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「お嬢様、ついに『最終宣告』が届きましたわ。……いえ、失礼。アルスター公爵主催、王都最大の夜会への招待状でございます」
侍女が恭しく差し出してきたのは、黒いシルクの布で装飾された、重厚感あふれる封筒でした。
封蝋には、ガイスト公爵家の「剣と盾」の紋章が、これ見よがしに刻印されています。
私は領地の経営改善案(第24次修正版)から顔を上げ、眉間に皺を寄せました。
「……最終宣告? 穏やかではありませんわね。あのお騒がせ公爵、今度は何を企んでいますの? まさか、夜会の途中で私を気球にでも乗せて、強制的に新婚旅行へ連れ去るつもりかしら?」
「あながち間違いではないかもしれませんわ。招待状の追伸に『当日は君を私の婚約者として全貴族の前で紹介する。拒否権は戦場に置いてきた』と、清々しいほどの職権乱用メッセージが添えられております」
「…………。あのアホンダラ(軍神)。人の意思を無視してシナリオを進めるのは、知能の低い脚本家の悪癖ですわよ」
私はため息をつきながらも、封筒を開封しました。
中には、金文字で記された招待状。
そして、それとは別に、アルスターからの直筆のメモが一枚。
『ナナシー、逃がさないぞ。
君がどれほど私のことを「歩く公害」と罵ろうとも、私の隣に立つのは君しかいない。
当日は、君が世界で一番「地味ではない」ことを、あの愚かな元婚約者に見せつけてやろう。
ドレスは私が用意した。君の瞳の色と同じ、毒のように美しい緑の宝石を散りばめてある』
「…………。勝手にドレスを送ってくるなんて、ファッションの押し売りですわ。私のセンスを信じていないのかしら? それとも、自分の好みを私に塗りつけたいという、歪んだ支配欲の表れですか?」
「お嬢様、そうおっしゃりながら、口角がわずかに上がっておりますわよ」
「気のせいです。顔の筋肉が、彼の非常識さに呆れて痙攣しているだけですわ。……ふん、まあいいわ。あのおバカな王子と、その腰巾着のシャロン様も招待されているのでしょう?」
「はい。国王陛下より『レオナルドの再教育の一環として出席させる』との通達があったようです。……なんでも、今の殿下は王宮の雑用でボロボロらしく、夜会が唯一の外出許可だとか」
「あら、楽しみですわね。ボロ雑巾のようになった元婚約者と、その横で必死に虚勢を張るシャロン様。……その二人を、アルスター公爵の『婚約者』として、最も高い場所から見下ろして差し上げる……。これほど愉快なエンターテインメント、他にはありませんわ」
私は椅子から立ち上がり、全身の関節を鳴らしました。
領地経営で培った、冷徹な勝利の味。それを、今度は社交界という名の戦場で振る舞ってやる時です。
「お父様! いらっしゃいますか?」
「おお、ナナシー。……夜会の件だな? 私も準備はできているぞ。アルスターに『娘を泣かせたら、軍の予算を半分にする』と脅しをかけておいたからな」
「脅し方が現実的すぎますわ、お父様。……さて、侍女。アルスターが送ってきたドレスを持っていらっしゃい。もし私の肌に一ミリでも合わなかったら、即座に雑巾にして彼に送り返してあげますから」
運び込まれたドレスは、確かに圧巻でした。
深みのあるエメラルドグリーンのシルクに、繊細な銀の刺繍。
そして、首元を飾るのは、かつて失われたと言われる伝説の秘宝。
「……ほう。この宝石、私の領地の年間税収より高いのではありませんかしら? これをつけて夜会に出るなんて、歩く国家予算そのものですわね。……ふふ、あのおバカな王子、これを見た瞬間に、泡を吹いて倒れるかもしれませんわ」
「お嬢様、本当に楽しそうですわね……」
「当然ですわ。復讐とは、冷めてから食べるのが一番美味しい料理だと言いますが、私はそれを最高のスパイス(毒舌)で熱々に仕上げて差し上げますわよ」
私は鏡の前で、かつてないほど鋭く、そして美しい微笑みを浮かべました。
自由を手に入れた悪役令嬢が、真の「女王」として社交界に君臨するまで、あと数日。
「……アルスター。私を『婚約者』として紹介するなら、相応の覚悟をしておきなさい。あなたのこれからの人生、私の毒舌で一生休まる暇などありませんからね」
