ。お父様、あなたは戦場での指揮は一流ですが、家計の指揮は三流以下……いえ、圏外ですわね。今日からこの領地の全権は私が預かります。あなたはそこで、私が淹れた『現実を知るための苦いお茶』でも飲んで大人しくしていなさいな」
私は即座に、山積みになった書類を自分の執務デスクへと移動させました。
ここからは、私の本領発揮です。
不当な中間搾取、計算ミスの放置、そして無駄な公共事業の数々。
私はペンを剣のように振るい、次々と不要な項目を切り捨て、最適な予算配分へと書き換えていきました。
(ふん。王子の宿題を10年もやっていたのです。領地一つ、夕食までの暇つぶしにもなりませんわ)
「お嬢様……。あの、お休みにならなくてもよろしいのですか? もう深夜の二時を回っておりますが」
「侍女、声をかけないで。今、私は領地内の物流網の再構築という、最高に知的なパズルを楽しんでいる最中ですの。……あら、この徴税官。横領の仕方が雑すぎて、私の知能に対する侮辱を感じますわね。明日、即座にクビにして、代わりにこの『算術が得意な不遇の少年』を抜擢しますわ」
翌朝。
ブランドン公爵邸には、驚愕の嵐が吹き荒れました。
「な、なんだこれは……! 一晩で、滞っていた全案件が片付いているどころか、来年までの黒字化計画が完璧に立案されている……!」
父が、寝起きの頭で書類をめくり、絶叫しました。
そこへ、またしても窓から(もう玄関から入ることを諦めたのかしら)アルスター公爵が姿を現しました。
「ナナシー。君の活躍は、私の諜報部からリアルタイムで報告を受けていたよ。一晩で汚職役人を三名摘発し、物流コストを三割削減したそうだな。……素晴らしい。君は、王国の財務卿に据えるべき逸材だ。いや、私の妻になれば、私の広大な領地も好き勝手に弄れるぞ?」
「人の領地の内情をリアルタイムで覗くなんて、デリカシーが地獄に落ちたような真似はおやめなさい。……それから、あなたの領地を弄る? そんな魔境、整理整頓を始める前に、私の寿命が尽きてしまいますわ」
私は隈一つない涼やかな顔で、新作のスコーンを口に運びました。
「ナナシー……。君は、これほどの才能を隠して、あのレオナルドの横で『地味な令嬢』を演じていたのか?」
父の問いに、私は肩をすくめました。
「隠していたわけではありませんわ。あの方が『難しい話は嫌いだ』とおっしゃるから、彼の理解力に合わせてあげていただけです。……でも、ようやく気づきましたわ。無能に合わせることは、最大の知能の無駄遣いであると。……お父様、今日からブランドン公爵家は、王都で一番の『富裕公爵家』に返り咲きますわよ。覚悟なさって?」
「……ふふ、ははは! 頼もしいな! レオナルドの奴、お前という『国宝』を捨てたことを、今頃血の涙を流して悔やんでいるだろうよ」
「悔やむ脳細胞が残っていればの話ですわね」
私が冷たく言い放つと、アルスター公爵が恍惚とした表情で拍手を送りました。
「いい……。効率的で冷徹な君の采配、そしてその後の毒舌。……ナナシー、今日から私は君の『財務管理』に、私の身も心も差し出そう」
「あなたの管理など、コストパフォーマンスが悪すぎて不採用ですわ、この死神公爵!」
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