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「待て。近衛兵、そのゴミをまだ片付けるな」
会場の出口に向かって、ずるずると引きずられていくレオナルド王子とシャロン様。
その背中に、会場の空気を一瞬で凍りつかせるような、低く、絶対的な声が浴びせられました。
声の主は、もちろんアルスター公爵。
彼は私の腰から手を離すと、ゆっくりと、しかし捕食者が獲物を追い詰めるような確実な足取りで、二人に歩み寄りました。
「……あ、アルスター公爵……? な、何を……」
レオナルド王子が、恐怖で引きつった顔を向けます。
アルスターは立ち止まり、ただ見下ろしました。
言葉を発する前から、その全身から放たれる威圧感が、周囲の貴族たちさえも後ずさりさせるほどです。
「殿下。そして男爵令嬢。先ほど、君たちは私の隣に立つ女性を『冷酷非道な悪女』と呼んだな?」
「そ、それは……事実を……!」
「事実? ふん。私の目には、彼女は『この国で最も聡明で、合理的で、そして誰よりも情熱的な女性』にしか見えないが? ……どうやら君たちの眼球は、真実を映す機能を著しく欠損しているようだ」
アルスターが腰の剣の柄に手をかけました。
抜いてはいません。ただ、触れただけです。
それだけで、会場内の温度が物理的に五度は下がったように感じられました。
「ひっ……! や、やめてくれ……! 殺さないでくれ……!」
「安心しろ。ここで血を流せば、ナナシーのドレスが汚れてしまう。……だが、これだけは覚えておけ」
アルスターの声が、会場の隅々まで響き渡りました。
「ナナシー・ド・ブランドンは、今日この瞬間から、私の『妻』となる女性だ」
「…………は?」
私は思わず、シャンパンを吹き出しそうになりました。
ちょっと待ちなさい、この暴走機関車。いつから「婚約者候補」が「妻」に昇格しましたの? 私の許可は? 手続きは?
しかし、アルスターは私の抗議の視線を無視し、言葉を続けました。
「ガイスト公爵家の『妻』を侮辱する。……それは即ち、我が公爵家、ひいては私が率いる全軍に対する、明確な『宣戦布告』と受け取って構わないな?」
ドォォォン、という幻聴が聞こえるほどの圧力。
宣戦布告。その言葉の重みが、会場全体を押し潰します。
この男が本気で「戦争」を口にした時、それが冗談で済まないことを、ここにいる誰もが知っているからです。
「せ、宣戦布告……!? そ、そんなつもりは……!」
「つもりがないなら、その軽率な口を二度と開くな。……次にナナシーの視界に入った時が、君たちの社会的、あるいは物理的な『最期』だと思え」
「あ、あああ……! わかった、わかったからぁぁぁ!」
レオナルド王子とシャロン様は、もはや言葉にならない悲鳴を上げ、近衛兵の手を振りほどいて、転がるように会場から逃げ出していきました。
その無様すぎる後ろ姿は、この夜会の語り草として、長く歴史に残ることでしょう。
「……ふぅ。ようやく、完全に害虫駆除が完了したな」
アルスターは満足げに頷くと、何事もなかったかのような涼しい顔で私の元へ戻ってきました。
「……公爵。少し、よろしいかしら?」
私は扇子で彼の胸板をトン、と叩きました。
「なんだい、私の愛しい妻よ」
「誰が妻ですか。まだ婚約届にもサインしていませんわよ。……それに、あんな物騒な脅し文句、貴族の社交場で使う言葉ではありませんわ。私が『暴力的な夫を持つ哀れな妻』だと思われたら、どう責任を取ってくださいますの?」
「ははは! 君が哀れ? まさか。君は、この国で最も『最強の猛獣』を飼い慣らした、偉大な女性として語り継がれるだろうさ」
「……猛獣の自覚はあるのですね。まったく、手のかかるペットですこと」
私は呆れながらも、彼が差し出してきた腕に自分の腕を絡ませました。
周囲からは、割れんばかりの拍手と喝采が沸き起こります。
「……まあ、悪くありませんわ。あのバカな二人を追い払うための『舞台装置』としては、合格点をあげてもよろしくてよ」
「光栄だ。……さあ、ナナシー。今夜は長い。君のその毒舌で、私を朝まで楽しませてくれ」
私たちは、煌びやかなシャンデリアの下、夜会の主役として踊り始めました。
自由を手に入れた悪役令嬢と、彼女に魅入られた最強の死神。
この奇妙で最強のカップルの誕生を、祝わない者はいませんでした。
……たった二人、会場の外で震えている元婚約者たちを除いては。