私は招待状を力強く握りしめました。
嵐の予感に、私の胸は皮肉にも、期待で高鳴っていたのでした。
侍女が恭しく差し出してきたのは、黒いシルクの布で装飾された、重厚感あふれる封筒でした。
封蝋には、ガイスト公爵家の「剣と盾」の紋章が、これ見よがしに刻印されています。
私は領地の経営改善案(第24次修正版)から顔を上げ、眉間に皺を寄せました。
「……最終宣告? 穏やかではありませんわね。あのお騒がせ公爵、今度は何を企んでいますの? まさか、夜会の途中で私を気球にでも乗せて、強制的に新婚旅行へ連れ去るつもりかしら?」
「あながち間違いではないかもしれませんわ。招待状の追伸に『当日は君を私の婚約者として全貴族の前で紹介する。拒否権は戦場に置いてきた』と、清々しいほどの職権乱用メッセージが添えられております」
「…………。あのアホンダラ(軍神)。人の意思を無視してシナリオを進めるのは、知能の低い脚本家の悪癖ですわよ」
私はため息をつきながらも、封筒を開封しました。
中には、金文字で記された招待状。
そして、それとは別に、アルスターからの直筆のメモが一枚。
『ナナシー、逃がさないぞ。
君がどれほど私のことを「歩く公害」と罵ろうとも、私の隣に立つのは君しかいない。
当日は、君が世界で一番「地味ではない」ことを、あの愚かな元婚約者に見せつけてやろう。
ドレスは私が用意した。君の瞳の色と同じ、毒のように美しい緑の宝石を散りばめてある』
「…………。勝手にドレスを送ってくるなんて、ファッションの押し売りですわ。私のセンスを信じていないのかしら? それとも、自分の好みを私に塗りつけたいという、歪んだ支配欲の表れですか?」
「お嬢様、そうおっしゃりながら、口角がわずかに上がっておりますわよ」
「気のせいです。顔の筋肉が、彼の非常識さに呆れて痙攣しているだけですわ。……ふん、まあいいわ。あのおバカな王子と、その腰巾着のシャロン様も招待されているのでしょう?」
「はい。国王陛下より『レオナルドの再教育の一環として出席させる』との通達があったようです。……なんでも、今の殿下は王宮の雑用でボロボロらしく、夜会が唯一の外出許可だとか」
「あら、楽しみですわね。ボロ雑巾のようになった元婚約者と、その横で必死に虚勢を張るシャロン様。……その二人を、アルスター公爵の『婚約者』として、最も高い場所から見下ろして差し上げる……。これほど愉快なエンターテインメント、他にはありませんわ」
私は椅子から立ち上がり、全身の関節を鳴らしました。
領地経営で培った、冷徹な勝利の味。それを、今度は社交界という名の戦場で振る舞ってやる時です。
「お父様! いらっしゃいますか?」
「おお、ナナシー。……夜会の件だな? 私も準備はできているぞ。アルスターに『娘を泣かせたら、軍の予算を半分にする』と脅しをかけておいたからな」
「脅し方が現実的すぎますわ、お父様。……さて、侍女。アルスターが送ってきたドレスを持っていらっしゃい。もし私の肌に一ミリでも合わなかったら、即座に雑巾にして彼に送り返してあげますから」
運び込まれたドレスは、確かに圧巻でした。
深みのあるエメラルドグリーンのシルクに、繊細な銀の刺繍。
そして、首元を飾るのは、かつて失われたと言われる伝説の秘宝。
「……ほう。この宝石、私の領地の年間税収より高いのではありませんかしら? これをつけて夜会に出るなんて、歩く国家予算そのものですわね。……ふふ、あのおバカな王子、これを見た瞬間に、泡を吹いて倒れるかもしれませんわ」
「お嬢様、本当に楽しそうですわね……」
「当然ですわ。復讐とは、冷めてから食べるのが一番美味しい料理だと言いますが、私はそれを最高のスパイス(毒舌)で熱々に仕上げて差し上げますわよ」
私は鏡の前で、かつてないほど鋭く、そして美しい微笑みを浮かべました。
自由を手に入れた悪役令嬢が、真の「女王」として社交界に君臨するまで、あと数日。
「……アルスター。私を『婚約者』として紹介するなら、相応の覚悟をしておきなさい。あなたのこれからの人生、私の毒舌で一生休まる暇などありませんからね」
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