会場の出口に向かって、ずるずると引きずられていくレオナルド王子とシャロン様。
その背中に、会場の空気を一瞬で凍りつかせるような、低く、絶対的な声が浴びせられました。
声の主は、もちろんアルスター公爵。
彼は私の腰から手を離すと、ゆっくりと、しかし捕食者が獲物を追い詰めるような確実な足取りで、二人に歩み寄りました。
「……あ、アルスター公爵……? な、何を……」
レオナルド王子が、恐怖で引きつった顔を向けます。
アルスターは立ち止まり、ただ見下ろしました。
言葉を発する前から、その全身から放たれる威圧感が、周囲の貴族たちさえも後ずさりさせるほどです。
「殿下。そして男爵令嬢。先ほど、君たちは私の隣に立つ女性を『冷酷非道な悪女』と呼んだな?」
「そ、それは……事実を……!」
「事実? ふん。私の目には、彼女は『この国で最も聡明で、合理的で、そして誰よりも情熱的な女性』にしか見えないが? ……どうやら君たちの眼球は、真実を映す機能を著しく欠損しているようだ」
アルスターが腰の剣の柄に手をかけました。
抜いてはいません。ただ、触れただけです。
それだけで、会場内の温度が物理的に五度は下がったように感じられました。
「ひっ……! や、やめてくれ……! 殺さないでくれ……!」
「安心しろ。ここで血を流せば、ナナシーのドレスが汚れてしまう。……だが、これだけは覚えておけ」
アルスターの声が、会場の隅々まで響き渡りました。
「ナナシー・ド・ブランドンは、今日この瞬間から、私の『妻』となる女性だ」
「…………は?」
私は思わず、シャンパンを吹き出しそうになりました。
ちょっと待ちなさい、この暴走機関車。いつから「婚約者候補」が「妻」に昇格しましたの? 私の許可は? 手続きは?
しかし、アルスターは私の抗議の視線を無視し、言葉を続けました。
「ガイスト公爵家の『妻』を侮辱する。……それは即ち、我が公爵家、ひいては私が率いる全軍に対する、明確な『宣戦布告』と受け取って構わないな?」
ドォォォン、という幻聴が聞こえるほどの圧力。
宣戦布告。その言葉の重みが、会場全体を押し潰します。
この男が本気で「戦争」を口にした時、それが冗談で済まないことを、ここにいる誰もが知っているからです。
「せ、宣戦布告……!? そ、そんなつもりは……!」
「つもりがないなら、その軽率な口を二度と開くな。……次にナナシーの視界に入った時が、君たちの社会的、あるいは物理的な『最期』だと思え」
「あ、あああ……! わかった、わかったからぁぁぁ!」
レオナルド王子とシャロン様は、もはや言葉にならない悲鳴を上げ、近衛兵の手を振りほどいて、転がるように会場から逃げ出していきました。
その無様すぎる後ろ姿は、この夜会の語り草として、長く歴史に残ることでしょう。
「……ふぅ。ようやく、完全に害虫駆除が完了したな」
アルスターは満足げに頷くと、何事もなかったかのような涼しい顔で私の元へ戻ってきました。
「……公爵。少し、よろしいかしら?」
私は扇子で彼の胸板をトン、と叩きました。
「なんだい、私の愛しい妻よ」
「誰が妻ですか。まだ婚約届にもサインしていませんわよ。……それに、あんな物騒な脅し文句、貴族の社交場で使う言葉ではありませんわ。私が『暴力的な夫を持つ哀れな妻』だと思われたら、どう責任を取ってくださいますの?」
「ははは! 君が哀れ? まさか。君は、この国で最も『最強の猛獣』を飼い慣らした、偉大な女性として語り継がれるだろうさ」
「……猛獣の自覚はあるのですね。まったく、手のかかるペットですこと」
私は呆れながらも、彼が差し出してきた腕に自分の腕を絡ませました。
周囲からは、割れんばかりの拍手と喝采が沸き起こります。
「……まあ、悪くありませんわ。あのバカな二人を追い払うための『舞台装置』としては、合格点をあげてもよろしくてよ」
「光栄だ。……さあ、ナナシー。今夜は長い。君のその毒舌で、私を朝まで楽しませてくれ」
私たちは、煌びやかなシャンデリアの下、夜会の主役として踊り始めました。
自由を手に入れた悪役令嬢と、彼女に魅入られた最強の死神。
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……たった二人、会場の外で震えている元婚約者たちを除いては。
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